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「そうだわ!お菓子作り!」


「じゃあ、わたしは強い!って叫んでみて」


 そう言って、メルリはにっこりと笑った。


「…わたしは、…強いぃ…」


 ローナが言われた通りに声を出そうとしたが、真っ赤な顔になり声は失速してしまった。


「サナエも!」


「え…わたしは、強い」


 サナエもまた、声を出すのを躊躇った。


 メルリとサナエとローナの三人は、王城奥の石室に居た。

 ローナも魔法の勉強会に参加する事になり、もともとサナエの勉強を石室で隠れてやる予定だった為、石室にローナを連れて行く事にした。しかし、石室に居るスフレをローナに見せるべきか悩んだ。その末に、まだ会わせられないと判断して、スフレはリリーナとサナエの部屋に移動させておいた。スフレは、暗い所が落ち着くらしく、部屋の隅の籠の中で布に包まれてすぐに眠った。石室よりもサナエの臭いがするところの方がいいようだった。

 そして、魔法の勉強会が、ローナを巻き込み始まった。

 サナエには、ローナが一緒に参加してくれる事は正直嬉しかった。身分の差を考えてはしまうが、メルリやリリーナ以外の同性の同年代との交流は楽しみだった。


 始まって早々にメルリが言ったのは、叫ぶ事だった。

 サナエとローナは、何が行われるのか分からずに顔を合わせた。

 目を合わせたサナエにローナは、照れ臭そうに肩を窄めて微笑んだ。

 綺麗な娘だなと、サナエは改めて思った。茶会に参加したレーネもシャルロも美人だと感じたが力強さが印象として残るが、ローナは儚げな印象である。少し垂れ気味の目は大きく瞳は澄んだ茶色で優しい。腰までの長さの髪は、艶やかで光を孕んだ栗色である。この石室の暗さの中では、それらははっきりとは見えないが、ローナを形作っているものはどれも繊細に見えた。肩も腰も細く華奢で、勇壮な雰囲気の姉のシャルロとは違って見える。しかし、目元の優しさや意志の強そうな薄い唇はとても似ていて、やはり姉妹なのだとサナエは思った。

 剣術の稽古も始まって、シャルロと顔を合わせる機会があるサナエは、その性格の違いを身に染みて感じていた。ローナより三つ年上の十九才のシャルロは本当に真面目で自分にも他人にも厳しい。先日の初めての剣の稽古の際にサナエは立ち上がれない程しごかれた。稽古用の模擬刀を振った腕は、スプーンもまともに持てない程疲労した。

 しかし、稽古の以外のシャルロは、とても可愛い女性だとサナエは感じた。

 サナエが、シャルロの肩の辺りで切り揃えられた髪を美しいと褒めた際、褒めた方が照れてしまうほど真っ赤になってアタフタとした反応をした。そして、動揺したまま熱い茶を飲み、その熱さにびっくりして立ち上がってしまい、膝をテーブルにぶつけた。その衝撃で溢れてしまった茶にシャルロはオロオロしていた。そんな自分にさらに恥ずかしくなって涙目になっているシャルロにサナエは思わず笑ってしまった。笑うサナエに、シャルロは、不貞腐れたような表情をした。それがまた、稽古中の厳しさとは違い年相応の女の子の可愛らしさを感じさせた。

