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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「見つけたぞ!」


 それは、風が吹いただけに思えた。

 馬たちの暴走の最中に次々と目の前で仲間が赤い血を噴き上げて倒れていく光景をタルドは、その目で見た。


「何が起きていやがる」


 泡を吹きながら止まる事のない馬たちの怒涛は、倒れていく盗賊団の面々を踏みつけていく。馬も錯乱しているが、盗賊たちも駆け巡る馬と血を吹き倒れる仲間とに混乱していた。それでもタルドは、驚きながらもその光景を見続けていた。


 やはりか。


 タルドは、馬の影を併走している赤い影を見つけた。一瞬だったが、それがあの少女の連れていた赤毛の狼だと確信した。いや、そう願ったと言う方が正しい。それが間違いでない事は、この状況にありながらも彼にとって僥倖だった。

 タルドは、自分の得物である大刀を掴むと外に飛び出した。

 今、この場を荒らしている馬の暴走と先程見た狼の影は、陽動なのだと実戦の経験がタルドに言っていた。厩に放たれた炎があの少女によるものだとしても、もうその場には居ないだろう。この混乱に乗じて侵入しているとすれば、頭の住居か捕らえた村人の牢屋だろう。

 タルドは、考えた。自分であれば、この混乱の中で大将首を狙い、組織の屋台骨を砕く。だが、あの少女はそうはしない。陽動を仕掛けたのは侵入する事を考えてだけで、それ以上の戦略も戦術も無いだろう。タルドは、少女をそう見ていた。彼女は戦士でも兵士でも無い。狩人だ。懐に入っての立ち回りは経験していないと、先日の戦いから感じていた。しかし、狼の方は違う。あれは、暗殺者だ。馬の暴走に紛れながら見事に急所を突いてくる。その姿も不用意に晒す事の無い、厄介な相手だった。

 だが、あの時はどうだ?と、タルドは走りながら思い返した。あの狼は、あの少女と行動する際は、戦士として彼女の側に居た。彼女の敵に牙を剥き、危険が及べば盾となる。そう、狼単体と戦うよりも、与し易い相手となる。

 そして、彼女が目指す場所は、捕らえられた村人の所だ。混乱の最中に解放し逃がそうとするはずだ。

 


 エルシエッタは、門の見張りを不意打ちで殺害すると、砦内の混乱に乗じて内部に侵入した。

 ロングに厩を襲い混乱を誘う事を指示して、その機を待っていた。エルシエッタの目論見通り、騒ぎにより叩き起こされた面々の判断力は低く砦内は騒然とした。門番の警戒も散漫になり、エルシエッタの接近を簡単に許した。

 エルシエッタは、内部に侵入すると見張り櫓で馬の動きに目を取られている男を背後からナイフで襲い、その首を切り裂いた。男を足元に転がすと、エルシエッタはそこから人の動きを観察した。その目的は、この砦の重要な場所を探る事だ。厩に火を付けさせたのもそれが目的だった。

 馬に翻弄される者とは別に奥の建物の防御を固める者たちがいた。いかにもこの組織内で力のありそうな三人の男女を中心とする一団で、その内の一人の女性が引き連れた数人の者に指示を出した。それは襲撃を予測した動きで、屋敷を守りつつ、倉庫への延焼を食い止めようと動いた。


「!?」


 三人の内の一人の髪を頭の上で結い上げた背の高い男が、突然弓を構えた。その弓から放たれた矢が、見張り台に隠れて見ていたエルシエッタの頭の横を抜けて後ろの柱に突き刺さった。


「っ!」


 エルシエッタの額に血が垂れてきて、エルシエッタは驚愕した。

 かなりの距離がありながら、その上ほとんど姿が見えていないはずのエルシエッタをその矢は確実に狙っていた。

 矢がエルシエッタの頭を掠めたのは、偶然に近い結果であったかも知れないが、その男はエルシエッタの視線を感じていた。その感覚とこの距離をものともしない弓の腕に緊張が高まった。

 その矢は、エルシエッタの足に傷を負わせたものと同じだった。あの時もそうだ。エルシエッタは、その気配を感じられなかった。長年の狩り生活で殺意の気配には敏感になっているエルシエッタが感じとる事ができなかった。あの時は、戦いの中で鋭利になった感覚が、迫り来る矢危機を直前に肌で感じて身体を動かしたが、それでも足に受けてしまった。

