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量産型勇者の英雄譚  作者: ちくわ
七章 精霊の契約
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七章閉話 『昼下がりの来客』



「フフフフ! どうだ見たかツンデレクイーン! 俺だってやれば出来るんだよ!」


 声高らかにそう宣言し、右腕を天に向けて突き上げる勇者がいた。


 シャルルと別れたあと、右往左往したものの、ルークはなんとか泊まっていた宿に戻る事に成功した。いくら迷子の呪いがかけられている(?)とはいえ、二十歳の男性が本気を出せばお茶の子さいさいなのである。


「まぁ、俺ってば学ぶタイプだし、戦いの中で飛躍的に成長するタイプだし、このくらい朝飯前ってか俺二日も飯食ってねぇのかよ」


 突然鳴り響く空腹を告げる音。気づかないうちは良かったが、なにも食べていないと認識した瞬間にこれである。騒がしいメロディを奏でる腹を押さえつつ宿に入ろうとしたが、その瞬間、ルークはとある少女を見つけた。


 桃色の髪の少女が、宿の入り口でウロウロとしていたのである。

 そして、目があった。


「「あ」」


 同時に放たれた五十音の最初の文字。

 二人の視線が交差し、数秒間フリーズ。

 ティアニーズはおろおろと慌てふためいた様子だったが、ルークはそのまま歩き出しーー少女の横を通過した。


 直後、


「な、なんで無視するんですか!」


 という声ののち、ルークの右腕に少女がしがみついて来た。いや訂正。しがみつくというよりは、完全に関節をとりに来ている動きである。

 腕をとられ、肘を固められ、


「いたたたた! いきなり関節技決めてくんなボケ!」


「だってルークさんが無視するから! それよりいつ起きたんですか!? もう動いて大丈夫なんですか!?」


「起きたのはさっき! 大丈夫だけどダメになりそう!」


 危うく両腕骨折という箸すら握れない事態に陥りかけたが、高速で舌を回して事情を説明すると、ティアニーズは納得するように腕を離した。

 ルークが右腕の安否を確認していると、


「ほ、本当にもう大丈夫なんですか?」


「へーきだっつってんだろ」


「な、なら良かったです。それより、どこに行ってたんですか?」


「ちょっとお出かけ」


「ル、ルークさんが一人で出掛けて一人で帰って来た!?」


「おーけー、病み上がりだけど喧嘩なら買うよ?」


 ティアニーズの驚きはもっともである。

 今まで一人でどっか行って、一人で無傷で帰って来れた事があっただろうか?いやない時点でおかしいのだが、それくらいにルークの迷子癖はひどいのだ。


「冗談はさておき、どこに行ってたのか教えてください」


「どこでも良いだろ。お前には関係……いや、ベルトスの墓だよ」


 関係ないと言いかけて、ルークは唇を止めた。あまり事情は知らないが、ティアニーズがこうして無事でいられるのは彼のおかけでもある。そしてなによりも、きっとルークの知らない時間が二人にはあった筈だ。

 その予想は当たっていたのか、ベルトスの名を聞いた瞬間、ティアニーズの瞳が揺れた。


「お墓、作ったんですね……」


「一応な。今はシャルルがなんかやってる」


「私にも場所を教えてください。あとで、ちゃんと報告したい事もありますから」


「おう」


 ベルトスがいなければ、ティアニーズはきっと取り返しのつかない場所まで行っていただろう。結果的に救い出したのはルークだが、彼女の心をルークよりも先に救っていたのは、他でもないベルトスなのだった。


 重苦しい空気の中、ルークは話題を逸らすようにティアニーズへと視線を向ける。


「つか、こんなところでなにやってんだよ。とっとと入れば良いじゃん」


「へ? そ、それはそうですねぇ。今入ろうとしてたところです」


「シャルルがお前を見たっつってたぞ。つー事は、かなり前からここでさ迷ってんだろ」


「う……。ルークさんのくせに鋭い」


 今のはルークでなくても見抜けていただろう。明らかに視線は泳いでいるし、先ほどから両手を後ろに回してなにかを隠そうとしている。桃色の髪という事もあり、主に悪い意味で目立ちまくりである。

