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量産型勇者の英雄譚  作者: ちくわ
五章 王の呪い
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五章十五話 『呪いの元凶』



 その日の夜、ルーク達はソラの話を聞くついでに、全員で揃って夕食をとっていた。

 宿舎に戻るなりリエルは病院へ行き、トワイルとティアニーズもそれの手伝いに行ってしまった。残されたルークが意地でも話を聞かない姿勢を見せたため、こうして披露するのが夜になってしまったのだ。


 王都から来たメンバーにマズネトを加え、七人で二つのテーブルを囲んでいた。話したくてうずうずしているソラを押さえ、とりあえずは食事を進める。

 箸を持つ手を止め、マズネトがトワイルに話かける。


「今日は本当にありがとうございます。皆さんのおかけで何人もの命を救えました」


「いや、俺達も力になれてなによりだよ。呪いに関しては全然分からないから、それ以外でしか手伝えないけどね」


「そんな事ありません。解呪だけに集中出来たのは皆さんのおかけです。運ばれて来る人まで手を回していると、それだけで手一杯になる事もあるんですよ」


「しっかし、マジでアホみたいに運ばれて来んのな。久々に動きまくって身体中バッキバキだぜ」


 オレンジジュースを一気に流しこみ、体を伸ばすように両手を上げるリエル。パキパキと骨が鳴り、気持ちよさそうに息を吐いた。

 しかし、そんなリエルとは正反対に、ルークの前に座るエリミアスは箸を持つ手が震えていた。

 隣に座るティアニーズが心配そうな目で見つめ、


「あの、大丈夫ですか姫様?」


「はい。重たいい物を沢山運んだので、上手く手に力が入らなくて……」


「手伝うって言ったからな、あの部屋に入った時点でアタシと姫様は同じ土俵に立ったんだ。だから容赦なく仕事押し付けたんだよ」


「私が自分で言い出した事なので、後悔はしていません。不謹慎ですが、その……ちょっとだけ楽しかったです」


 震える箸でなんとか口に食べ物を運び、エリミアスはその口元を緩めた。今までになかった体験を経て、彼女の中で達成感というのを初めて味わったのだろう。姫という立場上、雑用は全て周りの人間がやっていたに違いない。


「……俺も姫様だったら心行くまでニート出来たのにな」


「ルークさんには無理ですよ。初めて会った人に頭を下げて、正しい言葉遣いで接せますか?」


「無理だな、悪くもねぇのに頭下げるとか」


「ほら、ルークさんにはそうやって自由にヘラヘラしてる方が似合ってます」


「ヘラヘラしてねぇよ。お前も絶対無理だな、正確わりぃしいきなり殴るし」


「私が暴力を振るう時は、決まってルークさんが悪い時です。なので、全部不可抗力です」


 大半はルークが悪いのは間違いないが、たまーに理不尽な暴力が襲って来る時がある。それについて言い返したいところだが、これまた理不尽な暴力を振るわれる可能性がある。なので、ルークは飛び出しかけた言葉を水とともに流しこみ、


「そんで、牛乳大好きな精霊さんよ。お前の気付いた事ってなんだ?」


「別に牛乳が大好きな訳ではないぞ」


「ならなんで飲んでんだよ」


「それは……骨を丈夫にするためだ」


「嘘つけ、貧乳を気にしてーー」


 ルークが最後まで言い終えるより早く、ソラの投げた焼き魚が口の中に吸い込まれるように入った。骨ではなく魚自体が喉に刺さり、ルークはもがきながらも近くにあったコップを手に取り、水と一緒に流し込む。

 肩を上下させ、


「バカかお前は! 死ぬところだったぞ!」


「貴様が検討違いな戯れ言を口にするからだ」


「ッたく、なんでこう暴力的な女ばっかなんだよ。……って、どうした?」


「あ、いえ……別になんでもありません」


 ごくごくと喉を潤していると、隣に座るティアニーズがうつ向いて頬をほんのりと染めていた。

 と、ここでルークは気付く。

 手に取ったコップは、ティアニーズの飲みかけだと。


「あぁ、これお前のだったんか。ほい、まだ残ってるからやるよ」


「……本当に、貴方って人は他人にまったく興味がないんですね」


「あ? そんなの普通だろ」


 変わりに自分のコップを差し出し、ティアニーズは視線を逸らしながらそれを受け取った。ルークはまったく気付いていないけれど、年頃の女の子は間接キスでも気にしてるしまうようだ。


