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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「大地よ、風よ」


 サナエは、その砦の中の慌ただしい様子に不穏なものを感じて手に汗を握った。


「そのエルシィがやったのかしら」


 やけに冷静にメルリが馬上から中の様子を見ようと身体を伸ばした。中を覗くことなどできなかったが、幾つか火の手が上がっているのが分かった。


「入口は開いているようですから、正面から行きますか」


 口調は穏やかにラナックがメルリを馬から降ろしながら言った。


「メルリルーク様とサナエとトッツ君は、イクノとマルスから離れないで下さいね」


「盗賊如き、護衛なんか無くても平気よ」


 メルリは、鼻息荒くやる気に満ちているが、ラナックは首を横に振って困った顔をした。


「話しに聞いたローブも気になります。それに、トッツ君の護衛をお願いしたいのです」


「そうよ、メルリ。トッツを守らなきゃ」


 サナエは、なるべく荒事にならない事を願っていた。


「スフレもちゃんとトッツを守ってね」


 と、サナエは肩に乗っていたスフレをトッツに渡した。

 トッツに抱かれ、スフレは少し嫌そうな仕草をしたが、仕方なさそうに大人しくそこに収まった。


「じゃあ、行くわよ!」


 メルリの号令で一行は、盗賊の砦に潜入した。


 盗賊の砦の中は、木が燃える煙の匂いと酒と排泄物の匂いとが混じり、かなりの臭気を放っていた。その中に血の匂いもした。男の怒号と馬のいななきが聞こえ、数頭の馬が走る音も響いてきた。

 何か混乱が起こり、それが収まりつつあるようにも見えた。

 

「なんだ!テメェら!」


 一行に気が付いた盗賊の一人が睨みを効かせて近寄ってきたが、次の瞬間には、手足の関節から血を吹き出して倒れた。何か起きたかメルリにも分からなかったが、少し前を行くラナックの剣がキンと、鞘に収まる音が聞こえて、ラナックが斬りつけたのだと気が付いた。あまりの剣速に切られた本人も何が起きたか分からなかったがだろう。体が動かなくなって倒れてから、激痛に悲鳴を上げた。

 サナエは、その様子に顔を青くしながらも、声を上げる事は堪えた。自分たちがここに来てしようとしているのは、こう言う事なのだ。

 普段は優しく穏やかに見えるラナックの騎士団副団長たる一面を垣間見て、サナエは自分の腰の剣に手を触れた。メルリの側にいると言う事は、その覚悟をしなければいけない。メルリから、剣を渡されたと言う事は、そう言う事なのだとサナエは知った。


「何しに来やがった!」


 先程の男の声に呼び寄せられたのか三人の黒いローブを纏った者が一行の行手を阻むように現れた。ローブの下は、薄汚れた皮鎧を付けているところを見ると、先程の男と同様盗賊に間違いないようだった。


「そのローブは、どこから手に入れたのですか?」


 ラナックが尋ねると、男たちは一瞬お互いに顔を見たが、


「関係ねぇ!やっちまえ!」


 と、腰の曲刀を抜き放った。

 先頭の男が振り上げた曲刀が振り下ろされる間もなく、ラナックの細身の剣にその腕ごと切り落とされた。


「ギヒィィ!」


 腕を切り落とされた男は、その痛みに地面にのたうち回った。

 

「もう一度聞きますが、そのローブは、どこから手に入れたのですか?」


 ラナックは、剣に付いた血を振り落として、ワザとその剣先を男たちに見せて言った。


「し、知らねぇ。カシラがくれたんだ!」


 男たちの腰は逃げようとしていたが、引けない事情は彼らが末端の立場だと言う事なのだろう。何も聞かされぬまま言われるがままに盗賊稼業をしているのだ。


「そうですか」


 ラナックは、情報は何も得られないと知るとそのまま通り過ぎようとした。

 

「な、舐めるな!」


 盗賊二人はその態度に腹を立てて、ラナックの両側から切り付けようとした。

 しかし、二人ともそのまま崩れ落ちた。

 マルスとイクノがそれぞれの男の足を斬りつけたのだ。

 二人とも両足の腱を切られ立つ事ができなくなった。


「ちくしょう!」


 三人それぞれが悪態を吐いているが、戦意は喪失していた。


「もう、カシラとやらに直接聞くしか無いわね」

 

