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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「化け物とは失礼ね」


 メルリルーク一行は、国境を越えてメッサに入り四日後、街道沿いの宿場町ジルクに到着していた。

 ジルクは、南東側にヴァンティーユ連峰があり、その裾野の森が町から半日程の距離に広がっていた。山から流れる川が幾本も流れ、森も土地も豊な地域であった。

 メッサは、ナッサヘルクとは違い、農耕地が広範囲にあり、特にこのジルクの周辺は、農業が盛んに行われている。その為、このジルクは、宿場町としてよりも農産物の卸の拠点として発展した町である。人口も多く、住居が立ち並び、この町の一番の特徴は、巨大な倉庫が町の半分以上を占めている事だ。周辺から、収穫された農作物が一時集められ、各地に運ばれる。特にナッサヘルクとの流通が多く、隣国に在りながらナッサヘルクの食料庫とまで言われている。

 この町には、ナッサヘルクを始め五国連盟の東のパンスティーク、西のラッドレイス、南のドンボルドの各国の役人が駐留し、穀物や茶葉、塩や香辛料などの金額を取り決める会議が年中行われている。

 その事もあり、この町の治安は各国の駐留軍がいる為、高い水準で保たれている。各国の関係性が崩れなければ、と言う条件付きではある。兵士同士のいざこざは、わりと頻繁に起こっているのだ。

 この町の特徴はもう一つ有る。それは、領主や貴族がいないと言う事だ。正確には、国の管理する町となっていて、役人としての役割を持った者が一定期間留まっている。町の管理や倉庫の管理、他国との交渉など、それぞれに役人が、あくまで派遣されているのだ。それは、五国連盟の規定であり、独占や癒着によって力の均衡を崩されない様にする為でもある。

 ナッサヘルクに取って大事な食料問題の要で有るが、同時にその手綱を各国に握られても居る事になる。

 五国連盟の発足以前より、メッサとナッサヘルクは、親密な関係ではあったが、連盟の名の下の秩序の為にその関係を裂かれるのをナッサヘルク側は恐れている。婚姻などを積極的に推し進めるのは、その意図もあった。

 そこへ、今回パンスティークから、メッサに向けて第四王子のカーナス・ロンドル・パンスティークが使節団を引き連れて船を出したと言う報告があった。その真意の見極めもラナックたちのメッサ訪問の使命だった。この事は、エルラーナやメルリルークたちには知らされていない。




「凄いわ!貯蔵倉庫がこんなに大きいわ!エイナーリア大聖堂位の大きさかしら!」


 メルリは、倉庫群の目の前に立ち両手を広げて目を輝かせた。


「メルリルーク様。それはエイナーリア様に失礼ですわ。大聖堂は、もっと大きいですよ」


 隣のリリーナも、そう言いながら目を丸くして驚いていた。

 大きな建物を作るには、それなりの技術が居る。倉庫の様に内部に広い空間を作るには、天井を支える為の柱をどう配置するのかが大事では有るが、豊富な木材による支柱と石柱を組み合わせて、その大きな天井を支えつつ広い空間を確保している。その技術は、メルリの国では無いもので二人は非常に驚いていた。

 サナエは、その二人を横目に、確かに凄い大きいな、とは思いながらもそれ程驚きはして居なかった。

 イクノとマルスは、それよりも周りの警戒を怠らない様に緊張している。サナエは、倉庫よりもそちらが気になって何となく落ち着かなかった。

 シェッツェヌで二人は結果として役に立たなかった事を酷く気にしている様だった。メルリを危険に晒し、サナエを攫われ、助けようとした姉妹の妹を謎の人物に連れ去られると言う不甲斐ない現実に直面して、自らを叩き直そうと決意していた。その決意がここ数日空回り気味にサナエの目に映っていた。

 こうしてメルリたちは、このジルクに立ち寄ったついでに観光をしているのだが、妙にピリピリとしていて落ち着かない様子の二人にサナエはため息をついた。

 先程も、親切に倉庫街を案内してくれようとした倉庫管理の役人の一人に睨みを効かせて追い払ってしまったり、作業の音がするたびにメルリたちの前に出て警戒したり、過敏な反応を見せた。結果、メルリがそれに苛立ってマルスの頭を拳で殴るという事態となった。

 当然その過保護はサナエにも及び、マルスがサナエを庇おうとしたり、サナエの一挙手一投足を見逃さないというマルスの視線にサナエはドギマギしていた。

 自分を気にかけてくれているマルスに嬉しく感じている事にサナエは鼓動が速くなった。それと同時に切なくもなり、サナエは揺れ動く自分の気持ちの所在が分からなかった。

 マルスに対して抱いている気持ちが何なのか、サナエは判断しかねていた。

 

 マルスは、わたしたちの事を助けてくれるし、ちょっと配慮に欠けるけど良い人だと思う。初めて会った時は、びっくりしちゃったけど、文句言いながらもメルリの行動に付いて来てくれるし…そう言えば、恥ずかしいところも見せちゃってるな…


