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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「サナエ、これを」


 エルラーナたちを乗せた馬車と荷物の馬車、そして、護衛のマッコス、トクナ、ジーナを乗せた馬は、メッサの王都に向けてジルクの町を出発した。

 一方、メルリとサナエの乗る馬車は、トッツを乗せてトッツの村、コロック村へと向かった。護衛には、ラナック、イクノ、マルスが同行している。


「その、エルシィは、村を襲った盗賊の居場所が分かるの?」


 メルリは、悪路に揺れる馬車に言葉の端々を奪われながらそう尋ねた。

 トッツは、少し困った顔をしてから、「ロングは、鼻が良いんだ」と、メルリをあまり見ずに言った。

 トッツは、メルリが少し苦手らしかった。その金色の光を孕んだふわふわの髪の毛も大きく煌めく至極色の瞳も、トッツには眩しく見えた。エルシエッタとは全く違ったが、何だかドキドキして言葉が上手く出てこなかった。


 この目だ。


 と、トッツは、思った。瞳の色がエルシィと似ているからだと、トッツは分析した。


「ロングも魔獣(モンスター)なのよね」


 頷くトッツにメルリは、ふむ、と難しい顔をした。

 馬車の外を付き添って飛んでいる鳥も魔獣(モンスター)だと言うが、話の通りならそのエルシエッタと言う女の子が魔獣(モンスター)と意思疎通ができている事になる。それはまるで、物語で読んだ魔王の様だとメルリは思った。しかし、トッツの話を聞く限りでは、主従では無く家族の様に接している様だ。メルリは、サナエの膝で丸くなっているスフレを見て、それもあるのか。と、飲み込んだ。


「で、あの鳥、ランティがエルシィの元まで案内してくれるのかしら?」


「分からない。でも、分かると思う」


 その会話を聞きながら、サナエはトッツの姉の無事を願った。


 絶対に助けたい。そう思うのは、わたし個人の事情かも知れないけど…


 サナエは、今回の事でシェッツェヌでの事の雪辱を果たしたいのかも知れないと自分を疑っていた。トッツの為と言いながら、それでは自分の満足の為で、状況を利用してる事にならないだろうかと申し訳なく感じた。

 メルリは、違う。

 それは確信があった。メルリは、今回の事だけに向き合っている。勿論、黒衣の者との繋がりは気になっては居るだろうが、目の前に舞い込んだ事件を解決する事に意義を感じている。それは、ハッキリ言って物語の挿話として受け止めている節があった。彼女の中の、物語の主人公はこう行動するはずだ、が彼女の行動理念であるのだろう。とは言え、トッツの身に起こった現実に怒りを覚えているのも事実ではある。

 常に彼女の物語を演じて読み上げている様にサナエは感じ、そこからブレる事のないメルリを見ていた。その物語の主人公がメルリなのかサナエなのかは、本人にしか分からない事だが。


 


 コロック村に到着した一行が見たものは、燃え崩れた家々と数多くの墓だった。残った数人の村人が、まだ足りない墓穴を掘り続けていた。


「トッツ」


 馬車から降りてきたトッツを見つけた一人の男性が、力無く彼に声を掛けた。


「タンガおじさん」


 それは、彼の知り合いらしく、トッツを抱きしめた。


「無事だったのか…姿が見えなかったから、連れ去られてしまったかと思った」


「姉ちゃんが、連れて行かれちゃったんだ」


「そうか…」


 男性は、諦めた様な顔で作りたての墓地を見つめた。そこにトッツたちの両親が眠っていた。その事にトッツはまだ気が付いては居なかった。

 トッツは、両親の死をまだ知らなかった。可能性は感じながら、姉とエルシィの事で一杯で意識が辿り着かなかった。


「その方たちは?」


「盗賊の所へ行って姉ちゃんを助けるんだ。その為に来てもらったんだ」


「悪い事は言わん。やめてください」


 男性は、苦しそうに首を振った。


「どうして?悔しく無いの?こんな目に遭ったのよ」


 メルリは、信じられないという顔で男性を見た。


「見たところ、そちらの方たち二人以外は子どもではないですか。相手の数は多く、勝ち目などありません。それに…」


 ラナックとイクノを見て、男性はそう言った。


「盗賊団のアジトをご存知ありませんか」


 男性の言葉など気にして居ない様子でラナックが尋ねた。


「いえ。知りません」


 男性は、首を横に振った。知って居たとしても、きっと教えなかっただろう。


「この村が襲われた事で、盗賊もまた暫くは動かないでしょう」


 これは必要犠牲だと、男性は受け入れようとしていた。ここまで酷い事は今まで無かったが、盗賊団が周辺の村々を襲い切る事はしない。自分たちの獲物が枯渇する事を彼らも望んでいないのだ。これまでも、ある程度の収穫が有れば、活動をして来ない。軍に追われる事もない様に気を付けている様なのだ。

