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量産型勇者の英雄譚  作者: ちくわ
二章 量産型勇者の一歩
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二章二話 『盗賊の底力』



 しばしの沈黙が流れ、盗賊のお頭は武器を下ろした。

 それからまじまじとルークの顔を見つめ、思い出したように声を上げた。


「あァ! テメェ、あん時逃げた奴か!」


「え、お頭の知り合いですかっ?」


 どうやら、向こうもルークの事を覚えていたらしい。前に会った時は数人の仲間がいた筈だが、今回はティアニーズと変わらないくらいの少年を連れている。

 金品を要求した事から、恐らく仲間だと思われるが、


「久しぶりだな。つか、お前仲間減ってね?」


「テメェらに逃げれた後、騎士団に襲われたんだよオイ。んで、他の奴等は全員しょっぴかれた」


「んじゃ、そのちびっこは?」


「あ? コイツはアキンって言うんだ。俺の新しい部下だよオイ」


「よ、よろしくお願いします!」


 アキンと呼ばれた少年は再び頭を下げる。

 黒髪に曇りのない純粋な瞳、見た目だけで言うなら盗賊とはほど遠く、華奢な体で手にしているこん棒すら振り回せていない。顔立ちも男か女か見分けるのは難しく、ルークの言ったちびっこという言葉がふさわしいだろう。


