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量産型勇者の英雄譚  作者: ちくわ
六章 王の帰還
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六章二十三話 『記憶の片隅』



 走る、走る、走る。

 なんでこんなにも全力疾走しているのかというと、そりゃ後ろからゴロゴロと転がる岩から逃れるためである。

 あれからどれくらい走っているのか分からないが、岩は諦める様子がない。

 それに加え、


「急がないと潰されてしまうぞ」


「ルークさん! 来てますよ!」


「お前ら自分で走れや!」


 なぜかは分からないが、現在ルークの両脇には二人の少女が抱えられている。疲れたと言ってしがみついて来たソラと、こけそうになってたまたましがみついて来たアキンだ。


「お前らあとで覚えとけ! つか、今捨てんぞ!」


「大丈夫だアキン! もし捨てられても俺がキャッチしてやるからなオイ!」


「だったら最初からお前が運べ!」


 ルークの真後ろ。両手を広げながら、ピッタリとくっついて走るアンドラ。

 ルークがいつアキンを捨てても良いように備えているのだろう。援護の仕方が若干間違っているが、そこがまた彼らしいと言えよう。


「このままじゃ体力切れて終わりだ! おっさんなんとかしろよ! 洞窟探検得意なんだろ!?」


「今考えてる最中だっての! 違和感が見当たらねぇんだよオイ!」


「知るかんなもん! おいちびっこ、お前の魔法であれぶっ壊せ!」

 

「わ、分かりました! お頭、ちょっと退いてください!」


 ルークに抱えられながら、アキンは狙いをすますように岩へと手を向ける。アンドラが横に逸れた瞬間を見極め、掌から氷の礫が三発ほど放たれた。

 全て直撃。しかし、


「ダメです! 全然壊れません!」


「精霊の力で造られているのだ、その程度の魔法で壊せる筈がないだろう」


「んじゃ、お前なら壊せんじゃねぇのか!?」


「分からん。自身がない訳ではないが、恐らくこの洞窟は私と同等、あるいはそれ以上の力を持つ精霊が造ったものだ」


「じり貧じゃねぇか!」


 大した解決策は見当たらず、先ほどからこんなやり取りを永遠と繰り返している。大きな揺れが洞窟ないを二度ほど襲ったが、それに関しても元凶を確かめる事すらままならない。

