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その13

 次の教室までの間、私は、娘の小学校の文化祭にかかりきりだった。

 文化祭の前日には子供たちが持ち寄ったバザー用の品物を整理した。

 今年のバザーは百円均一である。百円で売るという前提で家庭にある不要品などを出すよう、前もって各家庭に通知されていた。

 昨年までは金額設定など無く、各家庭から出された物品にPTA役員が適当な値札をつけて売っていた。それが昨年、保護者から自分の出した品物につけられた値札が安すぎると苦情が来て、今年は百円均一にしたのだという。

 バザーの品物は体育館の片隅に集められ、私を含め四人で整理にあたった。段ボールの中から一つ一つ取り出し、傷物や破損品を区別し、種類毎に段ボールに仕訳する作業だ。百円で売ることを前提、といっても、集まった品物は様々であった。中には売り物にならないようなものもある。

「あらやだ、こんなのがある」

 横で仕訳していた木下という女性が言う。

 私が見ると、彼女は、香典返しについてくるハンカチの箱を手にしていた。

「うちにも沢山あるけどさすがに出さなかったのに。百円出して買わないわよね、こんなの」

 私に同意を求めてきた。

「いくら家庭で不要な品って言っても限度がありますよね」

「そうよお。うちなんか、不要品っていったら本当にゴミしかないから、わざわざ買っちゃった」

「あんまり変なの出せませんものねえ。うちも、ちょっともったいないけどミッキーのコップ出しちゃった」

「もしかして、これ」

 彼女は仕訳した箱の中から、ペアグラスの箱を取り出した。

「そうそう、それ」

「かわいいなと思って目を付けてたのよ。これが百円ならいいわよね。取り置きしとこうかしら」

「よかったわ、そう言ってもらえて。ほんと、バザーの度に出す品物悩んじゃう」

 況して、木下のような人間が陰でケチを付けていると知ったら。

「ほんとよ、めんどくさい」

 木下はそう言って、また手を動かし始めた。

 バザーに出す品物で、家庭や親が窺い知れるというのは恐ろしいことだ。

 使わないのかもしれないが、これを百円で売っていいのかと思われる高級食器セットがあれば、先ほどの香典返しのようなものもある。値札がついたままのものもあったり、手作りのぬいぐるみやアクセサリー、土産物らしき置物もある。

 私は気が小さいから「こんなものを出したら顰蹙を買うんじゃないか」などと悩んでしまうほうだが、お構いなしの人もいるのだとある意味では感心してしまう。

「これ、百均で売ってたヤツだわ。先週うちの子が同じの買ってきたもん」

 木下が隣でぶつぶつ言っている。

 木下は機嫌を損ねると厄介なタイプだと感じた。必要以上に近づかないことが賢明か。

「やだ、これ紅茶じゃない、食品はダメだって書いてあったのに」

 彼女は言うや否や、片手を高く上げて奥にいる監督役の教師に叫んだ。

「すみませーん。紅茶があるんですけど、食品だからダメですよねー」

「紅茶はダメです。皆さんも、日持ちのするものでも食品類は一切売り物の中に入れないで下さい」

 木下は教師の言葉に満足した様子だった。

「しかも賞味期限あと一ヶ月じゃない。信じられなあい」

 木下はそう言って、高級紅茶の缶を乱暴に廃棄用のダンボール箱に投げ込む。

「まったく何考えてるのかしら。最近の若い親は常識ってもんがないのかしらねえ」

 私は曖昧に相づちを打ってお茶を濁す。

 こんな些細な日常の出来事でも、少しづつ蓄積されて心は蝕まれていく。

 私には桜子の教室があってよかった、と感じた。

 桜子の教室はいい。現実の私たちがどこの誰で経済状態がどうとか、お互い何も気にしないで、ただ楽しい会話をして時間を過ごすことができる。

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