七章三十四話 『変わる勇気』
「おっそぉぉぉッい!!」
「へぶッ!!」
開口一番、というか出会い頭に、ルークの喉元へと白い頭が突っ込んで来た。今までは胸やら腹やらで済んでいたが、どうやらそれではあまり効果がないと気付いたらしい。的確に急所を狙った見事な一撃である。
白い頭は喉仏に直撃し、一瞬ルークは口から喉仏が飛び出しそうな感覚に陥った。
そのまま後頭部から地面に落下したルーク。
白い頭の精霊はその上にまたがり、
「貴様、なにをしていた」
「え、いや、シャルルから訊いてねぇの?」
「聞いた、聞いたが私は貴様の口で知りたいのだ」
「えーと、昨日のボサボサ頭と喧嘩してーー」
「うるさい!」
「理不尽!」
ルークの言葉を遮り、ソラは腹の上で無謀にもジャンプ。着地の瞬間に臓器がしっちゃかめっちゃかになった気がするが、多分気のせいだろう。うん、気のせいであってくれ。
「あれほど一人で……いや、言っても仕方ないな。今回ばかりは私も我慢の限界だ」
「まてまて、んな事より重要な事があんだろ」
このままでは折角死の淵から帰って来たのに、戻るというか突き落とされてしまう。腹の上で暴れるソラをなんとか抑えつけ、ルークは黒焦げになった家を見る。
ガジールの家は全焼していた。
火の元は分からないが、近くに建っていた家も巻き込まれたらしく、立ち並ぶ数件が無惨な姿へと変わっていた。
焦げ臭いにおいが鼻を刺激し、思わず顔をしかめた。
焼け落ちた屋根と思われる黒いなにかが地面に落ちており、灰が空中に漂っている。周りから咳き込む声や、涙をすする音が響く。
「あぁ、アテナとアキン、それとシャルルがどうにかした。まったく、こんな大事な時に貴様は……」
「文句ならあとにしろ。いやあとでも聞かねぇけどよ」
「ソラの言い分も分かるが、今はそこまでだ」
そう言って倒れるルークの横に現れたのは、服のあちこちに焦げ跡をつけたアテナだ。目立った外傷はない。恐らく、住人を助けるために家に飛び込んで行ったのだろう。
「シャルルから話を聞いた時は肝を冷やしたが……あまり重症には見えないな」
「色々あったんだよ。つか、シャルル間に合ったのか?」
「間に合ったもなにも、死人が出なかったのは彼女のおかげだ。誰よりも率先して動き、燃えた家に突っ込んで行ったよ。流石にやり過ぎだとは思ったが、私が守ると聞かなくてな」
「やりゃ出来んじゃん」
無謀とは思わなかった。多分、彼女なりに覚悟と信念をもった行動だったのだろう。
ルークは不服そうに眉間にシワをよせるソラを退かし、
「んで、他の奴らは?」
「あぁ、それなんだが……」
言い辛そうに目を伏せ、アテナは煙の中へと目を送る。
ルークは目を凝らしてそちらに目を向けると、煙の向こう側で数人が口論をしているようだった。一人はガジール、そのガジールと口論しているのは、先日、ルークとベルトスの戦いを見ていた住人達だ。
「この被害は私達のせいだと言っている。まぁ、恐らくそうなんだろうが、今ガジールさんが説得してくれているんだ」
「やっぱ燃やしたのってアイツらなのか?」
「住人の一人が見たと言っている。虚ろな瞳で歩くーー桃色の髪の少女を……」
「……それって、桃頭がやったって事か?」
「分からない、としか言いようがない。だが、住人達はティアニーズがやったと思っているようだ」
ルークは大袈裟に肩を落とした。
遅かれ早かれこうなる事は予想出来ていたが、まさかあの少女がやってくるとは……ではなく、そんな下らない事で争っている事に対してだ。
ルークは歩き出す。
「待て、今君が行ってもややこしくなるだけだ」
「んなの知るか。俺が言って話をつけてくる」
「説得出来るのか?」
「説得なんてしねーよ。現にこうなったのは俺達がここに来たからだ、それだけはどうしようもない事実だろ」
アテナの横を通り過ぎ、ルークは煙の中を突っ切ってガジール達の元へと行く。
