別れと婚姻の儀
「・・・・・・・・ケルレン、
『ハンガイ族後継フールンにとっては
ハンガイ族が存在意義であって生まれた理由で生きてゆく意味、
一番大事だ。』
そして、ケルレン・・・・・私は、君が
『一番大切だ。私、フールンにとっては何より一番大切だ。』
私にとってはケルレン君が何より一番大切なんだよ・・・
ずっと何より大切なんだよ」
フールンは、自分の涙が落ちて濡れたケルレンの唇を
自分の右親指でそっと拭うと
口付けを落とした。
「私の心も持っていってケルレン」
ケルレンの小指のかつて自分の耳についていた
太陽のカケラ石のリングにそっと触れゆっくりと立ち上がった。
そしてその後は、振り向く事をしないでそのゲルを出て行った。
「フールン様、よろしいですか?もう?
さあ、族長ウリャスタイ様と、
オタル族若長が待っていらっしゃいます。・・・
それから許婚のセレンゲ様も、ご婚儀の続きを待っていらっしゃいますよ」
「分かっている。・・・・・私は、ハンガイ族後継
自分の責任は、分かっているのだから・・・」
その顔は、もう元の顔になっていた。
しかし、耳には自分と対になっていたケルレンの
太陽のカケラのリングを嵌めていた。
まだ少し春の訪れにはもう少しという
草原の只中の遊牧の民の集落の真ん中
寒いこの時期に手に入れるのも困難な花を贅沢に飾り
白い絨毯を敷いた壇上で呪師が二人の少年少女と立っていた。
「ハンガイ族、族長ウリャスタイが息子、
ハンガイ族後継フールン此方に、」
金糸の刺繍のマントに
緋色のデールで正装したフールンはゆっくりと呪師の前に進み出た。
「バイカル族、族長セチェン・ウゲが娘
セレンゲ此方に・・・」
キラキラと輝く耳飾りと流した髪に絹で作った花飾りを巻きつけて
後が少し長い裾を持ったデールの正装のセレンゲが次にやや緊張して
フールンの横に立つ。
晴れ渡る青い空の下
ハンガイ族後継フールンと
バイカル族長息女セレンゲの婚儀が執り行われた。
壇下で長兄チーフォンが何だか少し複雑な顔をして
末弟フールンを見上げていた。
見守るチーフォンの耳に何事か囁きかける男の言葉を聞き
チーフォンは喜びと困惑の顔をして
男に向けていた視線を再びフールンに向けて
チーフォンには珍しくため息を付く。
「これにて、二人は神と精霊と御魂に婚姻を認められました。」
呪師の言葉に
セレンゲが零れそうな笑顔を浮かべ
壇下のハンガイ族とバイカル族と同盟の部族の喜びの声が湧き上がる。
「・・・・俺、どうしたら良いんだよ」
チーフォンは小さく漏らした。