 そういう、可愛らしさと芯の強さを兼ね備えているところは、見た目の印象の違いは多少あれ姉妹なのだとサナエは納得し、羨ましいと感じた。


「わたしはぁ!強いぃ!」


 ローナが、顔を真っ赤にしながらも必死で声を上げた。その声が石室に響き渡った。


「良いわ!ローナ!さ、サナエも」


「わたしは!強い!」


 ローナの頑張りにサナエも負けじと声を上げた。

 思ったよりも声が出て自分でも驚いた。サナエの声に、ローナもメルリも手を叩いて褒めた。


「メルリ、これって、何なの?」


「これが魔法よ」


 メルリが、ドヤ顔でそう言った。

 サナエは、え?と思わず顔をしかめた。

 その隣でローナは、別の意味で固まった表情をしていた。


「サナエさんは、メルリルーク様をそう呼んでらっしゃるの?」


「え、あ…」


 サナエは、しまったという顔をした。油断していつものように呼んでしまったと後悔した。


「良いのよ。わたしがそう呼ぶように言っているの。ローナもわたしたちといる時は、メルリで良いわよ。お友だちですもの、敬称もいらないわ」


「で、でも、良いのでしょうか?」


「三人の時は、サナエもローナの事は敬称抜きで呼んでね」


 メルリにそう言われてローナは、恥ずかしそうにもじもじとした。


「なんだか嬉しいです。是非そうしてください。ね、サナエ」


「ありがとう。…ローナ」


 ローナは、嬉しそうに笑った。

 そして、金髪の柔らかな少女に向いた。


「メ、メルリ…」


 ローナは、恥ずかしそうにメルリの名前を口にした。

 メルリは、嬉しそうにローナに抱きついた。


「ローナ。ローナお姉様」


 サナエは、二人の美少女が寄り添う姿に心を奪われた。が、


「じゃなくて。叫ぶのが魔法なの?」


「うーん。少し違うけど、でも遠くもないわ」


「どういう事?」


「体が少し熱くならない?」


 そう言われてサナエは、自分の体を見た。ほんの少し熱を帯びている気はする。


「これは恥ずかしいからでしょ。声を出したし」


「それよ。声を出して、体が活発さを持つの。魔素を多く持つ人は、体内の魔素にも影響が生まれるの」


「まそ?」


「魔素は、魔法を使う為の力。魔法の素よ。血筋によって受け継がれると言われている力。お祖父様の研究では、血液中に多く見られるみたい。だから、先祖代々受け継がれると言われているわ。でも、ローナみたいに、両親に魔法を使える程の魔素がなくても子供に素質が現れる事もある。個人差は出るみたいね。それに、王族や貴族でその血筋を囲い込んできた歴史はあるとは言え、市井から素質がある者が出る事は稀とは言えあり得るのよ。そこの研究は、お祖父様もしていたけれど、血筋だけだとは言い切れないみたいね」


「そうなのですね。でもそれは、可能性の話なのですよね」


 ローナは、驚きつつもメルリの言葉にそう返したが、サナエを見て、あっと息を飲んだ。

 メルリは、口元に笑みを浮かべた。ローナのサナエに対する疑念を別の方向にそらす為の意図的な誘導をここでしておきたかったのだ。


「一般の人に魔法の素質を有する者が出ても、公にならないように国家レベルで隠蔽している可能性はあるけどね。さて、話はそれたけど、魔法を使う為の魔素は、主に血流を介して全身を巡っているの。それを意図的に誘導する為に意思を伝える必要があるの」


「魔素を操るという事ですか?」


「さすがローナ。魔法を思い通りに扱うには、ちゃんとその意図を伝える為に具体的な心象、形象、印象を描く事が重要なの」


 サナエは、メルリの言葉が段々と分かる言葉に聞こえてきた。魔素、と言う不思議要素は理解できなかったが。

 メルリは続けた。


「わたしは強い。って言っても、強いって何?ってなるわよね。でも、何となく、それぞれの強いが思い描かれる。その事で、魔素も何となく活性化するの。これが、魔法の始まり」


「これが?魔法?」


 サナエとローナは、自分の手の平を見た。二人とも正直実感は無かった。


「そ、あとは具体化していけば良いの。火を出したいとか、水を出したいとかね」


「何でもできるの?」


 サナエは、メルリの言い方が万能の力の様に聞こえた。


「理論上わね。でも、知らない事は出来ないわ。あと、魔素の量でもできる内容が変わるし」


「で、どうしたら使えるの?火よ出ろーとかやれば良いの?」


「うん。大体そんな感じ」


「火よ出ろー!」


 サナエは、手を前に出してそう声を出した。しかし、火は全く出なかった。


「出ないよ」


 メルリは、そう言うサナエの手を取って触った。


「さすがね、サナエは素質があるわ。手の平がかなり熱くなっているわ」


「本当?本当だ」


 サナエは、自分の手を触って熱くなっている事に驚いた。


「でも、火には程遠いよ」


「まだまだ、具体性が足りないからよ。じゃ、ここからは、魔法の発動に関して教えていくね」


 そう言うと、メルリは部屋の中央にテーブルを出すと、紙とペンを置いた。


「まずサナエには、魔法と魔術の違いを教えなきゃね」


「魔法と魔術は違うものなの?」


「大雑把に言っちゃうと、結果的には同じよ。魔法は、術者の魔素を使って、魔術は魔石などの魔素を含有した素材で作った魔具の魔素を使い、発動内容は魔具によって限定的な事が多いわ。魔法は使い手を選ぶけど、魔術は訓練しだいで誰でも使える様になる物なの」


