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量産型勇者の英雄譚  作者: ちくわ
六章 王の帰還
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六章二十話 『宝探しの極意』



「お前ら、どうやってここに入ったんだよ!」


「んなもんあとで良いだろーが! 今はこの岩の化け物どもをどうにかするのが先だろオイ!」


「ーーッ! あとでしっかり説明しろよ!」


 腹からわき上がる罵詈雑言をなんとか押さえつけ、アンドラの言葉に乱暴に頷いた。

 飛び出したアンドラに続き、アキンが広い空間に足を踏み入れる。辺りを見渡して力強く頷くと、


「良し、早速やってやるぞ!」


 自信満々な言葉ののち、アキンの掌に小さな炎が出現。ぐにゃぐにゃと本来ならあり得ない動きを始め、ゆっくりと炎に形が与えられていく。

 そして出来上がったのは……多分鳥だろう。

 羽ばたくための羽根が四枚あり、顔もなんだか鳥というよりトカゲに近い。


「くらえ! 炎の鳥だ!」


 振りかぶり、謎の物体その一をゴーレムに向かって投げつける。が、それはアキンの手を離れた瞬間に弾け、広い空間全体を埋め尽くすほどの爆発を発生させた。

 当然、その場にいたルークとアンドラも巻き添えとなる。


「なにやっとんじゃクソガキ!」


「大丈夫かアキン! 怪我はねぇかオイ!」


「だ、大丈夫です! ちょっと失敗しちゃいました!」


 咄嗟に適当な穴へと飛び込んで爆発を回避し、難を逃れたルークとアンドラ。

 しかしながら、穴に入るとはゴーレムが出て来る発射口に自ら飛び込むようなものなので、


「あのガキ一発ぶん殴ってやる!」


『やるとしてもあとだ。今は目の前に集中しろ』


 眼前に迫る大きな丸石を斬り裂き、とりあえず全力で穴から退却。アキンの爆発であらかた砕けたものの、そんな事よりも厄介な事態へと動き出していた。

 アキンの爆発は効いた。いや、効き過ぎたのだ。

 洞窟を壊すには十分なほどに。


「お頭! ルークさん! 洞窟が壊れます!」


「お前のせいだろーが!」


「良くやったぞアキン! 偉い偉い!」


 なんでも褒めちゃうパパは放置。

 このままではどうあがいても生き埋めになる未来しか見えない。アンドラ達が現れた入り口を指差し、


「とりあえず逃げんぞ!」


「良し来た! アキン、こっちに来るんだオイ!」


「ルークさん!」


「なんでそっちに行くんだよオイ!」

「なんでこっちに来るんだよオイ!」


 アンドラの言葉を無視し、なぜかルークの元へと駆け寄るアキン。仕方ないのでわきに担ぎ上げ、頭上に落ちて来る岩を避けながらなんとか入り口にヘッドスライディング。

 遅れて涙目のアンドラも脱出に成功し、そこで完全に洞窟は崩壊した。


 間一髪の脱出劇に胸を撫で下ろし、塞がった入り口へと目を向ける。綺麗なまでに岩が敷き詰められており、人間の力で退かすのはどう見ても不可能だった。

 とりあえずアキンを投げ捨て、


「おいちびっこ、お前なんのつもりだ」


「はい? なにがですか?」


「なんで俺のところに来たのか聞いてんだよ」


「ルークさんが近かったので」


「そのせいでおっさん泣いてんじゃんか。可哀想だろ」


「な、泣いてねーよオイ!」


 ここまで思いを寄せているのに、アキンはまったく気付いてないようである。必死に涙を拭うアンドラに同情の視線を向け、ルークは珍しく人を可哀想だと思うのだった。



 それから数分後、泣いているアンドラを慰めタイムが始まり、アキンの魔法の言葉『パパ』で事なきを得た。

 落ち着きを取り戻したところで、ルークは本題へと話を切り替える。


「そんで、なんでお前らがここにいんだよ。つか、どうやって入った」


「一気に質問すんじゃねぇよオイ。まず最初の質問の答えだが、俺が昨日お前達の話を盗み聞きしてたからだぜオイ」


「……なるほど、ティアの言ってた事は本当だったって訳か」


「精霊やら王妃やらの名前が出てんだ、この祠には間違いなくとんでもねぇ宝があるに違いねぇ。と、思って俺達はここに来たんだ。宝と聞いて盗賊が黙ってる訳にはいかねぇからなオイ」