 ニヤリとするメルリの横でサナエは、最初からそのつもりだったよね、と思ったが口にはしなかった。

 と、そこへ、狼の遠吠えが響き渡った。


「ロングだ!」


 トッツがその声に気付いて声を上げた。

 メルリは、気が付いた。

 その遠吠えとともに、魔素が動くのを。


「みんな、ふせて!」


 そう言うと、早口で呪文を口にした。


我らを(ガイン)包み込め(シェーラム)守護の風(シラッドフルレース)


 一行を風の結界が包み込みと同時に大きな火球が長屋の上でゴウッッ!っと弾けた。その衝撃と熱量で火球を中心とする建物が吹き飛び引火し、火の海となった。少し離れていたメルリたちの元へもその熱風が吹き荒れた。


「きゃぁぁ」


 咄嗟に出した風の障壁ではあったが、火球の弾けた熱波が防ぎきれずにメルリたちの皮膚を舐めた。火傷するほどではなかったがサナエは思わず声を上げた。


「やるわね」


 メルリは、予測よりも威力のある魔法に悔しそうな顔で、魔法の発動した方向を見た。


「なるほど、やはりこのローブは魔法を弾くようですね」


 倒れている男からローブを剥ぎ取り、ラナックはマジマジとそれを見た。

 あれほどの熱風に煽られながら、男の皮膚は焼けてはいなかった。


「調べてみる必要はありそうだわ。マルス、着ておいて」


「え?!俺が?」


 男の血の付いたローブを見てマルスは嫌そうな顔をした。


「マルス。「はい、かしこまりました」でしょ」


 横からイクノが鋭い視線でマルスを見た。

 マルスは、ビクリとして、渋々それを受け取ってバサバサとはたくと袖を通した。裾の方に付いた血は、それ程量は無いが気になる様だった。


 先程の火球攻撃のおかげで、長屋付近に居た盗賊たちは軒並み体を焼かれたり火の手が上がった建物の中で焼け死んだり崩れた建物に挟まれたりして、無力化されていた。メルリたち一行は、奥の建物が見える所まで来ていた。

 三階建ての大きな建物で、外を多くの黒いローブを着た者が守りを固めている。あからさまに主要な場所である。


「さっきの魔法攻撃で警戒が強くなっていますね。しかし、これ程の数のローブを用意しているとなると、この盗賊団の資金では無理でしょうね」


 ラナックは、特に困った様子もなく眺めて言った。


「魔法しか使えないメルリは、今回は役立たずだな」


 マルスは、嬉しそうにそうメルリをいじった。

 すぐさまイクノの拳がマルスを殴ったが、メルリに火がつくのは止められなかった。

 先程の火球の魔法を見てから対抗心が湧き上がっているのも確かだった。


「身につけるだけでは意味がない事を教えてあげるわ。サナエ、手を出して」


 息を荒げてメルリは左手でサナエの右手を取って、隠れていた建物の影から飛び出した。


「え?!え?!」


 引っ張り出されたサナエもびっくりしたが、そこに居た他の四人も慌てた。

 案の定、建物の周りを固めている黒いローブの盗賊の一部が気付いてメルリたちに向かってきた。


「しばらく、私たちを守りなさい!」


 さすがのラナックも慌てた様子で二人の前に駆け出した。

 イクノとマルスも続いて両脇に付いた。

 トッツは、スフレを抱いたまま影でそれを見ていた。そして、ランティは、警戒してトッツの前に降りてきた。


「行くわよ」


 メルリは、そう言うと目を閉じて魔素の流れを強く意識した。

 

「え?」


 サナエは、胸元が熱くなるのを感じた。

 その熱さに体が吸い込まれる様な感覚がした。熱さを中心に身体を流れる魔素が集まっていると言うのが正しい認識だった。

 その熱さの中心にある物が、サナエの首にかけられた指輪であるとサナエは気が付いた。


「サナエの魔素を少し借りるわ」


 サナエにも分かった。サナエの指輪から流れた魔素がメルリのしている指輪を通して、メルリの魔素と混ざり合うのが。

 それは大きく強い流れとなって淡い光を放ち始めた。


大地よ、(ドロス)風よ(ルレース)


