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何かが取り憑いている(物理)

作者:

「最近妙に身体が重いのよね。」


 ルリアナはポリポリとクッキーを齧りながら呟いた。


 テーブルの上にはサンドイッチやケーキ、ババロアやキッシュ、フレッシュな果物にナッツやチョコレート入りのクッキーなどが綺麗に配置されたお皿が三段にセットされている。

 その隣には大きなポットが置かれてあり、それを侍女のモリーが手を伸ばして取り上げ、ルリアナのティーカップへ注いだ。注いだ途端に馥郁とした香りが広がり、ルリアナは顔を緩めて左手を伸ばした。

 お行儀悪く、右手に発酵バターを沢山練り込んだサクサククッキー、左手に注いだばかりのベルガモットの香る濃い目に入れた紅茶。甘いものを食べているので、お砂糖は入れずにミルクを少しだけ。

 幸せ感を顔面一杯に表現して、それらを味わう。


「あぁ、やっぱりモリーの入れた紅茶が一番私の口に合うわ。」


「ありがとうございます、お嬢様。」


「さっきの紅茶も良かったわ。」


 アフタヌーンティーの準備を眺めながら飲んだ紅茶は特に美味しかった。


「先程お入れしたのはフェンデルモリスのダージリンのファーストフラッシュです。」


「何でも良いわ。美味しければ。」


 そう言いつつ、パウンドケーキへ手を伸ばす。バナナの輪切りがツヤツヤとしている。


 手ずから大ぶりにカットし、小皿へ写すと、お行儀良く小さなフォークを入れる。


 口の中へと放り込めば練りこまれたバナナがしっとりとして口腔を楽しませ、隠し味に入っているウィスキーの甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「うちのパティシエールは天才ね。一本ぺろりと行けちゃいそうよ。」


「お褒めに預かった事、伝えておきます。」


 お次は、と視線を巡らせると、ふと、フィナンシェやマドレーヌ、ダックワーズなどの焼き菓子に目が止まった。


「私これ大好きなのよね。」


 そう呟きながらダックワーズを手に取る。外側はカリッと、中はふわっと、ホイップされたアーモンドクリームはルリアナの希望でたっぷりと入っている。まさに、口福とはこのことね!と、ルリアナは嬉しそうに微笑んだ。


 3個程を胃に納めたところで、新しい焼き菓子が運ばれてきた。


 その芳しい香りに惹かれて早速手を伸ばす。


 ふわっとあたたかいそれにデザートフォークを突き刺すと、中からトロリとしたチョコレートが溢れ出てくる。周りの生地を切り取りチョコレートを絡めて口へ運ぶと甘苦い大人の味がねっとりと舌に絡みついてくる。んんん〜!と言葉にならない感嘆が声に現れている。


「フォンダンショコラは焼きたてが最高ね!」


 ルリアナは満足した顔で、美しいガラスの器に入ったトライフルを引き寄せる。


 そのままスプーンを突き立てようとした所で、モリーがコホン、と咳払いをした。しぶしぶスプーンを下ろすと、モリーがガラスの小皿を取りあげてサーブしてくれる。お上品に受け取り小さなデザートスプーンを突き立てる。


「トライフルをそのまま食べたかったのに。」


「お嬢様。」


 厳しく窘めるモリーに、はいはい、と流しながら、スプーン限界まで爽やかなイチゴ色のゼリーに生クリームをたっぷりと乗せて大きな口を開いてパクリと入れる。甘酸っぱいフルーツの味と生クリームが絶妙である。ベリーソースを挟んだケーキ生地もアッサリとしていて、このままちまちまと小皿で食べるよりも大きな器ごと大ぶりのスプーンで掬って食べたいものである。


「そう、それでね、モリー。昨夜なんか、寝苦しくて真夜中に目が覚めてしまったのよ。それで何が起こったと思う?」


「何が起こったんですか?」


 ルリアナは、内緒話をするかの様に声を潜めてモリーの耳元に囁いた。


「金縛りよ。」


「金縛り?」


「そうよ、あまりの苦しさに目が覚めて起き上がろうとしたら、身体が全っ然動かないの。」


「さいですか。」


「もう、モリーってば、真面目に聞いて!最近なんか、部屋の中でミシッ、ミシッ、って音もするの。きっとポルターガイストだわ。それに、身体がなんだか重いのよ。腰も痛いし肩も凝っているのよ。私、恐ろしくって!きっと何か悪いモノが取り憑いているのよ!!」


 少し顔色を青くしてブルッと震えるルリアナに、モリーは冷静に答えた。




「それはお嬢様、脂肪です。」








ルリアナ

 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したので、取り敢えず、お菓子レシピを料理人と開発して内政してた。ら、肥えた。もともとはスレンダー巨乳の色っぽい系美女。しかし中の人が残念な為に体型を大幅に崩してしまって、婚約者とヒロインが出会う前に既に婚約破棄の危機。しかし本人は婚約破棄と言われたら、悪役令嬢から外れれるので喜ぶかもしれない。今のところお菓子があればハッピー。


モリー

 ルリアナの開発したお菓子は美味しい。でも、お嬢様の体型は気になる。なんとか伝えたい。しかし、脂肪を死亡と聞き間違えて死者に取り憑かれていると恐怖し教会へお祓いを頼みに行ってしまうお嬢様になんと言えば良いのか分からない。きっと痩せたら母夫人に似て妖艶な美女になるだろうにと、残念な気持ちが抑えられない。


フェンデルモリス

 架空の紅茶メーカー。王室御用達。実在しません。

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