 しかし、こんな貯蔵の少ない時期に狙ってくる事もこれまでは無かった。

 その予想外の襲撃が村側の対処の遅れの原因だった。

 長年による襲う側と襲われる側の中で、決まりの様なものができていたのを今回は覆されたのだ。もっとも、その決まりを信じていたのは各村の代表の代表だった。それというのも実は代表たちと盗賊の頭との間で会合が行われた事があったのだ。最低限の被害で抑える為にと言う名目もあったが、代表の財産には被害が及ばない様にとの裏工作でもあった。盗賊は盗賊で奪い、村側は提供では無く抵抗の末に奪われなければならなかった。村が盗賊と結託して国の利益を損なうとすれば、村側にも責が問われる。とは言え、国は盗賊を本気で取り締まろうとはしない。村側の苦肉の策とも言えた。自分たちの財産は守ろうとする代表の抜け目のなさには、事実を知る一部の村人は閉口していたが。

 だから、今回の事は余りにも予想外であり、相手が無法者である事を思い知らされて、近隣の村々は認識の甘さに愕然とした。大人たちは、報復を恐れて動く事も言葉を発する事もできなくなっていた。

 メルリたち一行は、村の立場やこれまでの経緯など知る由もなく、村の惨状に怒りを強くした。


「ここから先は、道が整備されていませんので、馬で行くしか無いでしょう」


 ラナックは、馬車の馬を一頭外しながら言った。


「わたしがサナエと乗るわ」


 メルリがラナックが外した馬の手綱を受け取ろうと手を伸ばしたが、ラナックは首を振った。


「メルリルーク様は、わたしと一緒にグリートに乗って貰います。サナエは、イクノと一緒に」


「どうしてよ。これからは、どんな道があるか分かりません。悪路で落馬などされて怪我をなされたら、攫われた村人を助ける所ではありませんよ」


 やんわりとメルリに言うと、その手綱をマルスに渡した。

 メルリは、不満そうに頬を膨らませるた。それでも、ラナックの言う通り、それ程乗馬は得意では無い為、納得するしかなかった。

 

 やっぱり、颯爽と現れて悪党を蹴散らすには、乗馬技術は必須ね。


 と、今後は乗馬の訓練もしっかりやる事をメルリは、心に誓った。


「サナエ、これを」


 そう言って、メルリはサナエに一振りの剣を渡した。

 鞘には花や鳥がモチーフの装飾が先端と収める部分に施されていて可愛らしくも品がある。サナエには、その剣が先日魔獣の巣窟(ダンジョン)で見つけたものであると分かった。

 指輪と同じく、整備を依頼していたものだ。刀身に刻まれている紋を傷つけない様に丁寧に磨ぎなおされている。


「もっと早く渡すべきだったけど、街中でメイドが帯剣しているのも変だと思って」


「ありがとう。メルリ。この飾りとても可愛いわ」


「あの親方には無理だと思って、女性の銀細工師に頼んだの。正解だったわ」


 サナエは、早速帯剣用のベルトを締めて腰に剣を下げた。スカートに帯剣するのは、少し変に思ったが意外にしっくり来て、サナエは嬉しかった。

 剣の扱いをあれからも稽古している為、少しは役に立たそうな気分になり気持ちが引き締まった。

 サナエは、イクノに手を引いて貰い、イクノ馬に横乗りで乗せて貰った。スカートなので仕方なかったが、こうなると折角付けた剣が邪魔になってしまった。仕方なく鞘を外して馬の腰に付けた荷袋に差し入れておく事にした。サナエは、少しだけ申し訳なくなった気持ちを立て直して、馬の上から見える高い景色で前を見た。

 後方では、マルスがトッツを馬に乗せていた。

 ラナックの考えではトッツは、この村に置いて行くつもりだったが、本人がどうしても行くと言い張った事と、道案内できそうな鳥がトッツが居ないと動こうとしなかったのだ。


「ランティ、エルシィ姉ちゃんの所に連れて行って」


 トッツがそう声をかけると、鳥の魔獣(モンスター)は、その言葉を理解したのか、一声鳴いて飛び出した。


「さあ、今回は盗賊討伐よ!」


 高らかにメルリが声を上げた。

 




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