七章五十三話 『悪人の戦う理由』
「……おかしい、どういう事だ」
「あ? 戦闘中によそ見してんじゃねぇよオイ」
眉間にシワをよせ、顔を逸らしたヴィランを見た瞬間、アンドラは泥の鞭を掻い潜って拳が届く距離まで迫ろうと走った。しかし、阻むように地面が盛り上がり、そこから突き出す泥の槍が頬を掠め、慌てて後ろへと跳躍。
頬の擦り傷に触れ、
「めんどくせぇな、こっちは魔法も使えねぇってのによオイ」
「どういう事だ……もう時間の筈だぞ」
「さっきからなに言って……って、上の事かオイ」
一人でブツブツと呟く姿を不審に思い、アンドラはヴィランの視線の先へと顔を向ける。上、二階を見つめ、そこでようやく彼がなぜ不機嫌なのかに気付いた。
「残念だったな、お前の計画は失敗だぜオイ」
「……失敗? なんの事だ、たとえ一つ潰されたところで計画に支障は出ない。それに……門が閉じたという事はあの女が死んだって事だろ」
「お前なーんも分かってねぇんだな、あのバカが行ってんだ、死なせる訳ねぇだろオイ」
「たとえアイツが言ったところで状況は変わらないさ。それほどの絶望を、俺はティアニーズに与えたんだ。誰の言葉も、届きやしない」
なにかを思い出すように顔を伏せ、自分の体を抱き締めるヴィラン。その肩は震えており、その頬は緩んでおり、その口元は不気味に歪んでいた。
アンドラはわざとえずくふりをして、
「おえ……気持ちわりぃ笑い方だなお前。確かに、誰の言葉も届かねぇかもしれねぇ。人ってのは基本的に誰かに慰めてほしい生き物だ。気にしないで、関係ないでって言う奴は特になオイ」
「あぁ、だがもう、アイツはそんな次元とっくに通り過ぎている。たった一つの希望に、自分の命を投げ出す手段にとり憑かれている。もう、手遅れなんだよ」
「もう一度言ってやるよ、なんも分かっちゃいねぇ。お前はティアニーズを、ルークをなんも分かっちゃいねぇ」
「なにを言っている」
アンドラだって、ルークを詳しく知っている訳ではない。かつあげしようとした人間と、されかけた人間ーー恐らく、その程度の関係でしかない。
仲間意識がないとは言わないが、アキンのように危ないところを無茶してまで助けようとは思わないだろう。
ただ、それは心配していないからではない。
あの男は、勝手に助かるのだ。
たとえどんな困難でも、自分の足で踏破する力を持っている。
それに、
「もし、助けに行ったのが他の奴なら無理だったかもな。ティアニーズに優しい言葉を投げ掛けて、死ぬ必要はねぇって言うだろうしよオイ」
「それじゃあ、アイツは救えない」
「そもそも、だ。ルークは救う気なんてこれっぽっちもねぇよオイ。優しい言葉を投げ掛ける訳もねぇし、なんだったら暴言を浴びせに行ったまである。アイツは空気読まねぇしな」
大丈夫だよと、もう心配ないよと、普通の人間なら言うだろうか。
けど、そんな事ルークは絶対にしない。
人を気遣い、その心に優しく触れるなんて事、絶対にしないしやろうとも思わないのだ。
でも、だからこそ連れ戻す事が出来る。
今のティアニーズには、優しい言葉を与えるよりも、お前のせいだと誰かに告げられる方が心に響く筈だから。
「アイツのしつこさ、知らねぇだろお前? 一人の人間ボコすために魔元帥倒して隣町まで行くような奴だぜ? そんな奴が、素直に死なせる筈がねぇんだよオイ」
「……だとしても、少なからず善意がある筈だ。ティアニーズが本当に望む事なら、それを優先するためにーー」
「ねぇよ、アイツに善意なんてねぇよオイ」
ハッキリと、アンドラは断言した。
付き合いは短いしそれほど仲も良くないが、それだけは断言出来るから。多分、彼と数時間一緒に過ごせば誰だって分かる。
