救出4
「ケルレン・・・・・」
物凄く苦りきったチョイルンの顔を見た時
ああ・・・やっぱり
とケルレンは思った。
「・・・・心配しないで下さいチョイルン」
安心させるよう笑顔を作って見上げる。
セレンゲを再び元のゲル(テント)に戻したケルレンは、
その後リューラン達と話していた姉チョイルンに呼び出された。
もともとチョイルンの夫のイェニセイ族長に会った時
大分関心をかってしまったような様子だったのだが
先のハンガイ族攻めに参加してセレンゲを浚ってきた上に
イェニセイ族後継リューランを殴ったり説教したりだの
最後には側妃の件に口出しまでして物凄く目立ってしまっただろうから
一度良く確かめておこうとイェニセイ族長が
考えるだろうということは予想がついた。
「・・・・ええ・・・・・・族長が、イェニセイ族の族長がね?
貴女に一度じっくりと会ってみたいと言っているのよ・・・
その・・バイカル族の娘セレンゲを
イェニセイ族の本陣まで連れてくる役目を貴女に与えると・・・」
断っても良いのよ
と言いたげな瞳でジッと見つめる姉チョイルンの様子に
反対に此方の方が申し訳ない気がする。
イェニセイ族に後見して貰っている
側妃という立場で姉のチョイルンが意に反する事など
出来ないだろうに何とか助けようとしてくれているのだな・・
と何だかケルレンは、心が温かくなった。
「参ります!チョイルン。きちんとセレンゲを連れて・・・
と言いますよりもその役目は彼女の為にも良いでしょう。
イェニセイ族の誰かに任せたりしたらどんな風な扱いになるか
読みきれません。」
心の中の迷いが出ているかのような
姉のチョイルンの揺らぐ瞳にケルレンは強く頷いた。
「・・・・・内密にセレンゲだけを本陣に移動させる事は
一部の者しか知りません・・・・恐らくハンガイ族でもまもなく
彼女を取り戻しに動くでしょう。
出来るだけ引き付けておきますが気をつけて。」
その言葉に再び頷くと
「チョイルンこそ気をつけて・・・・
たかがひきつけ役だけの事に・・その身を危険に晒す事はありません!」
姉のチョイルンに向かって再び大きく頷いて見せたケルレンは、
すぐに用意するためにゲル<テント>から出ようと入り口に向かう
が、その背中を突然姉のチョイルンが抱き締めた。
「・・・・・!!?・・・・・何です?どうしましたチョイルン?」
怪訝な顔のケルレンの背中を更にぎゅっと抱き締めて
搾り出すような声で懇願する。
「・・・・・どうか・・・戻って来て欲しい
・・・私のたった一人の大切な妹・・・・
気をつけて・・・・どうか気をつけて行って来なさい・・・」
送り出す言葉を口にしながらも
姉のチョイルンの腕の力が抜ける事は無い。
その様子にケルレンは振り払う事も出来ずに
けれど何だか大げさなようなくすぐったい気持ちもして
ケルレンは抱き締められた体勢のままじっと動かないままでいた。
「・・・・・兄も・・・弟も・・・死んだ。
父も母も・・乳母やだって・・・私がどんなに
貴女が生まれて生きていて嬉しかったか・・・・」
まるで泣いているような声ケルレンが生まれる前の話、
それをこの姉のチョイルンは実際に目にして
哀しんだのだったとケルレンは改めて気づいて
けれど振り向けなくてケルレンはただ立ち尽くした。
「・・・・・さあ・・・ケルレン・・・さ・・お行きなさい・・。」
トンッと押し出されて
振り向いた時にはすでに姉チョイルンはケルレンに背中を
向けていて、泣いていたのかどんな表情だったのか
その想いが図り切れなかった。
眼下に集落の篝火が無数に見える。
イェニセイ族は約一万の陣だった。
「・・・・・・長兄・・・・・。」
騎乗した愛馬ドクシィの首の横を叩いて興奮を宥めながら
同じく騎乗して背後につめてくれている
兄のチーフォンに一瞬視線を送ると
力強い微笑を返してくれた。
チーフォンだって迷わないはずが無いのに
「ぼーっとしてるな・・・・・ほら、ルーフェンが来るぜ」
ニカッと笑った後、後ろに送ったチーフォンの視線の先を
目で追うと不機嫌そうな顔をした黒髪の男が
その気がなさそうに馬を操りながらやってきた。
「フールン・・・あんまり気乗りしないんだがな」
「・・・・・ルーフェン兄上・・・・」
苦笑を浮かべながら父違いの兄を見る。
フールンは、
母違いの長兄チーフォンと父違いの兄ルーフェンに
挟まれこれから行わなければならないことについての迷いを
必死で振り払っていた。
「・・・・・皆・・・・・・あれがイェニセイ族だ」
連れて来たハンガイ族の戦士とオタル族の戦士達に
そう語りかける。
「・・・・・目的は、我が許婚セレンゲの奪回。」




