魂の慟哭
夕暮れ、
炎に弄られ焼け焦げた戦場を
夕日が赤に染め上げていく
チロチロとあちこち小さな炎がまだ燃えているが
まもなく消えるだろう。
あんなに沢山の人間が密集して戦っていたのに
奇跡的に炎に包まれ死んだものは誰も居なかった。
何が起こっていたのか正確に理解できたものは少ない
皆が戦意を喪失し
今は、まるで年末年始の協議会か夏の大祭で
でもあるように一時的に戦を止めて
それぞれ首を落とし項垂れていた。
戦場の魔法陣が壊れ、
呆然としていた所に
突然天から降ってきた
相手の部族に奪われたと思っていた
後継や総領達の身柄の確保と
身体の回復を優先させると言う考えのもと互いに
少し離れた所に陣を退かせた。
ティルはハンガイ後継の
ゲルの前で項垂れて泣いていた。
天窓から入る僅かな光しかない
ゲルの中でフールンは呆然と立っていた。
魔法陣が壊れ気が付いた時には
呪いの痣は消えていたが
傷つき弱った身体はそのままで
服の下と右顔面には包帯が見えている。
知らず涙が頬を伝う
「ケルレン」
手を伸ばして冷たくなってしまった頬に触れる。
「ケ・・・・ルレン・・・何故?」
滲んだ視界の中、栗色とクリーム色と白色だけが
瞳に映る。
自由になれたと、ケルレンが姉とその一族の元へ
と行った時
やっと解放してあげられたと
ケルレンは自由になれたのだと思った。
それを再び引き止めたのは私
最後の最後に彼女を求めてしまったのは私
一緒に居たいと思った
愛して欲しいと思った
けれどゲルの東に寝かされて今、目の前に居るのは
白い衣装と包帯を身に纏いあどけない表情で眠る少女。
ペタンと力が抜けて床に座り込んだ。
・・・何故・・・?
本当なら、自由を手に入れ
自分の意思で生きれるはずだったケルレン、
ハンガイ族から、フールンから離れたのに
でも、イェニセイ族に縛られ、家族に縛られ
結局また再び
私の傍に居て欲しいという望みで
ケルレンを縛り付けてしまった。
もう二度と瞳を開けることは無い。
永遠にフールンの半身は奪われてしまった。
この剣がケルレンの力を吸い取った。
ケルレンに抱かせた二振りの剣に瞳を落とすと
指でそっと冷たい感触を味わう。
刃も柄も力の本流に耐え切れず壊れた
二人の成人の証の守護の剣
私がケルレンの命を奪った。
「痛かっただろ?」
小さく微笑みそっとケルレンの額に巻かれた包帯に触れた後
髪にと絡ませその指を少女らしくほんの少しだけ
自分より丸みを帯びている頬へと滑らせる。
君は・・・・どうして
・・・・またこんなに傷つく道を選んでしまったんだ
「・・・ケルレン・・・ケルレン・・!・・・」
君が生きて居てくれるのなら
誰を愛してもどの一族に居ても良かった・・・
敵でも・・・傍に居なくても・・・生きているだけで・・・よかった
私は、それだけを望んで居ればよかったんだ。
君が居ないと私は狂ってしまう
君が居ないと私は何も感じることが出来ない
それでも私は、君がこの世界に生きていてくれるのなら
私は痛みに耐えて生きていく事が出来ただろうに
私は、多くを望んでしまったのか?
胸が、心が引き絞られているようで痛い
苦しくて、息が詰まって
魂をもぎ取られた痛みと喪失感に
ケルレンの髪を頬をそっと撫でながら向けていた微笑が
保てなくなってきて知らず喉の奥から声にもならない
獣のような咆哮が漏れる。
「 」
もう何も分からない何も・・・・・
体が動くまま強く抱き締めて
お互いの体が壊れてしまうほど
自分と相手の体が一つになってしまうくらいに
強く抱き締めて
このまま今すぐ天の怒りの炎に撃たれて二人消えてしまいたい。
止めてくれ
誰か、誰か誰か!!!!!!
私の呼吸を、鼓動を今すぐに・・・・・・・・・・