あの男は、勇者に向いていないと。
「希望なんて言葉は似合わねぇ。絶望って言葉も似合わねぇ。なんつーか……俺も言葉じゃ上手く言えねぇけどよ……アイツはそういうもんひっくるめて、全部ぶっ壊せる奴なんだよオイ」
その時、上の階から爆発音のようなものが聞こえた。天井が激しく揺れ、パラパラと石の床が二人の頭上に降り注いだ。
その音を聞いて、アンドラは笑みを浮かべる。
その音を聞いて、ヴィランは眉を寄せる。
「どうやら、門はきっちり破壊出来たみてぇだなオイ」
「クソが……あのクソ勇者が……!」
「まてまて、お前の相手は俺だろーがオイ。お前のその怒り、全部俺に向けて来いよ」
一人苛立った様子のヴィランに向けて中指を立て、挑発するように口角を上げた。
ヴィランは頭を冷やすように首を振り、
「まぁ良い、たった一つ破壊されたところでなにも変わらない。どうせアイツらは魔元帥に殺されるだけだ」
「そりゃ残念、死なねーよ。負けるのはお前らだオイ」
「全員死ぬさ。いや俺が殺す、絶望していく綺麗な顔を見るんだ。そのために……そのために今日まで俺は頑張って来たんだからな!」
男を目の前にして、アンドラには彼がなにを考えているのかまったく分からなかった。それに、彼を理解出来るようになってしまったら、人間としてなにか大事なものをーーいや、大事なものをなくしたその時、ようやく理解出来るのだろう。
だが、そんな事どうだって良い。
理解する必要なんてないのだから。
ヴィランが、動いた。
「テメェみてぇなただの人間に、精霊の力も魔元帥の力もない人間に! 俺が止められる訳ねぇだろうが!」
一気に体から溢れ出した泥が背中に集まり、蜘蛛の足のようなものが形成される。ヴィランの手足のように蠢き、足の先は鎌のような鋭さを持っていた。
多分だが、あれに切りつけられたら人間の体なんて簡単に一刀両断されてしまうだろう。
そんな脅威を前に、
「おうおう、なんでいっつも化け物みてぇなのと戦わなくちゃいけねぇんだよオイ。こちとらただの盗賊だぞ」
「この町に来たお前が悪い。俺の邪魔をした、俺の前に立ち塞がったお前が悪い!」
「それはちげぇ、ここは元々俺の町だ。ただ帰って来ただけだぜオイ」
思えば、あの青年と出会ってからろくな事がない。アキンと出会えたものの、それまで一緒に旅をして来た仲間を失い、魔元帥なんて訳の分からない化け物と戦い、挙げ句の果てには魔王の復活にまで巻き込まれた。
そして、アンドラは今、人類の脅威とやらと戦っている。
本当に、本当にまったく、
「楽しいねぇ、オイ」
楽しくて仕方なかった。
別にこれまでがつまらなかった訳ではないが、物を盗んで、人を殺して、そんな下らない事の繰り返しだった人生に、ほんの一筋の光がさした気分だった。
あの青年と出会い、あの少女と出会い、アンドラには守りたいものが出来た。
こんな自分に綺麗事を並べる資格なんてないけれど、ようやく、自分のやりたい事を自信を持って言えるようになった。
誰かを守るために戦うというのは、こんなにも満たされるのだと、アンドラは知った。
「お前が他の町で好き勝手やる分には手出ししなかっただろうよ。でもな、今この町には俺の大事な大事な弟子がいる。お前がこの町を壊すって事は、その大事な弟子も殺すって事だろオイ」
「大事な弟子? そんなの俺が気にするとでも思うか? 全員だ、全員殺す。全員絶望の中に沈んで行くんだよ!」
「させねぇよ、一応この町には思い出が……嫌な思い出しかねぇけどよオイ」
まだこの町に住んでいた頃の事を思い出し、アンドラはあからさまに嫌な顔をした。ガジールと喧嘩し、アルフードと喧嘩し、メレスと喧嘩し……ともかく、喧嘩してばかりだった頃の事を。
