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「そうだ!わたしが勇者様を召喚して、魔王を退治する為に探す冒険に行こう!」

ようこそ。

読んでったってください。

頑張ってちょこちょこ書いていきます。

それでは、どうぞ!

 


 魔王。

 強大な力を持ち、人々を恐怖に陥れる存在。その姿は、暗闇を凝縮したかのように禍々しく、見た者の目を業火の炎で焼き、その声を聴いたものは精神を支配され、術なくその場に倒れる。それは魔術を自在に操り、人心を惑わし狂気に誘う。操る軍勢は荒れた地を這いずる死せる兵士や廃墟を飛び交う死霊そしてこの世のものとは思えない異形の者、大地を揺るがす獰猛な怪物。対する兵士たちは、その抗えぬ恐怖に一合の立ち合いも無く蹂躙された。




 勇者。

 突如光と共に聖都に現れ、魔王の軍勢に蹂躙されつつあった世界を切り裂いた希望。その姿は凛々しく美しい光を纏い、目にする者の心を癒した。その言葉は、聖霊の風に乗り恐怖に震える民の心に寄り添った。その正義の魂は、魔王軍を次々と討ち滅ぼし、人々の希望となって光り輝き、劣勢にあった聖都の兵士たちを奮い立たせた。西の果ての魔界へと攻め入り、ついに魔王を追い詰め一騎打ちの末、その光り輝く聖なる剣で禍々しき蛮族の王を討伐した者。






「はぁぁあ・・・」


 ふわりとした綿飴のような少し癖っ毛の美しい金髪に至極色の瞳をくりくりとさせた少女は、本を眺めながら溜め息をついた。湧き上がる高揚感に頬を染めながら、目を輝かせて本のページを捲る。


「あー!冒険がしたいわ!勇者様の横で世界を救う物語の目撃者として一緒に旅がしたい!あぁぁぁぁ!どっかに魔王現れないかしら!わたしと勇者様で倒してあげるのに!」


 本を手に持ち、少女はゴロゴロとフカフカのベッドを転がった。

 彼女の手にしている本は、魔王と勇者の戦いが書かれている英雄譚【ロンドラーディラング】勇者ランス・ロンドラードが、色々な仲間と出会い、助け合い、時にはぶつかり合い、幾多の出会いと別れを繰り返し魔王に立ち向かっていく物語である。彼女の国では中々手に入らない隣の大陸から取り寄せられた本である。どう言う訳か、彼女の国の図書館には、精霊や幻獣の話の様な伝説的な本は多いものの、戦記や英雄譚は殆どない。その為、彼女が持っている本の幾つかは東の大陸から取り寄せている。その本の中に描かれている様な物語は何処にあるのだろうかと少女は想いを馳せた。そこに結論は出なかったが決意はどんどん固まっていた。


 このままでは、願いは叶えられない!この部屋にいる限り可能性も失ってしまう!

 大人になれば、きっとその内誰かのお嫁さんにされて余計に自由がなくなってしまう。

 だったら!


「そうだ!私が勇者様を召喚して、魔王を退治する為に探す冒険に行こう!」


 彼女、メルリこと、メルリルーク・アドレルト・ナッサヘルクは、立ち上がって拳を振り上げた。

 彼女はこの国、ナッサヘルクの第四王女であり、先月十歳になったばかりである。



 

 そして、時は巡り二年の月日が経った。


 十二歳になったメルリは、魔法陣を目の前に暗い石室の間で呪文の詠唱をしていた。


 魔法陣の中央には、ガラスの筒に入れられた極彩色に輝く石の様なものが入っている。

 彼女の居るその場所は、壁も床も天井も磨き上げた紫黒の石でできていた。壁は、点在する燭台の灯りをぼんやりと照り返している。そこは、彼女の私室と比べたら狭い場所ではあったが、平民の家がスッポリと入れるほどの広さを持った場所だった。


 メルリの口から発せられる言葉は、囁きの様であったが、独特の音を繋げ紡いでゆく発声法により、音の波は綺麗な波形を描き響いていた。そしてそれは、石の壁に反響し言葉と言葉に込められた魔素の奔流が部屋に渦巻いていった。

 メルリの手には、魔導書と思われる装丁の豪華な分厚い本があった。その本は室内に言葉が充満すると、自立しているかの様に少女の手を離れていった。

 メルリは、まるで歌う様に本から解放された手を広げた。すると、言葉は姿形を持っているかの様に淡い青緑の光を帯びた。その帯びた光は、石の床に描かれた魔法陣の線に沿って吸い込まれて行き、光を吸収した魔法陣は淡く光を放ち始めた。

 メルリの広げていた手が、ゆっくりと動き天に伸びた。そこから何かを受け取る様に柔らかに指が動く。そして受け取った何かをそっと下ろした。その動きに連動するかの様に、魔法陣に宿った光は光を増していき、円筒形の光の柱を創り上げた。そしてそれは、回転しながら収束し細く強くなっていった。

 優しく下された手は空を愛撫するように滑らかに動き、少女の胸の前で何かを祈る様な優しく抱く様な形を作った。そこに絶えず色の変化する光が宿った。その光をそっと幼い子に渡す様に差し出した。光はふわりと光の柱に向かって進むと抵抗なくスッと吸い込まれていった。

 光の塊は吸い込まれたのではなかった。柱の中央にたどり着くと、回転して魔法陣の光を巻き取る様に纏っていった。そして、より濃く光を放った。

 石室は眩い光に包まれた。

 目が眩む様な光の中、収束した光が魔法陣の中央に置かれたガラスの筒を包み、より収束し光がその中に宿った。

 少女の発していた音が、最後のフレーズを奏で残響を残した。その残響も消えて、石室にキンとした静寂が訪れた。


 燭台の淡い灯が影を揺らす中、ガラスの筒の中で脈動する光を見て、メルリは満足げに微笑んだ。


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