「そのちびっこが盗賊かよ。もうちっとごっついのとか居なかったんかよ」


「だから全員捕まったって言ってんだろオイ! テメェを襲ったその日にコイツを仲間にして、その直後に捕まったんだよ!」


「お、お頭にはお世話になってます。身寄りのない僕を仲間だと言ってくれて」


「お、おう。多分ちげーぞ、お前色々と騙されてるぞ」


 アキンにも色々と事情があるらしく、お頭をいい人だと勘違いしているようだ。子供の純粋な信頼を踏みにじるのはダメだと判断し、ルークは珍しく空気を読んだ。

 ともあれ、この状況はあまり好ましくない。ルークは軽く手を上げ、


「じゃ、俺行く所あるから」


「おう、元気でな……ってオイ! 逃がす訳ねーだろオイ!」


「のり突っ込みが雑だな」


 自然な流れでその場から去ろうとしたが、お頭が声を荒げてじたんだを踏む。錆びた剣を肩に乗せ、ルークを指差すと、


「前はよくもやってくれたなァオイ。あのガキは居ねぇみたいだが、仕返しはさせてもらうぞオイ」


「お前らが勝手に襲って来たんだろーが。正当防衛だ」


「盗賊に正当防衛もクソもねぇんだよオイ! やれたらやり返す、それが俺達のルールだ」


 相手さんはやる気満々の様子だ。前回と比べて人数が減っているのでそこまでの危機感はないが、この路地裏で二対一はあまりよろしくない。

 しかし、お頭はルークが逃げるより早く、


「行け、アキン! あのヤロウをぶっ飛ばせ!」


「は、はい! すいません! ぶっ飛ばします!」


 何故か謝罪をしながら向かってくるアキン。フラフラとよろけながらこん棒を持ち上げ、こん棒に体を振り回されながらルークへと突進。

 当然の事ながら、あの華奢な体で立ち向かえる筈もなく、アキンはこん棒の重さに負けて派手にヘッドスライディングをかました。


「い、痛い……」


「…………」


 鼻先から血を滲ませ、涙目になりながら顔を上げた。

 その際、ルークはアキンの顔を見つめる。見つめ、見つめ、その結果、手にしていた勇者の剣を全力でアキンの顔に向かって振り下ろした。


「……ヒッ!」


 ギリギリのところで回避したが、アキンは震えがっている。子供に対しても全く躊躇いのないルークにお頭も驚いたらしく、ブンブンと剣を振り回して、


「テ、テメェ! いくら鞘から抜いてねぇからって普通子供に剣向けるか!?」


「うるせぇ! 子供だろうが老人だろうが女だろうが、犯罪者は犯罪者だろ! 俺に向かって来たんだから死ね!」


 勇者にあるまじき発言を当たり前のように吐き出すルーク。何も知らない人間から見れば、子連れの親子に襲いかかる若者だ。

 しかし、そんな事を気にするような性格ではないので、


「オラオラ立てちびっこ! 俺に挑んだ事を後悔させてやらァ!」


「ご、ごめんなさい! もうしませんから!」


「バーカ、ごめんで済んだら騎士団なんかいらねぇんだよ! 天誅を下してやるわ!」


 もぐら叩きのように何度も剣を振り下ろす。アキンは転がりながら器用に全て回避すると、泣きつくようにお頭の元へと退散。

 ただ、この鬼畜勇者が黙って逃がす訳がないのである。魔獣のように恐ろしい顔でお頭達へと飛び掛かる。


「逃がすかオラァ!」


「い、一旦退却するぞオイ!」


「はい!」


「だから逃がすかボケェ!」


 一目散に走り出すお頭とアキン。ルークも続いて走り出した。

 ここで改めてルークの思考を説明しよう。

 相手は盗賊、つまり犯罪者だ。それを捕まえて騎士団につき出せば、自分は善人として認められる。そうすれば、剣の事もどうにかなるんじゃね?とか思っているのだ。


 とんでもなく単純思考で、そんな簡単には事が進む筈ないのだが、やっと現れた逃げ道なのでどうあっても逃がすつもりはないようだ。


「待てゴラァ! 大人しく俺の生け贄になれ!」


「テメェ! 俺達は盗賊だぞオイ! そんな態度許されると思ってんのか!?」


「だったら向かって来いや! 盗賊らしく市民を襲え!」


「普通の市民は剣なんか振り回して人を追いかけたりしねーぞオイ!」


 どちらの言い分もアホの子である。

 暗い路地を抜けて大通りへと入り、人混みをかき分けながらも進む。背の低いアキンは人混みに飲まれかけるが、お頭に手を引かれてなんとか無事。

 一応勇者であるルークは、一般人を派手に突き飛ばして追跡。


「た、助けてぇ! あの人盗賊ですオイ!」


「変な人に追い回されてるんです! 誰か助けて下さい!」


「誰が変な盗賊じゃ! 喧嘩売って来たのはテメェらだろ!」


 立場が完全に逆転し、お頭は情けなく助けを求め始めた。周りの人間もソワソワとし始め、剣を振り回して走るルークへと軽蔑の眼差しを向けている。

 しばらくそんな状態が続き、お頭達の体力が切れたらしく立ち止まった。


「観念しろ、ここでお前達の人生は終わりだ」


「盗賊ってのは最後まで諦めねぇんだよオイ。社会からはみ出た奴の底力舐めんなよ」


「上等だ。田舎者の本気見せてやるよ、覚悟して歯ァ食いしばれ」


「が、頑張って下さいお頭!」


 ルークとお頭は見つめ合い、その場に一触即発の雰囲気が流れる。周りを歩く人々の目も集中し、嵐の前の静けさが辺りを支配した。

 身体能力的に考えればルークの方が上。しかしながら、お頭からは底知れぬ覚悟が見え隠れしている。

 そしてーー、


「何してるんですか、まったくもう」


 聞き覚えのある声が耳に入ったかと思えば、後頭部に鈍痛が走る。視界に火花が散り、ルークは痛みの発生源を押さえながら振り返ると、


「んだよ、桃頭かよ」


「ティアニーズです、何度言ったら分かるんですか。それより、忠告したのに迷子になるなんてどういうつもりですか?」


「迷子になったのはお前だろ。つか、アイツらのせいだ」


 右手を上げたティアニーズが立っており、どうやらあの硬そうな籠手で殴られらたらしい。

 目に涙を浮かべながら言い訳を重ね、ルークはお頭達を指差す。


「あ、テメェはあん時のガキだなオイ」


「……汚い盗賊ですね、近寄らないで下さい」


「汚くねぇよ! 一応毎日風呂入ってるよオイ!」


 目を細めて辛辣な言葉を浴びせるティアニーズ。お頭は気にしているのか、両手を上げて臭くない事をアピール。

 それから横に居るアキンへと目を向け、


「ロリコンですか、最低ですね」


「コイツは男だよオイ!」


 アキンは女だと間違われて肩を落としている。中性的な顔立ちなので仕方ないが、男として傷つく言葉なのは間違いない。

 話が逸れつつあるのを阻止しようと、ルークはティアニーズの肩を叩き、


「アイツら悪者だよな? だったら逮捕しちまおうぜ。お前の騎士団内での評価も上がる事間違いなしだ」


「……貴方が善意で犯罪者を取り締まるとは思えませんが、今回はその口車に乗ってあげましょう」


「よし決定だ。ボッコボコにして牢屋にぶち込んでやる」


 援軍が訪れて尚更態度が大きくなるルーク。

 お頭達は本格的に境地に陥り、アキンに至っては天に向かって祈りを捧げている。

 絶体絶命、相手が悪かったとしか言いようがない。この鬼畜勇者は恐ろしくしつこい男なのだ。


「や、やべぇぞオイ……。こんなところで捕まる訳にはいかねぇってのに」


「諦めて殴られるか諦めずに殴られるか好きな方を選べ」


「どっちもごめんだぜオイ! それによォ、奥の手は最後までとっておくもんだぜ? なぁ、アキン!」


「はい!」


 どちらが優勢なのかは誰が見ても明白。けれど、お頭は不敵に微笑んで見せた。

 その行動の意味を、ルーク達は直ぐに知る事になる。

 祈りを捧げていたアキンが目を開き、少年の周囲に不自然な風が漂い始める。そして、


「特大の風魔法です!」


 アキンを中心にして激しい突風が吹き荒れた。周囲の人々を吹き飛ばし、お頭はアキンの腰にしがみつく事でなんとか飛ばされまいと頑張っている。

 建物のガラスを割り、花壇に咲く花が根こそぎ宙へと舞い上がる。


「魔法……! ルークさん!」


「下がってろ!」


 吹き荒れる風にさらされながら一歩踏み出し、ルークは剣を全力で振り回した。使い方なんて分からないけれど、剣はルークを守ろうと力を発揮する。

 ドラゴンの時と同じように、鞘にはめ込まれた宝石は輝き、ルークとティアニーズを守るように膜が覆った。


 激しく絶え間なく吹き続けた風でも膜を通過する事は出来ず、段々と威力が弱まって行く。

 そよ風のような威力になった時、役目を果たしたかのように宝石は砕けて膜が消滅した。


「ッたく、あのちびっこ何者だよ」


「魔法使いに年齢は関係ありません。才能さえあれば大人だって簡単にねじ伏せる事が出来るんです。それより……」


「あぁ、あのヤロウ逃げやがった」


 元々、ルーク達を殺すつもりはなかったのだろう。

 風はあくまでも目眩ましと注意を引くだけの役割で、本当の目的は別にあったのだ。

 ルークの目の前から、二人の姿は消えていた。



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