 メルリは、紙に人の形を描いた。


「で、魔法は、体内の魔素を使うって言ったでしょ。でも、実際に現象を起こすのは、ほぼマナなの」


「まな?」


 また聞き慣れない言葉が出てきてサナエは首を傾げた。


「マナって言うのは、この世界の隅々にまである精霊的な力よ」


 ローナは、エヘンと胸を張って言った。


「ローナの言う通り、世間ではそう解釈されているわ。でも、お祖父様の研究では、精霊としては見つけられなかったの。精霊と認識されているものは、術者がマナを認識する為に具体的な形として無意識に形づける様にマナに干渉した結果だという研究結果が記されていたわ。とは言え、世界の多重構造解釈の観念から、人が認識できる精神世界の先の超精神世界の介在を否定できないのは確かだけどね」


 メルリの説明に二人とも頬を引き攣らせた。


「どういう事?」


「神様を見る術が無いのに居ないと否定する。と言う矛盾の話。神様を居ないと証明する術は誰も持っていないの。もちろん居ると言う証明もね。精霊も同じなの。精霊に類似した魔獣(モンスター)はいるけど、精霊とは別物。そんなのがわんさか居たら困りものだわ。でも、全否定はして無いの。マナを精霊として認識していると言う事は、魔法発動にとても有利ではあるわ」


「結局、マナって何なの?」


 サナエは、混乱しない様に今の話はひとまず置いとくべきだと感じた。


「世界に散りばめられている力の粒子。人の目は、基本それを捉える事は出来ないの。でも、魔素の扱いに長けた人には見えると言われているわ。あとは、偏って集まっていると見えるわ。水や鉱物の様にね。と言っても、色んな物を含んだ事でそう見えるのだけどね」


「世界のあらゆる現象にマナが活動しているの」


 ローナが躊躇いがちにそう言った。


「その通り!ローナの言う通りで、世界はマナで出来ていると言っても過言では無いわ。で、マナに思い通りの現象を起こさせる為に仲介役とまとめ役をするのが魔素なの」


 メルリは、人の絵の中に魔素と描き、その手から炎が出ている絵を描き、炎の中に魔素とマナと書いた。


「そして、起こしたい現象のイメージを明確にする為に呪文詠唱と魔法陣があるの。詠唱は術者本人が意識の集中を高めるのが主な役目で、魔法陣は魔素とマナに対する指示書ってところね。ただ、呪文詠唱自体に魔素の干渉が乗るから、重要視されるわ。血液と同様に分泌される体液にも魔素が含まれると言う研究結果があるの。呼気にも魔素を乗せる事ができるの。だから、歌なんかもある意味魔法と同じと言えるわ」


 ローナは、メルリの説明に目を輝かせた。特に歌が魔法だと言った事が興味深かった様だった。


「歌う事で魔法が使えるなんて素敵。できるかしら」


「ぜひ一緒に研究しましょうよ。本にも歌で戦士たちに力をみなぎらせたって記述もあるし、できるはずだわ」


 メルリとローナは、二人で盛り上がっていたが、サナエはやっぱりピンと来ない感じだった。それを察したメルリは、どう説明したらいいかと頭を捻った。


「サナエにも分かり易く…どう言ったらいいかしら。そうだわ!お菓子作り!魔素は、小麦粉。マナは、お砂糖やバターやミルク。呪文は秤で魔法陣はレシピ。魔素とマナを混ぜた生地は魔素だったり魔力と呼ばれているわ。それで出来上がった物が魔法よ!」


 そう言って、メルリは紙にケーキを描いた。


「だから、作った事がある物ならば、秤やレシピが無くてもある程度は再現できるでしょ。それと同じで、何度も繰り返してやれば、魔法も意識するだけでできるようになるわ」


「何となく分かった気がするけど、結局どうしたら魔法が使えるのかよく分からない」


 サナエは、言葉で伝えられても出来る気がしなかった。


「ま、焦る事は無いわ。魔法を使う為にも、物の理をある程度以上分かっていないといけないから、そっちの勉強もしなくちゃだしね」


 そう言ってメルリは、全く不安はない顔でサナエに笑いかけた。








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