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「君を心から愛しているよ。レイビアレサ」


 遥か昔のお話。


 豊穣の神ネラストの息子ガイナジークと山の神ゴドマの孫娘レーレナーレは、恋に落ちました。


 互いの家族に反対された二人は、駆け落ちして人と成り、大陸中央の大きな湖のほとりで暮らし始めました。


 仲睦まじく、愛し合う二人の間には、程なくして二人の赤い髪の男の子の兄弟が産まれました。


 兄の名は、ヴィドべナール。


 弟の名は、ロナグルード。


 二人はすくすくと育ち、その辺りでは右に立つ者がいない程、優れた漁師になりました。


「俺はいつか、この湖よりも大きな場所で偉大な漁師になる」


 ヴィドべナールは、船の舳先に立ちロナグルードにいつも話しました。


「兄さんにかかればこの大きな湖も、まるで小さな水溜りだからね」


 二人は、湖を隅から隅まで知っているつもりでした。それ程漁が上手で、船も自在に操れたのです。


「この世界には、海というものがあるのよ」


 ある時、湖の小さな島で暮らす青い瞳の美しい少女が自身に満ちた二人を笑いました。その美しい金色の髪は、朝日に光る湖の穏やかな波の様に長くきらめいていました。


「だったら俺はそこに行って、誰よりも凄い漁師になる」


 ヴィドべナールは、少女の挑発に息巻いて船の上から言いました。


 一方、ロナグルードは、少女の髪にうっとりとしていました。


「そんなの無理だわ。海にはとても恐ろしい魔物が居て、船も人も一飲みにしてしまうと、お婆様はおっしゃってらしたもの」


「俺のモリ捌きで、魔物なんて一撃で仕留めて見せるさ」


「あら、できるかしら」


 二人は、互いに顔を背けてしまいました。


 それからと言うもの、二人が漁に出る時、帰ってくる時にその小島の近くを通る様になりました。


 少女も二人の船が来ると、顔を出しては、見送り、迎えました。


 兄のヴィドべナールと度々口喧嘩しては、その次の時にはお互いに忘れた様に挨拶を交わしていました。


 弟のロナグルードは、いつしかその少女に恋をしていました。


 少女の名は、レイビアレサ。人間の漁師と波の女神レミーアの一人娘でした。

 

 波の女神レミーアは、水の女神エイナーリアと山の神ゴドマの息子ヴァンヘルクの二番目の娘です。


「私、ヴィドの事が好きなの」


 ある日、レイビアレサは、ロナグルードにそう告げました。


 兄のヴィドべナールが居ない二人きりの時でした。


 その日は、ロナグルードがレイビアレサを誘って船に乗せて、美しい夕焼けを見に行っていました。

 

