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量産型勇者の英雄譚  作者: ちくわ
七章 精霊の契約
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七章四十四話 『静かな夜明け』



 その日の夜、ティアニーズは星空を見上げていた。

 万が一の可能性もあるため、あの馬小屋に帰る訳にはいかず、かといって町をフラフラと出歩く事も出来ないので、町の外れの小さな空き地ーーその真ん中に立つ巨木に背中を預けていた。


 ろくに飯も食べず、昨日の夜からずっとこの長子だ。人通りがあまりないので、人目を気にする必要もないのだが、たまーに通りかかる人からは変な目で見られていた。

 しかし、ティアニーズはそんな事気にしない。

 いや、気にする余裕はなかった。


「…………」


 あれから、色々と考えた。

 ベルトスに言われた事、ヴィランに言われた事。

 本当に自分が欲しかったものはなんなのか、本当に歩くべき道はこれで良いのか。

 様々な想いが駆け巡り、とてもじゃないが一日で全てを整理するのは難しい。


 だが、逃げないと決めた。

 分からなくても、難しくても、考える事を辞めたくはない。

 そう、思ったからだ。


「ふぅ……」


 小さく息を吐き出すと、腹から空腹を告げる音が鳴った。昨日の晩からなにも食べておらず、思えばここ数日はまともな食にありつけていなかった気もする。

 ティアニーズは腹を擦りながら、


「私は、弱い」


 確認するように呟く。


「私のせいで、トワイルさんは死んだ」


 一つ一つの言葉を噛み締めるように、呟く度に間を空けて、その度に頷く。


「私は、ゴルークスさんに酷い事を言った」


 思い出すのは、魔獣の村で出会った親と呼ばれる魔獣の男だ。

 冷静さを失っていたという事もあるが、ティアニーズは彼に酷い事を言った。確かに、彼のしてきた事は到底許されるようなものじゃない。戦争で人の命を奪い、もしかしたらティアニーズの父親は彼に殺されたのかもしれない。


 けれど、ゴルークスには意志が、罪の意識があった。

 自分のやってきた事を悔い、恥じ、そして前に進もうとしていた。人間のように静かに暮らしたいという願い。そんな平凡な願いさえ、ティアニーズは頭ごなしに否定してしまった。


