表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量産型勇者の英雄譚  作者: ちくわ
二章 量産型勇者の一歩
20/323

二章五話 『やれば出来る子勇者の子』



 服屋の店員の話を聞くに、ここ数ヵ月で数十人が剣狩りに襲われているらしい。中には命を落とした人間もおり、憲兵は総力を上げて探しているという話だ。

 襲われる人間に変わった共通点などはなく、剣を持っているかどうかだけ。


 人数は不明で、人により話が違う。五人だったり二人だったり、恐らく組織的なもので事件を起こしているのだろう。

 目的は剣を売りさばいて金を儲けるとの事だが、これは店員の推測である。


「王都に行く前に手柄の一つでも上げれば、貴方が勇者だという信憑性も上がります」


「上げたくない。死刑じゃなけりゃ何でも良いっての」


 服屋を後にした二人は、町の中心にある噴水広場へとやって来ていた。ここなら人が集まるし、有益な情報も集まると考えての行動だ。

 ベンチに座り、人混みを眺めて作戦会議を始める。


「幸い、私達は剣を持っています。なので襲われる可能性は十分にあります。ルークさんに限っては勇者の剣を持っているので、見る人が見れば分かると思います」


「何が幸いだ。何も嬉しくねぇよ、俺もしかしたら襲われちゃうじゃん。つか、下手したら昨日の内に襲われてた可能性だってあったじゃん」


「確かに、その可能性もありましたね。というか、貴方が襲われて捕まえてれば全部解決してたのに」


「無茶言うんじゃねぇよ、一般人を囮に使うな」


「勇者のくせに」


「男のくせにみたいに言うな。あと勇者じゃねぇ」


 とまぁ、何時も通りに話は逸れ、飽きずに言い合いを始める二人。

 実際、ルークが昨日晩に捕らえてれば事件は無事解決していたが、相手が複数で動いている以上、いくら勇者といえど捕らえられるかは微妙なところだっただろう。


「場所も年齢も性別もバラバラ。昼間から犯行に及んでいるとは考えにくい……探すとしても、どこから行きます?」


「無理だな。広いし、二人でどうにか出来る問題でもねぇだろ。仮に運良く見つかったとして、捕まえられるかすら怪しい」


「直ぐに諦めないで下さい。私と貴方なら捕まえられますよ、大丈夫です」


「知ってるか? 根拠のない大丈夫って言葉は何よりも不安を煽るんだぜ?」


「大丈夫なものは大丈夫なんです。それより、早速行きましょう」


 減らず口の尽きないルークにため息をつくと、ティアニーズは立ち上がる。子供のように『えー』と駄々をこねるルークだったが、結局は腕を掴まれて強制的に出動。

 宛はないけれど、二人は広場を後にした。


 始めに訪れたのは、店員から聞いた一番最初に人が教われた場所だ。特に変わった所のない民家が並ぶ住宅街で、人目や音を気にするならこんな場所は選ばないだろう。


「どうしてこんな場所で襲ったと思います?」


「知らん、気分だろ」


「真面目に考えて下さい。先ほども言ったように、これは貴方が勇者である信憑性を上げるためでもあるんですから」


「はいはい。……バレても問題ないと思ったからじゃねぇの? 絶対に逃げ切れる自信があったか、見た奴は全員殺すつもりだったか……どちらにせよ、自信過剰な奴らなんだろ」


「どうしてですか?」


「どうしてって、普通に考えれば剣を奪うのは売って金を作るためだ。盗賊なのか何なのか知らねぇけど、これだけ大事になってんのにまだこの町に居るんだろ? 俺なら拠点を他の町に移す」


