オンゲで中二キャラ全開の中の人を確認しにいったら、クラスメートの美少女だった件
俺――佐々木鋼太郎は自分で言うのもなんだがボッチだ。
正確に言うと、準ボッチくらいだろうか。
一応、俺にも友人の一人や二人……いや、一人いる。
小学校からの友人で、いわゆる腐れ縁というやつだろうか。
そいつはゲームが好きというところ以外は、友人も多くリア充な奴だがゲームことに関しては俺によく聞いてくる。
――ゲームばかりやっている俺は、今プレイしているVRMMOの『エルシェンタ・オンライン』で上位ランカーと呼ばれる存在だからということもあるだろう。
狩りだけでなく、対人戦でも常にランキング入りしているくらいだ。
自慢じゃないが、オンゲの晒しスレなんかにもよく晒されている。いやほんと、自慢にはならないが。
帰宅部の俺は家に帰ればこのゲームばかりで、バイト代もゲームに使っている。
もちろん、ある程度の常識は備えているつもりだが。
剣と魔法が売りのMMOで、今ではすっかりメジャーとなったフルダイブ型のゲーム――ゲームの中で活躍していると、リアルと現実の区別がつかなくなるやつがいるとも聞くが、気持ちは分からないでもない。
ただし、俺はそういう類の人間ではなかった。
(まあ、そうは思いつつも今日はオンゲのイベントに来ちまったわけだが……)
スマホをいじりながら、わざわざ日曜日の午後から開催されている公式のイベントへとやってきていた。
中々に広いホテルのスペースを使って、アップデート情報などを事前に告知したり、今後のストーリー展開について話したり――そういうイベントだ。
イベント専用のSHOW装備がもらえるというのが何より大きい。
俺としては、自身のキャラの見た目には全力を注ぎたいからだ。
そしてもう一つ――ここに来られなかった友人の願いを叶えてやらねばらなかった。
(……《殲滅の騎士・ブラック・ナイト》様はどこだ。いや、今は《裂空の魔王・エア・シュナイダー》だっけ?)
こんな痛々しい言葉を探さなければならない俺の身にもなってほしいが、俺も少しは興味があったので手伝うことにした。
俺と友人が所属しているギルドは少数精鋭で、その中にも上位ランカーが集まっている形になる。
その中でも俺と同じく上位ランカーに位置しながらも異端――常に中二病全開の言葉を羅列しているプレイヤーがいる。
「《帝国第二騎士団》所属の《殲滅の騎士・ブラック・ナイト》だ。よろしく頼むぞ」
――こんな奴だ。
まずどこの帝国なのかも分からないが、実際パーティを組むとこういう感じの挨拶をしてくる。
面白半分で本人を確認してきてくれ、という友人の言葉のもとに、俺はその正体を探りに来た。
もちろん、本人が親同伴の小学生や中学生だった場合、その事実を友人に伝えるだけだ。
いずれ来るべき黒歴史として悶えてくれ、とだけ考えておく。
(さすがに大人なわけないよな……)
そう思いながら、会場内部を散策していく。
今は休憩時間で、それぞれ自キャラのネームプレートをどこかにつけているはずだ。
変な名前を名乗ってはいるが、そのキャラの正式な名前は《ポチ丸》だった。
いや、ほんとどうしたと聞きたくなるぐらい名前と名乗りに差異のあるやつだ。
「ポチ丸……ポチ丸……っと」
ネームプレートをちらちら確認する俺の姿は、不審者のように見えるかもしれないが、ここなら別に普通だ。
オンゲ内の知り合いを探すだけなのだから。
(さすがにいないか……? 常日頃からあんな言動をしているような奴だし――)
そう思って振り返った時、すれ違い様にその文字を見た。
胸元につけた《ポチ丸》のネームプレート。
華奢な身体つきは、すぐに彼女であるということを理解させた。
(まさか、女の子かよ……)
正直予想外だったが、服装から見てもそれなりにお洒落のように見える。
ただ、外見的に言えば中学生か高校生くらいか――高校なら、俺と同い年ということになるが。
(うお、サングラスにマスクて……)
顔を見て、また驚く。
サングラスにマスク、そしてベレー帽――完全武装で顔を隠していた。
やはり恥ずかしいことをしているという自覚があるのか、相当周囲を警戒しながら歩いているようにも見える。
そんなに警戒するのならイベントに来なければいいのに――そう思いながらも、俺は友人との約定を果たすことにした。
「あの……ポチ丸さんですよね?」
「え!? あ、そうですけど……!?」
素っ頓狂な声を上げてポチ丸さんが振り返る。
声をかけられたことに驚いたのだろう。
だが、それ以上に俺の顔を見て、何故かビクリと身体を震わせた。
「え、鋼太郎君……!?」
「ん、何で俺の名前――って、その声……」
その声は、よく聞いたことのあるものだった。