 脱線した話を元に戻すように、鼻の下を牛乳で白く染めたソラが、わざと音を立てて注意を引くようにテーブルに置いた。


「さて、私の偉大なる頭脳で導き出した一つの結論を語る時間だ」


「前置きは良いからとっとと結論だけ言え」


「バカ者、こういうのは順序というのが大事なのだ」


「へいへい、んじゃ好きなように話してくださいよ」


 ナプキンで鼻の下を拭い、ソラは全員がこちらを見ている事を確認すると、満足したように鼻を鳴らす。それから再び牛乳の入ったコップを握り締め、


「そうだな、まずはあの魔獣がどこから来たか分かる者はいるか?」


「外、からじゃないのかい?」


「いや、アイツらいきなりわいて来たぞ。それに、地面に変な紋様が書いてあった」


「紋様? って、いや待ってくれ、それは……」


「流石はトワイル。察しが良くて助かる。が、分かっていないアホもいるようだ」


 なにかに気付いたのか、トワイルは額に手を当てて驚愕の表情を浮かべる。

 その他はまったく分からずに、バカにしたように低い身長で精一杯見下ろそうとしているソラへと視線が集中。


「あの魔獣どもは紋様から出現した事はまず間違いない。ルークが刻んだ直後、奴らの増殖が止まった事がその証拠だな」


「んじゃ、あれを書いた奴が犯人って事か?」


「あぁ、その通りだ。では、誰がいつ書いたと思う?」


「んなの、分かる訳ねーだろ」


「私は分かる。なにせ完璧な頭脳の持ち主だからな」


 一々勘に触る言い方をするもんで、思わず拳を握り締めるルーク。

 ティアニーズが『まぁまぁ』とその拳を納めさせ、両手を広げてドヤ顔全開のソラへと疑問を投げ掛ける。


「前もって書いていたとかですか?」


「いや違う。あれは私達があの場を訪れてから書かれたものだ」


「なんでそう言いきれんだよ」


「考えてもみろ、あの偉そうな男はあの場所を神聖な場と言っていた。そんなところに訳の分からない紋様があったら、どんな反応を示すと思う?」


「そりゃぶちギレんだろうな。俺もぶん殴られたし」


「……はい、ってえ!? またなにかしたんですか!?」


「またってなんだよ、先に手ェ出したのは向こうだ。俺はやり返してねぇ」


 厳密に言えば、やり返さなかったのでなくやり返せなかったである。

 ティアニーズは驚きの表情のまま頭を抱えていたが、その絶叫はあと回しだと決めたらしく、


「では、誰が書いたものなんですか?」


「恐らく海の子とかいう宗教の誰かだろうな」


「なるほど。……ですが、そんな事普通の人間に出来るんですか? 魔獣を呼び出すなんて聞いた事ありません」


「無理だろうな。人間に魔獣を作り出す事は出来ない。仮に出来たとしても、まず始めに襲われるのは本人だ」


「だったら、それはおかしいです」


 あの紋様が書かれたのはルーク達があの場を訪れてから。そして、それをやった犯人は海の子の誰か。しかしながら、人間には魔獣を作り出す事は出来ない。

 微妙に噛み合わないパズルに首を傾げていると、トワイルは小さい呟いた。


「人間には出来ない。なら、人間以外なら……?」


「出来る、というかそれが答えだ」


「魔元帥には力がある。自分より下位の魔獣を作り出す事の出来る力だよ。城に来た魔獣を覚えているかい? あれはきっとウルスが作った魔獣だ。魔除けの魔石がある以上、魔獣は王都には入れないからね」


「ちょっと、待て。それって……」


「ここまで言えば分かるだろう。あれをやったのは魔元帥だ、そして、その魔元帥は海の子の中にいる」


 パズルが完成し、頭の中がスッキリしたのと同時に新たな不安感が居座る。

 魔元帥がこの町に居ると、ソラはそう言っているのだ。

 全員がうつ向く中、トワイルが口を開く。


「初めから中にいたんだよ。町で目撃された魔獣は外から来たんじゃない。中にいた魔元帥が作ったんだ」


「あぁ、そしてもう一つ。あの魔獣は呪いを持っていた、間違いないな?」


「おう、アタシの目で見たから間違いねぇよ」

 

