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「祭壇のなのでしょうか」


 緩やかな螺旋になっている石段を登っていった。

 ササナの話では、千年以上前からある場所だが階段自体は整備補修されている。今は三年に一度の儀式がある以外は、年に一度の謝水祭の前に清掃をする以外は人は立ち入らないと言う。

 階段自体は人の手で加工されたものの様だが、この空間は、魔法的な力が働いてできているようにメルリには思えた。もともと、地下水と波の影響でできた洞窟を拡張し、壁の表面に圧力をかけて固めたのだろう。手に触る壁は掘削した感触と言うよりは、塗り固めたような手触りだった。

 ロランシアの森で入った魔獣の巣窟(ダンジョン)の壁は、継ぎ目の無い平らな壁だったが、あの魔獣の巣窟(ダンジョン)を飲み込みそれでも余りある程の空間を保持するにはこれが精一杯だったのかも知れない。いずれにせよ、人の手にできる事ではない。

 人が立ち入る事の少ない所為もあるが、階段や壁には苔が所々に生えており、気をつけなければ滑りそうだった。どうやら、壁から水分が染み出しているらしい。サナエは、壁についた手がぬるりとした事に背筋がゾクっとした。

 螺旋状に壁を登っていく階段の内側は、広い空間になっていて、足を滑らせれば下の水の中に落ちる事になるだろう。一応、階段の内側に手すりがつけられているが、どれだけ支える力があるのか不安になる。それ程簡易的な物に見えた。

 暗い中を進むのに、メルリの魔法の光とマルスが用意していた松明の灯が頼りだった。

 

「冷えるわね」


 メルリは、冷えた腕をさすりながらも、その声は少し弾んでいた。


「落ちない様に気を付けろよ」


 いつの間にか先頭を行かされているマルスは、後ろに目をやった。すぐ後ろにはメルリが居て、その後ろをササナとサナエが、更に後ろをドレストとミーニアがそしてしんがりはエルシエッタがロングといる。夜目のきくエルシエッタとロングは、光から離れても支障は少ないようだ。

 ジメジメとした空気と濡れた岩肌の匂いが何となく体の動きを重くするような感覚を覚えながら、サナエは上を向いて階段の進む先を眺めた。千年以上前からこの階段を誰かが登り、そこを同じように今こうして登っている事を考え、その途方も無さに小さな目眩を感じた。自分が生きて十数年。メルリによってこの世界に呼ばれなければ、そこで尽きていただろう命。今こうして生きている実感を持って、千年以上前からある石段を壁をその手足で触れている。膨大に感じるその年月のほんの一瞬のこの時に過ぎないが、サナエに取っては奇跡なのだとメルリの背中に視線を戻した。

 

「何か来る」


 石段を半分程進んだ辺りで、エルシエッタが声を潜めて言った。ドーム状の空間では反響してしまうからだ。

 皆足を止めて息を潜めると、エルシエッタの言う通り下の方で人の足音が聞こえて来た。

 足音は複数有り、特に聞こえる足音は高音でゆっくりとしていたが、それとは別に早足で上がって来る足音は、なるべく音を出さない歩法なのだろう僅かにその音が聞こえる。

 メルリたちは、その足音に灰色のローブを着た者たちの姿が浮かんだ。それは確信的なイメージだった。


「急ぎましょ」


 メルリは、マルスの背中を押した。

 何らかの目的が有り追って来たのか、それとも先程の襲撃者の報復なのかは分からなかったが、船を見られているだろうから、こちらの存在は知っているはずだ。追いつかれれば穏便には済まないだろう。万が一、灰色の影では無かったとしても、足早に登って来る足音には不穏な空気しか感じなかった。

 ササナは、一行の緊張した空気に戸惑いながらも、サナエの手をしっかりと握り返していた。自分よりも幾つか年上の少女は、普段は遠慮がちで困ったような笑顔が頼りなく思えるが、今は強い眼差しで前を見て、時折柔らかくササナの様子を伺ってくれる。その姿にササナは、惹かれ信頼を感じていた。何が起きているのか分からない状況ではあったが、その手を信じて声を堪えた。


 メルリたちは、足を滑らせそうになりながらも必死で階段を登り切ると、簡素な石造りの建物になっておりそこから外に出られた。出るとそこには、目の前に草原が広がっていた。