「ちゃんと、謝りたかった」


 彼のおかげで、ティアニーズはーーいや、あの青年達はこうして生きていられる。ゴルークスが命をとして助けてくれたからこそ、今も命を持っていられる。


 彼は、人間だったと思う。

 贖罪のために人を助け、命を投げ出してまで自分の子供を守ろうとしていた。そこには魔元帥のような残忍さはなく、ただ暖かい誰かを思いやる気持ちがあった。

 自分なんかよりも、強い人間だったと思う。


「…………」


 彼は言っていた。

 人間は美しいと。人間のもつ誰かを思う気持ちは、とても綺麗だと。

 そこに憧れ、そうありたいと思っていたと。

 だから、


「逆だよ……」


 ティアニーズは、そうでありたいと思った。

 あの場で誰よりも人間だったのは、誰よりも他人を想っていたのは、他でもない魔獣のゴルークスだった。

 彼のもつ意志の強さ、死してなお負ける事のないものだった。


 そんなゴルークスを、ティアニーズは羨ましいーーそう思ってしまった。

 自分なんかよりも人間で、優しくて、勇気があってーー自分の仲間を、子供を、本気で守ろうとしていた。


「ごめんなさい」


 この言葉は、ゴルークスには届かない。


「酷い事を言ってしまって、すみませんでした。貴方は人間のふりをしていたんじゃない……ちゃんと、人間でした」


 彼がこの言葉を聞いたら、きっとこう言うだろう。

 気にするなと。

 優しい笑顔で、人間の笑顔で。


「あの場の誰よりも、私なんかよりも、貴方は立派でした。誰かを守りたいと思う気持ち、そのために命を投げ出す勇気。貴方は……立派な勇者でした」


 自然と笑みがこぼれ落ちていた。

 本来なら本人にきちんと言わなければいけない言葉だ。しかし、もうそれが届く事はない。

 言って、晴れやかになりたいという自己満足でしかないが、ティアニーズはやっと、その言葉を口にする事が出来た。


 そして、思う。

 そんな人間に、なりたいと。


 自分にはそんな力がない事は分かっている。

 暴力も意志も、並の人間よりも劣っている。

 口だけはいっちょ前のくせに、勝手に突っ込んで結局は誰かに助けられるーーそんな、ちっぽけな存在でしかない。


「でも……」


 ティアニーズが欲しかったのは、なにかをねじ伏せるための暴力なんかじゃない。

 困っている人を、泣いている人を、絶望に溺れかけている人を。

 そんな人間の手を引いて、引きずりあげてやれる力が欲しかったのだ。


 これも、結局は自己満足だ。

 でも、それでも。


「笑っていて、ほしいんです。もう、誰にも死んでほしくないんです」


 ただ、それだけだった。

 目の前で人が傷つくのは嫌だ。

 誰かが死ぬのは嫌だ。

 涙を見るのは嫌だ。

 誰の手も掴めない、そんなのは嫌だ。

 それが、嫌だった。


 泣いて、叫んで、暴れて、それでもどうにもならない出来事を解決する力が、笑って手を差しのべて、『もう大丈夫だよ』と言える力が欲しかった。


 だってーーその方が、格好良いから。


 幼かったティアニーズが亡き父親の話を聞いて、初めに抱いた感情がそれだった。

 誰かを助けられる人間は格好良い。

 そんな子供のような憧れが、願いが、ティアニーズの原点だった。


「私も、なれるかな……」


 答えはない。

 当たり前だ。自分自身に問いかけたのだから。

 その答えは、自分にしか分からない。

 誰かに言葉を貰って、安心感を得たところでなにも変わらない。


 結局は、自分で決めるしかないのだから。


 だから、少女は選ぶ。

 どの道を歩くのか。

 なにかを壊すための力なのか、なにかを救うための力なのか。

 どちからかを、選ぶ。


 自分が本当に欲しかったものを。

 手を伸ばしてなおも、指先すら届く事のなかったものを。

 ティアニーズは掴むように、空へと手を伸ばす。


「……まだ、間に合うのかな」


 青年に酷い事を言った。

 守らなくてならない少女に酷い言葉を浴びせ、その上自分のせいで怪我まで負わせてしまった。謝ったところで許されるような事じゃないし、笑顔で言葉を交わす事を拒否されるような事だって言った。


 でも。

 あの顔が、少女の笑顔が頭を過る。

 絶対に謝らせると言った、あの顔が。


「……まだ、戻れるのかな」


 居場所なんかない。だって、自分で捨てたのだから。

 それなのに、また戻りたいだなんて都合が良すぎるのは分かってる。何度も何度も殴られて、何度も何度も謝って、それでも戻れる訳がない事も分かっている。


 でも。

 まだ、間に合うのなら。

 まだ、戻れるのなら。


 ティアニーズは空を掴んだ。

 確かに残る感触を確かめるように、自分の拳を見つめる。


「私はーー」


 少女は決意した。

 その答えは誰にも分からない。

 進むのか、戻るのか。


 少女は出した答えを胸に秘め、静かに瞳を閉じた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 一方その頃、テムランの中心にそびえ立つ巨大な時計塔の二階。奴隷商人をまとめ、この町を腐らせた悪人達の集う場所だ。

 二階は基本的に整備する時にしか使われないので、内装はすっきりとしていてシンプル。悪人達が自ら持ち込んだ家具は置いてあるが、それでも生活するには不十分な設備と言えるだろう。


