離れていかないで2
ゴンッ
長の長子チーフォンのゲルに盛大な音が響いた後
苛立った様子のケルレンが飛び出してきた。
ちゃっかり防水用の大きな布を
奪い取って・・・。
「ふざけるな!ふざけるな!・・・ふざけるなあ!!!」
(フールンはセレンゲを妻にするって決まったから
俺の妻になれって?・・・・ふざけるな!
お前のフールンに対する想いは親に対する物だって!?
・・・・しかも、どっちかといえば異性としてはお前は俺の方が好きだって?
幸せにするって!?
あ~んの~自信家兄上が!!!)
「・・・・知ってるよ・・・・・フールンが妻を迎える事・・・
・・・・・フールンの事だから、そしてその後はけして他には妻を迎えないだろうね。」
雨の中立ち止まって再び溢れてきた涙を拭った。
大布の端から水滴が落ちて行くのと、雨宿りに森の木々の下
に入っていた馬の嘶きが同時だった。
「・・・・・・チーフォン兄上」
父、長ウリャスタイが去り静かになったゲルで一人
フールンがそのままの姿で座っていた。
「・・・・・羨ましい・・・・方だ、貴方は・・・・・」
長である父の前では言えなかった言葉、
父には父の、
自分には自分のやり方があるとはいえ、
目指す物は同じ。
その想いからけして父の前では口に出さなかった言葉だ。
一族の主な者達に
後継フールンと、一族の分流の娘セレンゲの婚儀を早めるという
言葉が長の口から出された。
ケルレンがその場に来ていない事を気にしながらも
黙って聞いていたチーフォンが突然立ち上がり
飛び出していった。
「長の言うなりにはならない!!」
と叫びながら。
「俺は、一族より何よりケルレンが好きだ!!
だから、長の言うなりにはならない!!・・・・」
それがチーフォンの言葉。
・・・・フールンがセレンゲと婚儀を行い
結束を高めてイェニセイ族との決戦に出る。
ケルレンは婚儀の後も影武者としての役目を
してもらうという事。
・・・・兄弟の諍いの元になるかもしれない
ケルレンの事はこれを切っ掛けにして
チーフォンも他の妻を娶れという長の言葉に
チーフォンはゲルを出していった。
「・・・私は、貴方が羨ましい。
・・・・その燃え盛る炎のような激しい気性、
望みを一途に追いかける情熱、
・・・・何処までも真っ直ぐな貴方が、
・・・妬ましく思いながらも・・・・私をも強く惹きつける
貴方が・・・・羨ましい。」
・・・・その頃妬ましく思われている長兄チーフォンは
ケルレンにパンチで殴られた左の腫れ上がった
自らの頬を冷やしていた。
・・・・ケルレンはフールンの身代わりをする為に
数々の武術を体得していた。