 ルークは半歩横に移動し、ティアニーズの背後へと視線を移そうとするが、


「な、なんですか?」


「いやなにって、お前さっきからなんか隠してんだろ」


「な、なにも隠してないですよ? 全然、これっぽっちも」


「紙袋」


「な、なんで知ってるんですか!? …………はっ!?」


 見事なまでの自爆である。

 シャルルが紙袋を持っている姿を見たと言っていたが、どうやら先ほどから隠しているのがそれのようだ。ティアニーズは全身をビクっと分かりやすいくらいに跳ねさせ、


「そ、そうですよ! 紙袋ですよ! なにか文句でもありますか!?」


「なに開き直ってんだよ、別に文句なんて言ってねぇだろ」


「ルークさんには関係ありません。これは、その……エリミアスへのプレゼントです!」


「あーそう」


 彼女の怪しい態度はさておき、エリミアス自身からうるさいくらいに聞かされていたので、ルークは疑う事なく納得した。……納得はしたが、先ほどの関節技を忘れた訳ではない。それになによりも、ここまで隠す必要のある物の正体が知りたいのである!


 なので、


「俺にも見せろ」


「嫌です」


「あー、体痛いなぁ。どっかの誰かさんがちゃんと守ってくれなかったからなぁ。腕折れちゃったなぁ」


「……いじわる」


「事実だからね」


 わざとらしく左腕を押さえてうずくまるルークに、ティアニーズはなにも言い返せない。それを分かっているからやっているのだが、やはりこの男の性格はクソッタレである。


「このまま左腕が一緒動かなかったらどうしようかなぁ。大変だよなぁ、お箸も握れないもんなぁ」


「ルークさんは右利きです」


「まだ女の人抱き締めた事ないのに、このまま抱き締められないのかぁ。嫌だなぁ、怖いなぁ」


「う……」


「俺の人生、どこで狂っちゃったのかなぁ。本当だったら村で平和に暮らしたたのになぁ」


「わ、分かりましたよ! まったく、なんでそんなに性格悪いんですか!」


 酷い棒読みだったが、同情を誘う作戦は成功したようだ。ティアニーズが我慢出来なくなり、隠していた手を前に突き出すと、その手には小さな紙袋が握られていた。

 ルークはその紙袋を凝視するが、当然中身は見えない。


「なにそれ?」


「教えません」


「う、腕がぁぁ」


「思いっきりぶん殴ってやりたい」


 左腕に封印された悪魔が目覚めそうだったので、ルークは慌てて押さえる。

 ピクピクと眉を動かしながらも、ティアニーズはやり返す事など出来る筈もなく、今度こそ諦めたように紙に手を突っ込んだ。


 しかし、直ぐに中身を出す事はせず、


「あの、目を瞑っていてください」


「は? なんで? いきなり殴るの?」


「私をなんだと思ってるんですか。いや、ちょっとやろうと思いましたけど。良いから黙って閉じてください」


 今の発言により、なおさら視界を閉ざす訳にはいかなくなった。

 ティアニーズは紙袋に手を突っ込んだまま、僅かに頬を染めて上目遣いでルークを見ている。それを見た瞬間、ルークの脳ミソが瞬間的に答えを導き出した。


「キスすんの?」


「するかバカ!」


 どうやら違ったらしい。

 そしてティアニーズも、食いぎみというかほぼルークが口を開いたと同時に否定した。耳まで真っ赤に染め、肩を上下に揺らしながら呼吸を整えるティアニーズ。


「目を、閉じてください」


「へいへい。殴んなよ? やり返すかんな?」


「殴りませんよ」


 恐る恐る目を閉じると、なにやら前方でガサゴソと紙袋を漁る音が聞こえた。それから一旦音が途切れたかと思えば、右腕を誰かに握られ、そこからカチャカチャと金属が擦れる音が鳴った。そして、右腕にあった重さが消えた。


「え、なにやっての? 大丈夫だよね? このまま俺の右腕改造されてビームとか出るようになんないよね?」


「なりません。そんな技術あったらルークさんをちゃんと守れてーーコホン、次喋ったら殴ります」


 目を閉じていても分かるほどの殺意を感じたので、そら以降事が済むまでルークは一言も発さずに黙っていた。それから数十秒経過し、右腕に触れていた人の手の感触が消え、新たに手首にひんやりとしたなにかが残った。