それこそ学校で毎日、耳にしている声だ。
鈴の音のようにきれいな声で、学校一の美少女と名高いお金持ちの令嬢――そんなのが現実にいるのかというくらいハイスペックで、現実にいてしまった少女。
クラスメートの、本条奏だ。
「本条さん?」
「き、奇遇ね。こんなところで……。鋼太郎君も――」
ちらりと、本条さんが俺のネームプレートを見た瞬間、態度が一変した。
「ひ、人違い! 人違いなの!」
とんでもなく取り乱した様子で俺の肩を掴むと、人違いを自称する本条さんが俺の身体を揺らす。
いや、動揺しすぎてベレー帽とかサングラスがずれ始めてしまってるんだが……。
「ちょ、本条さん! 落ち着いて!」
「私は本条じゃない! じゃなくて、ポチ丸じゃないの! これ拾ったネームプレートだから! あなたの知っているポチ丸ではないの! 断じて! 理解した!? 理解して!」
動揺した様子で、そんな言葉を羅列するポチ丸こと本条さん。
否定すればするほど、本人であるということを肯定しているようなものだというのに。
「わ、分かったらから落ち着いてくれ、本条さん」
「ふーっ、ふーっ」
ものすごく息を荒くした本条さんは、正直会場で目立ちまくりだった。
普段ボッチの俺は目立つことを得意としない――うん、この状況はきつい。
「一旦、外に出ようか?」
「……うん」
俺は本条さんを連れて、会場を後にする。
できるだけ人のいないスペースまで歩いていくと、テンションだだ下がりの本条さんが後ろからついてきていた。
すでに隠しても無駄だと悟ったのか、マスクもサングラスも取って、死んだ魚の目のままついてくる。
「……えっと、本条さんがあのポチ丸さんってことで、いいんだよね?」
「……ち、違うわ」
「裂空の魔王――」
「わああああああっ! やめて! その言葉は出さないでっ!」
やっぱり本人らしい。
そして、あれだけチャットで発言している言葉を死ぬほど恥ずかしがっているようだった。
顔を真っ赤にして、その場に座り込む。
「もう、お嫁にいけない……」
「いやそんな大袈裟な……。好きでやってるんだろ?」
「ま、まあ……ネットの中だと本当の自分をさらけ出せるというか、何をやっても許される感じがするというか……」
才色兼備で有名な本条さんがそんなことを口にするとは思いもしなかった。
普段の学校生活では無理をしているということだろうか。
まあ、そうだとしてもこのネーミングセンスはあまりないと思うが。
しかし、俺も男だ。
友人には悪いが、ポチ丸は探せなかったことにして穏便に済ませよう。
「意外だとは思うけど、別にいいと思うよ。ゲームの中くらい好きなことをやってもさ」
「……! 鋼太郎君……!」
死んだ魚の目に、輝きが戻る。
一喜一憂その姿は、普段と違ってとても可愛らしく見えた。
その日は、結局ゲームの話を少しして別れた。
中二病全開のポチ丸の正体が本条さんだったということには驚きだったが、だからと言って何か変わることはない。
俺がそれを言いふらすメリットもないし、ボッチ力の強い俺の言葉を信じるような奴もいないだろう。
ただ、その日以来――
「おい、《角砂糖》」
「ん、どうした《ポチ丸》」
角砂糖は俺のプレイヤーネームだ。
なんていうか語呂が好きだから使ったんだけど、意外と通ってびっくりした。
かぶりが禁止だからラッキーと言えるだろう。
相変わらず、ゲーム内では男勝りな感じの言葉遣いだ。
対する俺は、いつも通りの話し方だがゲーム内では絶世の美少女を自称している――ネカマじゃないぞ。
ただ、女の子でゲームをプレイするのが好きなだけだ。
「我が盟友よ、共に戦場へと赴こうぞ」
「……本条さん、個人チャットくらいそういう言い方はしなくても――」
「わ、我は本条などではないわ! 《業炎の眷属・レッド・バース》なの!」
(前とまた名乗りが変わってるし……)
その上キャラがブレブレである。
怒ったような仕草を見せながら、本条さんことポチ丸は呟くように言った。
「鋼太郎、君が……そのままでもいいって……」
「ん? 確かに、俺は別にそのままでもいいとは思うけどさ」
「……! そ、それならそれでいいではないか! さっさと戦場へ向かうぞ!」
キャラを取り戻してしまったポチ丸がそんな風に言う。
中二感の強いポチ丸と一緒に狩場に行くと、正直恥ずかしい目に会うのは俺の方なのだが――
(……そういえば、本条さんって俺のこと名前で呼ぶんだな。まあ、佐々木っていっぱいいるからかな?)
そんなことを考えながら、颯爽と歩くポチ丸の後ろについていく。
今日も本条さんは、ゲームの中では中二病全開だった。
勢いのままに書いたラブコメ練習用のネタです。