 メルリが言葉を発すると、メルリとサナエの足元に緑がかった光の輪が浮き上がった。

 襲いかかってきた盗賊の剣をマルスが受け流し、そのまま斬りつけた。盗賊のうめきが漏れるが、二人には聞こえていなかった。それ程、魔法への集中に意識が向いていた。


大いなる力に(フュールス アト)従い(ファルグゴンド)踊り、集え(ランダ ギルダ)


 イクノもまた、その加速する剣捌きで盗賊たちを無力化していった。


大地の嘆き(ガンジュフドロス)、神の指先(フリフェフゴドマ)


 メルリとサナエの足元からその光の輪が幾重にも折り重なり、二人を包んだ。メルリは、呪文を唱えながらサナエと繋いでいない右手を空に向けて上げた。


「これ以上はやらせねぇ!」


 一連の襲撃の被害をメルリ一行の仕業と断定した巨大な曲刀を手にした男がラナックに襲いかかった。その剣速は、目を見張る物があり、その切先は常人には捉える事は出来そうになかった。激しく振り回される巨大な曲刀に周囲の盗賊も巻き込まれて切り刻まれていった。

 その様子にラナックは、あからさまに不快な表情を見せて、自らの剣を抜き放った。

 男の剣速を凌駕して、ラナックの剣は男の腕を斬りつけた。しかし、深手に至らないのは、その男の強靭な肉体と剣速による隙の少なさであった。その巨大な曲刀の一撃を真っ向から受ければ、ラナックの細身の剣では折られてしまう可能性ががあった。それでもラナックの剣技は、力を受け流しつつ受けて、男の攻撃をものともしなかった。

 攻撃が届かぬばかりか、体の傷が増えていくことに男の表情が曇っていった。

 それでも、認めないのがその男の矜持でもあった。敵と認めたら決して下がらず押し切るのが彼の流儀だった。その気迫は、相手を怯ませ最後には勝ちをもぎ取るのだ。鍛えた剣技と気迫が、彼をこの盗賊団の幹部として認めさせた。しかし、目の前の背の高いだけの身体の線が細く見える男の剣技は、遥かに上を行っていた。認められない現実に、目を血走らせながら、集中と加速を研ぎ澄ませていった。

 男の隙を突くラナックの斬撃の速度もそれに合わせる様に加速し、ついには男の左足を深く抉った。

 「ぐっ」とうめきを上げつつも男は倒れなかった。一度だけ、剣戟を止めて曲刀を杖代わりに倒れるのを支えて耐えた。

 その瞬間に終わるはずの男の命は、再び剣を持ち直すまで長らえた。

 男には、追い討ちをかけないラナックの甘さと、情けをかけられたと感じ、体の傷以上に深く誇りを傷つけられた。


「ぐおぉぉぉ!!」


 男の怒りに任せた一撃がラナックに襲いかかった。単純な動きではあったが、それまでで一番加速し重い一撃であった。

 しかし、ラナックは、その一撃を合わせる様に差し出した細身の剣先で僅かに沿わせるだけでその軌道を変えた。たったそれだけで男の曲刀は、ラナックの体を避けて空を切った。


「!?」


 男は何が起こったか理解が及ばなかった。それを理解する間も無く、軌道を逸らしたラナックの剣先は男の首を切り裂いていた。

 吹き出る血をそのままに男は崩れ落ちた。

 その男が倒された事に、押し寄せてきた盗賊たちは、尻込んだ。


人の業(カーマフホムロス)その原罪を(ノクエリスナーバ)大地へと帰す(キエフアトドロス)力也(フゴンド)


 メルリとサナエの周囲に風が巻き起こり、その頭上に渦巻いた。周囲の土や岩がその風に巻き上げられ、次第に固まりその大きさを増していった。メルリの呪文に応じてその塊は巨大になり、直径五ヘンテ(五メートル)近い大きさにまで成長した。


偉大なる(ジェリス テ)神の指先(ファルグゴドマ)!」


 メルリが上げた手を建物に向けて振り下ろした。

 頭上の岩と土の塊が手の動きに合わせて飛び、轟音を立てて建物を破壊した。


 



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