「も、もう良いですよ」


 オーケーサインが出たので、ルークはゆっくりと瞼を上げた。最初に視界に入ったのはティアニーズ。恥ずかしそうに目を逸らしていた。

 ルークは視線を下ろし、自分の右腕を見ると、


「あ? これって……魔道具か?」


 以前までつけていた魔道具が消え、新品の魔道具が手首に巻き付いていた。銀色をベースに、いくつかのカラフルは宝石らしきものが埋め込まれている。素人のルークにも、これが以前の物より性能が良いと分かってしまうほどに綺麗だった。


 物珍しそうに魔道具を眺めていると、ティアニーズがポツポツと語り始めた。


「ずっと同じ物をつけていましたし、今までの戦闘でボロボロになっていましたから……これから先の事を考えて新しいのをと思いまして……」


「別にあれでも良かったけどな。魔道具の良し悪しとか分からねぇし」


「そっちの方が装填出来る魔法の数が多いんです。きっと、今まで以上に戦いは厳しくなる……だから、やれる事はなんでもやるべきなんです」


「ふーん」


 あまり感心がないような返事だが、ルークとしても使える魔法が増えるのは頼もしい。斬撃の数に上限がある以上、戦う方法は多いに越した事はない。

 なので、非常に助かる。

 助かるのだが、ここで一つ疑問がわいて来る。


「つか、エリミアスにあげんじゃねぇのか?」


「え? そ、それはその……」


「アイツ勝手に突っ込むし、持たせといた方が良いだろ」


「えと、えと……」


「アイツが怪我して文句言われんのは俺だしよ」


 冷や汗をダラダラと垂れ流し、オロオロとその場で足踏みを繰り返すティアニーズ。

 そんな彼女の心中なんて知ったこっちゃないルークは、新品の魔道具を外そうとするがーー、


「ルークさんのために買って来たんです!!」


 ティアニーズの叫び声が、辺りに響き渡った。

 周りを歩く人々の足が止まり、叫び声を上げた少女へと視線が集まる。ティアニーズの目の前に立つルークは、二度ほど大きな瞬きを繰り返し、


「いや、声でけぇよ。なんかめっちゃ見られてんじゃん」


「そ、それくらい察してください!」


「なんも言わねぇのに察せる訳ねぇだろ」


「う……だ、だって、恥ずかしかったんですもん」


 視線を上下左右に泳がせ、ティアニーズは恥ずかしそうに拳を握り締めながらうつ向いた。

 その姿はまさに、ルークが思い描いた乙女というやつそのものだった。


 ただ、ときめくかと言われればそんな事はない。

 年下の女の子が勇気を振り絞ってプレゼントを渡すーーもしかしたら、それは世の中の男性の一度は経験してみたいシチュエーションに入っているのかもしれない。が、何度も言うがこの男のタイプはボインのお姉さんなのである。


 とはいえ、


「……あんがとな」


 魔道具を取り外すのを止め、ルークは顔を逸らしながらそう言った。お礼を言う事自体に抵抗はないが、なぜかこの少女の顔を見て言うのは照れくさいのである。

 ティアニーズは顔を上げ、


「い、一応考えて買ったんです。色々悩んで、デザインとかも……」


「お洒落でつけてんじゃねぇんだから、見た目なんてなんだって良いだろ」


「またそういう事を……良いんです、私の自己満足なんですから」


「ま、ありがたく浮けとっとくわ。んで、それはどーすんの?」


 なぜか腕に良く馴染む感覚があるので、ティアニーズが色々と考えて買ったというのはあながち嘘でもないのだろう。手首周りのサイズを把握している事には謎があるが、とりあえず今は置いておこう。

