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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「それは、とても大事なことですわ」


 サナエは、メッサの王城内を案内されながら、こんなにも国によって違うのだなと、城内の内装や調度品に目を向けた。そのどれもが落ち着いた色合いで豪華さは無かったが、統一感があり、居心地の良さを感じた。よく見ればそれぞれが卓越した技術により作られており、この国の職人の技術の高さを思わせた。


「サナエ」


 前を歩くリリーナが少し下がり、サナエの肩に軽く肩を当てた。浮き足立った様子のサナエが気になったのだ。一番後ろを歩くサナエだったが、城内の者に物見遊山な姿を見られては笑われてしまう。


「すみません」


 リリーナの意図に気付いてサナエは、顔を少し赤らめた。


 今は、国の代表の御付きなんだ。


 そう自覚して、サナエはスッと呼吸を入れて背筋を伸ばした。


「今日は、シルソフィア様もご体調が良いようで、皆様のご到着を喜んでおられます」


 一行の先を行く、メイドの一人のタバサが楽しそうに笑った。彼女がこの城のハウスキーパーとして、侍従を束ねて居る様だが、とても明るくそのふくよかな体型がどこか安心感を感じる。ナッサヘルクのハウスキーパーのマルナよりも少し年上に見えた。


「王と王妃にご挨拶をさせて頂きたいのですが…」


 エルラーナは、謁見の間に案内されるかと思いきや、居住棟の奥側に突き進んでいく事に不安を感じていた。


「王も王妃も皆様がまずは、シルソフィア様に会いたいでしょうからお越しになったら直ぐにご案内する様にと伺っております」


「衛兵や近衛兵長ともお会いしたし、その上でのご案内ですから、正当な許可ではありませんか?」


 メルリは、堅苦しい雰囲気はごめんといった雰囲気で、先程のそれぞれの反応を思い出して笑った。

 

「おじ様は、本当に有名人ね」


 ラナックも少し疲れた顔でメルリの目配せに苦笑いで応えた。


「同盟国とは言え、他国の王族が訪ねてきても正式な挨拶もなしに良いのかしら」


「メルリルーク様もエルラーナ様も、幼い頃からご存知ですし、家族のようなものだと考えておいでだと思いますよ。シルソフィア様が嫁がれてなお一層その絆は深まっております」


「しかし、それでは、他国との均衡を欠く事にはなりませんか?」


「私には、難しい事は分かりませんが、家族を大切にせよと、メッサ王はいつも仰っておられます」


 以前会ったメッサ王、シッコウ・ラナ・メッサの垂れ目の笑い顔をエルラーナは思い出した。

 王としての最低限の出立をして居るが、どこぞの落ちぶれ領主と言われても納得してしまいそうな程、装飾を好まない王である。

 かなりふくよかな体型で、のんびりとした話し方をするその姿から、かつてはナッサヘルク王と武術大会で激戦を繰り返したと言うのは作り話だとエルラーナは本気で今も思っている。だが、その優しげな目元の奥の眼光は父王と似ていると思った事があった。

 ともあれ、家族を大切にせよ。とは、メッサ王が言いそうな事だとエルラーナは納得した。

 ナッサヘルクからすれば、こうしたメッサとの絆を感じる事ができるのは、安心材料ではあるが、あまりにその繋がりを誇示し過ぎれば、国力の均衡を欠くと他国から危険視されかねないと、エルラーナは、懸念した。

 幾度となく繰り返された大陸内での争いの末に、ルスカール五国連盟として手を取り合ったが、その内腹は知れない。大きな争いを起こさないように薄氷を渡っているに過ぎないと、歴史の授業をしてくれた師は言っていた。それは、言い過ぎだろうとエルラーナも思うが、外交とはその位の意識でいるべきだと言う教えだと今は納得している。

 エルラーナは、自分が慎重すぎる考えなのだろうかと、不安に感じた。メッサ王の対応や世界の情勢などどこ吹く風の妹を見ていると自分が馬鹿馬鹿しく思えた。


「そう言えば、先程パンスティークの第四王子と第三王女がご来訪されて、王に謁見されたと聞いております」


「ええ!?」


 エルラーナは、頭がクラクラした。

 パンスティークから使節団がメッサに向かっていると言う情報は聞いていたが、まさかそのタイミングに鉢合わせる事になるとは考えていなかった。その第四王子と言えば、メッサの第ニ王女のリーシアと婚約が噂されている。


「今夜、晩餐会を開く事になっております」


「晩餐会?」


 メルリは、あからさまに面倒臭そうな顔をした。

 エルラーナは、それとは別で溜め息を吐いた。

 

「それは、とても大事なことですわ。それは、早く言って欲しかったわ」


「シルソフィア様にお会いした後、お伝えするつもりでした。何か不都合がお有りでしたか?」


 タバサがワザとやっている様に思えてエルラーナは、イラッとしたが、メッサ王が彼女にダブって見えて、「忘れてた、忘れてた」とこともなげに言う姿が想像できて諦めた。

 前日には、王都に入り身支度を整える時間を取り、その事も伝えていたと言うのに、謁見する事も叶わず、大事な情報を伝えて貰えなかった事も王の性格を反映した外交のずさんさなのだろうと、頭を抱えた。改めて、外交的にナッサヘルクがメッサを意識している意味の重さを知った。

 そのエルラーナに追い討ちをかける様に、タバサはこう言った。


「数日以内にロンドラードからの使節団も到着するんですよ」


 エルラーナは、空いた口が塞がらなかった。

 それは、隣大陸の国。大陸内でも目一杯なのに、外大陸からの使節団まで来るとなると、ナッサヘルクの代表としての立ち振る舞いが問われる事になる。ナッサヘルクとしての正式な外交では無いとは言え、今後に左右する局面を迎える事にエルラーナは気を失いかけた。


「ロンドラードですって!」


 一方、目を輝かせたのはメルリだった。それは、彼女の好きな本に出て来る国名で、話はその国を中心に展開される。つまり、本の中に夢見た国の人物に会えるかも知らないのだ。メルリは、顔を赤らめて、物語の中に入り込んでいた。

 サナエも、メルリの反応を見て、その名称に思い当たりメルリ程ではないが英雄譚の登場人物を思い出して姿を想像した。

 その本を読んだ事の無い他の面々は、二人の反応が分からなかったが、ラナックは、特にメルリの様子に嫌な予感がして、注意して見ておかないといけないなと、頬を掻いた。


「シルソフィア様、エルラーナ様とメルリルーク様をお連れしました」


 タバサが、その背の倍近くある扉をノックすると中に声を掛けた。


「どうぞ」


 少しして中からシルソフィアの側付のメイドと思われる声が聞こえて来た。

 扉脇の護衛の兵が恭しくその扉を開け、部屋に充満した陽光が扉から漏れて差した。


「シル姉様!」


 メルリが小走りにその光に吸い込まれて行った。

 エルラーナも急に抱え込む事になった問題を一旦置いて、姉を想う妹の顔に戻り、急く気持ちを抑えてお淑やかに部屋に入った。



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