 ロナグルードは、大きなショックを受けましたが、夕陽に輝く波の中にいる恋するレイビアレサがとても美しくて、言葉が出て来ませんでした。


 ロナグルードは、気が付いたのです。


 自分が好きなレイビアレサは、ヴィドべナールに恋をしているレイビアレサだと言う事に。


 だから、心から彼女の気持ちを祝福しました。


「ロナは、好きな人はいないの?」


 恋で盲目なレイビアレサの言葉は、柔らかく深くロナグルードの心を傷つけました。


「居ないよ。僕は、君とヴィドが幸せだったら、それで幸福なんだよ」


 きらめく湖の上で、ロナグルードは、レイビアレサに笑顔で言いました。


「嬉しいわ。でも、ロナの幸せも私は願うわ」


「そう言って貰えるだけで、ぼくは幸福さ」


 ロナグルードは、笑顔で言いながらも心は張り裂けそうでした。でも、口にしたその言葉にも真実はありました。


 ロナグルードの中の二つの気持ちはどちらも本心で大切でした。だから、彼は辛かったのです。


「でも、ヴィドべナールは、いつか海に行ってしまうかも知れない。それはとても大変な事で危険もあるわ。それに彼の夢だもの…」


 レイビアレサの悲しみの表情に、ロナグルードは彼女の気持ちがよく分かりました。


 彼女もまた、二つの気持ちを抱えていたのです。


 そんな二人の気持ちも知らず、ヴィドべナールは、毎日漁をしてその腕を磨いていました。


「ロナグルード!お前の操船のおかげで、俺は思い通りの漁ができている。お前にはとても感謝しているんだ」


 ヴィドべナールの言葉にロナグルードは、涙を浮かべて喜びました。


「俺は、お前も一緒に海に出られたら良いと思っている」


「嬉しいよ兄さん。…でも、僕は…」


「知っているよ。ロナがこの湖に残りたい気持ちは。だから、俺はしばらく一人で漁をしようと思う」


 その言葉は、ロナグルードには衝撃でした。ずっと一緒に船に乗っていた兄弟でしたから。


「なんでだよ。兄さん」


「俺は、俺の力で海に漕ぎ出さなければならないんだ。俺の夢の為にロナを巻き込まない」


 決意の硬い目をしたヴィドべナールは、ロナグルードを見つめました。


「兄さん。構わないよ。僕も行く」


 すがるように言ったロナグルードをヴィドべナールは、湖に投げ飛ばしました。


 ドボンとロナグルードは、湖に落ちて、びっくりした顔で水面から顔を出しました。


「バカにするな!俺は、この湖の王者だぞ!海なんて俺一人で渡って見せる!」


「でもっ」


 ロナグルードは、泣きそうな顔で兄を見ました。


「ロナグルード!お前だって一人でやれる!お前は立派な船乗りだ!」


「ヴィドべナール…」


「それに知っているぞ。お前が、レイビアレサの事を愛している事を」


 そう言って手を差し伸ばすヴィドべナールの手をロナグルードは、取りませんでした。


「だったら、僕も知っている!兄さんもレイビアレサを愛している。それに彼女だって」


 ヴィドべナールは、困った顔で差し出した自分の手を見てから、湖の中に飛び込みました。そして、ロナグルードを水の中で抱きしめました。


「お前の言う通りだ。だが、俺には決意がある。それはレイビアレサも知っている事だ。だから、俺よりも彼女を愛しているお前が幸せにしてやって欲しい。いや、違うな。お前と幸せになって欲しいんだ。俺が帰れる場所を二人で作っておいて欲しい」




 ロナグルードは、一晩中寝ないで悩みました。一人で星空の下湖に漕ぎ出して。


 空の星が湖の静かな水面に映し出され、まるで星空をゆく船の中で、一晩中悩みました。


 そして、東の山々の間から、朝日が昇り始めました。


 湖面がキラキラと輝いてロナグルードは眩い光の中にいました。


 それでも、まだ悩んでいました。


「あら、今日は一人なの?」


 ロナグルードは、ハッと目を上げ、いつの間にかレイビアレサの島に近付いていた事に気が付きました。


 その目の前に居たのは、朝日に照らされて美しく輝く髪を爽やかな風に遊ばせる愛しい少女でした。


 ロナグルードは、出会った時のときめきを思い出して、胸が高鳴るのを感じました。


「僕は、きっと君を待っていたんだ。君を僕の船に乗せて、光の中を漕いでみたい」


 ロナグルードは、島に船を近付けて手を伸ばしました。


「僕は君を愛している。誰よりも君を愛しているんだ。この手を取ってくれないかい」


「嬉しいわ。でも、貴方も知っているわ。私はヴィドべナールを愛しているの」


「知っているよ。僕も、二人の幸せを願った。でも、気が付いたんだ。僕にも君に手を取って貰う為に手を差し出す事はできると」


「貴方を傷付けてしまうわ」


 レイビアレサは、ロナグルードの真っ直ぐな愛に揺れていました。


「僕は傷付かないよ。僕もヴィドべナールを愛しているから。それに僕が愛したのは、ヴィドべナールに恋したレイビアレサだから」


 レイビアレサは、胸の前で両手の指を絡めていました。その表情は、切なくそれでも優しくロナグルードを見ていました。


 レイビアレサは、その指先に自分の鼓動の振動を感じていました。


 真っ直ぐに彼女を見つめ、少し不安げでそれでも気持ちに確信を持った優しい目の青年にときめいている自分に気付いていました。


 それでも、ヴィドべナールを愛する気持ちは、彼女の中にあって、彼の手を取る事はその気持ちを裏切る様でできなかったのです。

 

