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量産型勇者の英雄譚  作者: ちくわ
七章 精霊の契約
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七章二十二話 『契約者』



「あれは……」


 ベッドの上で暇をもて余していると、突然エリミアスがそう言った。首を捻って彼女を見ると、窓の外へ視線を向けていた。

 しかし、様子がおかしい。

 窓に触れる指先、そして声が僅かに震えていた。


「なんかあったのか?」


「あの、お外に人が……」


「ソラ、ちょっと見て来い」


「あぁ、分かった」


 ルークに言われ、隣で寝転んでいたソラが窓際まで行く。エリミアスと場所を入れかわり、外を覗いた瞬間ーーソラの顔色が変化した。初めは驚き、それから面倒くさそうにため息をこぼした。


「恐らく昨日の奴らだろうな。武器を持った物騒な男達が来ているぞ」


「ったく、わざわざ来てくれなくても良いのによ。しゃーねぇ、行くぞ」


「い、行くってどこへですかっ?」


「決まってんだろ、ソイツらは俺の客だ。俺が相手してやる」


 一晩寝たせいか、昨日よりは痛みがマシになっている。かといって、まだまだ万全とは言い難い。こうして二本の腕をベッドにつき、体を起こそうとするだけで背中に強烈な熱が暴れまわる。しかし、唇を噛みしめ、


「いってぇ……。ソラ、確か前に血ィ止めてた事あったよな?」


「ん? あぁ、ウルスの時だな」


「痛みを和らげる事って出来んの?」


「出来なくはない。がしかし、常に加護を発動している必要がある」


「問題ねぇよ。五分ありゃ十分だ」


 四十秒ほどかけてベッドから下りると、そのまま壁に体を預けて扉を目指す。なぜか分からないが息がつまった。どうやら、背中を痛めると呼吸し辛くなるらしい。

 額から汗を流し、それでも前に進む。と、


「ダメです。今のルーク様を行かせる訳にはいきません」


 両手を広げ、扉の前にエリミアスが立つ。

 決意のこもった瞳で、ルークを見据えていた。


「退け」


「出来ません。私はルーク様をちゃんと見ていろと言われましたので」


「なら一緒に来い。そうすりゃ見てられんだろ」


「そういう事を言っているのではありませんっ。そんな傷で、もしまた怪我をしたらどうするのですか!」


「怪我しなきゃ良いだけの話だろ」


 言って、ルークはエリミアスの肩に手を乗せる。そのまま強引に扉の前から退かそうと力を込めたが、エリミアスは少しよろめいただけで再び立ち塞がった。

 眉間にシワを寄せ、苛立ったようにルークが言う。


「邪魔だつってんだよ。退かねぇなら力づくで退かすぞ」


「構いません。それでも、私は絶対にここを動きませんから」


「……そうかよ、なら殴るかんな」


「はい」


 ルークの脅しにも負けず、エリミアスは退こうとはしない。しかし、それは余計にルークの怒りを煽る事になっていた。

 力の入らない拳を握り、言った通り、エリミアスを殴ろうとーー、


「ーー!?」


 ガシャン!!となにかが砕けるような音がなった。窓ガラスが割れた音だった。恐らく外の奴らがなにかを投げつけたのだろうーーそう思い、一瞬気を抜いたのが間違いだった。


 割れた窓の下、なにかビンのような物が転がっていた。

 そして、そのビンの栓の辺りで、ユラユラと炎が揺れていた。


「ーーソラ!!」


「クソ!」


 ルークがソラを呼んだ瞬間、一気に炎が燃え上がる。敷いていた絨毯を燃やし、床を燃やし、瞬く間に部屋全体が炎の渦に飲み込まれて行く。

 背中に響いた激痛に顔を歪めながらも、エリミアスを脇に抱え、ルークは(ソラ)を握り締める。


 なにか特殊な魔法でも使っているのか、明らかに燃える速度が早い。この家は木造、このまま行けばまず間違いなく全焼するだろう。

 剣を強く握り締め、


「うっらァァ!!」


 全力で振り回した。斬撃を放つのではなく、ただ力任せに振り回した。

 振り回した剣から生じた風圧、大人一人を簡単に吹き飛ばせるような風圧は部屋中を駆け巡り、家具をバッタバタとなぎ倒し、壁を抉りながら燃える炎をかき消した。


 炎は消えた。しかしながら、部屋は燃えカスのように黒焦げになっていた。ルークの乱暴なやり方もあるだろうが、たった数秒で一つの部屋が見るも無惨な状態へと変貌を遂げた。