 なので、とりあえず逃げているのである。


「つっても、必ず突破方はある筈だ! 先に入った奴がいねぇって事は、どこかに本物の通路があるって事だろーがオイ!」


「だから! それを探せってさっきから言ってんの!」


「無茶言うなオイ! 俺も逃げるので手一杯だ! せめてあの岩を止められれば……」


「無理だろ! 魔法でもソラでも壊せねぇんじゃ……あ! その手があったわ!」


 突然のひらめきが脳ミソを刺激し、ルークは真っ直ぐに前方を見据える。いつまでたっても変わらない景色が続いており、特段変わったところは見受けられない。

 このまま進んだところで恐らく結果は同じ。となれば、


「ちびっこ、俺の体よじ上れ!」


「ど、どうやってですか!?」


「自分で考えろ! 今走るので精一杯なんだよ!」


「は、はい!」


 もじもじと身をよじりながら脇から抜け出し、落ちそうになりながらもルークの背中へと移動。

 くすぐったさに変な声を上げつつも、ルークは足を前に出す。


「良いか、よく聞けよ。俺が合図したら出来るだけ先の地面に穴あけろ。俺達全員が入れるくらいの大きさの奴だ!」


「分かりました! でも、そんな事出来るんですか?」


「さっきの穴だらけの空間、あれは壊せただろ! あの岩を壊せなくたって地面くらいはいける! ……と、思う! そう信じろ!」


 言葉に若干の不安は残るものの、今打てる手はこれしかない。首の辺りに手をかけるアキンの躊躇いを感じていたが、それに気づかっている暇などないのだ。

 刻一刻と迫る大岩へチラリと目をやり、


「お前がやらなきゃ全員ぺちゃんこだ!」


「ーー! やります!」


「おっさん! 俺が合図したら穴に飛び込め!」


「りょーかいだオイ!」


 アキンの狙いが逸れないよう、出来るだけ上半身を固定して走る。

 顔の横に突き出された手を目にした瞬間、ルークは自分の顔が青ざめていくのを感じていた。


 真横で熱を発する炎は、ゆっくりと鳥の形へと変化していく。

 命中やら威力に不安が残るーーというか、不安しかないアレだ。


「ちょ、別にそれ使わなくても良いんじゃないかな!?」


「え? でもさっきと同じってーーあ」


 今の発言はまずかった。

 ただえさえ集中力を要求する行動を、ルークはわざわざ自分の手で邪魔してしまったのだから。

 アキンの手を離れた炎はゆらゆらと進み、突然勢いを失ったように落下。


 ーールーク達の目の前に。


「バーー」


「オイーー」


 断末魔を残し、穴に飛び込むのではなく四人は落下した。

 思ったよりも深く掘られた穴に吸い込まれ、そのまま地面に激突。ルークの上にソラとアキンがのし掛かり、さらにその上にアンドラが降って来た。

 爆煙の中、頭上を通り過ぎる大岩を目にして、


「……おうコラちびっこ、なんのつもりだお前」


「や、やりましたよ! 僕達全員無事です!」


「良くやったなアキン! 流石俺の部下だぜオイ!」


「良いから……俺の上から下りろ!」


 親バカと子バカが騒ぎそうになったので、怒りを爆発させながら二人をぶん投げた。ベシ!と壁に顔面から突っ込む二人に、続けて落ちていた小石を投げつけ、


「お前もだ」


「私はここから離れんぞ。もう歩けない」


 腹の上で丸くなる精霊さんにも、おまけで拳骨を振り下ろした。


 それから少しして、大岩が完全に過ぎ去った事を確認すると、四人は穴から這い上がった。

 服についた汚れを払い、


「あっぶねぇ。また来たりしねぇよな?」


「そうなる前に早く次の道を探すべきだろうな」


「とりあえず来た道を戻ってみっか」


 道の先を見て岩が転がって来ていない事を確認し、ビクビクと恐れながら歩き出した。

 また長丁場になる、そう思った時、


「……こんなところに扉なんてあったか?」


「多分なかったと思います。必死に走ってたので覚えてないですけど」


「お前走ってねぇだろ」


 僅か数秒歩いたところで、見なれぬ扉があるのを発見した。

 アキンの言う通り、逃げるのに気をとられて気付かなかったという可能性もあるが、流石にこれだけの違和感を見逃す筈もないだろう。

 となると、


「岩をやり過ごすってのが、扉が現れる条件だったって事か?」


「そうだろうな。ッたく、さっきといい今といい、招きてぇのか拒みてぇのか分からねぇなオイ」


「それだけの重要なものがあるという事だろう。もしかしたら、特大の財宝かもしれんぞ?」


「それを俺に残しとく理由がねーだろ。マジでこの洞窟造った奴ぶん殴ってやる」


 特大の財宝という言葉に耳を動かして反応し、わくわくしながら扉を開けるよう急かすアンドラ。

 今までの体験を経て分かったが、間違いなくまだ罠は続くだろう。しかし、ここまで来て引くという選択肢をとる訳にもいかず、


「開けるぞ」


 扉を開け、次の地へと足を踏み入れた。



 再び現れた長い通路。

 細心の注意を払いつつ進み、ようやく開けた空間にたどり着いた。正方形の石レンガが地面に敷き詰まっており、ところどころに巨大な石の支柱が立っていた。

 天井は遥か上、恐らく数百メートルはあるだろうか。


「いよいよおかしい事になってきたな。地下にこんな広い空間がある訳ねーだろオイ」


「精霊の仕業だから、で片付いちまうんだよ。どっかの誰かさんも同じような事やってたしな」


「ふん、これくらい私だってやれば出来る」


 まだ見ぬ誰かに対抗心を燃やし、大きく胸をはるソラ。

 アンドラとアキンは面を食らったように口を開け、上を見上げたまま固まってしまい、この光景に驚きを隠せないようだ。


「行くぞ、こんなところで油売ってる暇なんてねぇ。どーせ、またうぜぇ罠があるんだろうからな」


「そうやって無警戒に歩くと罠にかかるぞオイ。これ洞窟の豆知識な」


 言われ、ルークは踏み出した足を止めた。

