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量産型勇者の英雄譚  作者: ちくわ
三章 量産型勇者の歩く道
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三章十五話 『予想通りの行動』



「えーっと、ここから一番近い馬小屋は……」


 なんとか騎士団に見つからずに切り抜けたルークは、近くにある馬小屋を探そうと案内板を見ていた。

 馬小屋までの道を指でなぞり、ルートを何度も確認してから走り出す。


 幸い緑の閃光を使った事もあってか、先ほどの騒ぎが起こった場所へ向かう人々ばかりで、走るルークを気にするような人はいなかった。


「マジぃな、武器全部捨てちまった……」


 飛ぶのに集中するためとはいえ、あそこで剣を捨ててしまったのは失敗だっただろう。そのせいで武器を失い、ルークは本格的に丸腰になってしまった。

 しかし、ふと右腕に視線を落とした時、ルークはとある事に気付いた。


「そういやこれもあったな……」


 ビートが居た町でティアニーズから譲り受けたブレスレット形の魔道具、それが腕についている事に気付いたのだ。

 どうやらアルフードはこれをアクセサリーだと思ったらしく、取り上げる事はしなかったのだろう。


「ッたく、なんで桃頭の顔が出て来るんだよ」


 走りながら、ルークの脳裏に過ったのはティアニーズの顔だ。今も呪いによって体を蝕まれ、ベッドの上で苦しんでいる少女の顔。

 何故その顔が浮かんで来たのかは分からないけれど、自分が妙に苛立っている事だけは理解出来た。


 頭の中の地図を頼りにしばらく走り、ルークは東門の付近までたどり着く。

 流石に騎士団が総力を上げて捜索しているという事もあり、門の付近には警備と思われる男の姿が数人ほど確認出来た。


「……騎士団もバカじゃねぇか。となると、まだアイツはここには来てねぇな」


 聞こえはしないが、小声で会話を交わした後に男達の表情が引き締まったのを見るに、先ほどの情報はここまで知れ渡っているのだろう。

 物陰に隠れつつ、ルークは一旦門を離れて近くの馬小屋へと歩みを進める。


 馬小屋にたどり着くと、二人の親子らしき男達が鎧を着た騎士団の人間と話をしていた。

 遠目からなので顔は見えないが、髪の色からしてイリートではない。


「どうすっか……このままここで待つか? いや、アイツが馬を外に用意してる可能性だってあるしな……」


 卯なり声を上げながら考える仕草をとり、しばらく馬小屋を監視する事に決めたルーク。

 数分間その場でジっと待ってはみたものの、一向に人が現れる気配がない。


「クソ、誰も来ねぇじゃんか……仕方ねぇ、一回門の方まで戻るーー」


 痺れを切らし、ルークが東門まで戻ろうとした時、門の方向から激しい爆発音が響いた。慌ててそちらへ顔を向けると、瞬く間に炎と煙が上り始める。

 ルークは直感で理解した。

 イリートに先を越されたのだと。


「チッ、やられた! あの野郎、最初から馬を用意してやがったんだ!」


 言葉を乱暴に吐き捨て、ルークは壁に拳を叩き付ける。

 二人組と話していた騎士団が爆発のあった東門へと走り出したのを確認すると、一気に馬小屋に向かって走り出した。

 馬小屋に近付くに連れ、二人組の会話が耳に入る。


「困りましたね、今日中には出発して勇者の集まりに行きたかったのに」


「仕方ねぇだろオイ、勇者殺しとかいう面倒な奴が暴れてるらしいしな。しっかし、このままだと富豪から金を巻き上げた後に勇者として名乗りを上げるって計画が台無しだぜオイ」


