長の娘2
どうしてこんな事になったのだろう・・・?
何故か返してもらった愛刀を持つ力が緩み
無意識のうちに頬をくすぐるその人の髪の感じ、
何かをしていた途中から飛んででもきたのか汗の匂いと
何処か甘酸っぱいミルクのような香りを感じていた。
「その縄を外しなさい!!」
ゲルに入ってきたその人は、
静かに周りを見まわし一瞬驚いた後、微笑んだ。
そして、
目覚めるやいなや敵地イェニセイ族の集落と知り
切りかかろうとしたケルレンに仕方が無くされていた縄を
外すようにと言った。
「・・・・ですが・・・ケルレン様は・・」
渋る男に微笑みを浮かべ、ケルレンのすぐ傍に居る
ウルトに視線を送る。
「失礼しますケルレン様」
他の者がどうすることも出来なかった
ケルレンを捕らえて縛ったその手で
同じ言葉でウルトは静かに呟いて縄を外した。
「ケルレン・・・・会いたかった・・・」
その人によって差し出されていた剣を
ケルレンが恐る恐る受け取ると同時に
その人は、ケルレンを抱き締めて柔らかな胸に溺れさせた。
「男達が手を出せないなんて・・・
流石は我が族長の娘・・・・父様の娘・・・・
まぎれもなく貴方がケルレンなのですね・・・・私の大切な妹。」
「・・・!?・・・あ・・・貴方は・・・・?」
(妹・・・?・・・父様の娘?)
突然の抱擁と耳に入ったその言葉に呆然と問い返す。
「私は、前族長の嫡娘を妻にし
オタルの族の正統なる族長となったベクテルの娘
・・・・父様の後継ということで処刑された、
兄の名を継いで『チョイルン』と名乗って居ます。」
「・・・・・姉・・・・・上・・・・?・・・・私の・・・本当の・・・?」
家族の中で只一人生き残ったのだと教えられていた
ケルレンは掠れた声でそう呟いた。
ケルレンのその言葉に深く頷き
解放した後に微笑みかけたその瞳は、
ケルレンと同じ優しいセピアの色を持ち、
男の戦士のように後ろで束ねた髪は
草木の間から覗く大地のような褐色をしていた。