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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「器は、何処だ」


[もう少し待っていてね。今、直ぐ近くまで来ているわ]


 メルリの気配とその声が頭の中で聞こえた。


[うん。わたしは大丈夫。みんなも落ち着いているよ]


 そう答えたサナエの言葉は、疲労を隠せてはいなかった。

 長時間暗闇に灯りをほのかに灯し続けるのは、魔法の扱いにまだ慣れないサナエには負担があった。それだけでなく、長時間暗闇にいた事も自分が置かれた状況が分からない事も心的負担となってのし掛かっているのだ。サナエよりも幼い子どもたちなら尚更な事だろうとメルリは想像した。


 メルリとのやり取りをしてからどれだけ時間が経過したんだろう。


 外の様子も分からず、精神的に負荷が掛かった状態では、時間経過の把握などできるはずもなく、まるで数日ぶりにメルリの気配を感じた気がした。もっとも、メルリと話してから、一度も食事が運ばれて来ていない事を考えるとまだ日が変わっていないのだろうとサナエは考えていた。

 もし、何らかの事態が起きて、男達がここを放棄していたとしたら、と考えもした。

 想像してサナエは、絶望的な気持ちになった。自分がではなく、連れて来られた子どもたちの事である。メルリが行動せず、サナエがここに連れて来られなかったら、この子たちは、暗闇の中でただ絶望の結末を待つだけしか無い時間を過ごさなくてはならなかったのだ。ミランナによって解放されかけた時、逃げる事もできずに立ち尽くしたのだろう。逃げる気力も体力も希望も闇の中に吸い込まれてしまうのだ。

 ここまで追い詰められた状況ではなかったが、サナエも長い時間を掛けて、絶望に心を呑まれた経験がある。希望は、瞬発的に湧き上がるものではないのだ。絶望を知る者にとっての希望は、頼りない糸をより集めて何とか掴んでいかなければ、すぐにほつれて散ってしまうものなのだ。

 

 わたしがその糸になって、この子たちを繋ぎ止めなくては。


 サナエにとって、メルリがそうであった様に、希望につながる光明がある事をこの子たちに見せなければとサナエは泣きそうな目に力を込めて、鼻から強く息を吸った。


[メルリ、わたし、この子たちを絶対ここから助け出したい]


[うん。絶対助け出そう。]


[あの、ごめんね。わたしが黙って行動したから、こんな事になっちゃって]


 サナエは、メルリが心配してくれた事を想像して、申し訳ない気持ちになっていた。


「ううん。サナエが考えて行動した事だと信じているわ。でも、相談してくれたらもっと良かった。それは悲しいの]


[本当にごめんね]


[待っててね。結果的に問題無かったと言えるようにしてあげるわ。その後、イクノがお説教したいそうよ]


[えっ…]


 サナエは、メルリの後ろにイクノの怒った顔を想像して青くなった。マルナとはまた違った怖さを感じた。


[イクノもとても心配しているのよ。マルスだって、必死で貴女を探したんだから]


[マルスが…]


 サナエは、マルスが探してくれた事を知り、胸の奥がキュッとなるのを感じた。


[今は馬番をさせられて不貞腐れてるわ]


 サナエは、御者台でムスッとしているマルスを想像してクスリと笑った。

 メルリとの会話でこんなにも心が軽くなるのをサナエは感じていた。


[みんな待っているわ。だから、もう少し我慢しててね]


[うん]


 実際の時間はそこまで経っていないのに、こんなにも自分が早くみんなに会いたいと思っている事に気付きサナエは、目の端に浮かんだ涙を指先で拭った。


 その時だった。


 轟音と共に、サナエのいる場所が揺れた。大きな揺れでは無かったが、その場に居る子どもたちの不安を増大させるには十分だった。衝撃で天井に亀裂が走ったのか、パラパラと破片が落ちて来て檻の上に当たる音がした。