 真面目に考えている事に驚いたのか、ティアニーズは感心したように頷く。別段推理力に長けている訳ではないけれど、やる時はやる子なのである。

 ティアニーズの様子を見て、少し調子に乗ったようにドヤ顔へと変化。


「まぁ、町を出ない理由は二つ考えられる。自信過剰なのか、それともこの町でしか出来ないのか。もしかしたら、高く買ってくれる奴が居るのかもな」


「なるほど、では、次に襲う場所はどこだと思います?」


「知らん、今のだって俺の勝手な推測だ。全然違う可能性だってある」


「仕方ないですね、手当たり次第に町を歩いてみましょう」


「ゼッテーやだ。そんな効率悪い事してられっかよ」


 いくら小さな町と言っても、歩いて回れるほどの規模ではなく、あくまでも国全体から見ればの話だ。それを宛もなく歩くなど効率が悪すぎる。

 無駄に体力と時間を消費するだけだろう。


「剣が狙いなんだろ? だったら鍛冶屋とか狙えば良いのに、なんで犯人は普通の人間を襲うんだ?」


「た、確かに言われて見れば……鍛冶屋なら剣だけではなく他の武器だってある。それに、材料だってある筈です」


「鍛冶屋が狙われない理由があるのか、それとも狙えない理由があるのか。とにかく、鍛冶屋に行ってみるのが良いんじゃねぇの」


「そ、そうですよね! うん、意外な特技を見た気がします。貴方でもやれば出来るんですね」


「素直に褒めろ。俺はやれば出来る子なんだ」


 目をキラキラと輝かせ、羨望の眼差しを向けるティアニーズ。悪い気はしないのだけれど、いちいち言葉に若干の刺が見え隠れしている事に、本人は気付いていないのだろうか。

 ティアニーズは早速と言わんばかりに、町を歩く人に声をかけに行ってしまった。


「……あれ、もしかしてアイツのやる気を煽っちゃった感じ?」


 今さらながら、自ら面倒な方向へと進んでいる事に気づくルーク。どんよりとしたオーラを出しながら項垂れていたが、不意に、脳裏に稲妻が走った。

 何か閃いたように顔を上げると、


(まてまて落ち着け俺。鍛冶屋って剣を直す場所だよな? つー事はだ、この折れた剣を直せっかもしれねぇって事だ。そんで、剣さえ直っちまえば俺は王都に行く必要がなくなり、死刑にかけられる理由もなくなる!)


 瞬間的に、そして爆発的に思考能力が飛躍。そこから導きだした答えにほくそ笑み、ルークは肩を揺らして自分の勝ちを確信した。

 無駄なところで頭の回転が早くなり、無駄なところで閃くダメな子なのである。


 しかしながら、この作戦には一つ問題点がある。それは、ティアニーズという壁だ。

 彼女はどうあってもルークを王都に連れていくつもりなので、この話を聞けば力強くで止めて来るだろう。

 すなわち、


(桃頭に気付かれる前に鍛冶屋を見つけだし、剣の修理を完了させる。フフフフ、やっぱ俺って出来る子だな。アイツに気付かれる前に行かねぇと)


 聞き込みをしているティアニーズの視界からゆっくりと離脱し、一瞬の隙を見て全力のダッシュ。ドラゴンから逃げた時以上の走力を発揮し、ルークは瞬く間にその場からの逃走に成功したのだった。


 一旦噴水広場まで戻ると、ルークは町全体の地図が記された看板を見ていた。

 並外れた視力で鍛冶屋を見つけると、広場からのルートを指でなぞる。


「意外と遠い……。しゃーない、これも俺が平穏な暮らしをするためだ」


 ルークの心情に従えば、これはやらなくてはいけない事なのである。なので、多少の無理も受け入れて我慢出来る。

 地図を何とか頭に刻み込むと、ティアニーズが来る前に広場を後にして鍛冶屋へと歩みを進めた。


「ボロ……ゴミ屋敷かよ」


 しばらく歩いて鍛冶屋の前までたどり着くと、ルークはその見てくれに呆れたように呟いた。

 そもそも、町の中心からかなり離れた場所にあり、周りには鍛冶屋以外の建物が見当たらない。


 鍛冶屋の周りには材料と思わしき物がいくつか転がっていて、他にはにんじんとか落ちてる。

 群がるカラスを横目に、ルークは扉をノックした。


「あのォ、すんませーん。誰か居ませんかー?」


 返事はない。ただ、人の気配はする。

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を押して中に足を踏み入れた。

 その瞬間、鼻を刺激する異臭と熱気に当てられ、思わず足を後退させた。


「鉄の溶けた匂い……つか、暑すぎんだろ」


「誰だ、今日の分はもう渡した筈だぞ」


 息苦しさに顔をしかめていると、奥から男性の声が聞こえてきた。薄暗さに目を細め、よくよく見れば老人である。

 白髪混じりの髪を後ろで束ね、顎に生えた髭は僅かに焦げている。鋭い眼光は歳を重ねたからこその強さを宿し、ルークを真っ直ぐに睨み付けていた。


「いや、あの、剣の修理をお願いしたくて来たんすけど」


「ここいらじゃ見ねぇ顔だな。だったら教えてやる、俺は剣を打たねぇし直しもしねぇんだ」


「嘘つけ、今打ってただろ。今日の分は渡したとか言ってたし」


「聞き間違いだ。歳のせいだろ」


「おっさんはともかく、俺はまだまだ若い」


「あ? なんだって?」


「今さら耳が遠い振りしてもおせぇよ!」


 耳に手を添えて聞こえませんとアピールする老人。茶目っ気というよりただ面倒なだけである。

 ルークは剣を見せ、


「これ、折れちまったんすよ。どうにか直してくれないっすか?」


「何度も言わせんな、俺は打たねぇんだよ。いや、お得意さん以外は打たねぇんだ」


「良いじゃねぇかよ、今回だけ頼む。一回直してくれりゃ良いから」


 頑なに譲る気配のない老人に引くこともなく、ルークは厚かましく剣を押し付ける。

 老人は手を上げて触る事すらしなかったが、剣を見た瞬間に顔色を変え、


「おい、テメェ、なんでそれを持ってやがる」


「なんでって、そりゃ色々と難しい事情があってだな」


「良いから答えろ! どこでそれを手に入れた」


「いきなり怒鳴んなっての。ここから少し東に行ったところにある村だよ。手に入れたってか押し付けられた」


 突然声を荒げた事に体を震わせるルーク。老人は剣を見つめ、指先で柄の部分の宝石を叩く。

 それからルークを見ると、


「勇者の剣……なんでテメェが持ってやがるんだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