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量産型勇者の英雄譚  作者: ちくわ
三章 量産型勇者の歩く道
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三章五話 『油断大敵』



「着いて来るんじゃねぇ」


「何言ってるんです、土地勘もお金もないのにどうやって宿を探すつもりなんですか?」


「そうだぞー、逃げても無駄だぞ。トワイルに絶対逃がすなって言われてるから」


 騎士団の宿舎を後にしたルークだったが、背後を付きまとう二人の少女に苛立ちを隠せずにいた。

 護衛という言葉を聞いて想像していた強そうな騎士とは違い、こんな二人に命を預ける事など出来る訳がないのだ。


 しかしながら、二人はしつこくルークに付きまとって来る。

 いつも通りの態度をとるティアニーズと、危機感の欠片も感じないコルワ。コルワに関しては、これから遠足にでも行くのかと思うようなテンションである。


「ふざけんな、もっと強そうなの連れて来い。これじゃガキのお守りじゃんか」


「ガキとはなんですか、私だって立派な騎士団の一人です。コルワだってこう見えても強いんですよ」


「お兄さん弱そうだもんね、多分私の方が強いよ」


「はいはいそうでちゅねー。子供はお家に帰って寝んねしてろ」


「ガキじゃないもん!」


 ルークの子供をあやすような言い方が気に触ったのか、コルワは跳び跳ねながら腕を振り回す。なんとか回避したものの鋭利な爪が頬を掠め、バランスを崩してしりもちをついてしまう。

 シャー!と爪を立てて威嚇するコルワに、


「テメ、いきなりなにすんだボケ! お前護衛だろ! 殺そうとしてんじゃん!」


「避けれたから大丈夫だよ! 意外と凄いね!」


「避けなかったら当てるつもりだったのかな!? 可愛い顔して意外と残酷なのね!」


「うへへ、ティア! 可愛いって言われたよっ」


「いきなりナンパですか、気持ち悪いですね」


 可愛いと言われたのがよほど嬉しかったのか、コルワはティアニーズへと駆け寄り両手を上げて喜んでいる。

 一方、ティアニーズさんは軽蔑の眼差しをルークへと向けていた。


「なにその目。俺今殺されかけたんだよ? もうちっと大丈夫ですかとかないのかな」


「大丈夫ですか……コルワ。変な所触られてない? あの人直ぐに触ってくるから」


「うん、大丈夫だよ!」


「俺だよ! 俺を心配しろや! 護衛って仲間だよね!? 味方なんだよね!?」


「変態は別です」


 感情のない瞳で辛辣な言葉を浴びせるティアニーズ。

 勇者殺しに襲われる前に殺されるのではという不安が過り、ルークは二人をシカトして歩き出した。

 とはいえ、頑固者であるティアニーズはそんな簡単に諦めてくれる筈もなく、結局は三人で行動する事になってしまった。


 しばらく歩く事数分。土地勘もなく、どこに何があるか分からないルークは宛もなくさ迷っていた。

 町並みを見るだけでもある程度の気晴らしにはなるが、それを邪魔するようにストーカーが着いてきている。


「なぁ、マジで着いて来るつもりなのか?」


「当然です、貴方は勇者なんですから、狙われる可能性が非常に高いんです。それに、放っておくとどこで何をしでかすか分かったもんじゃありません」


「何もしねぇよ。つか、食料買って早く王都に行けば良いじゃん」


「それは出来ません。今勇者殺しはこの町に居ます、捕まえるには絶好のチャンスなので、勇者殺しを捕らえるまではこの町に泊まる事にしました」


「勝手に決めんな。そもそもお前が俺の事勇者って言わなきゃ済む話だろ」


「分かってますよ、この町ではルークさんの事を勇者とは呼びません。貴方も名乗らないで下さいね」


「俺産まれてきて一度も自分の事勇者だって言った事ないよ」


 相も変わらず、どことなく喧嘩ごしな二人。これと言って仲が悪い訳ではないのだが、お互いがーー主にルークがティアニーズを避けているのは明白だった。

 それもその筈、ルークからすればティアニーズはただの誘拐犯で、ルークは被害者なのだから。


 さりとて、強引に逃げ出す事が出来ない以上、ルークは王都に行くまでは彼女の指示に従わなければならない。

 分かってはいたが、それを思い出して大きなため息を吐き出した。


「ねぇねぇお兄さん」


「なんだ猫耳」


「コルワだよ! お兄さんって勇者なんでしょ?」


「違う。つか言った側から俺の事勇者って呼んでんじゃん。桃頭さん教育ちゃんとしてね」


「コルワ、その人の事勇者って言ったらダメだよ。死んじゃうから」


「君達本当に俺の事守る気ある?」


 真顔で物騒な発言をするティアニーズ。

 コルワは元気よく頷くと、ルークの周りをぐるぐると回りだした。

 ピョコピョコと動く猫耳をモフリたい衝動にかられていると、コルワはルークの手にある布にくるまれた剣を指さし、


「それって勇者の剣?」


「多分そう」


「貸して貸して!」


「ほいよ」


 特に警戒心も抱かずに、簡単に勇者の剣を手渡すルーク。

 コルワも何気なくそれを受け取るが、手にした瞬間に剣はあり得ない重さとなり、重さに負けてバランスを崩すコルワの手からこぼれ落ちた。


「おぉ! 全然持てない! すっごく重いよ!」


「やっぱ俺以外には持てねぇのか。これ持てる奴がいれば押し付けて逃げられんのに」


「ルークさん、それは貴重な物なんですからむやみやたらに手離さないで下さい」


 横で見ていたティアニーズに忠告され、ルークは『へいへい』と適当な返事をしながら剣を拾い上げる。

 そして、改めて剣の異様さに気づく事になる。


 今まで剣を手にした者はルークとティアニーズしかおらず、正直に言えば信頼はしていなかった。しかし、今目の前でコルワが持てないのを見るに、やはりこの剣はルークにしか扱えない物なのだろう。