「……クソが、奇襲なんて卑怯な手使いやがって」


『貴様にだけは言われたくないだろうがな。だがまぁ、私も苛っときたぞ』

 

「しっかり掴まってろ」


「え? あのーー」


 エリミアスが疑問を口にするよりも早くルークは走り出した。割れた窓に向けて、さらに加速。跳び、体を丸めるとーーそのまま二階から飛び下りた。

 耳元でエリミアスの悲鳴が聞こえたが、構わずに着地。足の痺れに体を震わせながら、抱えていたエリミアスを地面に落とした。


「う……こ、怖かったのです……」

 

 ビタン!と地面に全身を打ち付け、鼻を赤くしながらエリミアスが涙目で呟く。

 ルークはそちらに目を向ける事はせず、目の前にいる集団を睨み付けた。

 集団の先頭に立つのは男だった。ボサボサの頭と、不潔感ただよう剃り残した髭。


「おーおー、まさか窓から飛び出して来るとは思わなかったぜ。結構無茶する奴だな」


「誰だテメェら」


「無視かよ。こっちは折角世間話してやろうと思ってのによ」


「無駄口叩いてねぇで質問に答えろ」


「おー怖い怖い、こっちは喧嘩しに来た訳じゃねぇんだけどな」


「そんだけ連れて来てなに言ってやがんだ」


 見たところ人数は約二十人ほど。恐らく町のチンピラをかき集めて作った寄せ集め集団だろう。武器を持ってこそいるが、さほどの驚異にはならない。

 問題はボサボサ頭の男だ。

 明らかに、他の人間とは違う異質な空気をまとっている。


 とてもじゃないが、平和的解決を望むような奴らには見えない。

 どこからどう見たって暴力専門だ。


「コイツらは保険だよ。俺が用あるのはお前だけ、昨日の騒ぎを起こしたお前だ」


「……知らねぇよ」


「嘘つけ、この町は俺達の庭みてぇなもんだ。流石にどこで誰がなにをしてるのかは分からねぇが、お前みたいなよそ者の情報は入ってくんだよ」


「俺達、ねぇ。つー事は、テメェが奴隷売ってる奴らの一味って事で良いんだよな?」


「だったら?」


「言うまでもねぇだろ、ぶっ潰す」


 ニヤリと微笑んだルークに答えるように、男も同じように口角を上げた。しかし、戦意は見えない。後ろで暴れたそうな男達はともかく、あの男は本気で会話をするために来たようだ。

 男は辺りを見渡し、


「さて、これは提案だ。お前らよーく聞いとけよ」


 その言葉はルークに向けられたものではない。男達がやって来た事に気付き、野次馬のように物陰からこちらを覗いている貧民街の住人達に向けての言葉だった。

 男は両手を広げ、聞こえやすくするように声を張り上げながら言う。


「俺はここを潰しに来た訳じゃねぇ。そりゃあのガジールって男は仕事の邪魔してくる奴だが、正直大した損害じゃねぇ。でもお前は違う、よそ者にでけぇ顔されると俺達の面子がもたねぇんだわ」


