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二人の諜報員

 大尉は自身のデスクで、カジナ・ザカリアの人事ファイルの写しに目を通していた。溜まっていた書類のほうは、なんとか半分ほど片付けていた。


「女性の諜報員か…。まあ、時代も変わるもんだ。それに今回の任務の相棒とはな、驚きだ」


 近年のラレイユ大陸においては女性の社会進出が叫ばれて久しいが、社会的慣習や伝統といった、いわゆる偏見のために遅々としたものだった。


「まあ、杓子定規な性格でなければ、男女誰だって構うもんか」


 書類を置くと、飲みかけのコーヒーを一口すすった。


「大尉、」


 向かい側のデスクで、タイプライターを打っていた同僚のソルベ・シュルツェンが突然、声をかけてきた。


「なんだ? ソルベ」


「聞こえてますよ」


 どうやら大尉の独り言に、聞き耳を立てていたようだ。そして、もったいぶった様子で続けた。


「職場の同じフロアに女性が増えたら、大尉は気をつけないといけないんじゃないですか」


「なんでだ?」訝しげに聞き返した。


「僕なんかと違って、大尉殿はモテるじゃないですか。恋愛でいざこざが起きないといいですけど」


 そう聞いた大尉は思わず鼻で笑った。


「なるほど、それは気が付かなったよ。たしかに、俺は平均よりは美男子寄りだからな。だが、職場や仕事に私情を持ち込まないのが信条なんでね」


「そうですか? それじゃ、大尉はいつもくだけた調子なのは、もしやそれは仕事向けにわざとやってるので?」


「それはどうだか。俺はなるべくリラックスした状態を維持してるだけだ」


「まあ、いずれにしても、僕だって仕事がちゃんと回るなら、同僚が誰だってかまやしませんね」


 それから大尉は残りわずかの書類に取り掛かった。 

 

 一方のザカリアは、約三か月の速成軍事教練を終えて、一週間の休暇を過ごした後に首都の諜報局へ戻ってきたところだった。

 軍の訓練では、ザカリアのほかにも何名か女性の新兵がいた。だが、内容は男女問わず厳しいものだった。毎日の筋力トレーニングはもちろん、水泳や登山までもが課程にあった。さらには装備を背負っての行軍。それらの合い間に、射撃訓練や銃器の手入れはもちろんのこと、座学までもがあった。講義は基礎教養から語学、軍組織の概略、各種兵器の概要や取扱方、応急救護、連邦軍兵士としての立ち振る舞い方等々。彼女が講義を受けるのは学校を卒業して以来だった。彼女はここに来て、これほどまでの講義まで受けるとは予想だにしていなかった。とにかく、なんとか訓練期間を乗り越えてのだった。


 諜報局本部へ戻ると、さっそく局長に直接呼び出された。


「訓練はご苦労だった」


 局長は一言ねぎらいの言葉をかけた。「それと一週間の休暇はどうだったかね?」


「はい、久しぶりに絵を描いてゆっくり過ごしました」


「それは良かった。充実した休みだったようだね」局長はいつの調子に戻ると続けた。「それでだ、ザカリア君。早速現場仕事に行ってもらいたいのだ」


「それは。私一人でですか?」


「いや、」局長は言葉を区切った。「フィエル・ウルバノ大尉は知っているかね?」


「いいえ」


「そうか、後で彼のとこへ案内しよう。とにかく、この任務は君にとっていい力試しになるだろう」

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