 昨日、ティアニーズが見たアンドラの姿は本物だったらしく、ボロ小屋での話を全て聞かれていたのだろう。気配も足元もまったく感じなかったので、そこは彼のスキルの高さを認めざるを得ない。

 ただ、重要なのはそこではない。


「んじゃ、どうやって入った。話聞いてたんなら分かってたんだろ? ここは精霊と勇者しか開けられねぇって」


「問題はそこだ。だから早起きしてお前のあとをつけようと思ったんだが、考えてたよりも早起きで置いて行かれちまったんだよオイ」


「はい、ずっとルークさんの部屋を監視してたんですけど、僕が居眠りしちゃいました」


「お前あとでげんこつな」


 サラっと重大な事実を口にしたアキンを、とりあえずいつか殴るノートに記載。

 可愛らしい笑顔から目が点になるアキンを他所に、アンドラは話を続ける。


「やべぇと思って急いでここまで来たんだよオイ。んで、そん時だ、誰が祠に入って行くのを見たのは」


「私達か?」


「多分違うと思います。ソラさんの特徴的な髪が見えませんでしたし、その人は一人でしたから」


「一人……しかもその口振りだと、ケルトって訳でもねぇんだろ?」


「遠目なので確実とは言えませんけど、仮面はつけてなかったです」


 ケルトでもルークでもソラでもない誰か。

 どう考えたって怪しさしかなく、どれだけ考えたって疑問しかわいて来ない。

 もし、二人の言う事が本当なのだとしたら、


「ケルトや私、それ以外に精霊がいる事になる」


「……しかも、理由は分からねぇけどソイツはこの中にいる。ここまで来る途中で誰にも会わなかったんだよな?」


「おう、間違いねぇよ。一本道だったからなオイ」


「だとすれば……正解の道を行った事になるな」


 ルークもアンドラも会っていないともなれば、先ほどの長い通路からどこかへ移動したと考えるのが普通だ。

 ともあれ、


「まぁともかく、開いてた扉に滑り込んだって訳だ。んで、進んでたらお前達を見つけた」


 今さらながら、あの扉は欠陥があったらしい。誰かが開けた直後に自動で閉まる事は確認していたが、その隙に入るという裏技を使えてしまう。まぁ、元々開けられる時点で普通ではないし、ケルトという門番がいるから気にしていなかったのだろう。


 アンドラ達がここへ侵入した方法を知り、ルークは呆れつつも壁に背を預ける。

 今となっては、彼らがどうやって入って来たのかなんてどうでも良いのだから。


「……ケルトは精霊であるソラとの会話も放棄してた。つー事は、精霊でも入れる気がなかったって事だよな?」


「そうだな。奴は私が精霊だと分かっていながら無視をしていた。あくまでも入れるのは勇者だけ、という事なのだろう」


「となると、その人影はケルトのいなくなったタイミングを狙ったって事だ。なんでだ?」


「そんなの簡単だろ。ここになにがあるのかを知ってて、もしくは知った。けど門番がいたから入れなかったって事だろオイ」


 ルークとソラは顔を合わせ、アンドラの言葉に頷いた。

 その人影が誰にせよ、ケルトがいなくなったタイミングを狙ったのは間違いない。長い間待っていたのか、それとも最近知ったのかは分からないが、入るにはそれなりの理由があるに違いない。

