裏切りの幕
偶然だったのかいや、必然だったのかも知れない・・・・
ジッとフールンの周りに異変が無いかと目を光らせていた
ケルレンは婚儀の参列者の中でキラッと日に照り返された何かの
光が目に入った。
ビシュッ
婚儀の為表立って武装できないものの各所に配置された
厳しい警戒を抜けての攻撃。
「危ない!!」
危険を告げた後弓矢を射た人物を捕らえる為
フールン達の身近な警備と
2段3段の襲撃への警戒を予定通り他の者に任せ
飛んで来た方向へと素早く駆けて行く。
(やはり婚儀の隙を狙ってきたか!)
射られた場所の1点を目を逸らすことなく見定めながら
恐慌状態になっている人ごみに自分の小回りが利く身軽な
身体を滑りこませる。
「絶対、フールンの邪魔はさせない!!」
(射られた所に居たボンヤリと見えた人物)
目の前の人々々・・・その中からフールンを狙った者を捕らえる。
背後には一矢目に続く2段3段目のフールンを狙った攻撃
婚儀の相手、セレンゲのことも狙われるかも知れないと
気を抜く事が出来ない。
「待て!!」
掻き分け掻き分け人込みに紛れて逃げ様としている
前方の射手に向かってめいいっぱい手を伸ばす
飛んでくる手刀をかわしながら更に手を伸ばし
袖を掴み休むこと無い攻撃に耐える。
放すまいと拳を握り込み一気に間合いに詰める。
相手にとっての誤算は長に認められているケルレンの戦闘能力の高さ
視力の良さと並外れた身軽さと体術の実力だっただろうが、
しかし、ケルレンが叩きこまれた体術を上手く振るえない程の
実力を相手も持っていた。
「・・・・・・」
揉み合っているうちにケルレンは、首に銀の鋭い針のようなものを振り下ろされ、
その痛みにケルレンは、気を失った。
「・・・・ケルレン・・・ベキ(長姫)・・・!?」
とっさにケルレンを認め急所を外した相手の
戸惑った声が最後に聞こえた。
「ケルレン!?」
伏せた状態のまま見た光景に
飛び出そうとするフールンの肩を何時の間にか隣に来ていた
父である長が強く握り締め止める。
「・・・・ケルレンが・・・・!!・・・・・長、放して下さい!」
遠目からははっきりとは様子が見えないが
混乱する人込みの中で射手を捕らえ様と
飛び出して行ったケルレンが押された調子でいるのに
心が焦る。
「愚か者!・・・・動揺するな!」
頬を張られ落ち着きを取り戻したフールンの瞳にしかし次の瞬間
映ったものは、グッタリするケルレンと振り下ろされる光る物だった。
「良くやったドルハ・・・・いや一族に仇なす者ウルト・・・・」
フールン達の一族親族席で
女の赤く色付けされた美しい唇から
誰にも聞こえない小さな呟きが漏れていた。
十五年前に、ハンガイとオタル族の内部で起きた闘い
それによって殺され、傷つけられた者は、半数にも昇り
処刑された者は、首謀者ベクテル、味方した戦士達、
そして意志を継ぐかもしれない彼らの幼い子供達も・・・
母親の腹の中に居たベクテルの娘ケルレンを除き・・。