「んなの知るかよ」


「それに、お前は殴った相手が悪かった。アイツは常連でよ、結構こっちも優しく接してやってた相手なんだわ。大事な大事な客を傷つけられた、怒るのも分かるよな?」


「なにが客だ、ただの金づるだろ」


 ルークの言葉をわざと無視し、男はさらに言葉を続ける。隠れている住人達は姿を現す気配はないが、その言葉を黙って聞いている。


「そこで提案だ。ソイツを大人しくこっちに渡してくれりゃ、お前らには手を出さない。わざわざこんなところに出向いてなんだけどよ、お前らは一応『元商品』だしな」


 その提案を聞いた瞬間、ざわざわと周囲から言葉が漏れる。

 ルークは舌を鳴らし、


「俺が行かなかったら?」


「人が住めねぇようにする。全員奴隷に逆戻り、そんでもって戻ってこれねぇようにここを燃やす」


「そ、そんな……!」


 ルークの身柄と自分達の住む場所。天秤に乗せるまでもなく、彼らの答えは決まっている。ガジールや子供達はともかく、ここの住人はルークと縁がある訳でもない。返さなければならない恩もないし、最近やって来た見ず知らずの赤の他人でしかないのだ。


 であれば、彼らは自分達の居場所を守る。

 その考えは当然の事だ。もしルークが逆の立場だったとしても、同じ事をしていただろう。


 隠れていた大人達がぞろぞろと姿を現す。

 ルークを見て、


「頼む、ここから出て行ってくれ」

「もう帰る場所がなくなるのは嫌なんだ」

「出て行け!」

「お前がいなくなれば私達は助かるんだ!」


 せんが切れたように声が上がる。ルークを守る者は誰一人としていない。子供達はなにが起こっているのか分からず、騒ぐ大人をただ見つめているだけだ。

 しかし、責める事は出来ない。

 他人を犠牲にして自分が助かる、それは人間として当たり前の考えなのだから。


 彼らが悪人という訳ではない。

 これが人間なのだ。他人よりも自分が大事、その考えがない人間の方がどうかしている。


「ちょっと待ってください!」


 耐えきれず、エリミアスが声を荒げた。

 そう、この少女は普通ではない。

 たとえ自分がどうなったとしても、他人を助けたいと心の底から望んでいるイカれた人間だ。


「皆さんで力をあわせて戦えば、きっと勝てる筈なのです! だから、だからそんな悲しい事を言わないでください! この場所を、皆さんで守りましょう!」


「うるせぇ!!」

「私達にまた傷つけって言うの!?」

「もう、もう奴らと関わるのはごめんなんだよ!」


「でも……!」


 エリミアスの言葉は届かない。

 自由を奪われ、悲しみと苦しみのどん底に突き落とされた記憶。彼らの中にはまだ癒えない傷として刻まれているのだ。それが、どれほどのものなのかは分からない。

 きっと、とてもじゃないが耐えれるようなものではなかった筈だ。


 だから、彼らはこの場所を手離したくはないのだ。些細なものかもしれないけれど、やっと手に入れた自由だから。

 もう二度と、暗闇の底に落ちるのはごめんなのだ。


「……退け」


「で、ですが!」


「良いから、退いてろ」


 必死に抗議するエリミアスの手を引き、自分の後ろへと下がらせるルーク。それから一歩踏み出し、


「お前らの気持ちはよーく分かった。別に俺だっていたくてここにいる訳じゃねぇしよ」


「だったら早くーー」


「でも残念、ゼッテーに出て行ってやらねぇよ」


 ハッキリと、微笑みながらルークはそう言った。

 住人達は口を揃えーー、


「知らん!」


 なにかを言う前に、ルークの言葉が全てをねじ伏せた。

 そもそもの話だが、もし同じ立場だったらーーなんて考える事事態おかしいのだ。だって、ルークはその立場にはいないから。