 今、気配だけでは無く、エルシエッタが見えていたとしたら、確実に命に迫る矢が放たれていただろう。

 矢は、それ以上来なかったが、エルシエッタの警戒心を一層強くして、行動を鈍らせるには十分だった。

 矢を放った男も仕留めた感覚は無かったが、気の所為には思えずに部下に見張り櫓の辺りを警戒する様に伝えた。

 エルシエッタは、気付かれた事を悟りその場から離れ厩の反対側の倉庫へと向かった。上から見た際に、そちらにも人が送られるのを見た。火の手が上がる厩方面の倉庫への延焼は、何としても食い止めたい筈だが、火から遠い反対側の倉庫を固めると言う事は、そこに何かしら有ると言う事だろう。

 それが何なのかエルシエッタには、明確な答えは無かったが、攫われた村の人々がいるのだろうと考えた。


「いたぞ!」


 身を隠しながら長屋の様な建物の屋根を進んでいると、背後から声が聞こえた。エルシエッタは、ビクリとして歩速を早めて身を隠すが、近付いては来なかった。その声が、ロングを見つけた声だと気付き、エルシエッタは、相棒の身を案じた。


 ロング、もう少し頑張って。


 口に出さずにそうロングに伝えた。

 使役者と使役魔獣(モンスター)とは、魔素が繋がっている。と言うのは、使役者が、使役魔獣(モンスター)に自らの魔素を侵食させ滞在させる事で、共通の言葉を持たない魔獣(モンスター)に意思を伝えることができる。それが使役者と被使役者とで行われる契約術式で有るが、魔獣(モンスター)自身が受け入れる意思が無ければできない事では有る。

 櫓の辺りから、エルシエッタの気持ちを受け取ったロングの遠吠えが聞こえた。それはエルシエッタに大丈夫だと伝えている様でもあった。

 その直後、ゴウッ!と空気が膨張する音が鳴り、櫓が燃え上がった。

 ロングの放った炎の魔法が、櫓を燃え上がらせたのだ。

 エルシエッタは、目の端でその炎を捉えてから、先へと進んだ。実の効果が薄れたのか、左腿に痛みと熱がピリッと走った。


「ッ!エッ!?」


 一瞬のよろめきの先で、ドゴウッッ!と長屋の屋根が吹き飛ぶのが見えた。痛みの躊躇いが無かったら、飛び散った屋根と同じ運命だっただろう。

 屋根をそうさせたのは、大きな大刀だった。

 振り上げられたそれが、屋根を破壊しながら振り下ろされたのだ。それ程の大刀の質量と扱う者の膂力で有ると否応無しに物語っていた。

 エルシエッタは、その大刀に見覚えがあった。

 コロック村で道を塞いでいた男の得物だった。男の先にルイカたちが囚われ繋がれた馬がいた。あの時、男を振り切ってその縄を切り裂くことができれば、ここまでルイカたちが連れて来られず、村に残された消えかけた命も少しは救えたかも知れない。それを阻んだ憎き男の大刀だ。

 エルシエッタの目に暗い光が走った。


「ぐははははっ!見つけたぞ!」


 嬉しそうに笑う筋肉質な男にエルシエッタは、明らかな不快感と殺意を仄暗く燃やした。


「やぁぁぁぁ!!」


 エルシエッタは、左腿の痛みなど忘れ槍を突き出し、まだ大刀を戻せぬ男の喉元に、屋根からの落下の勢いを加えて鋭く襲い掛かった。

 だが、男の脅威的な筋力で戻された大刀の柄がエルシエッタの切先を阻み、横薙いだ。

 その圧倒的な膂力にエルシエッタは、弾かれて吹き飛んだ。それでも身体を返して地面に足で着地した。


「グッッッ!」


 左腿に激痛が走った。

 それでもエルシエッタの目の光は揺らがなかった。

 指先に実の粉を取ると、男を睨みつけたまま舌裏に塗り付けた。

 タルドは、口の片側を釣り上げて嬉しそうに目の前の少女の殺意を受け止めていた。

 少女は、獣だった。それも相手の喉を食い破る為なら死すら厭わ無い手負いの獣だった。


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