 ルークは指をさした。

 ティアニーズが大事そうに握り締めている、ルークが以前使っていた魔道具を。


「もう使わねぇんならエリミアスにあげたらどうだ?」


「ぜ、絶対にダメ!」


「汚れてっけどまだ使えんだろ」


「ダ、ダメと言ったらダメなんです! そ、そう! 変態エキスとかついてかもしれませんから!」


「そんな趣味ねぇよ。つか、変態エキスってなに、どこから分泌されんの? え、もしかして俺手首からそんなの流してんの?」


 どうやらエリミアスにあげる気はないようだ。

 ルークは自分の手首を見て変な汁が出ていないか確かめるが、当然そんな神秘的な構造ではないので、変態エキスなんて出ている訳がなかった。


「も、元々私が買った物なんですから、私が管理します」


「別に良いけどよ、匂いとか嗅ぐなよ?」


「そ、そんな事しないもん!」


「どうだか、お前俺の事大好きじゃん」


「好きじゃないもん! バーカ!」


 ともあれ、ルークは新しい装備を手に入れた。

 古い魔道具の使用方法には謎が残るが、追及したところでティアニーズは答えてくれないだろう。一人でブンブンと腕を振り回すティアニーズに背を向け、


「早く行こーぜ。歩き過ぎて疲れたわ」


「そ、そうでした、まだ病み上がりなのを忘れてました」


 ハッとしたように回転させていた腕を止め、ルークの吊るされている左腕を見て肩を落とすティアニーズ。

 それから足並みを揃えて宿に入ろうとした時、背後から聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「意外と元気そうだな」


「あ?」


 背後に立っていたのはソラだった。

 その横にアキン、そしてさらにその横にケルトという非常に珍しいトリオがそこに立っていた。心なしか、精霊二人に挟まれてアキンは居心地が悪そうに肩をすぼめている。


「よう。……なんか珍しい組み合わせだな。ちびっこの事いじめるとおっさんがキレるぞ」


「変な言いがかりをつけるな。私とケルトはただ話を聞いていただけだ。だろう?」


「は、はい。ちょっとだけ、お話をしただけです」


 明らかに言わされている感はあるのだが、恐怖というよりも、今のアキンの表情はなにか悩んでいるようにも見える。

 ルークはケルトに視線を移し、


「なんの話?」


「それはソラさんから聞いてください。私が話すべき事ではありませんから」


「なんじゃそりゃ。んで、なに?」


「ここでは人が多すぎる。部屋に戻って話そう」


 ソラもソラで、いつもとは様子が違う。

 ケルトは声色で判断するしかないのだが、ルークにはその違いを判断する事は出来なかった。

 という事で、五人はそのまま宿の中へと入って行った。


 背後からの重苦しい空気にルークとティアニーズは不思議そうに首を傾げながら階段を上がり、ルークの部屋の前に到着。と、部屋の前にエリミアスがキョロキョロと誰かを探すように立っていた。


 ルークを見つけるなり目を輝かせ、


「ルーク様! やっと見つけました」


 パタパタと足音を立てながら駆け寄って来ると、隣に立つティアニーズを見て、


「ぬ、抜け駆け!」


「ち、違うよ。たまたま会っただけだってば」


 開口一番、意味の分からない事を口にした。

 頬を膨らませて不機嫌そうなエリミアスに対し、ティアニーズは眉を寄せて困り顔だ。しかし、次の瞬間には元の表情に戻り、


「あの、ルーク様とソラさんにお客さんが来てるのです」


「客? 知ってる顔か?」


「はい、ルーク様も一度お会いした事がある筈です」


「ルークだけならともかく、私もか?」


 ルークとソラは顔を合わせて考えるが、二人とも思い当たる人物がいなかったのか、顔を揃えてエリミアスを見た。

 考えても分からず、ルークはエリミアスの横を過ぎて部屋の中へと足を踏み入れる。


 部屋の中には三人の人間がいた。

 一人はアテナ。一人はアンドラ。

 そして最後の一人はベッドに腰をおろし、親しげにアテナの言葉を交わしている。恐らくあれがお客さんなのだろうけど、


「いや誰だよ」


「お、来た来た……って、もしかして忘れちゃったんすか? 前に城で会ってる筈なんすけど」


「城? 城、城、城……」


 妙に馴れ馴れしい男の態度に、ルークは自分の記憶を探るように男の顔をまじまじと見つめる。確かに言われれば、どこかで見た事のあるような顔をしている。

 そしてなによりもーー瞳が赤かった。


 唸りながら考え続けるルークの横に立ち、ティアニーズが答えを口にした。


「ナタレム、さん? どうしてここに」


「お、お久しぶりっすね。いやぁ、会えて良かったっすよ。色んなところ回ってようやくここにたどり着いて……疲れたなぁ」


「ナタレム? そういやそんな奴いたような」


 以前王都を訪れた際、バシレと妙に仲良く話している男がいたなぁーー程度のあやふやな記憶だが、確かにどこかで会った事があった。しかしながら、わざわざ会いに来るような関係ではない。となると、バシレからの伝言、と考えるのが普通である。


