離れていかないで3
「『ドクシィ』!・・・・気性の荒い私達の友・・・
私に付き合ってくれる?」
群れをなし人間に従順な馬達の中で浮いていたケルレンの友達、
そっと両手を伸ばすとドクシィは、鼻面を胸に寄せてくる。
「チョッ!」
その背に乗り静かに掛け声を掛けると、
意に従ってドクシィが雨の中駆け出していった。
雨で冷えた身体が無意識に震え出し、
口からは白い息が吐き出される。
・・・・ドクシィ・・・こんな雨の中・・ごめんね・・。
激しい雨の中外に居る者もあまり無いハンガイ族の集落から
顔が見えないように頭から深く布を被り
見回りに出ていた奇妙な顔をして見詰めるニ、三人の男達の横をすれ違って行く。
「・・・・・通して・・・・私は一族の者だ!!」
少し離れた所にある同じ一族の分流の集落に向けて走って行くケルレンを
男達は、一言も言葉を発することも無く布を少し上げて見送っていた。
ドクシィに乗って飛び出していったのだから私だと分かっているだろうから、
後で問い詰められるかも知れない・・・・・
・・・・・集落に達する前にふと気付いて
手綱を引いてドクシィを止まらせる。
(・・・・何やってるんだろう・・・私は・・・私は・・・・
フールンの妻になるセレンゲが、見たかった?・・・・)
セレンゲってどんな女の子?
セレンゲは可愛いのかな?
優しいのかな?
・・・・フールンにも愛されるような・・・そんな娘なのだろうか?
「・・・・ふ・・・ふは・・・馬鹿みたい・・・・」
・・・セレンゲを見たとしてどうするの?・・・もう決まったことなのに、
幼い頃から決まっていたことなのに・・・・
今になって・・・いざという今・・・・気になって・・・?
「・・・・馬鹿みたいだよ・・・・こんな雨の中・・・
・・・・・それに、こんな雨の中に誰が・・しかも女の子が外に居る訳無い・・・。」
ドクシィの首に腕を回し鬣に涙を染み込ませる。
頭の旋毛にドクシィの熱い鼻息を感じ、寄せている身体の温かさに
ますます涙が零れそうになった。
「・・・・お願い・・・・お願い・・・・
・・フ・・・ルン・・・私から・・・・離れて行かないで・・・・
フールン・・・私を置いていかないで・・・・!!」
鬣に顔を埋め涙を流す自らの主の片割れを慰めようとでもいうように、
切ないような声でドクシィは嘶いていた。