プロローグ
何も存在しなかった空間に一匹の龍の神が生まれた
その龍の神は何もない空間に退屈したので、自身の持つ力で二匹の龍の子を産んだ
その龍の子達の遊び場を作るために龍は膨体で無限にあるであろう空間の一部に『世界』を創った
龍の神はその世界に自分の名前である『アレスチア』と名付け、龍の子達に遊び場を設けた
龍の子の一匹である邪龍ヴァイラは龍が創った世界を壊すことを好み、そしてもう一匹の子供であるドレイラは龍の神が創った世界、龍の神そのものが好きだったので、ヴァイラの破壊を止める為にドレイラ自身をヴァイラの破壊の対象とし、ヴァイラとドレイラは幾億の時を争いに費やした
永遠と続いた二匹の争いを見かねた龍の神はヴァイラを太陽に、ドレイラを月に変えて、二匹が決して交わらない位置に太陽と月を置き、争いを終わらせたことにより昼と夜が生まれた
しかしヴァイラは龍の神に太陽として封印されたこと恨み、その恨みを晴らすまいとヴァイラは自らの力で自身と同じ志しを持つ種族『魔族』を生み出し、龍の神を滅ぼすように命じた
それを阻止しようとした龍の神は魔族に対抗する為に『人間』を生み出し、その人間が生きる為に必要な水や草木、動物等をドレイラが生み出し龍の神を守るように命じた
数千年かけて魔族と人間が龍の神を巡る争いをするに連れ、魔族は人間を、人間は魔族を争う対象とし本来の龍の神を殺し・守るという意識は薄れつつあった
しかしその中でも聖龍と邪龍の血を強く引いた者達は数千年の時間を経て人間の姿となった龍の神を巡る戦いを未だに続けていた
龍の神は姫として生き、姫を守るためにいる聖龍の血を強く引く騎士達を率いる王が拠点としているドレール城
邪龍の血と意思を強く引く邪龍の化身ヴァイレットが率いる魔族や低級魔族である悪魔の本拠地であるヴァイレット
両陣営の争いは人間と魔族が争い始めたころから続いていたがある日ヴァイレット陣営に強力な力を持つ者が加担する
そしてヴァイレット陣営はその全勢力を費やしドレール城の崩壊、つまり聖龍の血を引く兵士達を滅ぼすまでに追い込むまで成功したのである...
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ...はぁ...はぁ...」
「うぅ...うぅ.....」
聖龍の血を引く兵士達が集まる場所ドレール城、この場でで戦いが広げられてから数時間は経っただろうか、城が赤黒い炎につつまれており、火が城の全体の半分以上も回りつつある城内から3、人の若者が脱出しようとしていた。
3人の若者といっても、1人の黒髪の兵士の服装をした青年が息を荒げて、1人の泣いている銀髪の少女をお姫様抱っこの状態で抱えながら、もう1人の傷ついて気を失っている赤髪の兵士服の青年を背負っている形で、城内の廊下を走っている。
その男性は2人の人間を抱えているにも関わらず、それを気にもしないスピードで、城内の地下にあるこのドレール城の関係者しか知らない秘密の脱出口に向かって走っている。
城内の壁は所々壊れており、床には黒髪の男性達と同じ兵士服の男性やこの城の使用人の服装の男性女性ともに、無残な姿になって倒れている。
さらに、角が生えていて爪が長く強靭な肉体で、全長2m程の大きさから人間程度の大きさの悪魔の数体倒れておりまさに地獄絵図である。ドレール城の兵士や城の使用人までもが全員で協力してこの若者達3人を逃がす為に悪魔と戦っていたのである。
また城の外では、先程まで兵士と悪魔達の激戦が繰り広げられていたのが見ただけで分かる位に城の外観はボロボロになっており、無数の兵士と悪魔の死体があり、今では元々神聖な雰囲気のあったドレール城の姿は見る影もない。
赤黒い炎に包まれ燃えてしまっている兵士や使用人や悪魔の死臭が鼻につき、吐き気を催してくるが、黒髪の青年は兵士や使用人達の死を心に受け止めつつ、まだ城内を徘徊している可能性のある悪魔達を警戒しつつも、自身のスピードを落とさずに脱出口へと向かう。
「パパァ...メリィ...うぅ...」
悲しみに暮れた銀髪の少女は、父と愛犬の名を泣きながら何度も小声で呟いているが、少女は周囲の悲惨な光景には気づけず放心した状態で抱え込まれている。
少女の悲壮な感情がこもった呟きを聞きつつ、黒髪の青年は怒りと悲しみの感情を心に受け止めて、廊下の最奥にある扉の前で足を止めた。
火がこちらまで迫ってきて、この扉の先以外はもう城のほぼ全部が燃えてしまい、残す扉はここ1つのみだけである。
この扉の付近だけ不思議な力が働いており、全く燃えずに残っていた。そして黒髪の青年は何かを念じるように…
「『聖龍の加護』!もう1つの扉を開いてくれ!」
黒髪の青年がそう叫ぶと、一見は城内の他の扉と変わらなかった赤色の扉が青色に淡く光り、扉が自ら青年達を迎え入れるかのように開いた。
扉から真っ直ぐ進むと、石レンガでできている部屋で今までの城内とはかなり違った雰囲気の不思議な空間だ。その空間の真ん中には聖法陣がありその聖法陣がさっきの扉と同じように青色に輝いていた。
この聖法陣は、ほかのこれと同じ聖法陣がある場所に転移することができるものだ。緊急の時でしか使えないようになっており、しかも効果は1度きりの片道のみでその聖法陣の効力を失う。
そしてその聖法陣がある場所は誰にも知られていないが今の惨状から逃れることができるのならどこでもいいであろう。
聖法陣に入ろうとしたその時、ふいにさっきドレール王に託された命令を思い出した。
『ーー姫を守ってくれ...そして娘のそばにずっと居てやってくれ...そして娘を幸せにしてやってくれ...頼む...』
黒髪の青年と赤髪の青年の君主であり、銀髪の少女の父親であり、このドレール城の城主であるアレクスタ・ドレール王が黒髪の青年に命じた最期の命令であり1人の父親としての頼みであった。
黒髪の青年は心で誓った。
我が君主アレクスタ・ドレール王の命令、娘の為の父親としての頼みを守ることを誓った。
自分に流れている聖龍ドレイラの血に誓った。
自分の怒りや悲しみの感情に誓った。
ここで姫を守るために死んだドレール城の兵士や使用人達の勇敢な意志に誓った。 そしてーー
「我らが姫君セーナ・A・ドレール様の心に誓って、私ライド・ミルディスがあなたを絶対に守りきる!」
その誓いを声に出した時にはセーナは身も心も疲れて腕の中で眠ってしまっていたが、セーナの表情はさっきの放心して悲しみに暮れていた時よりは少し柔らかくなっていた気がした。
そしてライドは眠っているセーナを見つめつつ、さっき心に決めた誓いを胸に聖法陣の中に入っていった。
そして物語の舞台は5年後へーー