1章~アキラ(44)
あゆみ(20)大学生
私の秘密は「身体」を売っていること。
別に不幸な過去はない。こういう仕事をしなきゃいけない可哀想な事情もない。
この仕事が楽しいのだ。
メッセージが届いた。
『初めまして。アキラです。ホテル代込み20000でどうでしょうか?』
そこそこの羽振りの良さだ。私はすぐさま『了解』のメッセージを送った。
『ありがとうございます。集合時間は土曜日の14:00で場所は新宿駅でいいですか?』
『分かりました。赤い帽子をかぶっていきますのでよろしくお願いします。』
なかなか昼間から会うことは珍しいので少し驚いたが特に予定もないのでその日に会うことにした。
約束の赤い帽子をかぶり集合時間の10分前に到着し「アキラ」を待つ。正直この時間が一番緊張する。遠くから自分を見つけ容姿が気に入らないのかバックれられることもあるし逆に相手が恐ろしい容姿をしていることもある。
「あの…あゆみさんですか?」
年齢は40代くらいだろうか。少し疲れが見える感じだが清潔感があり常識がありそうだ。
「そうです。あゆみです。アキラさんですね!じゃあ行きましょうか!」
少し猫をかぶりホテルに向かい無事に何もなくコトを終えた。
それからアキラとの関係は続いた。多い時に月に3回ほど会う月もあり羽振りもいいアキラと半年ほど経った時だった。
「アキラさんは結婚してるの?」
なんとなく日常会話の延長線上で聞いてみた。
「しているよ。奥さんがいるのにこういうことをするのはよくないよね。」
少し罪悪感がある感じで言った。
「別にそんなことないよ。私はお金もらってるしお互いに愛はないからさ。愛のない関係は私はセーフだと思うよ。でもアキラさんいい人なのになんでこんなことしてるの?」
そんなに深い仲ではない相手に対して踏み込みすぎたかもしれないが単純に興味があったから聞いてみた。
「いい人ではないよ。僕はお金で君を買っているような男なんだから。」
少し困ったような顔で苦笑いながら言った。
「そんなのいいよ別に。よくお客さんに君もかわいそうだな。なんて分かったようなこと言うけど正直言って図々しい。私この仕事嫌いじゃないし楽しいもん。」
私が言うとアキラは少し驚いた顔をしてから自分と奥さんの話を始めた。
「妻とは大学の時に出会ったんだ。俺の一目惚れだった。すぐ告白して振られたんだけど諦めずに3回告白したら付き合ってくれた。正直かなり仲が良かったんだ。友達からからかわれるくらいにいつも一緒にいた。僕は本当に大好きだったんだ。そして大学を卒業して僕は就職して彼女と結婚したんだ。犬も飼ってさ本当に幸せだった。
だけど結婚して2年くらい経ってなかなか子どもが出来ないから病院に検査に行ったら妻は子宮頸がんだった。しかもかなり深刻だった。卵巣は全摘してそこからはずっと介護生活をしてた。
仕事も変えて毎日介護してってやってそんなサイクルが2年くらい続いた時に大学の同窓会があって行った時ね
『アキラそういえばあの時の彼女と結婚したのか!仲よかったもんなぁ〜!今でもラブラブなんだろ!?羨ましいよぉ〜』
って言われた時にもう愛っていう感情が無くなってるって気付いちゃったんだ。薄々自分でも分かっていたけど見ないふりをしてた。だけどその他愛もない一言で思い知らされちゃってね。」
アキラはそう言った。
我ながら反省した。これは聞くべきではなかった。そんなことを考えていると
「だけど彼女には罪はない。俺の顔を見るとほっとした顔をして大好きだったあの笑顔で笑いかけてくれる。今日家に帰ったってそうさ。だから余計苦しくてこういう風にしてはらしているんだよ。言い訳みたいで恥ずかしいけどね。家にいる年取った犬に会うために帰るみたいになってしまってる自分にも気付いているし全然いい人なんかじゃないさ。」
アキラは小さい声で苦笑いしながらそんなことを話した。
「ごめんね!暗い話になっちゃって。ご飯でも食べた帰ろうか。」
帰りにファミレスに行ったが味は全くしなかった。
家に帰って風呂に入っても頭の中であの話がぐるぐる回っていた。
思えば会う時間帯は普通仕事してるような時間ばかりだったし突然会えなくなる日もあった。
「愛」なんてものは建前なのかもしれない。心から愛し合っていてまるでテレパシーが使えているかのようにお互いを分かりあってるいるようなこと。愛する人が病気になってもいつまでも寄り添い続けるようなこと。これは本当に素晴らしい愛だと思うし理想的だと思う。
だけど相手のために嘘をつくこと。自分の心を騙してそれを死ぬまで続けることによって相手に寄り添い続けること。
それだって優しさだと思うし愛のかたちであると私は思う。その溜まった疲れを金を払い発散してそれで何とか仮面を維持しているのだ。
幸せかと言われればきっと難しいのかもしれないが表面しかみてない恋愛ストーリーより私はよっぽど愛を感じた。まぁそんなことを思っても私にはどうしようもないことなんだけども。
少し悲しくなって私は寝た。
あゆみ側の話を書きました。
次はアキラ視点から書きたいと思います。