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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「港と言えば灯台かしら」


 シェッツェヌの港は、多くの商船、旅客船が停泊していた。その中には武装艦と思われる物も見られた。

 

「この町は、昔から交易の拠点になってるので、国の名前が変わる度にごちゃごちゃするのはめんどくせぇって言って、自警団を設立して港の治安は自分たちで守ろうとしているんです。自治とまではいきませんが、ナッサヘルクになってからは、かなり町のみんなの意見でやらせてもらっているんですよ。水軍の基地も端っこの方にありますが、お互いうまくやってますよ」


 水夫のボナヘは、この町出身らしく誇らしそうにサナエたちに話してくれた。一行の素性は、聞いていないらしく軍関係の知り合いの物見遊山位にしか思っていない様だった。


「じゃあ、ナッサヘルク軍は、あまりこの町では好かれてないの?」


「そんな事は無いと思いますがね。まぁ、船乗りの連中は自分たちで町を回してると自覚してっから、少し面倒くさがってはいるかも知れませんね。昔っから、荒波だけじゃなくって、戦争に巻き込まれたり、商船が海賊に襲われたり、荒事を代々乗り越えて来てますからね、荒っぽい連中ばかりですよ」


 サナエは、メルリと話すボナヘをよく喋るおじさんだなと苦く笑った。

 

「海賊が出るの?!」


 メルリは、目を輝かせた。メルリの頭の中に、サーベルを手に船で海を渡る荒くれ者たちの姿が浮かんでいた。


「出るって言っても、沖の方ですよ。この近くでそんな事したら、自警団に即沈められますからね」


 メルリは、自警団がそれ程信頼されているのだと知り、改めて武装艦を振り返った。ここからでは遠目で詳しくは、メルリには見えなかったが、歴戦の傷が付き補強され、この町の船乗りの様に逞しく勇ましいのだろうと想像できた。それだけ、海に関しては自信があるのだろう。

 しかしそれは、ナッサヘルクの水軍にも言えた。長い何月大陸の中央部の国土を維持できているのは、リゾン湖とフィナリア川から川を自由に駆け大洋をも突き進む水軍のお陰でもある。高速で高域の戦術を可能にするナッサヘルクの誇りなのだ。

 

「勿論、水軍の睨みのおかげもあると思いますがね」


 ボナヘは、メルリたち一行が水軍の関係者だと思い出したのか、慌てた様にそう付け加えた。


「私たちは、領主のところに挨拶に行ってきますわ」


 船旅で体調を崩していたエルラーナが、青い顔でロンダに支えられながらそう言うと、ようやく船から下ろされた馬車に乗り込んだ。


「メルリは、この町を見て回りたいのでしょう。後で宿で合流しましょう」


「ありがとう。エル姉様」


 エルラーナは、馬に乗ったラナックとジーナと共に領主の屋敷へと向かった。

 マッコスとトクナは、先に荷物車と馬を宿に預けに行くことにして、リリーナとレリアは、それに同行する事になった。

 メルリとサナエは、イクノとマルスを護衛に町の散策に向かった。

 四人の格好は、この町のどこにでも居そうな少年少女とその姉と言う出立ちであり、イクノもマルスも護衛とは言え、短剣を帯刀していない。その代わり、二人とも大振りなナイフをズボンの背中に引っ掛けている。この町ではよくいる姿ではある。


「何処に行くんだ?」


 頭の後ろで手を組み、砕けた言い方をしたマルスにイクノは、キッと視線を向けた。


「そうね、港と言えば灯台かしら」


 メルリは、何となしに口にしながら言い終わると同時に自分の提案は良い提案だと思い付き、満足そうに笑った。


「マルス」


 イクノは、マルスを小突いて諌める顔をした。


「イクノ、今は私たちは観光に来た一般人よ。いい?分かった?だから、敬語とかは不自然だわ」


「ですが…」


 サナエは、隣でこんなやり取りは何回目だろうとクスリと笑った。


「いい!イクノお姉ちゃん!」


 メルリにお姉ちゃんと呼ばれてイクノは、恥ずかしさと戸惑いと嬉しさでいくつかの表情を浮かべたが、メルリに近付かれて笑いかけられて「はい…」と肩を落とした。


「じゃあ!灯台目指して、行こー」


 と、メルリは拳を上げた。

 

 

 シェッツェヌのユーリ灯台を目指して、メルリたちは港街を歩いて行った。

 周辺に水揚げ場や魚の卸市場や加工場がある所為もあり、船を降りた時から辺りを漂う潮と魚の匂いが、メルリとサナエの鼻を突いていた。

 二人ともここまで海や魚に近付いた事が無く、しばらくは戸惑っていた。

 が、港街を包む活気と喧騒に特にメルリの心は弾んだ。サナエの手を引き、目に止まる物全てに目を輝かせた。

 イクノは、周囲に気を張りながらも、店に並べられた商品を見て楽しんだ。

 交易が盛んな町だけに、宝飾品や香辛料、茶葉や野菜、武器防具までもが並んでいる。ナッサヘルクの王都でも見ない異国の物も多く見られた。

 メルリは、興味が惹かれる物があると、しばらくそれをじっと眺めては、それがどんな物なのか考察した。店員がいる場合は、質問をして疑問を晴らそうとした。その興味は、多岐に渡り、目に映る物を全て吸収しようという勢いであった。

