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大尉と博士

 出発までの時間、準備や詰めの打ち合わせであわただしく過ぎて行った。そしてウルバノ大尉とザカリアの二人は、首都の駅から列車に乗り込むと、一路エスペランザへと向かった。


 研究所の正面玄関を入ったころには、受付事務員と警備員が構えていた。建物の入ったところは、ちょっとしたホールのようになっていた。壁も床も白を基調として、非常に清潔感を感じさせるほどきれいにされていた。


 そこで二人を出迎えたのは、シャセル・オクルス博士だった。


「クラッツ博士の護衛の方ですね」


「ああ、そうだ」


「ようこそ、いらっしゃいました。私はシャセル・オクルスといいます。私はクラッツ博士のいる部門の主任を勤めています」


「へぇ、女性が主任を?」


 ウルバノ大尉は声に出したが、これは単なる驚きからだった。


「とはいえ、数ある部署のうちの一つでのことですわ。それとも貴方は、上司に女性がつくというのは、お気に召しませんか?」


「いや、そう言うつもりはないが。たんに、まあ、いずれにせよ驚いただけだ」


「もっとも、この研究所では研究内容はともかく、人々の慣習、文化的にも世界の最先端を行くと自負していますので」


「なるほど、そいつは結構な話だ。おっと、申遅れたが、俺はフィエル・ウルバノ、こっちは同僚のカジナ・ザカリアだ」


「ザカリアといいます。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしく」


 それから三人は研究所の中を進み始めた。


「確かに、政府関係に護衛の依頼はしましたが、」オクルス博士は言いだした。「まさか国防軍の方が来るとは思いませんでした。あなた方お二人は、どういった部署の方なのです? それとも護衛専門の部署があるのかしら?」


「まあ、そんなところだな」


 大尉は建前上、というより機密上の観点から、所属や業務に関することは濁した言い方だった。


「そうですの? それと、軍の人ということは階級をお持ちということでしょうか?」

 博士は少し遠慮がちに尋ねた。


「まあ、そうだね。今の仕事じゃ、あまり意味はなさないかもしれないが。ちなみに俺は大尉だ」


「そちらのザカリアさんは?」


「私は、まだこの仕事について日が浅いので、特に階級というのはないです。言うならば一兵卒ですね」


 進んでいた廊下を途中で曲がると、オクルス博士は指し示しながら言った。


「この先がクラッツ博士の部屋です」


「案内はここまで?」


「ええ、また私は自分の仕事に戻りますので」


「お忙しい中、どうも」


 大尉はそれだけ言うと、ザカリアとともに進んでいった。


 部屋のドアは開け放してあった。


「お邪魔するぜ」


 その声をきいたクラッツ博士は驚いたようすだった。


「もしや、フィエル君?」


 大尉の方は博士の顔をみるなり、少し得意げにニヤリと笑った。


「久しぶりだな。レスアム」


「どうしてここへ?」


「そりゃ、レスアム・クラッツ博士の護衛を命じられたってわけさ」


「そうなのですか? 軍に入ったことは知ってましたけど。


「一応はこう見えて大尉だぜ」


「そうなんですか? ずいぶんと出世されましたね」


「なに、大したことはしてないさ。それにしてもこっちも驚きだ。いつ博士号なんて取ったんだい?それに、こんなご立派な研究所で仕事をしてるなんて、嫌味じゃなくてな。ほんと、すごいじゃないか」


「地道にやってきただけのことです」クラッツ博士は控えめに答えた。「それより、もう一人の、そちらの女性は?」


「ああ、紹介しておかないとな。カジナ・ザカリアだ。部下というか同僚というか、ともかく俺とザカリアの二人で護衛に着くことになってる」


「どうも、カジナ・ザカリアです」


「二人もいれば心強いですね」


 博士は握手を交わしながら言った。


「それにしても、」大尉は部屋を見渡しながら聞いた。「護衛をつけようだなんて、国家機密並みの研究でもしているのか?」


「私がしている研究はさほどのことではありませんよ。こちろん、ここの研究所は様々なことをやっていますけれど。それに護衛の依頼をしたのは研究所の方ですよ。私も理由までは聞いていません。おそらく、いろいろと用心したいことがあるのでしょう」


「まあ、それもそうだな」


 おかげで、もう一つ大仕事をすることになったんだよぁ、と大尉は心の中で付け加えた。


「それで、どうやって行くつもりなんだ? 客船か?」


「飛行船の予定です。帰りは船になるでしょうけど」


「空の旅か。だが、直接トーワに行く便があるのか?」


「いいえ。一旦は、サモ公国へ行かないといけません。トーワ帝国への定期便はそこからしか出ていませんから」


「了解だ」

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