 ただ、


「この中って、姫さんの母ちゃんしかなにがあんのか知らねぇんだろ? しかも、この町の奴らならケルトっつー門番がいる事を知ってる。普通近付こうとも思わねぇだろ」


「最近この町に来た人物と言いたいのか?」


「分からねぇ。でも、入らなきゃならねぇ理由があるってのは確かだろ。精霊しか入れねぇ洞窟なんて普通は入りたいとも思わない。おっさん達は別な」


 なぜか得意気に頷いているが、アンドラは盗賊な上に頭がちょっとアレなので除外。

 悩むように卯なり声を上げていたルークだったが、


「ダメだ、考えても分からねぇ。ソイツがこの洞窟の中にいるってんなら、直接会って確かめるしかねぇか。……つっても」


 考える事を放棄し、ルークは完全に塞がってしまった岩に触れる。退かす事は出来るのだろうけど、再び突入したところで同じめにあうのがオチだろう。

 八方塞がりの状況にため息をこぼしていると、アンドラがドヤ顔で、


「ふん、ようやく俺の見せ場ってところだな。お前らに洞窟探検の極意を教えてやるぜオイ」


「しゃーねぇ、一旦外に出るか」


「仕方あるまい」


「無視すんなよオイ!」


 芸術的なスルーに抗議するアンドラ。

 嫌そうな顔をしている二人を睨み付け、呼吸を整えるように大きく息を吸い込むと、


「俺がどれだけお宝の眠る洞窟を巡って来たと思ってんだ。こんだけ大層な洞窟を造るって事は相当なお宝に違いない。罠も大量にあるだろうが、そもそも罠ってのは入れたくないから作るもんだ。けどこの洞窟はちげぇ。勇者になにかを伝えたくて作られたもんだ。つー事は、必ずお宝にたどり着くためのヒントがだな……」


「なげぇから、とっとと結論だけ言え」


「つれねぇなオイ。ま、なにが言いたいのかというと、俺は正解の道を既に見つけてある」


「……え? マジで」


「おう、マジだぜオイ」


 ドヤ顔レベルが上がり、アンドラはなんだか気持ちの悪い顔である。

 信頼の欠片もないのでとりあえずアキンへと視線を向けるが、拳を握って力強く首を縦に振っていた。

 アキンが頷くのなら、という事で、


「なら早く言え。そんで連れてけ」


「助けてやった人間に対してその態度はなんだ、アァ?」


「ちびっこ、行け」


「パパ、ルークさん達にも教えてあげてください」


「よっしゃ行くぞ!!」


 こちらにアキンという秘密兵器がいる以上、アンドラはどう足掻いても勝てないのである。

 パパを良いように利用したところで、ルーク達は来た道を戻るように歩きだした。


 と言っても、やはりひたすら長い道が続くばかりだ。

 アンドラは肩で風をきりながら先頭を歩き、


「お前らおかしいとは思わなかったのかよオイ。この松明の炎を」


「あぁ、精霊の炎な」


「え? 精霊の炎なの? んまぁそんなのはどうでも良いんだよオイ。さっき試したが、この炎は魔法でも消えなかった」


 自分の知らない情報に目を見開いたが、直ぐに格好つけモードへと移行するアンドラ。

 文句の一つも言いたいところだが、そういうお年頃なのだと納得し、ルークは口を挟む事をせずに耳を傾ける。


「魔法でも消えねぇ炎なのに、なぜか所々炎が消えてる。洞窟探検で重要なのは違和感を探す事だぜオイ。つー訳で、俺は炎の消えてる松明を全て外してみた」


 アンドラの指先へと目を向けると、壁に設置されていた松明がなくなっていた。それは地面に乱暴に捨ててあり、アンドラが取り外したあとなのだろう。


「んで、どうなったんだ」


「まぁまぁ焦りなさんな。もう少しで……っと、あったぜオイ」


「これは……驚きだな」


 先頭を歩くアンドラが突然走り出し、それに続くようにあとを追いかける。すると、なにもなかった筈の壁に鉄の扉が出現していた。まるで、初めからそこにあったかのように。

 これにはソラも褒めるように頷き、アキンは自分の事のようにはしゃいでいる。


「流石お頭です! 僕は全然気付きませんでした!」

 

「そうだろそうだろ! 俺はすげぇ男なんだよオイ!」


「はい! 凄いです!」


「はいはい凄い凄い。んで、開けてみたのか?」


「いんや、まだだ。開けようとしたらうるせぇ音が聞こえて来たからなオイ」


 ルークの周りには、本人を含め褒められて調子に乗るタイプが多いらしい。

 とりあえず飛び跳ねている盗賊二人組を落ち着かせ、扉に罠がないかを確認。そして、


「よし、おっさん開けてみろ」


「あ? なんで俺なんだよオイ。罠があったらどーすんだ」


「罠があるかもしれねぇからだろ。それともちびっこに開けさせんのか?」


「よし、開けよう」


 ここまでアキンに対して甘いのを見ていると、いずれ結婚でもしたら相手を殺してしまうんじゃないかという危険すらある。ただ、ルークにとってそんな事知ったこっちゃないので、ビクビクと扉に手を伸ばすアンドラの背中を見守る。が、


