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まさかとは思うが

作者: 尚文産商堂

「……まさかとは思うが、もう一度だけ聞くぞ。ちゃんと持ってきたんだよな」

「……ごめん」

彼女は、俺からの質問にそれだけ答えた。


遠足の楽しみの一つといえば、ご飯だ。

今日は高校の遠足ということもあって、野外で普段は作れないようなものを作ろうという話になっていた。

各班に分かれての調理実習といったところだ。

それで俺らの班は、牛肉たくさんのカレーを作るということにした。

米やジャガイモ、人参、玉ねぎみたいな具材は沢山ある。

ただ、肝心のカレールーを持ってくるのを忘れたようだ。

「どうするんだよ、カレールー無しのカレーて、それただの煮込みぶっかけ飯だろうが」

喚いても泣いてもどうしようもない。

「本当にごめん、何も言い返せない……」

「まあまあ。とにかく作っていかないとさ。こっちの昼飯がなくなるぞ」

俺と彼女の間に、別の班員が入ってくる。

「ま、忘れたことはしょうがないさ」

別のやつも言う。

とにかくここは落ち着くべきだろう。

そう思って呼吸を深くする。

落ち着いた頃に、言った。

「で、持ってきたものを確認しよう。牛肉、塩コショウ、無塩バター、小麦粉に牛乳?。他は野菜か。ジャガイモ、人参、玉ねぎ。あとは、水はそこから持ってくればいいか」

火元として使うのはレンガで組まれたコンロだ。

直火でいけるようになっていて、鍋や飯ごうはその上に乗せるための網がある。

「なんとかなりそうだ」

料理部の部員として、ここはどうにかしないといけない。

「そもそもなんで牛乳なんて持ってきたんだ」

班員に聞いてみる。

そいつ曰く、どうやら、辛いのが苦手らしく、牛乳で辛いのを落ち着かせることができるというのを聞いたからだそうだ。

さらにいえば、小麦粉は、たまたまだと言う。

「その偶然のおかげで、今日はシチューができるぞ」

「シチュー?」

「そうさ。それもホワイトソースからの、本格的なやつがな」

とは言っても、俺も作ってみるのは2度目だ。

1回目は料理部の部室で、先輩に言われるままに作っただけだし、今回はその記憶を頼りにするしかない。


それで、どうにかこうにか作ることはできた。

少し、ホワイトソースを焦がしかかったけど、主な失敗はそれぐらいだ。

「いただきまーす」

食べてみる、まあまあな出来だ。

「おいしぃっ」

つい30分前まで泣いていたのが嘘のように、彼女は笑顔だ。

「だろ?」

料理部のメンツは、どうやら保たれたようだ。

ほっとしている中、ほかの班のやつらがも様子を見に来た。

「お、カレーやめたのか」

「カレーよりも珍しいだろ?」

何も言わずに、そいつは持ってきていたスプーンで俺のシチューを一掬い持っていった。

「うめぇじゃん」

「だろ」

とにもかくにも、遠足が悲しい結果に終わらなくてよかった。

そう思いながら、俺は飯盒での炊き立てご飯と一緒に、シチューを食べた。

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