望むもの2
「・・敵は現オタル族とその味方をするハンガイ族・・・か」
チーフォンの下を向いた姿を
決心が揺らがないようにケルレンは黙って見つめる。
「親父が・・・・お前の父親と母親を・・・兄弟を殺した・・
弟であるお前の父親の味方しないで・・
オタルの前の長に擦り寄って味方した。」
チクンと痛む胸を押さえながら哀しそうに言うチーフォンの声を
ただ、聞いている。
殺された姿を見ていない・・・
兄弟たちに抱きしめられた覚えも無い・・
生まれた時には死んでいたのだから、
ケルレンが知っているのは、名前を呼ばれない哀しみ
抱きしめられない切なさ、与えられない愛情。
「ハンガイ族は・・・・・現オタル族を・・捨てられないでしょう?」
「お前が憎んでいるんだろうなって思った・・・けど・・
俺は・・少なくとも、俺とフールンはお前を家族と思ってるよ!?」
チーフォンの言葉に嬉しくて、
決心はしたもののその言葉が嘘偽り無しに嬉しくて微笑んで
「兄上・・・・ありがとう・・・知ってるよ?
私も兄上とフールンは家族だって思ってる
ハンガイ族は我が一族だって・・思ってた。」
でも、受け入れてくれる名前を呼んでくれる
抱きしめて愛情を与えて、与える一族が私にはあったのだ
それがどんなに衝撃で嬉しかったか
「ケルレン・・・・どうしても・・帰らないと言うのだったら・・
ハンガイは、オタルを捨てない・・・共に戦う・・
俺も、仲間を捨てない・・だから!」
(うん・・・・兄上が口では色々破天荒なこと言ったり、
無責任そうな態度普段はとってても、仲間はけして見捨てない人って
知ってる・・。)
小さく苦笑して一つ頷く。
「俺は、望んだものは諦めない!・・・だから力ずくでも
連れて帰る!」
チーフォンとケルレンはほぼ同時に
腰から鞘を付けたまま剣を抜き放ち互いに剣を受けた。
ガツン
ぶつかり合った鞘と鞘が音を立てる。
「兄上!どうして剣を抜かないのですか!」
ギリリと擦れあって軋む
逆立ちしてもチーフォンの力に叶うわけが無い。
「お前は、剣抜かないだろうと思ってな!」
チーフォンがにっこりと笑う。
「・・・・・・・それにお前が俺に勝てると思うのか?
俺が教えてやったのに」
な?・・・同意を求められるが
そうだね。・・と頷けない、しかし、ケルレンが両手を使って全力で
受け止めているのに片手で
笑いながら余裕で話をしてくるのに実力の違いが一目瞭然だ。
「・・・・・・駄目だぜ?・・・・ケルレン。」
「・・・・・・っく」
「そんなことじゃ守れる物も守れないぜ?
・・・だからな・・・・・『お前の名前、ケルレンの名を持つものを
成人と認める。この・・・ハンガイ・・・じゃない・・・草原の勇者として
剣を持つ者としてハンガイ族長ウリュスタイの長子チーフォンが
月と太陽の御名において認める。』」
にんまり笑って剣を持ってない方の手をペタリンと
ケルレンの額に当てる。
「・・・・・!!?」
「これでも俺は、族長の長子なんだぜ?
・・・・まあ仮にだけど成人、戦士と認める。・・・・だから
剣を抜いて戦え?」
「・・・・・・うくっ・・・・わ・・・わ・・れ・・ケル・・レンの・・・」
ケルレンはちっとも力を緩めずにそんなことを言って来る
チーフォンを自分に挑戦していると見て意地でも
戦士の名乗りを上げてやると思った。
「月・・・・たいよ・・・名にお・・・て・・・弱き・・者を助け、強く・・・
誇り高い・・・・草原の・・・勇者と・・なる・・・!」
どうだ!兄上め!
額を流れる汗に気持ち悪いものを感じながら
挑戦的に笑ってやった。
「・・・・・よ~しよし!・・・・良い目だな。」
行くぜ!そう言うとチーフォンはケルレンの方に強く押し
体制を崩させると自分の剣を柄から引き抜いた。
「じゃあ、お互いに剣を抜いて手合わせするぜ!?」
「真剣に戦え!兄上!・・・・・私は、手加減しないぞ!」
「・・・・・ハンデつけてやらなきゃ俺には勝てないよお前は」
どこまでも軽い調子のチーフォンに
ケルレンは嫌味嫌味!とても嫌味だ!!
と心で叫ぶ。
「馬鹿に・・・!」
「はい!一回勝った!」
あっという間にケルレンの大事な剣を飛ばされた。
「・・・・・ほい!お前の剣・・・・もういっぺん戦うか?」
飛ばされた剣をひらってケルレンに返すチーフォンを
憮然として受け取りながら睨み返していた。