 とりあえず数歩下がり、アンドラの後ろへと回り込むと、意外とゴッツイ背筋に掌を押し当てて前へと進ませる。


「ちょ、なにしやがんだオイ!」


「俺が死んだら先に進めなくなんだろーが」


「俺が死んでも良いって聞こえるんだが!?」


「うっせぇよ、一々騒ぐな」


「俺の知識がなけりゃこの先ーーって、なんだありゃオイ」


 抵抗するアンドラを強制的に押していると、視線の先に巨大な扉が現れた。なにか複雑な紋様のようなものが刻まれており、見覚えのある青い宝石がいくつもはめ込まれていた。


「ソラ、あれって……」


「…………」


「おい、聞いてんのか?」


「あ、あぁ、すまない。とりあえず先に進もう」


 歯切れの悪い答えに違和感を覚えたが、四人はそのまま扉の側まで歩みを進める。

 扉の前までたどり着くと、おもむろにソラが手を伸ばし、輝く宝石に触れた。


「そんな、バカな……」


「あ? どうした?」


「私はここを知っている。覚えてはいないが、恐らくここに来た事がある……と思う」


「うひょー、こりゃ売ったら相当たけぇぞオイ!」


 神妙な顔つきのソラを他所に、ハイテンションなアンドラは宝石を見つめていた。

 宝石のように輝く瞳と謎のダンスで喜びを表しながら、その一つへと手を伸ばすーー、


「触るな!!」


「オ、オイ!?」


「それに気安く触るな。私の許可なく触れたら殺すぞ」


「なんだよ、別にお前の物じゃねーんだし、一個くらい……」


「おっさん、ソイツに触るな」


 ソラのただならぬ雰囲気を察知し、嫌な予感が頭を過る。あっけらかんとした様子のアンドラの手を掴んで止めさせ、無意識に睨み付けていた。

 自分でもどうしてそんな事をしたのかは分からない。

 ただ、ソラの態度が明らかに異常だったから。


 アンドラは気に入らない様子で口を尖らせていたが、


「お頭、僕からもお願いします。なんだか嫌な予感がするんです」


「アキンもかよ……。チッ、しょーがねぇな、盗賊が金目の物を前にして手を引くなんて、これが最後だぞオイ」


 アキンの説得もあり、アンドラは伸ばした手を引っ込めた。がら空きになった手をプラプラと揺らし、物欲しそうに宝石を眺めながら、


「つってもどーすんだオイ。ここで行き止まりだぞ?」


「またどっかに扉があるんだろ。それを探すしかねーよ」


「このだだっ広い空間をか? 骨が折れるぜオイ……」


 首を捻って辺りを見渡すが、これといって手掛かりがある訳でもない。ひたすらに続く石レンガの床と、ところどころに立つ支柱、そして巨大な扉。怪しいのは扉なのだが、ソラの様子を見るに無理矢理開けるとう手段はとれない。


 本格的に路頭に迷いかけた時、うつ向いていたソラが顔を上げた。

 そして、小さく呟く。


「来るぞ」


「あ? 来るって、なにがーー」


 ソラの言葉に首を傾げ、辺りを見渡した時、空からなにかが降って来た。

 ガン!!と石レンガの床を破壊し、砂ぼこりを巻き上げる。その中から、それは姿を現した。


「またかよ……」


 ルークが目にしたのは、先ほども戦った手足のはえた大岩だった。そしてそれは次々と空から降って来て、一、十、百、数えるのもバカらしくなる数が広々した空間を埋めつくす。

 餌に群がる獣のように、数秒後には動く大岩で満たされた。


 大量の大岩に気をとられていたが、突如扉にはめ込まれていた宝石が光を放つ。ちゃんと数えていなかったので分からなかったが、その数は優に百を越えているだろう。

 それを見たソラは、静かに目を伏せ、


「ルーク、構えろ。この岩どもを全て倒さなければここは通れない」


「……お前、やっぱここの事なんか知ってんだな」


「話はあとだ。とのみちこの先に進めば嫌でも答えを目にする」


 ゴーレム達が、一斉にこちらへ向けて走り出した。侵入者を排除するように設定されているらしく、真っ直ぐに群れを成して。

 これだけの数がいながら、ぶつかる事もなく。


「この宝石と奴らはリンクしている。ゴーレムを一体倒せば宝石の光は一つ消える。そしてここを通るには、全ての光を消す必要がある」


「まてまて、つー事はこれ全部ぶっ壊さなきゃならねって事かよオイ!」


「そういう事だ。死にたくなければ抗え。この程度の敵に圧倒されていては、扉の先に行く資格などない」


 奪還したような物言いのソラに、アンドラは言葉を失う。無理もない、どう考えたって不利過ぎる。たった四人でどうにか出来る数ではないし、一個師団連れて来ても勝負にすらならないだろう。

 そんな相手に四人で挑む、常人の考えではない。


 しかし、


「別に良いじゃねぇか。頭捻って考えるよか、こっちの方が分かりやすいだろ」


「そうですよ! 僕達なら簡単です。だって、魔元帥にも勝てたんですから!」

 

「そ、そりゃそうだけどよオイ……」


 怖がっている気配など一切ないアキン。力強く拳を握り締め、向かって来るゴーレムに向けてその拳を突き出した。


「おっさんは休んでても良いんだぜ? 俺とちびっこで全部片付けっからよ」


「バカ野郎! アキンが戦うってのに俺が見てられるか。部下の先頭に立つ、それこそがお頭ってもんだろオイ!」


「はい! それでこそ僕の憧れるお頭です!」


「そうだろそうだろ! 俺はすげぇ男なんだぜオイ!」


 娘の期待に背中を押され、盗賊アンドラはやる気に満ちた拳を天高く突き上げた。

 ルークは剣を握り締め、


「そんじゃま、かるーく石ころ退治と行きますか」


「はい!」


「やってやるぜオイ! ……あれ、俺武器ねぇんだけど? 殴ったら絶対拳砕けるよな?」


 地上の状況などいざ知らず、こちらでも戦闘が始まった。



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