 その部屋の中心。

 一つのテーブルを囲うように、四つのソファーが設置してある。

 その中の茶色のソファーに腰を下ろし、誰もいない筈の空間に男が呟く。


「もうすぐだ。明日になれば、俺の望むものが手に入る」


 恐らく、彼は笑っているのだろう。

 不気味に歪んだ口元、眉間にはシワがより、目元は先ほどからピクピクと痙攣するように震えている。

 ヴィランは、さらに言葉を続ける。


「長かった。本当に長かったよ。この町に来てから約五年。初めは新しいおもちゃが手に入っただけと思ってたが……長持ちして俺は満足だ」


 ヴィランがこの町を訪れたのは五年前。

 彼はアスト王国出身ではない。テムランから少し行ったところにある国境、その国境検問所を越えた先にあるネラトクア王国出身の人間だ。


 元々そっちの方面に関わりのある仕事をしていたヴィランがこの町に興味をもったのは、至極シンプルな理由だ。

 奴隷で金を稼げるから、それが面白そうだったから、というものだ。


 アスト王国から他の国に行く事は厳しく制限されていたが、他の国からアスト王国に入国するのはさほど難しくはない。自分から魔獣が巣食う場所に行くのなら止めない、というのが各国のスタンスだからだ。

 しかし、入ったらもう元には戻れない。

 だが、ヴィランはそこに一切の躊躇いをもたなかった。


 テムランに訪れた、まず最初にやった事は奴隷商人達の大本を探すというものだ。噂は様々で、一人がやっていたり数人、または組織で経営していたりとあったが、ヴィランは気にせずに調査を続けた。

 時には売人のふりをしたり、時には客のふりをしたり、そうしてヴィランは二年という歳月をかけ、その組織にたどり着いた。


 ーーそして、リーダーの男を殺した。


 元々つてのあったヴィランが組織に潜りこむ事は容易く、意図も簡単にリーダーへの接近は叶った。その日に、ヴィランは行動を起こした。

 なにも難しい事はない。

 寝ていたリーダーの男の首を、ナイフで切りつけただけだ。


 駆けつけた部下達に殺されかけたりはしたが、それでもヴィランは笑みを崩さなかった。まるで、目の前の男達をバカにしたように、どれだけ殴られても笑い続けていたのだ。

 そして、男達は理解したのだろう。

 このヴィランという男は、自分達とはまったく異なる人種なのだと。


 そこからは多く語る必要はない。

 次第に壊滅していった組織の中から数人を引き抜き、一からを建て直し、元々あった売買のルートを仕様して商売を続けた。リーダーが死んだという噂を消し、あたかも同じ人間が続けているように。