まぁとりあえず、それは一旦頭の隅に置き、
「お前がアキンを傷つけるってんなら容赦なく殺す。町とか国とかは知らねぇけど、俺はアイツを守るためにお前を殺すぞオイ」
「どうせお前もろくな人間じゃないんだろ? そんな奴が誰かを守る? 笑わせるな、そんな事したってお前の罪はなくならない、贖罪にはならないんだよ」
「バーカ、んな事分かってんだよオイ。俺は悪い人間だ、これまで生きるためならなんだってしてきた、ろくでもねぇ人間だ。でもよ……」
殺した人間の数なんて数えきれない。
それが悪だと分かっているし、許されない事なのも分かっている。
でも、だからなんだ。
たとえ、自分が底無しの悪だとしても、
「守りてぇ、そう思っちまったんだよオイ」
理屈なんてない。
ただ、そう思ってしまったのだ。
あの少女にだけは、笑っていてほしいと。
「アイツのためなら俺はなんでもやるぞオイ。それこそ、町一つ潰したって構わねぇ」
「そんなの、守ったとは言えない。なにかを守るためになにかを捨てる、そんなのは本物の救いとは言わない」
「関係ねぇ。合理性なんて知るかボケ。アイツを守るためなら、人間だろうが精霊だろうが、魔元帥だろうが魔王だろうが殺すっつってんだよオイ!」
駆け出す。
たとえそれが罪だとしても、守りたいと思ったから。
自分の罪を認め、許されない人間だと認め、誰かを守れる人間ではないと認め、それでもなお、これがやりたい事だと胸をはって言えるから。
ーーそれが、アンドラの勇気だから。
「お前には誰も守れない! 俺と同じだ、人の命を奪った時点で社会のゴミクズなんだよ!」
「かも、しれねぇなオイ!」
迫り来る足。耳元で風を切る嫌な音が聞こえ、その度に恐怖によって全身の筋肉が収縮する。動きがぎこちなくなり、回避するために必要な筋肉が上手く働いてくれない。
だが、進む。
鎌が肉を抉り、皮膚を裂き、血が飛び散る。
それでも、進む。
「お前に一つ良い事を教えてやるよオイ。俺はただの人間じゃねぇ」
「なに、言ってやがんだ!」
接近すればするほど、鎌の動きが複雑になりヴィランまでの道筋が狭まる。
横も、後ろも、上も、どこにも逃げる道はない。
ならば、進むだけだ。
一番危険な場所へ、一歩を踏み出すだけだ。
そして、ようやくたどり着く。
拳を握るアンドラに対し、ヴィランも半歩引いて拳を握る。
その顔を見据え、アンドラは言う。
「俺は、悪人だ」
悪人と悪人と拳が、激突した。
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西門近くの門へ向けて走っている道中、隣を走るシャルルがこんな事を言った。
「あの、言い出しっぺの私がこんな事言うのは変だけど……戦力としてはあんまり期待しないでよね」
「フッ、そんな事を言って、しっかりと剣を握っているじゃないか」
「だ、だって私だけなにもしない訳にはいかないじゃない。ただ見てるだけなのも嫌だし……」
「それで良い、それだけで十分だ。彼らに道を示した君が武器を手に進んでいる。それだけで、彼らにとっては十分な希望になる」
「そ、それなら良いんだけど……」
不安そうに表情を曇らせるシャルルに、アテナは優しく微笑んだ。
鍛冶屋を営んでいる人間から武器を借り、慌てて騒ぎを聞いて駆けつけた騎士団の人間も仲間に加わり、西門組みは十分な戦力を得ていた。
騎士団の人間はアテナを見た瞬間に腰を抜かして完全にビビっていたが、そこはうまい具合に丸めこんだ。恐らくこんな状況になった事を説教されるとでも思っていたのだろうが、長らく騎士団を離れていたアテナにそんな事を言う資格はない。
資格はないし、そんな事に時間を使っている暇もなかった。
