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「サナエ!今よ!」


 マルスを先頭に魔獣の巣窟(ダンジョン)の入り口の階段を降って行った。

 冷んやりとした空気が、三人を包んでいった。

 魔獣の巣窟(ダンジョン)の壁は、平な石で作られていて、その表面が水滴で濡れていた。サナエは、壁に手をついてそれを知ると、思わず手を引いた。

 メルリの作り出した小さな光球に照らし出された階段は、壁から染み出した水分で濡れて光を照り返している。


「滑らないように気を付けろよ」


 前方を警戒しながらマルスが二人に声を掛けた。

 

「凄いわ。どれくらい前に造られたものかしら。壁は、魔法で整形されているわ。こんなに滑らかに造られている。かなりの技術だわ」


 メルリは、壁を触りながら感心した声を出した。その声は、トーンが高く興奮気味だった。

 サナエは、メルリの様子に困ったような笑顔を浮かた。 

 サナエは、この先の事を心配していた。全く何が起こるか分からない。この奥に前回出会った様な魔獣(モンスター)が居る可能性もあるし、この魔獣の巣窟(ダンジョン)が、崩れて埋まってしまう可能性もある。

 考えながら歩いていると、前を歩いていたマルスの背中に鼻をぶつけてしまった。


「あ、ごめんなさい」


 サナエは、咄嗟に謝ったがマルスは、階段終わりの先を警戒して窺っていた。

 ぶつけた鼻先をさすりながら、マルスと同じ様にした。


「何も居ないわよ」


 背後からメルリが言い、二人の背中を押した。


「何すんだよ!」


 サナエと一緒に押し出されたマルスがメルリに文句を言った。サナエも突然押されて、小さく声を上げてしまった。


「二人ともビビり過ぎよ。大丈夫。わたしが音と魔素の流れを見てるから」


「俺には見えない」


「あら、そうだった」


「嫌味かよ」


 小さく吐き捨てるマルスにメルリは鼻で笑った。森に入ってから、マルスが仕切っているのが未だ不満なのだろう。

 しかし、サナエは、メルリが無茶して危険な目に遭うよりは、マルスが先行してくれる方が良いと考えていた。メルリやサナエでは、咄嗟の状況への対処ができるとは思えなかった。それは、前回の事が証明している。

 階段を降りると、十ヘンテ(十メートル)四方程の部屋に出た。光に照らされた壁には、火を焚べる為の受け皿があるだけでそれ以上の装飾も無い。

 メルリは、考えていた。

 

 ここは、何の為に造られた魔獣の巣窟(ダンジョン)なのかしら。何かを守っていると言うには、造りが単純な気がするし…


 メルリの知識では、魔獣の巣窟(ダンジョン)とは、何かを守り隠す為に魔鉱(グドゥール)(フログジェ)を整備して使っている場合と、魔獣(モンスター)の現出する魔鉱(グドゥール)(フログジェ)を魔鉱石の採掘場として掘り進めたり、魔獣(モンスター)を倒す事でその体内に結晶化した魔鉱石を得る場所とする場合がある。後者の場合は、坑内が崩れない様にする為以上の事はしない。

 この魔獣の巣窟(ダンジョン)は、高い技術で整備されているが、造りは複雑では無い。前者の目的の為だとしたら不用心な印象を受ける。

 とは言え、メルリたちがいるのはまだ入り口で、奥は違うのかも知れ無い。メルリもそう考えていた。

 この部屋の右手に小部屋があり、正面奥に下へ降る階段があるのが見て取れる。動くものの気配は無い。


「右側は行き止まりみたい」


 メルリの言葉にマルスとサナエが右側の部屋を覗いた。

 そこは、今ある部屋の半分も無い程の広さに見えた。部屋の奥側の壁が崩れて土が部屋の半分まで来ている。それに木の根が部屋の中まで伸びてきていた。

 

「このまま進みましょう。奥に階段があるわ。マルスが先に行って」


 マルスが階段に足を踏み入れると、足元に滑りを感じて体を支えた。階段の所々に泥が積もっていて、それに足を取られそうになった。


「この泥、滑るぞ。たぶん(ドロス)蜥蜴(ベネラ)の泥だ」


「何?それ?」


「大きな蜥蜴で、こういったジメジメした所を好む魔獣(モンスター)だ」


 サナエは、想像して嫌そうな顔をした。虫も苦手だが、爬虫類も苦手だった。それが大きいとなると、悪夢に思えた。


「大丈夫よ、そんなに攻撃的な魔獣(モンスター)では無いわ」


「でも、舐めてると厄介だからな。あいつの吐く泥には気を付けないと、動けなくなったら危険な状態になる」


「マルスってば、やっぱり臆病なのかしら」


 メルリは、ニヤニヤと笑った。


「違う!師匠が何事も冷静に対処できる様に備えろっていつも言っているんだ」


 階段を慎重に降りながらマルスがメルリに返した。マルスの言う師匠とは、ラナックの事である。マルスの父親の末弟であり、つまり叔父にあたる。

 サナエは、メルリがマルスに対して何故当たりが強いのか疑問に感じていた。


「きゃ!」


 考え事に足元の意識が疎かになり、サナエが泥に足を滑らせて階段を踏み外してしまった。一、二段落ちてしまい、またマルスに寄りかかる形になってしまった。しかし、今度はマルスがメルリに向いて言い返していた為、その肩に掴まるようにサナエが自分の体を支えたマルスの顔間近に顔が近付いた。