「ん? 開かねぇぞ?」


「……なるほど。ルーク、貴様がやれ」


「なんで俺なんだよ」


「勇者だからだ」


 扉を見つめるソラの言葉に、ルークは『なるほどね』と呟く。

 ガチャガチャと悪あがきを繰り返すアンドラを退け、扉に手を伸ばし、ドアノブを捻った。

 ガチャリ、という音ののち、扉はなんの問題もなく開いた。


「徹底的に勇者以外を拒否してるみてぇだな。かなり用心深い奴が造ったんじゃねぇのかここ」


「それほどまでに隠したいなにかがあるという事だろう。はてさて、誰がこんなものを造ったのか」


「わぁ! ルークさん凄いです!」


「……クソ!」


 数分間の見せ場を終え、美味しいところを持っていたかれたアンドラ。悔しさに唇を噛み締めて呟くが、そんなのは気にせずに扉の中へと歩みを進める。


 全員が扉の中へ入ると、これまた自動で扉が閉じる。

 辺りを見渡すが、先ほどまでいた通路となに一つ変わらない道が、左右にどこまでも伸びているだけだった。


「また同じところかよ。おっさん、謎解き頼むわ」


「おう、任せとけ。俺にかかればこんなの余裕だぜオイ」


 意気揚々と拳を振り回し、とりあえず右へと歩き出す一同。やはり松明も同じように設置してあり、先ほどの通路と全く同様の構造らしい。

 しばらく進むも変化はなく、ソラが疲れたように、


「まさかこれを何度も繰り返す訳ではないだろうな。断言しよう、私の体力はもう限界だ」


「知らねーよ。歩けねぇなら置いてく。それが嫌ならついて来い」


「おんぶ」


「僕がおんぶしましょうか?」


「止めとけ、重さで潰れるぞ」


 ソラの怒りに触れたらしく、無言のまま飛び掛かって来た。バランスを崩してもつれ合い、そのまま後頭部を壁に強打。

 なんとか引き剥がそうと抵抗するが、


「レディに対して重いとはなんだ!」


「誰がレディだ! あと、俺以外の人間じゃお前を持ち上げられねぇんだから、重いってのは間違ってねぇだろ!」


「私は軽いぞ! ほれ!」


「ほれ、じゃねぇよ! のしかかってくんなーーって、あれ?」


 腹の辺りにしがみつくソラを退けようと腕を振り上げた時、肘が壁に当たった。その瞬間、ルークは違和感を感じた。アンドラの言っていたやつである。

 肘が吸い込まれたような感覚に、一旦手を止めて壁へと目を向ける。すると、


「……なんだこれ。スイッチか?」


「ん? スイッチのようだな。こんなところ隠してあるとは、まるで罠のスイッチのようではないか」


 沈黙。


「…………いやいや、ねぇ?」


 ソラの何気ない言葉に不安をかきたてられ、その場の全員が口を閉ざした。ルークは精一杯の笑顔で問いかけてみるが、その笑顔はひきつっていた。

 洞窟を沈黙が支配する中、予想通りにそれはやって来た。


 ガガガ!と激しい音をたて、転がって来るのは岩だ。

 通路を塞ぐくらいの大きさの岩。

 当然、逃げ道はない。

 となれば、


「うし」


 キラリ、と歯を光らせ、ソラを優しく抱き上げて地面に下ろす。珍しく爽やかな笑顔ののちーールークは全力で駆け出した。

 ソラ達を放置して。


「ん……なにやっとんじゃお前はァァァ!」


「ここまでとは。言葉の力とは侮れんな」


「そ、そんな事言ってる場合じゃないですよ!」


 続いて危機を察知し、ソラ達も走り出した。

 相も変わらず、ルークという男はなにかから逃げる運命のようである。



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