 芝の様な短い草が一面に生えていて、周囲がぐるりと見渡せる場所だった。日が落ちてすっかり暗くなってはいたが、東側に兄の月が登っていて、足元が見える程照らしていた。

 皆、石段を駆け上がって来た疲労で、肩で息をして膝に手を置いて前屈みになっていた。特にドレストとミーニアは、呼吸がヒューヒュー聞こえる程、息が上がっていた。

 足下には草に隠れる様に平な石が敷かれた道があった。石畳と言うには大きく、飛び石と言うには隙間が埋められている。その石を辿った先には、幾つもの石柱が見えた。その石柱の上には大きく平な石が乗せられており、屋根の様になったいた。


 グルルルル…


 ロングは、石段のある建物の方に警戒する様に唸り声を出していた。


「近付いてる。ここで迎え撃つ?」


「その必要は無いわ」


 そう言うとメルリは、石造りの建物に向かって手をかざした。


大地の礎よ(ファルグドロス)聳り立ち、(グンスノト)閉ざせ(シルティフ)

 

 メルリが呪文を唱えると、建物の入り口の下から大きな岩が迫り上がり塞いだ。


「これで、しばらくは…大丈…夫…」


 言いながらメルリはふらりとよろけた。体力的に無理したところに負荷のかかる魔法を使った事による負担が、メルリの意識を持ったいった。とは言え、倒れる事はなく、フラついただけで済んだ。サナエはすぐに手を差し伸べて、その体を支えた。


「そご、い、ですね…」


 側で見ていたドレストは、整わない呼吸のまま腰を抜かして草の上に座って目を丸くした。


「あの下まで行こう」


 マルスは石柱の方を指さした。



「これは、祭壇なのでしょうか」


 マルスに肩を借りて何とか石柱の下に辿り着いたドレストは、目を輝かせていた。

 ヨロヨロとした歩調で柱伝いに歩き、見上げたり目を凝らしたり見て回りながら、手帳を取り出して何やら書き溜めていた。

 目を輝かせているのはメルリも同じで、メモこそは取っていなかったが、細部を見て回っていた。

 柱は、全部で二十二本あり、七つの上下を平らに加工された岩を支えていた。中央に一つ、それを囲う様に六つの岩が配置されている。中央の岩を四本の柱が支え、周りの岩を三本の柱がそれぞれ支えている。その柱には、魚などの水生生物が螺旋状に彫られていた。

 

「水の女神エイナーリア、その娘の波の女神レミーア」


 メルリは、中央の石の下に作られた石の祭壇に刻まれた古代の文字を読んだ。


「シーマロドロの村に残る言い伝えでは、レミーアは人間の漁師と恋に落ち、結ばれてここで暮らしたと言われてるの。それで、漁師と波が良い関係を保ち、豊漁である事を願って祀ったの」


 ササナは、以前に祖父から聞いた記憶を頼りに説明した。


「ここの窪みは?」


 祭壇には六つの石が組み合わされて六角形に加工されており、その中心に拳ほどの窪みがあった。


「分からないわ」


 メルリは、そこに残る僅かな魔素の名残を感じていた。それは、メルリが首から下げているネックレスに付いている青い石から感じるものに似ていた。

 メルリは、その窪みに魔鉱石が置かれていたのだろうと推測した。それも彼女の持つ、湖底の空と呼ばれる青い魔鉱石と同じでそれよりもかなり大きなものが。


「それで、ササナ、花はどの辺りに咲いているの」


 サナエは、辺りを見回しながら、この場所には花が咲いていない事に気が付いた。目的は、ここでは無くあくまでも花なのだ。


「言い伝えでは島の東側だと聞いたわ」


 今いる祭壇の周りは島の西側にある山の頂上らしく、東側のその場所は、山を下った先だと言う事だ。祭壇の周りは短い草しか生えていないが、斜面から先は木に覆われている。暗い中をこの森を進む事になるのだ。サナエは、不安を感じた。


「だったら、進むしか無いわ」


 メルリは、立ち上がり東を指さした。どうやら体力は回復したらしい。


「ま、出口は塞いじまったからな」


「あ」


 サナエは、改めてその事に気が付いた。


「フン。そんなの後で開ければいいでしょ」


 メルリは、マルスの嫌味だと取って鼻息で吹き飛ばした。

 

「その花は、とても気になります」


 祭壇に夢中だったドレストも花の事を思い出して、声のトーンが上がった。だが、疲労の溜まった彼の足はかくかくしたままだった。

 ミーニア自身も疲れていて、ドレストが心配だったが彼の研究意欲を支える為、止める事などできなかった。

 幾分の不安を感じながら一行は森へと入って行った。

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