守るべき敵
「ペラディノ(守護者)・・・どうすべきかまだ分からない・・
けど・・・・付いて来てくれるでしょう?」
目の前には疲れたのかぐっすり眠っているレンヤン
腰帯にはフールンとチーフォンの次に大切な
ケルレンの剣がある。
成人していない戦士になっていないケルレンの
長の許可が無いと使えない剣。
「ん・・あ・・・母上ぇ・・・」
寝返りを打つレンヤンに上掛けを掛けてやると
心なしか頬をピンクにして嬉しそうに
微笑む。
「・・・・・フールン・・・・。」
戦いから遠ざけるためハンガイに返さないために
此処まで戦士達に連れられて来たケルレンだったが、
正直、ここに居てレンヤンとチョイルンを守りたい気持ちがある。
でもハンガイ一族に戻りフールンの傍に居たい
気持ちも失われていない。
フールンに捧げた剣をチョイルンにも捧げると宣言したが
フールンの大切なハンガイ族を守りたい
と言う気持ちが消えたわけではなく、
ケルレンにとってハンガイは憎い一族
なのだけれど、守るべきもので、
長のことはこの剣で貫いて殺したいほど
憎いのだけれど、
他の一族の者は、赤ん坊の時からずっと
フールンと共に見つめてきた者達だった。
「我がハンガイ族・・・・・許して下さい、
私は、ハンガイを裏切る。」
フールンとチーフォンさえ無事なら
チョイルンとレンヤンが傷つくくらいなら
ケルレンは、ハンガイの者を切る事が出来ると思った。
「ごめんなさい・・・我が一族、我がハンガイ族と思ってきた
でも・・私の・・・一族・・・チョイルンをレンヤンを
そう思ったから・・・レンヤンを殺させは
しないから・・・・・・」
そっとレンヤンの柔らかい頬に手の平を当てる。
「本当に・・・・・フールンの大切なハンガイ族を守ろうと
思っていたんだよ・・・・でも・・・レンヤンが私に好意を見せたから
・・だから私はレンヤンの命を失いたくないと思ってしまった・・・」
ケルレンは、肉親に飢えて・・・飢えて・・・
自分の一族を求めて切ないほど求めて・・・
初めて与えられた肉親の愛情にもう二度と放したくないと思った。
「フールン・・・兄上・・・二人は怒るかな・・・とても私を
憎むだろうか・・・・・?」
大好きな二人にだけは憎まれたくないな・・・
レンヤンの無邪気な寝顔を見ながらケルレンはそう思った。
ハンガイのゲルの中で少年と少女が向かい会う。
「お・・兄様・・・・・?」
戸惑ったように呟くセレンゲとフールンの耳に
「後継・・・フールン様・・・・そろそろ出てきて下さい!」
戦士の声が聞こえる。
「今、行く!」
「お兄様!・・・・・私を女性として愛することが出来ないとは
どういうことですか?
私達・・・・・私達は、許婚・・夫婦になるのですよね?」
ポロポロと涙を溢れさせながらすがる様に
見上げるセレンゲの方をしっかりと見返しながら
「・・・・・私は、一族を守りたい・・・その為の政略も
合意している。貴女は、とても可愛らしいし
素直な良い子のようだ・・・私は、後継の妻となった貴女を
好きになれると思うけど、私は、愛する人が居る。」
涙が止まらないセレンゲがとても痛ましく
思ってフールンの表情も少しだけ痛々しくなる。
「それも言わないで・・・・婚儀をするのはいけないと
思って貴女に話そうと思っていた。
一族を守るため、皆を守るためであっても他の者を騙したり
他の心を殺して物事をするのを私は、嫌なんだ。」
ゲルから出る為に扉に手をかけ後ろを向いたまま
最後に伝える。
「・・・・・・・そんな私が許せないのならば・・
構わない・・・まだ幼い貴女にこんなこと言って
済まない・・・・・・けれど、貴女を妻に迎える。」