 そして現在、数ヶ月前にやって来た魔元帥と協力関係を結び、新たな仲間を増やし、ヴィランは悪人として今もこの町に君臨している。


「長かった……本当に長かったよ。だが、それも明日のためだ」


 彼の本当の望みを知る人間はいない。

 ヴィラン自身、誰にも話そうとはしないし、話したとしても理解されないと分かっているからだ。

 ベルトスも、ロイも、カストリーダも、そして魔元帥も。


 彼らはあくまでも駒。

 産まれてからずっと満たされなかった思いを、穴を埋めるための手段でしかない。

 だが、


「あの女は……ティアニーズは最高のプレゼントだ」


 あの少女だけは別だ。

 目的の達成を直前に控えたヴィランの元に、神様とやらから送られた最高のプレゼント。

 ヴィランは肩を揺らし、抑えきれない笑みを爆発させる。


「この町を壊すのは大事だが、その前にやらなくちゃならねぇ事がある。あぁ……早く見てぇな……早く、早く早くぅ」


 ここまで邪悪な笑みを浮かべる事の出来る人間がいるのだろうか。

 その行為は全て、たった一人の少女に向けられている。愛とか友情ではなく、もっと歪んだ感情。


 ーー少女の絶望した顔が見たいという、理解不能な感情だった。


「落ち着け……明日まで我慢だ。だが……今日までずっとためてたもんを発散するんだ、興奮しちまっても仕方ねぇよな」


 ヴィランは自分の体を抱き締め、恍惚とした表情であの少女の事を思い出す。ただそれだけ、それだけなのに、悪人の笑みが一層深まった。

 気持ち悪いとか、不気味とか、狂ってるもか、もうそんなちんけな言葉では表せないほどに。


 そんな時、足男が響いた。

 カツカツと続き、上の階から誰かが下りて来たようだ。

 扉が開かれ、姿を現した男は顔をしかめ、


「お前の笑い声が上まで響いているぞ。うるさいから少し黙れ」


「悪い悪い、ちょっと興奮しちまってな。魔元帥にもあんだろ? 嬉しくて震える事とか」


「他の奴は知らないが俺にはない。今のお前の顔を見たら、ウルスあたりが喜びそうだ」


「つまんねぇ生き物だな。俺はもっと殺して殺して殺しまくる奴らだと思ってたが……お前らの目的はなんだ?」


「……それを知ってどうする?」


 瞬間、魔元帥の声のトーンが落ちた。

 敵意や悪意がある訳ではないが、その声だけでヴィランの笑みを消すには十分だったらしい。


「知ったところでお前には理解出来ない。ここから先は、ただの人間が立ち入って良い領域じゃない」


「その言い方だと、人間じゃなくて精霊が関係あるって事か? でもよ、お前らもーー精霊だろ?」


 だが、ヴィランは怯む事はない。一瞬だけ失せた笑みを復活させ、無表情の魔元帥に向けて言葉を放つ。

 魔元帥は僅かに眉を動かし、


「元を辿ればな。だがもう違う、違うからこそ俺達は地上にいるんだ。俺は、違う」


「なぁ、そろそろ話してくれても良いんじゃねぇのか? 俺も興味あるんだよ、魔元帥の……いや、魔王の目的ってやつにな」


「……話したところで理解出来ないさ。同じ俺にも分からないんだからな」


「父親なんだろ? 理由とか聞かされてねぇのか?」


「知っている。知っていて理解出来ないんだ。そんな事をしても意味はない。親父の目的を果たしたとしても、待ち受けているのはただの『終わり』だからな」


 魔元帥の言葉から彼らの目的を探ろうとしたが、ヴィランのもう知識ではそこまで到達する事は出来なかった。

 ヴィランが魔元帥から聞かされているのは、あくまでも彼らの正体だけで、その先のなにかーー彼らがなぜ人を殺すのかまでは知らされていない。


 魔元帥は上の階に戻ろうと背を向け、


「明日、全ての門が順調に開けば目的に大きく近付く。絶対にしくじるなよ」


「力を与える代わりに手を貸せ、それが俺達の契約内容だったけな。ちゃんと成功させるが……契約って破ったらどうなるんだ?」


「別にどうにもならん。俺がお前を殺すだけだ」


「怖いねぇ。流石は魔元帥だ」


 適当な様子で口笛を吹き、まったく怖がる様子のないヴィラン。

 魔元帥はその姿を見てやれやれといった様子で肩を落とし、自分の瞳を指差した。


「ヴィラン、お前がなにを企んでいるのかは知らない。だが、発言には気をつけろ。ちゃんと、見ているぞ」


「はいはい。流石に魔王を敵に回すような真似はしませんよ」


 最後まで飄々とした態度に、これ以上言っても無駄だと判断したのか、魔元帥は舌を鳴らして上へと上がって行ってしまった。