アテナは振り返り、一人の騎士団に声をかける。
「言われた通りに人を回してくれたか?」
「はい! もしもの時のために控えさせた人間を除き、他の者は全て指定した場所へ向かわせました。ですが……時計塔は……」
「あぁ、あそこは良い。言ったところで足手まといになるだろうし、邪魔だと言われて追い返されるのが目に見えている」
「本当に、魔元帥がこの町に? しかも……それと戦うために勇者が……」
「自分を責めるのはあとにしろ。君の責任ではない。もっと前から、戦争が起きる前からこの町はこうなっていたんだ。もし責任があるとすれば、それを見過ごして来た騎士団、そして団長である私、この国の責任だ」
「……はい。今は、この町を守るために全力を尽くします!」
「期待しているぞ」
悪事を見過ごして来た人間も悪になるとすれば、騎士団も国も悪になる。そんな事を言い出したらきりがないし、この国にはテムランのような場所はまだまだあるだろう。
その全てを取り締まる事は出来ない。犯罪全てを撲滅する事なんて出来ない。
それでも、そんな未来のために、騎士団は戦っているのだ。
起きた事を悔いても仕方ない。
今は事の解決と、これからどうするべきかを考えるべきなのだ。
しばらく走り、ベルトスが言っていた場所の付近にたどり着いた。
あらかじめ先回りさせていた騎士団の人間により、ほとんど避難は済んでいる。とはいえ、避難よりも戦う事を選んだ人間の方が多いのだが。
「しまったな、門と言っても具体的な形を聞いていないぞ。比喩的な言葉なのか、それとも城門のようなものなのか……ともかく探そう。怪しいものがあったら直ぐに私に知らせてくれ」
大量の魔獣が現れる門ともなれば、目立たないなんて事はないだろう。大きさにしろ違和感にしろ、アテナならば一目で分かるようななにかの筈だ。
一旦散り散りになり、門を探すために辺りの散策を開始。
アテナとシャルル、それから数人を連れて適当に付近を歩き回ってみたものの、特にこれといって怪しいものは見つからなかった。
とりあえず元の場所まで戻り、
「こっちはなにもなかった。なにか見つけた者はいるか?」
全員が顔を見合せ、しかし怪しいものを見つけた人間はいないようだった。
すると、一人の男が声を上げる。
「な、なぁ、まさか嘘の情報伝えられてたなんて事はないよな?」
「……その可能性もある」
「だったら!」
「しかし、今は彼の、ベルトスの言葉を元に探すしかない。それが嘘だろうが、誠だろうが、な」
「……嘘なんて、ついてないわよ。確証がある訳じゃないけど……きっと、きっと嘘なんかじゃ……」
彼らにとって、ベルトスが敵だという事実は変わらない。ベルトス達のせいで自由を奪われたのだ、そんな簡単に信用出来る訳がないし、信用しろと言う方が無理な話だ。
そして、それはシャルルにとってもだ。
あくまでも、ベルトスは敵だ。
けれど、シャルルは信じていた。
理由なんてない。信じたかったから。
そんな時、
「お、おい! これを見てくれ!」
重い空気が流れ始めた頃、数人の男達が慌てた様子で血相を変えて走って来た。視線の先には小屋があり、その回りに数人が集まっている。
アテナとシャルルは顔をあわせ、駆け足でそちらへ向かう。
「なにかあったのか?」
「お、おう。でもなんて言えば良いか……と、ともかく見みてくれ」
歯切れの悪い口調に首を傾げつつも、アテナは小屋の中へと足を踏み入れる。そこは空き小屋だったらしく、特に物が置いておらず、錆びた鎌や木材、ゴミ捨て場のような状態が広がっていた。
そして、小屋の中心。
地面に、なにか紋様のようなものが刻まれていた。
「これは、空間に亀裂が入っているのか……?」
