長の子供3
「・・・・・・・」
人影も馬影も見えない一面の草原
フールンは、静かに只見つめていた。
「フールン様、まだ近くにイェニセイ族の残党が
潜んでいるかも知れません」
一族の戦士の一人が長の後継であるフールンの
後ろにそっと近づきそう言うのに
ゆっくりとフールンは振り向き微笑んだ。
「・・・・そうだな・・・すぐに入るよ」
戦士が頷いたのを見て
フールンは草原に視線を戻す。
「・・・長兄は・・・長兄はあの子を・・・
長兄は・・ご無事に帰って来られるだろうか?」
「もちろん無事に決まっています!
あの方は・・・チーフォン様は我が一族の戦神なのですから!」
熱心な戦士の言葉に前を見たまま
戦士の見えない位置で苦笑を漏らす。
「・・・・・・・我が一族の戦神・・・か・・・」
誰にも聞こえない呟きを漏らし
「・・・・・・このまま・・・戦か・・・?・・・
イェニセイ族と我が一族・・・・それと・・反オタル族と・・」
そう反オタル族・・・
・・ケルレン・・・君の父君と母君の味方と・・・・
(何て不甲斐ない後継者か・・・
もっとも大切だと思う者に・・大事と思う女の子に
守られ戦士達に守られ・・・その屍の上で
後ろに隠れてのうのうと生きる・・。)
「君を・・・探しにいけたら・・」
唇を噛み締める。
・・・・私はまるで人形・・・
一族とオタル族との絆の為だけの人形
一族の後継の役目をする為だけの人形。
この手で守りたい人も守れずに
兄のように命を掛けて戦いにいけない
腰抜けの後継者
(長兄・・・貴方が・・貴方の光がうらやましい)
「さあ・・・ケルレン様・・レンヤン様を連れて・・」
ウルトがレンヤンを腕に抱いて騎乗しているケルレンと
傍に付いているティルを促す。
「ドルハ!私をどうするつもりだ?!
・・・私とレンヤンを何処につれて行く?」
ウルトのことをチーフォンの側近であった時の名前の
ドルハで呼びかけ問いかける。
兄上を裏切っていたのか?とか
責める気はもう失せていた。
ドルハは、チーフォンの傍に居た時からと同じ
どこか温かい瞳でケルレンを見つめていた。
「我らの一族の元へ・・・
どうしてもとレンヤン様が言われたのでここまで
母君と来られましたが、長くレンヤン様が一族を離れるのは
危険がますということ・・・ケルレン様、どうぞレンヤン様を
一族の元に送り返してくれませんか?」
よくも口が回る
ケルレンは少し皮肉げな笑みを向けた。
自分自身こんな表情が出来るとはと少し驚きながらも
「我がハンガイ族と戦いに行くのだろう?
婚儀でオタルの長も来ている
お前達はハンガイとオタルと戦いに行くんだ?」
「・・・・・・・」
「邪魔をしそうな私を他所にやっておくということだろう?」
抱かれているレンヤンが不思議そうな顔をして
此方を見ている。
「・・・・・その通りです。」
ウルトはしっかりと答えた。
ケルレンの瞳が揺れる。
「この小さなレンヤン様が今の我らの希望・・
レンヤン様を長に就ける為に我らは、戦う。
さもなくばレンヤン様には死しかないのです。」
腕の中に視線を落とすと
無邪気に微笑むレンヤンと瞳が合った。
(・・・私の・・・私の甥・・・)
心が揺れていた。