 というか、関係ない。住人達がなにを言おうが、どんな悲しみを背負っていようが、ルークにとってはどうでも良い事だ。

 たとえこの場所がなくなったとしても、そんなのは知ったこっちゃない。


「もう一度言うぞ、俺は知らん。お前らがこれからなにを言おうが、俺は知らんとだけ言う。それでも文句ある奴は勝手に喋れ」


 正論で論破とか、そんなものが通用する男ではないのだ。苦情は受け付ける。しかしそれを受け入れるかは別の話なのだ。

 聞くには聞くけど、ただ耳に入れるだけだ。

 この男はそういう男だ。


「それに……」


 黙りこんでしまった住人達から目を逸らし、先ほどからつまらなそうな顔をしているボサボサ頭の男へと視線を移す。


「付け足せ」


「は?」


「なんでテメェらの選択肢だけ受け入れなきゃいけねぇんだよ。そこにもう一つ足しとけ。俺がテメェらを全員ぶっ潰すって選択肢を」


 自分がまいた種だからとか、そんな責任感はない。いきなり押し掛け、火炎瓶を投げ込まれ、寝ているところを邪魔され、それだけで戦うには十分な理由だ。

 というか、


「なんで俺がテメェの言う事聞かなきゃいけねぇんだよ」


 大前提として、人に指図されるのが大ッ嫌いなのだ。特に、自分にとってなにも得るものがなにもない時は。

 ボサボサ頭の男は口元を抑え、堪えきれなくなったように吹き出した。


「ク、アハハハハッ! そりゃそうだ、いきなり来て命令すりゃ誰だって断るわな」


「それにテメェの顔が気に入らねぇ」


「それはどうしようもねぇな、生まれつきだからよ」


 男は腹を抑えて肩を揺らしながら笑い、やがて落ち着きを取り戻そうとするように大きく息を吸い込んだ。

 ピタリ、とそこで笑みが止む。

 静かな声で男が言った。


「そんじゃ、お前殺してここの奴らも殺す事にするわ」


 手を上げ、男が合図すると同時に、背後で控えていた集団が歩き出す。当然、狙いはルークだ。いくら住人を全員殺すといっても、彼らの大きな目的は騒ぎを起こしたルークを消す事。


 怯えるエリミアスに目を向け、


「ちょっと下がってろ」


「だ、大丈夫なのですか?」


「余裕だ余裕」


 適当に言って、ルークはこちらに向かって走り出した集団に飛び込んで行く。背中の痛みは消えていない。いくら加護を使っているとはいえ、あくまでも一時しのぎでしかない。それに加え、相手は魔獣ではなくただの人間だ。それはつまり、剣で斬る事が出来ないという事だ。


 しかし、


「歯ァ食いしばれよ。多分手加減出来ねぇから」


 呟き、ルークは集団の中に真っ正直から突っ込んだ。周りから見れば、人の波に青年が飲み込まれて行ったようにも見えただろう。勿論、人間は相手の方が上。これもやはり、なにも知らない人間が見れば、どちらが勝つかは安易に想像出来てしまう。


 けれど、ボサボサ頭の男の表情が歪んだ。


「なん、だ」


 目の前の光景を理解出来ていないようだった。

 バゴン!!と鈍い音が生じ、その直後に一人の男が宙を舞った。三メートルほど飛び、そのまま適当な民家の屋根に墜落。多分生きてはいるだろうが、どこかしらの骨は折れているだろう。


 その後も、一人、二人、三人、六人、と続けて男が空を飛んで行く。それこそ、大砲に込められた弾のように、バカみたいな勢いで。


「オラオラ、そんだけ人数いてそんなもんかァ!」


 きっと、ボサボサ頭の男には、ルークが乱暴に剣を振り回しているように見えた筈だ。

 実際、ルークがやっている事はとても単純だった。剣の面の部分を相手の胸板に全力で叩きつけるーーそれだけの事だ。


 今まで何度か魔獣以外を相手にしてきたが、その度にやって来た戦法。ソラは魔獣と物以外を斬る事は出来ない。しかし、そこに服という布を一枚噛ませる事により、衝撃だけを相手に与えているのだ。