「なに、これ」
紋様の真上に、割れたガラスのように亀裂が入っていた。なにもない空中、それこそ空間そのものが割れているような光景だ。
思わず、生唾を飲み込んだ。
亀裂から得体の知れない悪寒を感じ取ったからだ。
アテナは息を深く吸い、
「恐らくこれだろうな。幸い、まだ魔獣は出て来ていない。とりあえず君達は離れていてくれ、破壊出来るか試してみる」
シャルル以外の人間が外へ出たのを確認すると、アテナはすかさず亀裂に向けて狙いをすますように掌を向ける。
「壊せなかったら、どうするの?」
「その時はその時だ。溢れ出す魔獣を片っ端から殺すしかない」
「簡単に言ってくれるわね」
「私がいる、なにも心配はないさ」
呆れた様子のシャルルを他所に、アテナは一人不敵な笑みを浮かべて掌に意識を集中させた。攻撃対象は奇妙な亀裂、威力を押さえる必要はなく、この小屋ごと吹き飛ばすつもりの一撃。
火花が散り、アテナの掌に炎が集まる。
魔力を練りに練り込み、そしてーー、
「ーーーー!?」
ーーバキバキバキ!!と音が鳴った。
アテナが魔法を放つよりも早く、空間に刻まれていた亀裂がさらに広がる。その奥に、なにかを見た。真っ赤に光る瞳、その瞳が、数えきれないほど亀裂の奥で蠢いているのを。
「これは、ふむ。まいったな」
苦笑いを浮かべ、アテナは容赦なく魔法をぶっぱなした。
燃え盛る炎は真っ直ぐに亀裂へと突き進みーー亀裂には当たらなかった。その亀裂から姿を現した、犬のような魔獣を跡形もなく消し飛ばした。
そして、それが合図となった。
それが、始まりだった。
「シャルル!!」
「えーー?」
声を荒げ、アテナは全力でシャルルに向かって飛び掛かる。襟首を掴み、扉をぶち破って外へ飛び出そうとするが、
「ふせろ!!」
アテナが見たのは顔だった。
巨大な顔。普通の人間の身長くらいの顔が、亀裂から飛び出して来る瞬間だった。
顔とくれば次はなんなのか、そしてあの顔の巨大さから考えるに、胴体はどれだけデカイのか。
ーーそんな事を考えながら、二人の体は大きく投げ出された。
亀裂から現れた巨大な魔獣は小屋を内側から突き破り、辺りの小屋もまとめて腕で凪ぎ払う。まるで、自分が立つのに邪魔だとでも言いたげに。
「ぐッ……大丈夫か、シャルル」
「う、うん……って、なによあれ……」
なんとか背中から着地し、顔をしかめながらも即座に立ち上がる。土煙に目を細めながらも、シャルルは顔を上げた。
顔を上げ、視界に入ったそれを見た瞬間、シャルルの表情が固まった。
アテナも、まったく同じ反応をしていた。
「……これは」
目の前に立つのは、四メートルくらいの巨人だ。見た目は人間とそこまで変わらないが、額には角のようなものがはえている。
そして、それが数体。
今見えているだけでも、視界の中に六体の巨人が見えた。
その足元から、今度は犬のような魔獣が姿を現した。あの魔獣には見覚えがある。馬車で逃げている時、こちらを追いかけて来た魔獣にあんな感じのがいた。
それが、数十匹。
今もなお、その数を増やしていた。
その他にも、小型の魔獣の姿も見える。
「シャルル」
「やるっきゃないでしょ。ここまで来たんだもん、もう、あとには引けない」
「あぁ、そうだな」
剣を握り締め、シャルルは立ち上がった。
足は震え、唇は青ざめ、今にも泣きそうな顔をしている。
それでも、恐怖に抗い、皆の希望であろうとしている。
ならば、と。
アテナは立った。
誰一人、恐怖に負ける者はいなかった。
現れた魔獣を、これからも増える魔獣を見て。
それでも必死に走り出す。
勇気を、胸に。
「ーー行くぞ!!」
剣を掲げ、アテナが叫ぶ。
人間と魔獣。
この町を守るため、戦いの火蓋が切られた。