 マルスは、その鼻先にサナエの髪が当たり、その香りと柔らかさにドキリとして固まった。

 サナエもまた、間近にマルスの口元があり、慌てたが足元が覚束ずマルスの支えに頼るしかなかった。


「ご、ごめんなさい」


 何とかサナエは、体制を整えて立つと、今起こった状況に顔を赤くした。

 マルスは、どう反応していいのか分からず、ただ固まっていた。


「居るわ。こっちに気付いたみたい」


 照れ合う二人にメルリが声を掛けた。

 

「光を強くするから、目を閉じて」


 メルリがそう言ってからすぐに、光球が階段下に飛びその光量を一気に強くした。

 サナエは、少し目を閉じるのが遅れてしまい、光に目が眩み何も見えなくなった。

 サナエの手にあったマルスの肩が動くのが分かった。サナエの手を離れ、階段下の部屋に飛び込んだらしいのがサナエに分かった。


「おらっ!」


 マルスの声が聞こえた。

 視界が戻り始めたサナエの目に、マルスが体長ニヘンテ程の蜥蜴の首を短剣で切り落とした姿見だった。


「もう一つ!」


 そう言ってマルスの剣が、部屋の入り口の右側を走った。その直後に血が飛ぶのが見えた。階段を降りてくる三人を待ち構えていた蜥蜴が居たようだ。そのまま進んでいたら、攻撃されていたかも知れない。

 サナエは、部屋に横たわる蜥蜴の化け物の死体に顔を歪めながらも、襲われなくて良かったとほっとした。


「マルス!まだ!」


 メルリが声を上げた。

 マルスは、それに反応して体を捻って構えた。しかし、その目にはさっき仕留めた蜥蜴しか見えなかった。


「上!」


 メルリが言った時には、遅かった。

 蜥蜴の口元から放たれた物が、マルスの肩から頭にかけて襲いかかって来た。

 マルスは、蜥蜴の放った粘液混じりの泥をまともに食らい、その衝撃で体のバランスを崩して倒れ込んでしまった。その地面にも泥が堆積しており、マルスは体の自由を失った。慌てて顔の泥を退けるが、視界はほとんど失ったままだった。


「マルス避けて!」


 天井に張り付いていた蜥蜴が、マルスの上に降りようとしているのを見て、サナエが叫んだ。

 しかし、間に合わなかった。

 マルスの体の上に蜥蜴がのしかかる様に落ちて来た。そしてそのぬめる前脚で、マルスの頭を踏みつけている。

 

風よ(ルレース)彼を(ネス)吹き飛ばせ(ルルーフラ)


 メルリの声が響き、風が巻き起こった。

 マルスにのしかかっていた蜥蜴が風に押されて、浮き上がり勢いよく壁に叩きつけられた。


四つの(シーナ)石の(ドロス)刃よ(シャットゥ)突き刺され(トゥレッサ)!」


 立て続けにメルリが魔法を発動させた。

 今度は、鋭い石が生成され、蜥蜴に襲い掛かり突き刺さった。蜥蜴は、血を吹きながら体をよろめかせた。


「サナエ!今よ!」


 サナエは、メルリに言われて、一瞬戸惑った。


 今って言われても。


 サナエは、どうしたら良いのか分からなかったが、取り敢えず短剣を抜いた。

 蜥蜴がサナエの方を向いて居た。その口が開くのが見えた。


「いや!」


 マルスが食らった泥が来ると思い、サナエは避ける為に左側に逃げた。

 サナエがいた所の壁に蜥蜴の泥が弾けた。

 蜥蜴を見ると、泥を出した所為か前に倒れている。それでもサナエを捉えてそちらに動こうとしていた。

 その口が開こうとしていた。

 サナエは、剣を構えたまま避けようと動いた。しかし、足元の泥に足が滑り体制が崩れた。


「あわわわわ」


 サナエは、体制を立て直そうとするが、滑って意思とは違いぐるぐると回ってしまった。そして、盛大に倒れた。


「サナエ!やったわ」


 倒れたサナエにメルリの声が聞こえた。

 サナエは、何とか顔だけ上げると持っていた剣が倒れた拍子に近付いて来ていた蜥蜴の首元を切り裂いていたのだ。

 首を落とすほどの深さでは無かったが、致命傷を与えた様だった。

 サナエは、偶然ではあったが命を奪ったその感触を剣を握ったその手に感じた。

 恐怖が溢れて蒼白になって震えて泣いた。


 

 

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