住人達はすでに感情を制御出来ていないのか、乱暴な口調でガジールに迫っていた。アンドラ、エリミアス、ケルトの三人もいるが、口を出している様子はなかった。
そこへ、ルークは空気を読まずに突入する。
軽く手を上げ、
「よ」
「おま、無事だったのか!?」
「なんとかな。それよか俺に任せろ」
驚いたように声を上げるガジール。
ルークは言いたい事だけを伝え、反論する暇も与えずにガジールの肩を押してその場から退かせる。その時、エリミアスと目があった。理由は分からないが、彼女にしては珍しく、この状況でも柔らかな表情をしていた。
「文句なら俺が聞いてやるよ。聞いてやるだけだけどな」
「お前だ……お前があの男について行かなかったから! 俺達の居場所を壊されたんだ!」
「だから?」
「だから、だと! お前達がここに来なければ、俺達はずっと平和に暮らせてたんだよ! 別に裕福な暮らしが欲しかった訳じゃない……俺達は、俺達はただ居場所が欲しかっただけなんだ!!」
予想出来ていたとはいえ、男はルークを見た瞬間に怒鳴り声を上げた。当たり前だ、この男がベルトスとともに行っていれば、あの時抵抗していなければ、こんな事にはならなかったのだから。
しかし、ルークは表情を変えない。
無表情のまま男を見つめ、
「んで?」
「な、に」
「だからなんだって言ってんだよ。言いたい事はそれだけか?」
「なんで、なんでそんな態度でいられるんだ! お前さえいなければ、お前達さえいなければ……悪いとは思わないのか!」
「思わねぇよ。やったのは俺じゃない。どっかの誰かが勝手にやっただけだろ? なら俺が謝る必要なんてねぇだろ」
「ふ、ふざけるな!!」
生意気な態度に激怒し、男はついにルークの胸ぐらを掴んだ。その瞳には僅かな涙が浮かんでいる。しかし、それでも、ルークはその瞳を至近距離で見ても、表情を変える事はなかった。
「俺は見たんだ! あの桃色の髪の女が歩いているのを! 昨日帰って来なかったよな!? なにかあったんじゃないのか!」
「おう、アイツは敵になった」
「だったら、あの女がやったんだろ! そうとしか考えられないだろ!」
「見たのか? アイツが家に火をつける瞬間を」
「それは……」
「見てもねぇのに勝手に決め付けんな。それにな、アイツは敵になってもそんな事はしねぇよ。絶対にだ」
ルークは知っている。あの少女には、決してブレない芯があると。たとえ敵になろうとも、関係のない人間を巻き込むようなマネは絶対にしないと。
来るのなら、きっと一人で来る。
そういう変なところで真面目さが残っているのだ。
「なら、なんでここにいたんだ! 敵なんだろ! ここに来る理由がないじゃないか!」
「それは、私とお話をしていたからです。私と別れ、ティアニーズさんがどこかへ行くのを貴方は見たのだと思います」
背後からエリミアスが口を挟んだ。
その内容にルークは驚いたが、直ぐに男へと視線を戻す。
恐らく、その時になにかあったのだろう。そして、それがエリミアスを落ち着かせている一因なのだろう。
「だってよ。これでアイツがここにいてもおかしくねぇな」
「そんなの、そんなの関係ない! お前達がここに来てから……いや、この町に来てからおかしな事ばかりだ! なにもかも、お前達のせいなんだろ!」
「はぁ……ぐちぐちうるせぇな。それっぽい理由探して突きつけて、面倒くせぇんだよ。ハッキリ言えよ、出て行けって」
「ッ! あぁ、なら言わせてもらおう。今すぐここを出て行ってくれ、これ以上、俺達の生活を乱さないでくれ」
「分かった」
ルークは即答した。なんなら食いぎみに。
その言葉に驚いたのは、他でもないルークの胸ぐらを掴む男だった。
「元々長居するつもりはなかったんだ、出て行くにはちょうど良いタイミングだろ」
「ちょ、ちょっと待て。なにも出て行かなくっても良いだろ!」
「良いんだよ。おっさんには世話になったし、十分休んだ。これ以上ここにいる理由はねぇよ」