 その気持ちの躊躇いが、彼女の手に宿っていました。ロナグルードの手を取りたい気持ちと、取れない気持ちが彼女胸とロナグルードの手との間で揺れました。


「レイビアレサ、君は躊躇っている。でも、それはつまり」


 ロナグルードは、船から一歩踏み出して、島に足をつきました。そして、強引に彼女の手を取って引き寄せました。


 突然の強引さにレイビアレサは、驚いてよろけました。咄嗟にロナグルードは、彼女を抱き止めましたが、彼の足下もかなりの不安定さでしたので、そのまま倒れてしまいました。


 幸運にも、二人は水に落ちる事なく、船の中に倒れてしまいました。


「きゃあ!」


 何とかレイビアレサの体を受け止めたロナグルードでしたが、船の縁に頭を打ちつけてしまいました。


「いたたたた」


 レイビアレサを抱き止めた腕では頭を押さえることもできませんでした。


「大丈夫?」


 レイビアレサは、ロナグルードの腕の中から手を伸ばして、ロナグルードの頭をさすりました。


「いたっ」


 思わず声を上げるロナグルードにレイビアレサは笑いました。


「こぶができているわ。バカね。あんなに強引するんだもの」


 ロナグルードも笑いました。


「でも、今こうして君は僕の腕の中にいるよ。大戦果さ」


「本当にバカね」


 光の中で二人は、口付けを交わしました。


 二人が倒れ込んだ衝撃で船は島を離れて湖を進んでいました。

 その日の夜、ロナグルードとレイビアレサが結婚する事をヴィドべナールに報告すると大変喜んで二人を抱きしめて祝福しました。


 それからしばらくしての事でした。

 

 結婚式を控えた二人の為、ヴィドべナールはお祝いにとロナグルードには内緒で、大きな獲物を獲ろうと張り切って湖に出かけました。


 その日は、しばらく続いた雨の為、増水し湖はいつもより荒れていました。


 こんな時は、他の場所から流れてきた珍しい獲物も獲れる事があるので、ヴィドべナールはより気合が入っていました。しかし、危険なのも承知していました。


 それでも、船を出したのは、二人に喜んで貰いたいと思ったからでした。


 ヴィドべナールが、漁に出てかなりの時間が経ち、船の中にも大きな獲物が山ほど獲れていました。


 大分夢中になっていたので、日が落ち始めた事にも気が付いていませんでした。


 ようやくかなりの時間が経った事に気が付いて、帰ろうとすると、急に妙な波が彼の船の周りに起きたのです。


「これは一体」


 ヴィドべナールが目を凝らして、水の中を見てみると、大きな影が彼の船の周りを泳いでいるのが見えました。


「これは、もしかして、ドゥロガバドラグ」


 レイビアレサの父親から聞いていた海に居る闇の海獣の名前を思い出して口にしました。


 しかし、ドゥロガバドラグが湖にいる事はあり得ない事でした。


「もしかして、増水の影響で南の川から登って来たのか」


 そう推測していると、ヴィドべナールのなる船を揺らす波がどんどん強くなっていきました。


 ヴィドべナールでも船の底にしがみついていないと振り落とされそうな程揺れました。


 慣れない揺れにさすがのヴィドべナールも慌てました。


 しかし、それを起こしているのがドゥロガバドラグならば、仕留めてしまえば良いんだと、ヴィドべナールは、モリを掴みました。


 そして、足に力を込めて踏ん張って体を起こすと、湖の中を泳ぐドゥロガバドラグを睨みつけました。


 ドゥロガバドラグが船を揺らそうと、体を水面に近づけた瞬間に、ヴィドべナールは、手にしたモリをドゥロガバドラグの頭目掛けて突き出しました。


 ブルァァァァァァ!!


