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太陽のカケラ  作者: のえる
51/105

つかの間の停戦2

「・・・・ケルレン殿は好きな女の人は居ますか?」

「うんむ・・・むにゃむにゃ・・・・ケルレン・・。」

「・・・・・・居ません・・・・。」

やたら真剣な顔でたずねる青年にため息混じりの返事をしながら

自分の膝の上で嬉しそうに寝返りを打つ幼児の頭を撫ぜてみる。


「・・・・・今まで全然?・・・・・あの・・

女の人と付き合ったりとかしたことありませんか?」

「だからありません・・・・・」

吹さらしの草原のど真ん中で

集落のゲルの数々やまわりで草を食む家畜達とも離れた

こんな所で何故引っ付きまわられて

何だかもじもじしている青年と肩を並べて座って

実にもならなそうな質問を受けなければならないんだろう

ため息無しでは居られない。

(しかも私は、まだ傷の癒えない包帯グルグルの状態なのに・・)


「せめて・・・・女の人との付き合い方とか・・・

聞いたことは・・・」

「・・・・・聞いたこともありません!

好きになったこともあこがれたことも

お付き合いしたことも・・・欠片もありません!!」

言葉途中で強引に引き取って答える。


「・・・・で?・・・・・誰が好きなんです!!?・・・

誰と橋渡ししてもらいたいんですか?リューラン様!?」

何故分かったんだ?

と言いたげに真っ赤な顔で目をまん丸にして

こちらを見下ろすリューランに

分からないはずが無いでしょうと再び深いため息を付く。

なんだってこんなに気に入られたのだか

頭を抱えたくなる。





「・・・・ごめんなさい・・ケルレン。

何だかリューラン様は貴方を男だと・・幼くして認められた

才能ある戦士と思い込んでしまっているらしくて・・・・

言い出しずらくて・・・」


姉のチョイルンの言葉が頭に蘇る。

別に男でも女でも良いけれど確かに戦士は男がなるべきもの

というモルドル国では男と思われている方が面倒は無いのかも知れない。


(でも、こんな面倒は考えていなかった・・・)


この勢いでいきなりやって来る様子だったら

着替えとかも注意しとかないといけないなふと考えに沈んでいて

リューランの言葉を聞き逃しそうになったケルレンは思わず聞き返す。


「・・・・ケルレン殿はどう思われるかな・・・

・・・あの・・・あの・・・・女の子って・・・どうしてあんなに・・・かわいいのかな・・?」

「・・・はい?」

どうしてそんなこと言っているんだろう

一人前の戦士が・・・・一部族の後継が



「・・・・・ん・・・僕、お嫁さん・・・ケルレンもティルも母様・・・」

膝のレンヤンの声にまあこんな幼いうちに

堂々とませている子もいるけれどと思ったりする。


「・・・・・はあ・・女の子は・・・ですね・・・まあ・・

・・・リューラン様の恋人のことなんですか?」

尋ねたケルレンに向けたどす黒いほど赤い顔のリューランの

表情に答えを貰い思わず頷いていると、


「・・・・・父上は・・・・・彼女を私の正妻と認めてくれるだろうか?」


「・・・!?・・え!??」

驚いてリューランをしみじみと見直す。

てっきりさっきの表情で完全な片想いだと思ったのに

そこまで関係は進んでいたのだろうか?


「・・・・異国の血を持っていてもイェニセイ族の後継の正妻にしても良い

・・と言ってくださるだろうか?・・・・せめて正式でない妻なら

認めてくれるだろうか?父上は・・・・」

「・・・・・・・貴方が迎えるつもりで、その女の人にその覚悟があると言うのなら・・

それもまたしょうがないんじゃないんですか?・・・・好き合ってるなら・・」

早く話を終わらせたくて半分以上投げやりで答えてやると

リューランは突如頭を抱えて


「・・・・・・・しかし・・・彼女にはまだ想いさえ告げていないんだ・・・」

と言ったりしたのでケルレンは本気で呆れかえった。

「・・・ば・・・馬鹿ですか!!・・・・・・」

・・・・・・・!!??・・・・・






「ケルレン様ー!!」

ゲルの方から赤い髪の女の子が駆けて来る。


「・・・あ・・ああ・・・えっとティル・・?」


「ケルレン様ー!!・・・お薬・・・っと?」

息を切らしながら駆けて来た彼女に

ケルレンはとてつもなく不味い所を見られた思いで

思わず顔を逸らす。


隣のリューランがその瞬間真っ赤になったのを見て

少し驚き二人を代わる代わる見直す。


(まさか・・・・・まさか可愛い女の子って彼女のこと?)


そう、異国の血を持つ彼女がティル。

レンヤンのお世話をしたりしてる子で少し赤い髪の毛で顔の作りが

エーティルやサフラの血なのか何処と無く繊細な感じで、

確かに可愛い。

うん確かにこんなにかわいい彼女に想いを告げるのは

なかなか勇気が居ることなんだろう。

けして責めてはいけない。


・・・けど・・・



「・・・・・えっと・・あの・・・確か・・・イェニセイ族の後継・・・様・・

ですよね・・・?」

恐る恐ると言った感じで声を掛けるティルの言葉に

リューラン様は好きな女の子にどうやら

名前さえ覚えられていないらしいことを

少し哀れに思いつつも苦い思いでケルレンは

白々しいほどリューランから顔をそらしてレンヤンをポンポン叩いていた。


「・・・・後継様?・・・・・・・どうして

そんなに泣いているのですか?」

「・・・・・あ・・・て・・ティル・・・。」

ボロボロ涙を零したリューランがそれでも真っ赤な顔で

慌てて立ち上がって後ずさっている。

(・・・遥か年上の・・・成人の戦士を<しかも一部族の後継>、

私は初めて泣かせてしまった。)

ケルレンは物凄くバツが悪かった。

でも「馬鹿」の一言でそんなにメソメソ泣くとは思わなかったのだ。


「これは・・・・別に・・・ティル・・・あの・・私はその・・」

懸命に言葉を探しているリューランからすぐに瞳をそらし

ティルはにっこりとケルレンに向かって微笑んだ。



「・・・・そんなことよりケルレン様!・・・さっさと

帰ってお薬塗りましょ?・・・私がしてあげます」

心なしか嬉しそうなティルの顔と泣いているのに

言葉さえも最後まで語らせてもらえずに

「そんなこと」と言われているリューランが

ますますかかわいそうだった。






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