焦った様子のガジールに対し、ルークは僅かに口角を上げながら答える。
そもそもだが、ここには始まりの勇者の話を訊きに来ただけだ。もう目的は達成している。残る理由なんて、なに一つないのだ。
「つー訳で、俺達はここから出て行く。これで文句ねぇだろ?」
「謝れ、お前達の謝罪がないと俺達は納得出来ない」
「そうだ! 謝れ!」
「全部お前達のせいだ!」
「呑気な顔しやがって、俺達の気持ちも考えろ!」
今まで黙っていた住人達も、次々と声を上げ始めた。ざわざわと波のように声が揺れ、次第に辺りを飲み込んで行く。それはなにも、ルークだけに向けられたものではない。
ともに行動する全員に向けてだ。
ルークは口を閉じた。
考えるようにうつ向き、それから顔を上げ、
「絶対にやだ」
「な、なんだと!」
「俺は自分が悪いと思った時にしか謝らねぇって決めてんだ。だから謝る必要はない」
「どこまで、どこまで俺をバカにするんだ!! この状況を見ても、お前はなにも思わないのか!」
「思う。けどお前達が可哀想とかじゃねぇ、ドンマイって思うだけだ」
確かに、この光景は悲惨なものだ。
鎮火したとはいえ、まだ嫌な臭いが漂っている。それは家が焦げた臭いとかではなく、ルークが良く知る絶望の臭いだ。
けど、それがなんだ。
ルークは本気でそう思っていた。
しかし、その態度がさらに男を激情させる。
「聞いたぞ、あの女、シャルルとかいったか? お前がアイツを助けたせいでこうなったんだろ? この町では奴隷に関わる人間には近づかないのが常識だ。それを破った、そのせいだろ! アイツらを敵に回して勝てる訳がないんだ!」
「助けてねぇし」
「お前が、あの女が、ここに来たからいけないんだ! 弱いくせに身に余る行動をしたから、ただの奴隷のくせに!!」
「……もういっぺん言ってみろ」
ルークの五本の指が、男の腕を掴んだ。
ギチギチと指が皮膚に食い込み、胸ぐらを掴む腕をしめつけて行く。
残念だが、この男はルークの逆鱗に触れてしまった。
「アイツが弱い? 笑わせんな、テメェらの方がよっぽと弱いだろ」
「俺達は仕方ないんだよ! あれだけの地獄を経験してーー」
「だからなんだってんだ!!」
我慢ならず、ルークは声を荒げて男の声を遮った。
シャルルが弱い?
自分達は仕方ない?
ふざけるな。
「自分達じゃないもしねぇくせに、文句だけはいっちょまえ。与えられるだけ与えられて良い身分だな。地獄がなんだ、その地獄から抜け出そうともしなかったんだろ?」
「違う! 無理だったんだ!」
「それは言い訳だ。やれる事全部やって、出せるもん全部出しつくして、テメェはやったのか? いつか誰かが助けてくれるかもしれねぇ、そんな幻想にとりつかれて甘えてただけじゃねぇのか?」
「俺は……」
「この騒ぎで、テメェは人を助けようとしたか? 一瞬でも、誰かを助けようと動いたか?」
男は答えない。他の住人もだ。
当たり前だ、普通は動けない。魔法を使えるのならまだしも、なんの力もない人間には出来る筈がない。
恐怖を押し殺し、勇気をもって燃え盛る家に飛び込む。
そんなの、イカれてるとしか思えない。
けれど、
「アイツはやったんだ。テメェらみてぇに見てるだけじゃねぇ、地獄を見たからって、もう十分辛い思いをしたからこれ以上は見たくねぇって、んなくだらねぇ理由で動かなかったテメェらとは違う」
「しょうがないだろ!」
「甘えんな!! なにもしねぇ人間に幸せが訪れるほどこの世界は甘くねぇんだよ! テメェらはただ甘えてるだけだ。居場所? 普通の生活? ほしけりゃ自分で動け、普通ってのはなによりも難しいんだよ!」
ルークにも欲しいものがある。
それは普通の生活だ。可もなく不可もなく、山も谷もない、どこまでも平坦で普通の生活。
だが、それはとてつもなく難しいと知った。
だからこそ、男を見ていて苛立ちが抑えきれない。
自分がこれだけ苦労しているのに、なにもしない人間が普通を手に入れる?