 斬るのではく叩く、と表現した方が正しい。


「準備運動にもなんねぇな……」


『いきなり暴れ過ぎだ。加護が解けた時の反動を少しは考えろ』


「そん時はそん時だ。またアテナに治してもらう」


『ふん。し、仕方ないから膝枕くらいはしてやろう。私の太ももや柔らかいぞ』


「へいへい。あとで遠慮なくさせてもらうわ。でもその前に……」


 恐らく、時間にして一分もたっていない。しかし、ルークの周りには誰もいなかった。武器を持っていた男達は皆平等に吹っ飛ばされ、どっかに墜落している事だろう。

 残ったボサボサ頭へと歩み寄る。


「残るはテメェだけだ」


「笑えねぇなこりゃ……お前なに者だ」


「言う必要あるか? どーせ気絶させて騎士団に渡すんだ、考える時間は山ほど出来るぜ」


「冗談、俺は捕まる気なんてさらさらねぇよ!」


 先に動いたのはボサボサ頭の男だった。ゆっくりと歩くルークに向けて走り出し、がら空きの顔面に拳を叩けようとする。

 だが、ルークにはその光景がスローに見えた。今まで化け物と戦い過ぎて来たせいか、ただの人間なんて相手にすらならないのだ。


「心配すんな、テメェの仲間もきっちり牢屋に連れてってやるから」


 腰を屈め、余裕をもって男の拳を回避。

 左の拳を握り締め、頭上にある男の顎に狙いを定める。膝を伸ばし、立ち上がる勢いを使いーー、


「だから、先に行ってろ!」


 ベゴッ!!と鈍い打撃音が響き渡った。

 ボサボサ頭の男はそのまま空中で縦に四回転ほど周り、あとは自由落下に身を任せて地面に激突。

 一瞬でついた決着に、辺りは静まり帰った。


『やり過ぎだバカ者。もし死んだらどうするつもりだ』


「死んだコイツがわりぃ。それよか、ロープどっかにねぇ?」


『はぁ、まったく……。家の中にロープくらいあるだろう』


 ピクリとも動かなくなった男に背を向け、ルークは何事もなかったかのように家へと歩き出す。

 その時、微笑んでいるエリミアスと目があった。

 しかし、その笑みが、次の瞬間に曇った。


「ルーク様!!」


「ーーッ!」


 ゾクリ、と背中に寒気が走る。緩んでいた気が一瞬で締まり、ルークはその違和感が指し示す方へと体を向けた。

 その視線の先には男が倒れていた。当然だ、ルークが全力で殴ったのだから。

 しかし、


「泥……?」


 男の背中、腕、足、体の至るところから黒い泥のようなものが溢れ出していた。気持ちの悪い音を出し、ベチャベチャと地面を濡らして行く。

 そこで、男の体が動いた、

 泥を身体中から垂れ流し、ゆっくりと立ち上がる。


「いやぁ、油断してぜ。まさかお前も俺と同類とはよ」


「同類? なに言ってやがんだテメェ」


「とぼけんな、その剣がそうだろ?」


 頬から落ちる泥を拭い、その手で剣を指差す。なにがどうなっているのかは分からないが、確かに男の体内から泥が溢れ出していた。その奇妙な光景を演出している男は、気にする素振りも見せない。

 まるで、それが普通かのように。


『気をつけろルーク、なにか嫌な感じがする』


「嫌な感じって、アイツ魔獣なのか?」


『それは分からない、今の私はその力を失っている。しかし……それでも分かるほどの匂いだ……!』


 ルークにだって異常だという事くらい分かる。あれが魔法なのか他のなにかなのかは不明だが、人間の体から泥が出るなんて聞いた事がない。

 柄を握り直し、ルークは男を見る。


「何者だテメェ」


「だから言っただろ、お前と一緒だって」


「なにが一緒なのかはっきり言いやがれ」


「だからよ……」


 溢れていた泥が急に動きを止めた。ギチギチ!!と鞭のようにしなり、男の腕に巻き付く。泥が腕にまとわりつき、巨大な泥の塊ーー腕が二つ出来上がった。

 その一つを、男は地面に叩きつける。

 轟音が炸裂し、辺り一面に亀裂が広がった。


 それから男はニヤリと笑みを浮かべ、


「お前と同じ、契約者だ」



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