「んで、そのナタレムだっけか? 俺に会いに来たらしけど、なんの用だよ」


「それ、それっすよ。実のところまだ覚悟が決まってないんすけど、ここまで来たらもう引き返せないっていうか」


「良いから用件を言え」


 額に指先を押し当て、なにか考えるように首を前後に動かすナタレム。言動からして適当に見えるが、本気で悩んでいるようにも見える。

 すると、ケルトがルークを押し退け、


「……なぜ、貴方がここに?」


「ん? お、まさかこんなところで会えるとは……こうして会うのは五十年以上ぶりっすかね?」


「そんな事はどうでも良い。貴方はずっと隠れていた筈じゃ……」


「そうもいかなくなったんすよ。事情が事情なんで……それに、契約してるんでね」


 まるで知り合いかのような二人のやり取りに、ルークを含めてその場の全員が首を傾げる。

 ケルトもその視線に気付いたのか、一旦ナタレムから目線を逸らし、


「皆さんは、これとお知り合いなんですか?」


「知り合いというかなんというか……まぁ、顔見知りではあるな」


 これという言い方はさておくとして、ケルトの質問に答えたのはアテナだ。説明の仕方に若干口ごもったのは、恐らくそれだけ曖昧な関係という事なのだろう。

 ナタレムはベッドから投げ出した足をバタバタと動かし、


「一応、王様の側近やってるんでね。まぁまぁ、つもる話もあるけど、先にこっちの用事を済ませても良いっすか?」


「まてまて、お前ら知り合いなの?」


 完全に他の人間を蚊帳の外に置いたままトントン拍子で進む話に、待ったをかけるルーク。

 そして、次の瞬間、ケルトの口から衝撃の事実が語られた。


「知り合いもなにも、これは精霊です。そして、私はこれが作り出した精霊です」


「?」


 全員の頭の上にはてなが出現し、辺りの時間が止まったかのように全ての音が消えた。その中でニコニコと微笑むナタレム、そして冷静な様子でナタレムに顔を向けるケルト。

 まぁ、当然の如く、特大の『なんじゃそりぁぁ!!』が響き渡った。


「は、え、お前精霊なの!? つか、前に会った時も目ぇ赤かったっけ?」


「い、いえ、そんな筈ありません! 私は小さな頃からナタレムさんを知っていますが……」


「そこは俺の力で、ね。透明な壁で瞳をおおって、あとは光をちょちょいと調整してーーてな感じで」


 全員が口を開いて硬直している中、なんとか言葉を絞り出したルークとエリミアス。王の側近という事で、エリミアスは幼い頃から面識があったようだが、この様子ではまったく知らなかったのだろう。


 一瞬して室内の雰囲気がガラリと変わり、意図せぬ登場人物に頭の整理を急ぐ面々。

 しかし、ソラは動揺する訳でもなく、いつもの調子で問い掛けた。


「貴様がなんだろうがどうでも良い。私とルークに用があるんだろう?」


「……アルト、いやソラさん。前に会った時は軽ーく動揺しちゃって黙ってましたけど、改めてお久しぶりっす」


「その名を知っているんだな。ならばもう、貴様を疑う理由はない。それで、用件は?」


「実はお二人にお願いが。俺と一緒にとある人達を説得してほしいんすよ」


 赤い瞳、そしてソラの本当の名前を知っている。その時点で、もうナタレムが精霊か否かを疑う理由がなくなった。

 ナタレムは投げ出していた足をしまい、空気を入れ換えるように咳をしたあとベッドから下りた。


 そのまま歩みを進め、ルークとソラの前に立つ。

 人差し指を立て、そのまま上を指差すと、


「精霊の国に行って、あの頭でっかちのアホどもを説得してほしいんすよ。今度こそ、魔獣に勝つために。魔王を、ゼユテルを殺すために」



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