 残されたヴィランは体を休めるようにソファーに深く座るーーが、ここでなにかに気付いたように扉へと目を向ける。

 上からではなく、下から続く扉。

 その扉の前には、いつの間にか人が立っていた。


 その人物の顔を見た瞬間、ヴィランの顔が苛立ちを見せる。


「……また忘れものか?」


「いんや、今日はちょっとした野暮用を思い出しただけだ」


 そこに立っていたのはベルトス。

 どこから話を聞いていたのかは分からないが、口を出さなかったのを考えるに、彼の野暮用というのはヴィランに対してだろう。

 ベルトスは笑みを浮かべながら、余裕の態度をとるヴィランへと近付く。


「なんの用だ? 残念だがティアニーズはいないぞ」


「もう俺は嬢ちゃんには関わらねぇよ。伝えたい事は伝えたし、こっから先は他人が口出しするべきじゃねぇ」


「なら、なぜここに来た? 明日までは来ないと言っていただろ」


「言っただろ、野暮用だってな」


 ヴィランが面倒くさそうにベルトスから視線を逸らした瞬間ーー頬に衝撃が走った。

 体が大きく跳ね上がり、ソファーをなぎ倒してヴィランの体が床に投げ出される。

 倒れ、数秒間じっとしていたが、ゆっくりと体を起こし、自分の口角から垂れる血液を拭き取ると、


「なんのつもりだテメェ。いきなり殴るとは、随分な挨拶じゃねぇか」


「悪いな、俺はこういうやり方しか知らねぇんだ。それは、お前も良く知ってんだろ?」


「おいおい、まさか謀反ってやつか?」


「難しく言葉使うんじゃねぇよ」


 ヴィランの頬を全力で殴り飛ばしたベルトスは、拳の感触を確かめるように握り締めた。

 そして、次の瞬間には彼の体から泥が溢れだし、その拳をコーティングして行く。


「……俺達のルール、忘れた訳じゃねぇんだよな?」


「裏切り者は殺す、だろ? ならやって見ろよ」


「なるほど、それは裏切ったって事で良いんだよな?」


「元々俺はテメェの仲間になったつもりはねぇ。俺が従ってんのは、親父だけだ」


「死んだ人間に対していつまでも忠誠を誓うとは……泣ける話だねぇ」


 ヴィランは体を起こし、口の中にたまった血液を乱暴に吐き出した。今の一撃で奥歯が二本ほど折れ、頬に突き刺さっているのが分かった。

 しかし、それでもヴィランは笑っていた。

 ベルトスの裏切りすらも、楽しむように。


「ずっと思ってたんだけどよ、やっぱ組織にはリーダーが必要だと思うんだわ。でも、それはテメェじゃねぇ」


「俺じゃないとすれば、カストリーダか? それともロイか? ……いや、ロイには無理だな。あとは……魔元帥か?」


「俺だよ。俺がここを仕切る」


「なんも変わっちゃいねぇんだな。そうやって、前のリーダーにも噛みついたんだろ?」


「黙れ」


 ヴィランの挑発的な言葉を、ベルトスはたった一言でねじ伏せた。

 その瞳には明確な怒りが宿っており、その感情は体から溢れる泥にも反映されているようで、鞭のような泥が風を切る音を響かせている。


「俺はバカだからよ、こういうやり方しか知らねぇんだ。どっちが上かはっきりさせようぜ、暴力でよ」


「……舐められたもんだな。まさか、暴力でなら俺に勝てるとでも思ってんのか?」


「思ってるからここにいるんだろ。テメェのご託は聞き飽きた、人をたぶらかしてもて遊んで、最後はおもちゃを捨てるみてぇにドブに投げ入れる。気にいらねぇんだよ、テメェのそのやり方が」


「それがおもちゃの正しい使い方だろ。飽きたら捨てて、新しいのを手に入れる。お前もガキの頃そうじゃなかったのか?」


「悪いな、俺のガキの頃はおもちゃなんか与えてもらえなかったんだわ」


 ベルトスの怒りを煽るように、わざと彼の過去に触れる。しかし、気にする様子はなく、すでに彼の頭の中はヴィランを殴る事でいっぱいになっているようだ。

 ヴィランは腕を回し、


「最後に聞いてやるよ、なんで裏切った?」


「強いて言うなら……自分の道を見つけただけだ」


「そうか。残念だよ、お前は貴重な駒だったのに」


 そこで、会話は終わった。


 これから繰り広げられる殺しあいで、二人が言葉を発する事はなかった。ただ力を振るい、相手を殺すためだけに頭と体を使う。


 ーーどちらも、相手を殺す事になんの躊躇いもなかった。



 そして、夜があけた。

 昨日と同じように朝日が上り、町全体を照らすように日が射し込む。


「うっし、行くか」


 勇者の青年とその仲間達は、戦いに向けて家を飛び出した。



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