「呪いを持った魔獣を作り出したのも、その魔元帥の仕業だろうな。魔獣を作り、そこへ自分の呪いを与えた」


「そう、今町で起きてる全ての事件は……」


「なにからなにまで、全て魔元帥の仕業だよ」


 全てを言い終え、ソラは満足したように口角をニヤリと上げた。

 魔元帥は最初からサルマにいて、目的は不明だが呪いをバラ撒いていた。事件がおき始めた時期を考えれば、ここ数ヶ月の間に潜入したのだろう。


 いつでも人間を殺せる状態にありながら、自分は姿を隠してなにかを成し遂げようとしていたのだ。

 魔元帥が近くにいる、普通の人間からすれば恐怖でしかない。けれど、


「なんだよ、探す手間が省けたじゃねぇか。あっちからちょっかい出して来たって事は、俺が勇者だって知ってるって事だろ? なら、とっとと見つけてぶっ潰しゃ良い」


「流石に内部に入られている事は驚きましたが、相手がどこにいるのか分かっている。これは大きなアドバンテージになります」


「ハッ、ついにアタシにも魔元帥を殺す機会が回って来たってこった。ふざけた呪いをバラ撒きやがって、思いっきりぶん殴ってやる」


「ま、王都の時みたいに後手に回らずに済みそうだ。魔元帥が海の子の一員って事も分かっている。今度は俺達が仕掛ける番だ」


 誰一人として、その顔に恐怖を浮かべている者はいなかった。流石にエリミアスは会話を聞いて不安な表情をしていたが、彼女だって一度魔元帥と向かいあって生き残った少女だ。それに、まだまだ未熟だけれど、折れないという強さを持っている。


 今まで、ルーク達は魔元帥に良いように攻められていた。

 だからこそ、今回はそう上手くはいかせない。

 トワイルは不敵な笑みを浮かべ、


「明日、その海の子の教祖に会いに行こう。マズネト、奴らがどこにいるか分かるかい?」


「はい、東にある大きな教会です。毎日町の中心で祈りを捧げているので、そこでも会えると思いますよ」


「よし、明日が勝負だ。マズネト達はここを頼むよ、俺達第三部隊で調査に行く」


「は? ちょっと待てよ、アタシも一緒に行くぞ」


「ダメだ、今は少しでも人手が欲しい状況で、君の解呪能力は必要なんだよ。呪いの苦しみから解放させるのが先決、リエルだって分かっている筈だ」


「クソ、わーったよ。アタシはマズネトと一緒に呪いを解く。ただし、絶対に逃がすなよ」


「勿論、必ず正体を突き止めて殺す。呪いを解くにはそれが一番早いからね」


 やるべき事がハッキリと確定し、食卓がやる気にみなぎる。

 当然、殴られた借りのあるこの男も、


「うっし、とりあえず一発はぶん殴る」


「まて、私とルークは行かない方が良い。行くにしても、姿を晒すべきではない」


「なんでだよ」


「もし、自分が殴った相手が目の前に現れたらどうする? しかも喧嘩っ早い奴だ」

 

「んなの、警戒すんに決まってんだろ。殴られるじゃねぇかって」


「そう、普通は警戒する。だからダメだ、出来るだけ穏便にすまし、魔元帥だけを見つけるには」


 ソラの言っている事は正しい。正しいからこそ言い返せず、ルークは行き場のない怒りを拳に乗せてブンブンと振り回す。

 ティアニーズは体を逸らして暴れるルークを避け、


「ですがもし戦闘になった場合、ルークさんの力は必要ですよ?」


「うん、だからルークとソラには一緒に来てもらう。ただし、中に入るのは俺とティアニーズだけだ。外で待っていてくれ」


「ぐ……殴らねぇと気がすまねぇ」


「この条件が飲めないならここで待っていてくれ。一人で行けるほど土地勘はないだろう?」


「……わーったよ。今回だけは殴るの我慢してやる……いや、魔元帥が誰か分かったら殴れるな」


「殴るのも許可出来ない。たまには許す事もしないと」


 一応、ルークは許すという行為自体はちゃんと出来る。がしかし、自分の気がすんでからという前提条件があるので、なにもせずに許すなんて聖人じみた優しさは持ち合わせていないのだ。

 とはいえ、男を殴る事よりも魔元帥を倒す事の方が重要なので、


「許さねぇ。許さねぇけど我慢してやるよ」


「あぁ、そうしてくれると俺も助かる。それじゃ、明日は東の教会に向かう。魔元帥との戦闘になる可能性があるから、各自しっかりと身体を休めてくれ」


 サルマに来て僅か一日目。

 それなのにも関わらず、魔元帥の影が見えてしまうのは、やはり勇者であるルークが引き寄せているのだろうか。


 その後も食事を進め、早めに切り上げると、ルークは自分の泊まる部屋へと戻って行った。



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