 モリは、見事に命中しました。


 ドゥロガバドラグの右目に深く突き刺さったのです。


 ドゥロガバドラグは、痛みにのたうちました。


 その動きがあまりに激しく、水面に出た太く重いドゥロガバドラグの尾がヴィドべナールの船を直撃しました。


 船に乗っていたヴィドべナールは、避ける事もできず、重い尾に船ごと押し潰されてしまったのです。




「兄さんが、ヴィドべナールが帰って来ないんだ」


 朝になっても帰らないヴィドべナールをロナグルードは心配しました。


 島に立ち寄り、その事を告げると、ロナグルードは真っ青な顔で船を出して探しに行きました。


 ロナグルードの必死の捜索にもヴィドべナールは見つかりませんでした。


 その捜索の途中で、ヴィドべナールの船の残骸の一部を発見して、ロナグルードは悪い想像に押し潰されそうになりました。


 ヴィドべナールが見つからず、船の残骸を見つけてしまったロナグルードは、かなり落ち込みました。


 その姿に、レイビアレサもまた心を痛めました。


 レイビアレサもまた、ヴィドべナールを心配して母親や祖母を頼ってその行方を探しました。


 翌日、レイビアレサの元にある情報が届きました。


 それは、湖の南にドゥロガバドラグの死骸が打ち上がったと言う事でした。そして、その横に瀕死の男性も居ると言う事でした。


 レイビアレサは、すぐにロナグルードに伝えて、向かいました。


 湖の南の村に行くと、打ち上げられた大きな生き物の死骸がありました。頭をモリで刺されて死んでいました。


「兄さんのモリだ」


 ロナグルードには、それがすぐに分かりました。

 二人で固くてしなやかな木を探し、一緒に作業して削り出したモリです。見間違う訳がありません。


 それ故にロナグルードの心臓は、激しく強く胸を叩きました。


 無事であって欲しい。ロナグルードは、暗い想像を跳ね除けようと祈りました。


 村の一軒家のベッドに寝かされているヴィドべナールを見た二人は、あまりの動揺に涙が止まりませんでした。


「ヴィドべナール兄さん!」


 ロナグルードが縋り付いて名前を呼びましたが反応がありませんでした。


「ヴィドべナール…」


 レイビアレサは、胸が苦しくて言葉がうまく出てきませんでした。


 目の前で、涙を流しながら兄に呼びかけ続けるロナグルードの心を想うと余計に声が喉に詰まって出てきませんでした。


 だから、レイビアレサはロナグルードの背中を抱きしめて、ロナグルードと一緒にヴィドべナールの手を取って、心の中で呼びかけました。


 生きて欲しい。


 二人の心が重なり合って、ヴィドべナールの手に伝ったのでしょう。


 ううっ、と、ヴィドべナールの口から微かに息が漏れました。


「兄さんっ」


 ロナグルードは、ヴィドべナールを覗き込みました。しかし、目は開きません。その代わり、一筋涙がヴィドべナールの目蓋の間から流れました。


「ロ…ナ…」


「ここにいるよ。兄さん」


 手に力を込めて呼びかけるロナグルードの横で、レイビアレサは目眩を感じました。


 レイビアレサには、その目眩に思い出すことがありました。


 それは、彼女の祖母の言葉でした。


『レイビアレサ、貴女は私の愛しい大切な孫娘。今から言う事をよぉくお聞き。貴女の中には、私の様に命を癒す力が眠っているわ。でもそれは、貴女自身の命を燃やす事で得られる力。無闇に使えば、貴女の命を削る事になるわ。いい、決して人に知られてはなりませんよ。貴女を愛する私のお願い』


 それは、大好きな祖母との絆の証。


 その力が、ヴィドべナールの意識を手繰り寄せたのだとレイビアレサは気が付いたのです。


「ロナグルード。お願いがあります」


 レイビアレサは、真っ直ぐにロナグルードを見つめました。


「少しの間、私とヴィドべナールを二人だけにしてもらいたいの。私のたった一つの我儘だと思って聞き入れて欲しいの」


 レイビアレサは、ロナグルードの手をしっかりと握って言いました。


 ロナグルードは、察しました。ヴィドべナールは、助からないのだと。そして、レイビアレサは、愛するヴィドべナールとの最後の別れを二人きりでしたいのだと。


「分かったよ。僕は、しばらく外にいる。何かあったらすぐに来られる様にすぐ側にいるよ」


 レイビアレサは、少し哀しげに微笑むと、愛するロナグルードの温もりを自分に写しとるように抱きしめて、口付けをしました。


 そして、しばらくの間、ロナグルードを見つめて、涙を拭いて髪を綺麗に整えてから、もう一度口付けをしました。


「ありがとう。心から愛しているわロナグルード」


「僕も君を心から愛しているよ。レイビアレサ」


 ロナグルードは、その美しい髪をそっと撫でてから、外に出ました。

 

