貴方は敵?
指示に従い忙しく動く戦士達の中央で
状況を分析しようと眉を寄せたフールンは考える。
何が考えられる・・・イェニセイ族はどこに行った?
炎を放ったのはイェニセイではないのか?
セレンゲは?兄達は守りきったのか?
手の平に滲む汗を服で拭う。
「・・・・・・・後継!・・・・」
ハッとその声に顔を向けるフールンの瞳に他の者から
少し離れた所にうつ伏せに倒れた二人の兄が映った。
「次兄!・・・・三兄!」
まさかと思い血塗れの二人に駆け寄っていくが
どうやら怪我はしているが深手ではない様子に安心する。
「お連れしろ!」
「・・・・・フ・・・・ルン!・・・セレンゲが・・・」
フールン達の声に意識が戻ったのか
次兄が血に染まった手の平のままフールンの袖を掴み
必死で訴えている。
「・・・・・・セレンゲがどうしたのですか?」
次兄の身体を思って止めようとしている戦士を
押し留め5歳年上の次兄に向けて真剣な瞳を向ける。
「・・・・・済まない。・・・・炎の剣の者達にまんまと浚われてしまった。
イェニセイ族の奴らだったと思うんだが剣がお前と良く似ていた」
「・・・・炎・・・の剣?・・・」
フールンはその言葉に心臓が止まるかと思った。
「ああ、そうだ。・・・・・我らもやられたが
向こうにも切りつけてやった。・・・・遠くには逃げてないと思うが・・」
「・・・・ありがとうございます次兄・・・お休みください。」
知らず断ち切るように話を引き取り
次兄の方に向けていた瞳を再び前方へと向ける。
フールンの頭の奥底の方で何かが熱く燃え始めるのを
一つ瞬きをすることによって押し留めた。
「・・・・追撃と・・・戻る者と・・」
呟くその瞳には厳しさと切なさがたたえられていた。
「・・・・・・父上に追撃を致しますと・・・。
セレンゲを・・とらえたのなら・・、
バイカル族に注意を・・・と伝えてくれ」
宣言と共にフールンは半信半疑の表情の一族の者達と
共に森の奥へと急いだ。
・・・・・痛い・・・
・・・・・・・痛い・・・・・凄く痛いよ・・・・・
自分達が出した炎に追われるように逃げる馬上で
左肩と右腕がジクジクと痛む。
「・・・・・・・っ・・」
手綱を持つ手に力が入らない。
上に下へと揺れる振動で幾度も振り落とされそうに
なりながらも必死でしがみつく。
治りきっていなかった左肩の傷が完全に開き
咄嗟に庇った右腕の肘から手首に架けて切りつけられた
傷からジワジワと血が染み出してきていた。
「・・・・お父様・・・・お母様ぁ・・・」
涙声のセレンゲの叫びがどこか遠くで聞こえる。
「煩い!・・・少しは静かに出来ないのか!」
「・・・降ろして・・降ろしてください・・・」
預けられたイェニセイ族の男に怒鳴りられ
横抱きに抱えられて左右のお下げにしていた髪も
解けてしまっていた。
(・・・・・可哀想に・・・)
胸がちくりと痛む。
「・・・・助けて・・・・・・助けて・・・
・・・お兄様・・・・・フールンお兄様ぁ・・・・」
(・・・・!!)
グスリッと泣きながらのその声に
傷の痛みもあって思わずイラッとするものの
興奮すると血も無駄に出てしまうことだし・・と
何とか心を落ち着かせる。
「・・・・・私・・が・・代わろう・・・」
一つため息を付きセレンゲを抱えている者に
話しかけたが男は困惑した顔になる。
「しかし・・・・」
「お前の乗馬の腕を疑うわけじゃない・・だが・・・・
落ち着いて馬も走ってられないのじゃないのか?」
苦笑しながらのケルレンの言葉に
男は自分の腕の中に瞳を落とし
再びその身体で大丈夫か?と言いたげに
ケルレンの方を見る。
「大丈夫だ!・・・・ゆっくりと後から付いていくから
奪われたりもしない!」
しばらく考えた後、男はオズオズと頷くと
なんとなくせいせいしたような表情で
ケルレンにセレンゲを押し付けた。
「・・・・・さあ!皆、そろそろ分かれて走ろう
出来るだけ目くらましの為にバラバラになるんだ。」
セレンゲを丁寧に自分の前に抱えなおすと
皆に命を下した。
恐らくあるだろう追撃の目をくらまさなければならない