その7
そうしているうちに彼岸が明け、風に秋を感じるようになった。
二回目の教室のドアを開けると、背の高い若い男性が出迎えた。
シンプルな白い麻シャツが、端整な顔立ちを引き立てていた。女性にもてそうなタイプだと思った。
「今日は進藤さんは用事で出かけているので僕が代わりを勤めてるんです」
彼は薄い唇の両端を上げ女性慣れした微笑みをした。
彼は、桜子の講義が行われている間、壁際のソファにくつろいで座っていた。
この日の講義は、弔事のマナーについてだった。桜子曰く「皆さんから必要だと言われるので、先にやってしまいますわね。本当はもっと他のマナーを詳しくしたいのだけれど」ということだった。
弔問の際のマナー、服装や持ち物、忌み言葉、香典袋の書き方からお供物のことなど、仏式、神式、キリスト教、それぞれの作法を教わった。
講義の間、その若い男性は、私たちの様子を興味深く眺めたり、時には手持ち無沙汰にあくびをしていた。
私は時折、横目で彼の顔を見た。
彼は美形という言葉が正にあてはまる姿だった。切れ長の目をふせ長い睫毛を重たそうに震わせる姿は、アフロディテをも魅了するだろう。栗色の髪はくせ毛だろうか、パーマだろうか、軽く波打っている。
日頃、こういった若くてハンサムな男性と接する機会がない私は、少し華やいだ気分になった。自分だけでなく、彼に背を向けて座る美江や真奈美も、桜子を除く全員が彼の存在を意識していることを感じた。
「弔事の装いと言うと、喪服と黒いバッグとかかとの低い靴、それから真珠のアクセサリーですけれど、意外にも真珠を持っていらっしゃらない方が多いのね。だからといってフェイクではだめ。真珠は偽物をつけるくらいなら、何もつけないほうがよろしいわ」
え、と真奈美が漏らした。
「葬儀の席って、皆さん同じような服装でしょ。偽物を身につけているとすぐにわかっちゃうの」
桜子は悪気のない笑顔で真奈美に言った。
なるほど、と私は思った。
確かにそういった場では、同じような黒いスーツを着ていても喪服でないスーツはすぐに見分けられる。真珠も、他と比較しなければわからなくても、同じ場に真珠をつけた人が大勢いたらわかってしまうのかもしれない。
はあ、と真奈美のため息が聞こえた。
「でも、本真珠ってお高いんですよね」
「昔は、結婚する時に喪服と真珠を母親からプレゼントされたものだけど、今はそういうことなさるお家も少ないようね。真珠はなければないで構わないんじゃないかしら。最近では、もっと手の届きやすいオニキスを選ぶ方も多いようね」
親類や知人の弔事を何度か経験しているから私は大丈夫と思っていたが、結構知らないことが多いと気付かされた。やはり、きちんとしたマナーを学ぶのは大切なのだと思った。




