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帝国での二日目

 翌朝、ウルバノ大尉がクラッツ博士の部屋を覗くと、彼の姿はすでになかった。


「おいおい……部屋に鍵も掛けずに出るとは、まったく不用心だな」


 それから、部屋のテーブルの上に、メモ書きが置いてあるのを見つけた。そこには先に朝食に行く旨が記してあった。


「はあ、博士は朝の早いことだな」


 それから今度は、ザカリアの部屋に向かった。ドアをノックして声をかけると、慌てた様子の彼女が現れた。


「あ、大尉、おはようございます」


 ついさほど起きて、急いで支度したというような印象だった。


「ああ、おはようさん。どうやら博士は、朝が早いようだ。俺たちも、朝飯にありつくことにしようじゃないか?」


「はい、了解です」


「それと、俺のことは大尉を付けないで呼べよ」


「あ、すいません」


「それから、」


「はい?」


「その、髪の寝ぐせが直ってないぞ」


「ええ、ほんとうですか」


 彼女は慌てて自身の頭髪に手を当てて、ため息をついたが、その様子を見た大尉は苦笑した。


「あまり気にすることもないさ。誰も見やしない」


「ダメですよ。身だしなみは大事ですから」そう言ってザカリアは部屋に引き返した。


「まあ、別に後でも……」


 大尉からすれば、指摘したものの、大げさに気にすることはないだろうというとこだったが、彼女はそうは思わなかったようだった。

「五分だけです! 待っててください!」


 そう言って彼女はバスルームに姿を消した。


「やれやれ、」大尉は一人、含み笑いで小さく呟いた。「また、組んで仕事をするときは、ナイトキャップでも買ってやるとするか」


 部屋の入り口のドア枠にもたれかかって、手持ち無沙汰なようすで待った。

 それから四分後、先ほどよりは見るに耐えられる髪型に正した状態で、ザカリアは部屋から出てきた。


「準備完了です。ウルバノ先輩」


「せ、先輩?」


 唐突な呼び方に大尉はぽかんとなった。


「だって、大尉とお呼びするのは、この任務中は無しなんですよね?」


「まあ、そうだが」


「でも、ウルバノさんじゃあ、なんかかしこまり過ぎですし。かといって、フィエルって呼ぶのじゃフランク過ぎません?」


「まあ、ザカリア君がそれでいいと思うなら、好きにすればいいさ」


「じゃあ、決まりですね、先輩!」


 それから二人は、食堂でクラッツ博士と合流し、朝食の時間を楽しんだ。

 食事の終盤にフィエルは訊いた。


「それじゃあ予定通り、レスアムは今日一日、部屋に自ら缶詰め状態になるというわけだな?」


「そうですよ。あとでもう一度、フィエル君も書類に目を通してみますか?」


「いや、結構。一ページ目だけで充分だ」


 大尉は一度、書類を見せてもらっていたが、概要についてそれなりに理解できても、内容については、てんでついていけなかった。専門用語の羅列と構造式を目にするだけで目眩が起きそうな気がした。そもそもウルバノは、学生のときから化学は苦手分野だった。


 そうして三人は、それぞれの部屋に戻った。


 大尉は新しいフィルムをカメラにセッティングし、試しに窓から外の景色にレンズを向けてシャッターを切った。


「よし、大丈夫そうだ」


 それからカメラを肩掛けカバンの中に収めた。

 そうしているうちに、部屋へザカリアがやって来た。


「先輩、私は準備できましたよ」


 彼女は明るい色の服装に、帽子をかぶって肩掛けのポーチを持っていた。いかにも観光客を装う恰好だった。


「なかなか、恰好は様になってるじゃないか?」


 フィエルは今一度荷物を確かめた。


「まあ肩書としては、俺は記者、ザカリアは駆け出しの画家という風体で、いいな?」


「もちろんです」


 ザカリアは思い出したように訊いた。


「それと、さすがに、銃は置いて出ますよね」


「ああ?」


 そのときになって、フィエルは無意識のうちに、いつも通りの装備を身につけていたことに気が付いた。

「それもそうだな」と、言って、上着を脱ぐとホルスターを外しにかかった。「まさか、記者モドキがこんな大型拳銃を持ってたんじゃあ、洒落にならんな」


 トランクの中に隠すように仕舞った。


「さて、街に繰り出すとしよう」


 大尉とザカリアはいったん、学会発表の会場まで向かった。場所はトーワ帝国国立の大学敷地内にある講堂の一つだった。

 帝国と国交の深い、サモ公国にみられる建築様式を模倣している建物が目立った。


「なかなか、ご立派なものだ」


 周囲をぐるりと見てまわった。


 会場の設営作業なのか、出入口や周辺では職員や学生と思しき人たちがイスやテーブル、ほかにもいろいろと物品の持ち運びをしていた。


「明日の準備で、忙しそうですね」


「そうだな……中もじっくり見てみようかと思ってたが、やめておくとしよう」


 そのあと二人は、街の雰囲気を観察しつつ、パラムレブ連邦大使館まで向かった。大使館で居を構えるエージェントには、すでに連絡が行っているはずだった。

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