 ルークは少し考え、妙案を思い付いたように手を叩くと、


「そうだ、これ使える奴が勇者なんだよな? つー事はだ、適当に勇者集めて剣を持てる奴を探せば良いんじゃね?」


「確かにそうですね」


「だよな、んじゃ早速騎士団の力で人を集めてくれよ」


「それは出来ません。良いですか、勇者の剣は魔元帥を倒せるだけの力を秘めています。そんな物を公にして人を集めるなんて事をすれば、それを狙う魔元帥が来るかもしれません。つまり、危険過ぎます」


「チッ、かなり良い案だと思ったのに。いやまてよ……」


 ルークは再び思考を重ねるように腕を組んだ。

 ここはゴルゴンゾア、アスト王国の五大都市とも呼ばれ、集まる人は様々である。つまり、その中に勇者が居る可能性は多いにあるという事だ。

 まだ諦めるには早いと微笑んだが、


「歩いている人に声をかけて剣を持てるか試すなんてのはダメですからね。もし渡した相手が勇者殺しだったらどうするんですか」


「何故分かった。お前そんな魔法使えるっけ?」


「ここ数日で貴方の考える事が少し分かるようになって来ました。悪知恵だけは立派な事に」


「悪知恵とはなんだ、名案と呼びたまえ。でもそうだよな、いきなり切りかかって来る頭のおかしい奴と遭遇すんのは勘弁だ」


「分かったら大人しくしてて下さい。もうすぐ宿に着きますから」


 ぐうの音も出ないくらいに論破され、しかもそれを認めて納得してしまい、ルークは固く結んだ腕をほどいた。

 その後も打開策を考えながら歩いていたが、結局何も思い浮かばずに泊まる宿へと到着。


 中に入ると、席についているのは屈強な男や大量の武器を身につけた女性達だった。

 ビート達が住んでいた町とは違い、賑わい、そして内装はシャンデリアやお洒落な観葉植物が設置されている。

 五大都市とは名ばかりではないようだ。


「今日はここに泊まります。その前に食事にしましょう、朝から何も食べてないので」


「そうだな、お前が大食いだから」


「違います、ルークさんが食べ過ぎなんです」


「私もいっぱい食べるよー!」


 よく分からない張り合いをしつつ、三人は空いてる席へと座る。

 注文をとり、ティアニーズは宿の予約をするとの事で一旦席を外した。

 ルークは店内をぐるりと見渡し、


「ここっていつもこんなにうるせぇのか?」


「そうだよー、勇者とか魔獣ハンターとかのたまり場になってるから」


「……それってまずくね? 勇者が大量に居んなら勇者殺しが来る可能性あんじゃん」


「だいじょーぶだいじょーぶ、あそこ見て」


 そう言って、コルワはカウンターの横の席に座る数人の男達を指さした。他の客とは違う雰囲気を放っており、身につけている装備もどことなく値がはりそうな物である。

 ようするに、めっちゃ強そう。


「宿とかのお店は騎士団の人達が見張ってるし、今は勇者殺しのお話で持ちきりだから、けーびは凄いの」


「ふーん、確かにあのおっさん達に挑むのはアホかバカだけだな」


「今は私とティアも居るし、皆警戒しながらご飯食べてるんだよ」


「飯の最中まで気をはるとか……本当に迷惑な奴だな」


 何となく納得し、ルークは運ばれて来た食べ物を食べ始める。

 コルワの言う通り、良く良く見れば全員が武器を肌身離さず食事をとっていた。それほどまでに、勇者殺しとはこの町で話題性のある存在なのだろう。

 とはいえ、ルークは他人事だと思っているので、布を巻いたままの剣をテーブルに立て掛けながら箸を進める。


 しばらくすると、予約を終えたティアニーズが肩を落として帰って来た。

 コルワの横の椅子に腰を下ろすと、


「最悪です……一つしか部屋をとれませんでした」


「またかよ、どこの町も部屋の数もっと増やせよ」


「私に聞かないで下さい。でも、護衛なので寝る時も一緒というのは仕方ありませんね」


「皆で寝るの? お泊まりみたいで楽しみだね!」


 楽しそうに食べ物を頬張るコルワとは違い、ルークの心中は不安で満たされていた。

 その理由は簡単で、問題はとある人物の寝相が恐ろしいほどに悪いからだ。


「まてまて、お前らは良くても俺は良くねぇの。特に桃頭、お前の寝相が悪すぎる」


「そんな事ありません。ルークさんが私を引き込んでいるんです」


「誰がお前なんかを引き込むかよ。お前こそ、俺と寝たくてわざとやってんじゃねぇの?」


「ち、違いますよ! 誰が貴方みたいなけだものと一緒に寝たいんですか!」


 ティアニーズは前の事を思い出したのか、顔を真っ赤に染めて立ち上がる。と、それど同時に建物内にガシャン!と食器が割れるかん高い音が響き渡った。

 一瞬、ティアニーズが何か落としたかと思って見るが、本人は首を横に振っている。


 改めて見渡し、ルーク達だけではなくその場の全員が音の発生源へと目を向ける。

 男だった。

 派手に食器をぶちまけ、テーブルの上に寝る男。

 そして、それを見下ろすように金髪の男がたたずんでいる。


「……なんだアイツ」


 異様な焦燥感を覚え、ルークは無意識に剣へと手を伸ばした。

 金髪の男はテーブルで寝ている男を見る、それからその場の全員に向けてこう言った。


「ごめんね、楽しい食事の時間を邪魔してしまって。大丈夫、僕は本物の勇者だから」



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