 レイビアレサは、扉が閉まる瞬間まで笑顔でそれを見送りました。


 ヴィドべナールと部屋に二人きりになったレイビアレサは、彼を抱きしめて頬に口付けをしました。


「生きて。ロナグルードをお願いね。私は、二人を心から愛しているわ。こんな素敵な気持ちをありがとう」


 そう言うと、レイビアレサの美しい金髪が風も無いのに宙に浮き上がりました。すると、レイビアレサの体が淡く青く光を放ったのです。


「貴方たち二人に出逢えて本当に幸せだったわ…」


 レイビアレサの瞳から溢れた愛の涙が、ヴィドべナールの頬を濡らしました。


 そして、光は強く広がっていきました。



 外にいたロナグルードは、レイビアレサとヴィドべナールのいる家が淡く光った様に思えました。


 それは暖かく優しい光でした。


 何故だがロナグルードは、涙が止まらず立っていられませんでした。


 それでも、胸騒ぎを感じたロナグルードは、立ち上がり部屋に戻りました。


「レイビアレサ、何かあったのかい」


 部屋の中に呼びかけても応えはありませんでした。


 辛抱出来ずにロナグルードが部屋の中に入って行くと、そこにはレイビアレサはいませんでした。ベッドにいるヴィドべナールだけでした。


「ロ…ナ…?」


 ロナグルードが立ち尽くしていると、ベッドからヴィドべナールの声がしました。


「兄さん!」


 ヴィドべナールは、朦朧としながらも体を起こして、泣いているロナグルードを見ました。


「体は大丈夫かい」


 ロナグルードの質問にヴィドべナールは、自分の体を見回しました。


「ああ。今、ここにレイビアレサも居たかい?」


「居たよ」


「そうか…レイビアレサに抱きしめられた夢を見た気がする。彼女はどこだ」


「それが分からないんだ」


「夢の中で、種を預かったんだ」


 そう言ったヴィドべナールは、自分の手を開いて驚きました。そこには、指の先ほどの種があったからです。




 村のどこを探しても見つからないレイビアレサの事を島の両親に話すと、両親は泣きながら、兄弟を抱きしめました。


「二人を私たちの息子だと思っても良いかい」


 レイビアレサの父親の言葉に二人は驚きました。責められても当然だと覚悟していたからです。


「その種は、レイビアレサです。二人の心と体を守る為に祖母から受け継いだ癒しの力を使ったの。力を使い果たして、その姿になったのです。それ程、あの子は貴方たちを愛していたのね」


 その事実を知り、兄弟は大声で泣きました。


 そして、その種を島の草原に撒き、生涯をかけて守る事を彼女の両親に誓いました。


 母親の祈りの水で育ったレイビアレサの花は、毎年の彼女の命日に咲きました。金色の美しい花弁を広げ、輝きを放ちました。それはまるで、二人の兄弟に私の人としての死を悲しまないでと言っているかの様でした。




 生涯花を守り抜いた兄弟は、人としての命を終えた後、空に登って、二つの月となって花と島を今でも見守り続けています。


 兄弟の月は、いつもは少し時間をずらして、それぞれが見守っています。


 兄は、毎晩、救われた命を輝かせて強く大きく。


 弟は、控えめに、優しく。時には昼の空にも。


 ですが、愛する彼女の命日には、揃って夜空に現れて、美しく咲くレイビアレサの花を見つめるのです。


 レイビアレサの花も愛する兄弟の月に向けて、美しく優しく咲き誇るのです。


 


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