ふざけるなと、そんなものクソ食らえと。
地獄を味わったからなんだ。だからといって楽をして良い理由にはならない。
「テメェらは一生このままだ。お前らは地獄を抜け出してなんかいねぇ、ガジールが垂らした糸にしがみついてるだけだ。けど、アイツは違う。それを上るために動いた、自分を変えるために勇気を振り絞った」
確かに、シャルルとこの男達は違う。
ルークと出会わなければ、シャルルは地獄の底で一生を過ごしていたかもしれない。
けれど、それだけの違いだ。
ガジールか、ルークか、助けた人間の違いしかない。
「そんなアイツを弱いだと? テメェらだけにはそれを言う資格はねぇ。勇気もねぇクソどもが、このまま甘えて脛かじって生きてけ。アイツはお前らなんかよりも強い。それが分からねぇんなら、お前らはそれまでのクソ野郎だ」
「お前に、俺のなにが分かる……」
「分からねぇし興味もねぇ。お前の事が分かるのはお前だけだ。一生そのままでいるのか、自分を変えるのか、それを選ぶのもお前自身だろ」
「…………」
「この町がおかしいのも元々だろ。それもお前らが立ち上がらなかったからだ。俺達が来るよりも前から、この町はとっくに壊れてたんだよ。お前らが、目の前の恐怖から目を逸らしたせいでな」
ルークは男の手を乱暴に払いのけ、最後に舌打ちをして背を向けた。男はなにも言わなかった。
きっと、自分自身で理解していたのだろう。
助けてもらうのと、甘えるのはまったくの別物だと。
ルークはエリミアス達の前まで行くと、
「つー訳で、泊まるとこなくなったから」
「はい。これ以上皆さんに迷惑をかけられませんから」
「あとで桃頭となに話したか聞かせろ」
「それは出来ないのです。私とティアニーズさん、友達同士の内緒のお話ですからっ」
「そうかよ」
えっへん、と胸をはって得意気に言うエリミアス。
すると、煙の向こう側からソラとアテナがやって来た。どうやらルークの声が聞こえていたらしく、二人揃って呆れ顔である。
ただ、それとは反面、嬉しそうにもしていた。
「勝手に決めるなバカ者。布団がない、つまり貴様が私の布団になってくれるのだな」
「ふざけんな、お前が俺の布団になれ」
「……な、なにを考えているんだ貴様は!」
「お前に訊きてぇよそれ」
なにやらエロティックな事を想像したらしく、ソラの頬が赤く染まってしまった。
寝る場所がなくなったというのにも関わらず、ここにいる人間はいつも通りだ。その程度でめげるほど弱い人間は、ここには一人もいない。
今後について話あっていると、治療を終えたらしいアキンとシャルルが帰って来た。
服にいくつかの焦げあとが見られるが、自分で立って歩いているのでそこまでの大怪我ではないのだろう。
しかし、ルークは気付く。
なぜか、シャルルが泣いている事に。
「なに泣いてんの?」
「な、泣いてないわよ! これは煙に目が入っただけ!」
「逆逆、煙が目に入ったね。それグロいから」
必死に誤魔化そうと目をごしごしと擦っているが、残念ながら目の周りが真っ赤なのでバレバレである。
横に立つアキンが困ったように笑いながら、
「えーとですね、さっきのルークさんの話、僕達のところまで聞こえて来てたんです。それで、シャルルさん、ルークさんの話を聞いて感動しちゃったみたいなんです」
「そ、そそそそそんな訳ないでしょ! 聞こえてなかったし、聞こえてても感動なんかしないし!」