 サナエは、魔獣の巣窟(ダンジョン)での事を思い出して顔を赤くした。

 サナエがそんな風に考え事をしながら歩いていた所為もあったが、倉庫と倉庫の間の道から出てきた荷車を引く男性に気付かずにサナエはぶつかりそうになって声を上げた。


「きゃあ!」


 だが、サナエがその荷車にぶつかる事は無かった。

 すんでの所で、誰かがサナエの両肩を掴みそれ以上進むのを止めたのだ。

 目の前を通り過ぎる驚いた様子の荷車の男性を目で追いながら、サナエはほっと息をついた。そして、体を引き止めてくれた手に触れながら、「ありがとう」と、礼を言った。


「あ、いや…」


 背後から聞こえた声が、照れた様に口籠っていた。サナエは、ようやくその声の主がマルスだと気付いて、慌てて体を返しながら離れた。しかし、肩に置かれたマルスの手を離すのを忘れていて、向き合って手を繋いでいる状況になり、お互いその繋いだ手を見たまま照れて固まった。

 マルスがハッと我に返ってその手を引っ込めるまで、サナエからは手を離さなかった。


「あ、ありがとう…」


 改めて礼を言いながらサナエは、先程までマルスと繋いでいた手の感触を感じていた。


「気を付けろよな」


 マルスは、プイッと先を歩くメルリたちを追って行ってしまった。

 サナエは、その背中に微笑んで後を追った。



 メルリ一行が、倉庫街の見学を終えて、エルラーナたちと合流する宿に向かう頃には、日が傾いて黄昏色に町が染まっていた。

 宿まで向かう道には、この地方一番の繁華街と謳われる華やかな一角が有る。シェッツェヌの商店街とは違い、酒場を中心とした歓楽街が集まっている。範囲はそれ程広くは無いが、提灯などの灯が多く掲げられており、その区画だけ光を放っていた。

 その光景を横目に見ながら、一行は宿場通りに入って行った。

 その繁華街と宿場通りの間の細い路地の方で何やら男たちの声が聞こえてきた。


「ガキがうろつく所じゃねぇんだよ!」


「辛気臭ぇ!どっか行け!」


「とっとと、失せろ!」


 そんな男たちの言葉にメルリが頭を突っ込まない訳が無かった。


「あなたたち!何しているの?」


 街の明かりを背にメルリが立ちはだかった。


「あぁ?!なんだお嬢ちゃん」


「何をしているのと聞いているの。答えなさい!」


「関係ねぇだろ!失せろ!」


 そこにいた男たち三人は、誰もがかなり酔っている様子だった。また日も落ちきっていない内から酩酊しているとは何てダラシない大人なのかしらと、メルリは口をへの字にして不快感を見せた。その後ろでイクノとマルスは、男たちの様子を伺っている。

 男たちは、明らかに庶民で武術の心得も無さそうなのは見て分かっていた。だから、あまり手荒な事はできないなと、イクノは考えていた。

 男たちの後ろで何やら蠢いているのが見えた。

 それは、子どもの様だった。

 蹲る様にしていて、ようやく顔を上げてメルリを見た。

 その顔は煤で汚れたのか黒くなっていて、薄明かりに何とか見える服装もかなり汚れていた。


「あなたたち!何て事をしているの?」


 メルリは、それをそこに居た男たちがやったのだと判断した。


「あぁ?!何の話しだ」


「問答無用よ!覚悟しなさい!マルス!行きなさい!」


 メルリは、ワナワナと震えながらマルスに指示を出した。


「はぁ?何で俺が?」


 マルスは、明らかに弱そうな男たちと戦うつもりなど無かった。もし、危害を加えようとしたのなら別だが。


「悪党をやっつけるのよ」


「悪党って、俺たちの事か?…良い度胸だな。良いぜ、そこの坊ちゃん掛かって来いよ」


 メルリに悪党扱いされて、男の一人が頭にきた様だった。酒の力もあり、強気になっているのも有ったが、目の前の女、子どもに負けるなど考えもしなかった。

 パキパキと拳を鳴らしながら、男は近付いて来た。


「やるって言うならやるけどよ」


「マルス、ちゃんと手加減はするのよ」


 イクノも喧嘩の様な状況でのいざこざは避けるべきだと考えていたが、倒れている子どもが気になった。彼らの言う様に彼らによってやられたのでは無いとすると、一体何があったのか彼女の正義感が疼いた。


「オラァァ!」


 男がマルスに向けて拳を振り上げて間合いを詰めていった。が、その拳が届く事は無かった。


「ブルフェッ!」


 突如空中に現れた水の玉が、男の顔に直撃して男はのけぞる様に仰向けに倒れた。

 マルスは、咄嗟にメルリを見たが、首を振った。そして、サナエも見たが、サナエも首を振った。明らかに魔法か魔術が使われたのだが、二人とも何もしていなかった。

 突然水を浴びせ掛けられる事となった男は、一気に酔いが覚めたのか、目の前に立ちはだかるマルスとイクノを見上げて青ざめた。


「ば、化け物!」


 男はそう悲鳴をあげると、路地の奥に走って逃げて行った。残りの二人もそれに続いて逃げて行った。


「化け物とは失礼ね」


 面と向かって聞いたその言葉にイクノは、憤慨した。が、それがマルスやイクノに向けられた言葉でない事をすぐに知った。皆の背後から大きな羽ばたきが聞こえ、それは倒れている子どもの近くに降りて来た。広げた翼は大人一人分程ある大きな鳥だった。

 メルリには分かった。それが、魔素を操り水を男に浴びせ掛けたのだと。

 そう、降り立ったそれは魔獣(モンスター)だった。

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