 サナエの魔法の光も意識がそれて消えた。

 その暗闇に眩い光が差し込んできた。

 そこにいる誰もが、その光の強さに視力を奪われて、何も見えなかった。その痛みと驚きにそれぞれが恐怖の悲鳴を上げた。

 サナエは、絡んだ視界の中に人影のようなものを見た。

 眩い光の中に立つ何者かが居た。

 状況から見て、その何者かがこの監禁部屋の壁を何らかの方法で破壊してそこに居る。メルリから何の説明も無い事を考えると想定外の事が起こっている。


「器は、何処だ」


 その影から聞こえた低く感情の薄い声は独白か問い掛けか判断は付かなかった。




 サナエと話していたメルリは、突然鳴り響いた轟音と衝撃に驚き身構えた。

 轟音は、邸宅の方から聞こえ、崖側から土煙が上がっているのが見えた。

 何が起きたのか全く分からないが、メルリの背中を恐怖と共に冷たい汗が流れた。

 その轟音のした場所にかなりの魔素を帯びた何かが存在しているのを感じ取っていた。


[サナエ!]


 ハッとしてメルリは、サナエに呼びかけたが、応答は無かった。サナエもまた、その魔素の持ち主に恐怖を感じているのだろう。


[サナエ!!]


[何な、の…]


 微かにサナエの意識がメルリに届いた。

 メルリは、恐怖しながらも、走り出した。


 何が起きているか分からないけど、嫌な予感しかしないわ!


 メルリは、イクノとトクナがメルリを呼び止めようとする声が背中に聞こえたが、止まる訳にはいかなかった。


「わたしも行きます!」


 メルリよりも先に動き出していたミランナがメルリについて走って来た。馬車で待機していたが、起こった異変に気付いたのだ。


 この子も感じている。その上で妹の身を案じているのね。


 メルリにミランナの気持ちが分かった。一度手放してしまった手を必ずもう一度強く掴む事を望んでいる。その為ならば危険も厭わ無いと。

 だから、否定も肯定もせず、メルリはミランナを一度見てそれから前に視線を戻して走った。

 

 邸宅の中は、静かだった。

 捜索の為に借りた五人の水軍の兵士は、異変に気付きながらも突入の指示がない為、待機したままであるし、ソンナットの使用人たちは、何が起きたのか分からずにそれぞれの持ち場で怯えているようだ。それに、一度あった衝撃の後、今は何もない。


[サナエ!]


 メルリが指輪を通して呼びかけた。


[メルリ、分からない…何?]


 向こう側でサナエは、怯えていた。

 

[何が起きてるの]


[誰かが、居る…だれ?分からない?]


 サナエの混乱した思考が流れ込み、メルリは焦った。


 今いく!


 そう伝えたくても、通ずる道が何処なのかまるで分からないのだ。


[「きゃあ!」]


 サナエの悲鳴が聞こえた。

 近付いて居るのだろう。メルリがサナエを強く感じているからなのか、サナエの発した声が指輪を通してメルリに聞こえた。


[「だ、駄目!」]


[サナエ!どうしたの?!]


[「やめて!離して!」]


[サナエ!?]


[「知らないわ!ポランナちゃんを離して!」]


[サナエ!]


[「きゃあ!いっっ!?」]


[サナエ!?]


[「ポランナ、ちゃ…ん…」]


[サナエー!]


 メルリにはサナエの身に一体何が起こって居るのか分からなかった。が、危機的状況なのは明らかだった。

 その場所に行く手立てが見つからない事にメルリは、苛立ち焦りが増した。

 サナエの声も途切れてしまい、ミランナの妹のポランナの身にも何かが起きて居るようだ。

 顔色が悪くなっていくメルリにミランナもまた不安を強くした。

 悪くなる一方の状況にメルリは、切れた。


「ああああぁぁぁぁ!もおぉぉぉ!!」


 ありったけの魔素を込めてメルリが声を上げた。

 魔素が建物を構成する木材や石材に干渉して、反応光を放ちながら渦巻いた。大きな穴が床に空いて、取り除かれた素材がより集まり再構築して下へ続く階段になった。

 メルリは、詠唱も陣も端折って無理矢理に物質変化を起こした為に強い疲労に襲われて肩で息をしながらミランナの手を引き、その階段を降りて行った。


「待ってるのよ!サナエ!ポランナ!」


 疲労に眉を歪めながらもメルリは腹に力を込めて言った。

 

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