「……お前ってさ、ビックリするくらいのツンデレだよな」
「ツ、ツンデレって言うな! だって、だってあんな事言われたの初めてだし……強いなんて……」
ルークの言葉がよほど嬉しかったのか、シャルルはもじもじと指先同士を合わせて呟く。目の周りどころか、耳までもがそりゃ見事なほどに赤くなっていた。
アテナは手を叩いて注目を集め、
「さて、これで私達は泊まるところもない身となった。だが、それはさして問題ではない。重要なのは、これからどうするか、だ」
「俺は元々泊まる場所なんかねぇ生活してたし、全然問題ねーよオイ」
「僕もです! 野宿楽しいですよね!」
全員の視線がルークに集まる。
こういう時、なぜかアテナはルークに全てをぶん投げるくせがある。というか、わざとやっているのだろう。
ルークは嫌な顔をしつつ、
「……桃頭を連れ戻す」
その言葉を聞いた瞬間、全員が同時に微笑んだ。心の底から嬉しそうな笑顔、ニヤニヤとバカにしたような笑顔、見守るような笑顔。まぁ種類は色々とあるが、全員がルークのその言葉を待っていたようだった。
「ではどうする? 今からでも動くか?」
「いんや、今日と明日は寝る。アイツがどこにいるのかも分からねぇし、俺もまだ考えが全部まとまった訳じゃねぇ。もう少し考えさせてくれ」
「……貴様、なにか変なものでも食べたのか?」
ルークを見上げながら、ソラが神妙な顔で呟く。
それはソラだけではなく、他の全員もだった。
「え、なに?」
「いや、君の事だから、今からでも走り回る! とか言いそうじゃないか」
「とりあえずしたっぱ全員潰す、とかも言いそうだよなオイ」
「いえいえ、ルーク様は人質をとって引きずり回すような方です!」
「……お前ら俺をなんだと思ってんだ」
まぁ、全て当たりである。
ルークもそれが分かっているから否定はせず、肩を落としてなんとも言えない哀愁漂う表情で口を開いた。
今後の方針は決定。
周りの視線も痛いので、ルーク達は足早にその場を去ろうとしたが、ガジールがそれを呼び止めた。
「待て、休むんならちゃんとした場所があった方が良いだろ」
「いや、俺らここ出て行くんだけど」
「町に俺の店がある。狭いところだが、一応お前らくらいなら寝れるスペースもある」
「良いんですか?」
アテナの放った疑問は、誰もが思っていた事だった。
ガジールはここのまとめ役で、住人達からの信頼もある。そんな男が、今さっき盛大に喧嘩した相手をまたかくまうーーそんな事をして、住人達は不安にはならないのか。
しかし、ガジールは鼻を鳴らし、
「俺がそうしてぇからそうすんだ。それによ、ルーク、お前の言葉で俺もちょっとばかし気付いた事がある」
「あ?」
「俺も変わらねぇとな、って思っただけだ。甘やかすだけじゃソイツのためにはならねぇ、根本的な解決にはならねぇ、そんな当たり前の事に気付かされた。その礼だよ」
「ま、俺は寝れるところがあんならそれで良いけどよ」
「おう。それじゃ行くか」
なにかが解決した訳ではない。
貧民街は燃やされ、寝る場所を失った。
ルークの頭の中にある疑問はなに一つ消えてはいないし、今だって自分がなにをしたいのかすら分からない。
それでも、踏み出した。
小さくて、小さくて、大した事のない一歩かもしれないけれど。
確かに、量産型勇者は一歩を踏み出した。
だがーー。