震災の日に
3月11日。今日は、東日本大震災の日です。今日は、震災にまつわる不思議な話を、したいと思います。
このお話の主人公は、ある小さな男の子。男の子には、東北の田舎の方に、おじいさんと、おばあさんがいました。でも、おじいさんもおばあさんも、2011年に起こった震災で、亡くなってしまいました。
そして、男の子のお母さんとお父さんは、男の子に、おじいさん・おばあさんが亡くなったことを、男の子が傷つくから、伝えないでおこう、そう決めました。そして、両親は男の子に、
「おじいさんとおばあさんは、今は遠くに、旅行に行っているんだよ。」
と、伝えました。
「へえ、そうなんだ。じゃあまた帰って来たら、おじいちゃんとおばあちゃんに会いたいな。」
男の子は、そう言いました。そして、それを聞くと、男の子のお母さんとお父さんは、暗く、悲しい気持ちになりました。
そして、震災から5年が経ちました。小さかった男の子は、大きくなり、小学生になっていました。
そんなある日のことです。男の子が、学校に行くと、あるクラスメイトの男の子が、どこから聞いたのか、
「お前のおじいちゃんとおばあちゃんって、地震で死んだんだって?」
と、話しかけてきました。
「死んでなんかいないよ。おじいちゃんとおばあちゃんは、遠くに旅行に行っていて、今は会えないだけなんだ。」
男の子は、そう、クラスメイトに言い返しました。
「そんなわけないだろ。お前のおじいちゃんとおばあちゃんは、死んだんだよ。」
男の子は、もう1度、クラスメイトにそう言われました。
「死んでなんかいないよ。だって、お母さんとお父さんが、そう言ってたもん!」
男の子はそう言い、クラスメイトとケンカになりました。
そして、クラスメイトとケンカして、仲直りしないまま、男の子は家に帰りました。しかし、男の子は家に帰っても、クラスメイトから言われた言葉が、頭から離れません。
「おじいちゃんとおばあちゃんは、死んじゃったのかな?」
そう思った男の子は、お父さんとお母さんに、聞いてみよう、そう思いました。
でも、男の子は、なかなか聞き出すことができません。その日の晩ご飯は、男の子の大好きな、カレーライスでしたが、そのご飯も食べられないほど、男の子は悩んでいました。
「もしお母さんとお父さんに聞いて、おじいちゃんとおばあちゃんが死んじゃっていたら、どうしよう…。」
男の子はそう、悩んでいました。
「どうしたの?今日は気分が悪いみたいだけど…。風邪かな?熱、計る?」
お母さんが心配して、男の子にそう聞きました。
「ううん、大丈夫。今日はちょっと疲れただけ。今からお風呂入って、宿題して、今日は早めに寝るね。」
男の子は、そう言って、自分の部屋へ行きました。
すると男の子は、そのまま寝てしまいました。そして、男の子は…、不思議な夢を見たのです。
男の子が立っているのは、今まで見たことがないような、きれいな場所です。そこには、きれいな花が咲いています。また、少し離れた場所に、川も見えます。
「ここはどこだろう?」
男の子がそう思っていると、ある2人の人影が、男の子の方に近づいてきました。それは、見覚えのある人影…、男の子の、おじいさんとおばあさんでした。
「久しぶりだね。元気だった?」
おじいさんとおばあさんは、そう男の子に語りかけました。
「あっ、おじいちゃんとおばあちゃん!僕は元気だよ。おじいちゃんとおばあちゃんは、元気?」
「ああ、そうだね。」
「良かった。また、お母さんとお父さんと僕とで、おじいちゃんとおばあちゃんの家へ、遊びに行きたいな。」
「…残念だけど、それはもうできないんだ。お母さんとお父さんから、何か聞いていない?」
「えっと…、お母さんとお父さんからは、おじいちゃんとおばあちゃんは、遠くに旅行に行っている、って聞いてるけど…。もうすぐ、家に帰るんだよね?また、みんなで会えるよね?」
「そうだね。おじいちゃんとおばあちゃんは、
旅行に行ったんだ。それで、今はここにいるんだよ。でも、この場所は、みんなが来てはいけない場所なんだ。だから、帰らないといけない。…分かってくれるかな?」
おじいさんとおばあさんは、はっきりとは言いませんでしたが、男の子は、おじいさんとおばあさんが亡くなって、別の世界へ行ったことを、この時知りました。
「分かった。僕、もう子供じゃないから、分かるよ。僕、今小学校で、がんばって勉強しているんだ。それに、身長も伸びて、大きくなっているんだ。それに…、」
男の子は、少し泣きながら、学校での生活などを、おじいさんとおばあさんに話しました。
「そうか。学校で、がんばっているんだね。
さあ、そろそろ時間だよ。元の世界に、気をつけてお帰り。」
「分かった。おじいちゃん、おばあちゃん。でも、もう1度だけ、1度でいいから、またここに、遊びに来てもいいかな?」
「ごめん、それはできないよ。でも、おじいちゃんとおばあちゃんは、いつでも側にいるから。ずっと側で、見守ってるから。だから、寂しくなんかないよ。」
「…そっか。じゃあ、またね。おじいちゃん、おばあちゃん。バイバイ!」
「またね。」
次の朝、男の子は目を覚ましました。男の子の目は、心なしかうるんでいるように見えます。でも、もう、寂しくなんかありません。そして男の子は、部屋を出る前、心の中で、おじいさんとおばあさんに、こう言いました。
「おじいちゃん、おばあちゃん、今までありがとう。さようなら。ゆっくり休んでね。」
おしまい