 サナエもまた、メルリと同じ様に興味を示す物は多かった。しかし、メルリの様に質問はできずに、メルリの後ろでぶつぶつと考察するメルリの漏れた思考を拾ったり、メルリが店員にした質問の答えをフンフンと聞いていた。

 そんな事をしている為、中々灯台に辿り着く気配は無かった。

 しばらく続いた商店街を抜けると、大きく開けた場所に出た。開けた、と言っても、露天がひしめき合い大きなマーケットになっていて、人が溢れていた。

 先程の通りよりも安価な商品を扱っている店が多い様だった。所々で、食事も扱っているらしく、色々な香りが四人を誘った。


「メ、メルリ、ルーク、あまり離れないでください」


 イクノが呼び慣れず言葉を詰まらせながらメルリに声を掛けた。

 露天の間も狭く、人も行き交いしている為、一度逸れたら再会は難しいのはサナエも感じて、勇ましく踏み出したメルリの腕を取って引き留めた。

 メルリは、そんな事お構いなしと言った顔で、サナエに繋ぎ止められながらキョロキョロと辺りを見ている。

 イクノは、優しくため息をついた。色々メルリの噂を聞いていたが、我儘で何を考えているか分からないと言う周りの評価は、凝り固まった貴族たちの偏った視点による物なのだなとイクノは知った。

 メルリの好奇心と冒険心は、保守的で打算的な者には奇異で異端なのだ。王女と言う装飾品にばかり目が行き、飾り棚にしまって眺めたい貴族にとっては、メルリの思考や嗜好は考えられないのだろう。

 ラナックが、メルリを心配し大事に思ってい事に得心が行った。

 ラナックもまた、家柄や立場が無ければ自由に駆け回りたい性分なのだ。彼の妻のレーネは、かつて冒険者をしていた。彼が惹かれたのも自身の意思で自由に生きようとしていたからだ。一緒に自由に野山を駆け巡る事を夢見た筈だ。今は、困り顔でのらりと生きている様に見えるが、副団長としての地位が彼の実力を示している。余談ではあるが、息子を使用人に任せられる様になり、非番の日にあの夫婦は、身分を隠して魔獣の巣窟(ダンジョン)魔獣(モンスター)の討伐の依頼(クエスト)をこなしているらしい。

 ラナックもまた、窮屈に生きてきたのだ。

 そんな上司を見ているイクノは、メルリには周囲が彼女に嵌めたがる枠が狭すぎたのだろうと少しだけ可哀想に思えた。しかし、メルリが恵まれた背景に産まれた事も事実だとイクノは知っている。今日を生きるのさえ暗闇で糸を手繰り寄せる様な思いをしている者も少なくは無いのだ。だからこそ、生まれによって果たさなければならない事もある。それを決して履き違えてはならないのだと、イクノ自身も身を引き締めなければと思っている。


 マーケットの露天で、この町の名物でもあるホマナッニと言う魚を串に刺して素揚げした物に香草塩をかけた料理を昼食に食べ、ようやく灯台に向かった。


 岬の先にある灯台は、町から少し小高くなった所にあった。

 その昔、灯台は別の場所にあったのだがある時、嵐で起きた高波に呑まれて崩壊してしまった。夜になり、嵐は収まったのだが、前日から沖に出ていた夫が帰らぬのを心配した妻たちが、この小高い岬に集まって一晩中火を焚いたのだ。その中心にいた奥さんの名前がユーリだったと言う事でユーリ灯台と呼ばれている。

 坂に簡素な石段と石畳で作られた道を進んで行く。

 ジワジワと登る坂道は、メルリとサナエには少しキツく感じた。まだ初夏ですら無いが、ジワリと汗をかいていた。

 それでも、風は吹き二人の髪を揺らした。

 メルリは、灯台を見ながら進んでいたが、違和感を感じた。

 数人の男が灯台近くを緊迫した雰囲気でうろついていた。

 何かを探しているのだろうか?とメルリは感じた。

 男たちの死角を付き、灯台の入り口に向かう影が見えた。明らかに男たちを警戒している様子である。それは少女だった。風にスカートがなびいているのが見えた。

 男の一人がそのスカートの端を見つけて声を上げた。

 少女は、ハッとして動きを早めて灯台の入り口に入って行った。

 男たちも声を掛け合い、その後を追った。

 その頃に、メルリ以外も気が付いた。メルリがその光景をじっと見ている事にも気が付いた。

 三人があっと思った時には、メルリは走り出していた。


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