「そうですね、やっとお頭が盗賊勇者として有名になる大事な機会だったのに。それにしても許せません、皆の希望である勇者を殺すなんて!」


「バ、バカ野郎ッ、こんな所で俺を勇者って呼ぶんじゃねぇよオイ。もし勇者殺しが近くに居たらどうすんだ」


「大丈夫ですよ! 僕とお頭が力を合わせれば勇者殺しになんて負けませんから。あ、そうだ、僕達で勇者殺しを退治しませんか? 強くて格好いいお頭なら余裕ですよね!」


「お、おうよ! 俺にかかれば勇者殺しなんてイチコロだぜオイ!」


 聞き覚えのある声にルークは思わず顔をしかめた。走る速度を落とし、ゆっくりと会話をしている二人組へと近付く。

 月明かりに照らされ、二人組の顔が鮮明に見えてくる。そしてルークはあからさまに嫌な顔をした。

 声だけではなく、顔も知っていたから。


「……オイ、なんでテメェらがここに居んだよ」


「アァ? 誰に向かって口きいてんだオイ! 俺様はいずれ世界に名前を轟かせる……って、テメェはあん時の!?」


「あぁ! あの時の強い人!」


「ルークだ、あの時の人とか呼ぶんじゃねぇ」


 頭にバンダナを巻いた男は、ルークの顔を見るなり眉をピクピクと痙攣させながら跳ね上がった。

 一方、その横に居る少年は目をキラキラと輝かせながら羨望の眼差しでルークを見つめていた。


 そう、忘れもしないなんだか付き合いのある二人。

 アンドラとアキンである。

 相変わらずの二人に呆れつつ、


「バンダナとちびっこ、なんでここに居るんだよ」


「アンドラだオイ! いい加減人の名前くらい覚えやがれってんだオイ!」


「アキンです! お久しぶりですね、僕あれから強くなったんですよ!」


 ルークの言葉に即座に反応するが、二人の感情は怒りと真反対の喜びである。

 今にも殴りかからんとするアンドラだったが、アキンがルークに対して恍惚とした眼差しを向けている事に気付いたらしく、大人しく引き下がると、


「ちょっとした用事があったんだよオイ。テメェには関係ねぇな」


「勇者の集まりに参加して富豪から金をぶんだくろうとしてたんだろ?」


「なんで知ってんだよオイ!!」


「全部丸聞こえだっての、お前絶対にアホだろ」


 危機感がないのか、それとも声のボリューム調整も出来ないのか不明だが、これでも一応有名な盗賊なのだからビックリである。

 ルークはアンドラの顔を見つめ、とある事を思い付く。

 ニヤリと口角を歪めると、悪魔以外の何者でもない笑みを浮かべ、


「お前らにちょっと頼みたい事があるんだけど良いかな?」


「な、なんだよその顔……ゼッテー良い事じゃねぇよなオイ」


「勿論ですよ! ルークさんには命を救われましたから!」


 震え上がるアンドラとワクワクしているアキン。

 二人に迫り、ルークは良い事を耳元で呟いた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 爆発が起こるよりも数分前、アルフードとトワイルはルークとイリートが暴れて崩れた路地裏を訪れていた。

 一般人で巻き込まれたという情報はないものの、瓦礫の下からは数人の焼けた死体が見つかった。


「アルフードさん、どう思いますか?」


「他に誰か居たって考えるのが普通だろうな。今まで静かに逃げて来た奴がいきなりこんな派手な事するとは考えられねぇ」


「俺もそう思います。一応付近の閉鎖は終わりました、次はどうしますか?」


 瓦礫を蹴飛ばし、落ちていた筒状の魔道具を拾い上げる。血まみれになっていた魔道具だが、誰かが握ったような手の後が残されていた。

 トワイルはそれを横から覗き込み、


「恐らくそれが使われた信号弾ですね。近くに手首だけが落ちていました」


「おかしい……誰がこれを使ったんだ? これを見る限り、手首が切り落とされてついた血だ。なのに手の後が残ってやがる……」


「他の団員が使ったのでは?」


「落ちていた位置と倒れてた位置を考えてみろ、信号弾を使った後に投げ捨てたのか?」


「確かにそうですね……となると、この場に居た第三者が使用したと考えるべき……」


「誰だか知らねぇが、わざわざ信号弾を打ってから逃げるって事は逃げる理由があるって事だ」


 魔道具を捨て、瓦礫を退かしながら歩みを進める。地面に広がる血は熱によって固まっており、焼け焦げたレンガや木材がそこら中に散乱していた。

 トワイルもその後ろに続き、なにか手掛かりがないか目を凝らして探す。


「トワイル、東門に何人か人を送れ。イリートはまだこの近くに居るか、外に出ちまったかのどっちかだ」


「分かりました、そっちには俺が行きます。アルフードさんはどうしますか?」


「俺はもう少しここを調べてみる。そっちもなにかあったら直ぐに知らせてくれ」


 そう言って去ろうとするトワイルに目を向けた直後、東の空に煙が上がっているのが見えた。遅れてトワイルも気付いたのか、アルフードを含めてその場に居た全員がそちらへと目を向ける。


「……やられたな、イリートに先を越された」


「まさか、あの煙は東門の方ですか?」


「俺達は一歩遅れてたって事だ、初めからゴルゴンゾアから出る準備をしてたんだろうよ」


 爆発音が聞こえて来なかったので、そこまで規模の大きなものではないだろう。しかし、問題なのは規模ではなくて場所だ。

 もし、今のが見張りを殺すためのものだとすれば、イリートは既に町を出てしまったという事になる。

 舌打ちをこぼし、小石を蹴飛ばすと、


「急ぐぞ、外に逃げられたら捕まえるのが難しくなる」


「……ここまで後手に回らせるとやりにくいですね」


「隊長!!」


 周りの部下を連れて東門へと向かおうとした時、一人の団員が駆け寄って来た。頭から血を流し、頬には焼けたような後が残っている。

 倒れそうになった男の体を慌てて支え、


「オイ、その傷はどうした」


「すいません……東門を突破されました。負傷者数名です。信号弾を奪われ、動けたのが私だけだったので援軍を呼びに……」


「分かった、お前はもう休んでろ。後は俺達がなんとかする」


 今にも倒れそうな男を座らせ、治療出来る人間を呼び寄せると、アルフードはその場を足早に去ろうとする。

 しかし、男はアルフードの腕を掴んで引き止める、


「もう一つ報告が……イリートの後を追うように三人組が門を突破して行きました」


「三人組? 誰だ、知ってる奴らか?」


「いえ、どこかで見たような気はしますが、恐らく知らない人間だと思います」


 その時点で、アルフードの頭には嫌な予感が過っていた。繋がりなんてないけれど、強いて言えば騎士の勘というやつだろう。

 そして、その考えが当たっているという事実を知るのに、大した時間はいらなかった。


「隊長! 報告が!」


「次から次へと今度はなんだ!」


 苛立ちながら走って来た団員に向けて怒鳴り付ける。

 部下は僅かに体を震わせ、肩をすぼめながら小さく呟いた。まるで、親に隠していた事がバレて白状するように。


「宿舎に閉じ込めていた男が脱走しました」


 その言葉を聞き、少しの沈黙の後で天をあおぎながら息を吐き出した。月を見つめ、頭の中でごちゃごちゃしていたものが一つ一つ繋がっていく感覚を覚える。

 そして、


「あんのクソ勇者が……!」


 呟き、アルフードは全てを理解した。

 この場で起きた事、そして東門から出て行った三人組の一人にその男が間違いなく含まれていると。

 勇者らしからぬ勇者、ルークが脱走したのだと。



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