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帝国のホテル

 ホテルはトーワ帝都中心に位置していた。四階建てのレンガとコンクリート造りで、ラレイユの諸国にあるものと遜色ない高級感と清潔感のあるものだった。部屋は三人それぞれ、個室で泊まることになっていた。


 三人が夕食のために向かったダイニングも、広く豪勢なデザインの場所だった。それに他の多くの宿泊客の姿もあった。中にはクラッツ博士と同様、学科に参加する人たちもいる様子だった。博士と顔見知りの何人かが軽く挨拶を交わしたりもすることがった。

 それから給仕に案内され、奥の方にあるテーブル席に腰を落ち着けた。


「それにしても、なんだか拍子抜けですね」


「何がだ? ザカリア」


「このホテル。もちょっと異国情緒があるかと思っていたんだけど。ラレイユ諸国にあるのと大差ないなと思って」


「おいおい、観光で来てるのとは違うんだぜ。そのくらいのことで文句をつけてるようじゃ、先が思いやられるってもんだ」


 ウルバノ大尉はやや呆れた様子だったが、クラッツ博士はおもしろそうに笑っていた。


「私の知り合いにも以前、そんな感想を述べた人がいましたよ」


「そうなのか?」


「ええ、ですが、人によってはラレイユ諸国に合わせてある方が落ち着くかもしれませんね。なんたってここは大洋を渡った異国ですから。文化も気候も全く異なります。トーワ人なりの配慮というものだと思いますよ」


 それから料理が運ばれてくると、テーブルの上に並べられていった。


「まあ、とにかく、料理は悪くなさそうだ」


 食事は魚介中心でトーワ風の料理だったが、どうやらシェフは優秀なようで、ラレイユ諸国の人々の好みをわきまえているようだった。


 食事を終えた後、三人はいったん博士の泊る部屋に集合した。


「それで、会議は明後日だったな? レスアム」


 大尉はテーブルに地図を広げながら訊いた。


「ええ、そうです」


「明日はどうする? 暇があるわけだな。観光でもするのか?」


「私は持ってきた書類のチェックをしたいので、一日中ホテルにいるつもりですよ」


 大尉は思わず小さく鼻で笑った。


「相変わらず、生真面目じゃいか」


 それからテーブルに広げてある現地の地図を眺めた。


「じゃあ俺は、明日は現地の下見にでも行ってみることにしようか」


「それは良さそうではありませんか。ついでに、観光がてら街並みでも見て回ってはどうです?」


「そっちが迷惑じゃなきゃ、ちょっと街も見てみようじゃないか」


「私はどうしましょうか?」ザカリアが聞いた。


「そうだな、」大尉は軽く顎をさすって考えた。「それでも、護衛って仕事を言われいるからには、部屋に残っていた方が良いだろう」

「フィエル君、ちょっと大げさではありませんか?」


 唐突な博士の言葉に、大尉はやや眉をひそめた。


「だが、万が一ということもあるからな」


「まさかとは思いますよ」博士はとんでもないとでもいうような顔をしてみせた。


「私の命を狙う人がいるとは到底思えません。それに以前も、このホテルは泊ったことがあります。しっかりしたところですから、大丈夫でしょう」


「だがなぁ、」


「どうでしょうか? フィエル君とザカリア君の二人が、会場やその周辺をしっかり把握しておくとこのほうが案外、重要ではないでしょうか?」


「うむ、」大尉は再び顎をさすった。「言われてみれば、それも一理あるかもな」


「さっきも言いましたが、明日は一日部屋で過ごすつもりです。ホテルから出る予定はありませんので」


「じゃあ、まあ。明日はザカリアと二人で下見に出ることにしよう。それと……」


 大尉は一瞬、レスアムに銃を貸しておこうかとも考えたが、さすがにそれはやりすぎだと思い直した。


「まあ、充分に気を付けてくれよ。不審な奴がきても絶対に部屋に入れるな」


 それを聞いて博士は苦笑した。


「大丈夫ですよ。ちょっと大げさすぎませんか?」


「なんかあった時に、首が飛ぶのは勘弁だからな。もちろん比喩的な意味だぜ。仕事でしくじると、ろくなことにならん」


「わかりました。身の回りのことは気を付けますから。それにしてもフィエル君も心配性ですね」


「いやはや、任務に忠実なだけさ」

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