答え合せはぬすみ聞き
『だからぁ…… こんな、こーんななんですよ…… お願いします、是非ご同行を……手を、手を貸してくださいぃぃ』
聞こえてきたおじさんの声は弱々しい懇願の声だった。
『訳がわからないね。 使者殿、親書も無しでおまけに発動仗を振りたくった上、その言いようは一体どういうことだい。そもそもにして「手を貸せ」など斯様なセリフは本来、使者殿の主人の口から発せられるべきものだろう』
その声に対してお団子頭から放たれた言葉はやんわりとした叱責。
そんな様子を僕と白薔薇、猫の三人で外壁の陰から少し離れて覗いています。
「ふむ、少なくともケンカはしとらぬようだの」
「ケンカになってないだけじゃない?」
猫と白薔薇が、おじさんとお団子頭の様子を見て推論しあう。
『すみません、すみません……』
『そんな受け答えじゃあ、埒があかないね。 とにかく話してごらんよ。 状況説明ばかりでなく、事情を話してもらわなきゃなんとも言えないよ』
『……私が言ったとは秘密にしていただけますか?』
『はいはい、秘密ね。 私の口から使者殿が話したとは言いやしないよ、約束だ』
お団子頭の言葉におじさんは安心した様子で話しだした。
「ふむふむ、硬パンはアホなのだの」
「そだね」
答えた白薔薇の言葉はその通り、棒を人や生き物のそばで振り回すのはあほうなのだと僕も思う。
そんなことしたら僕なら師匠に怒られること請け合いなのです。
「口約束を簡単に信じたのは人を見る目があったのかもしれぬ。 鰲赤は出来ぬ約束は基本せぬからの」
「へぇ」
生返事をしながら「棒のことじゃなかったんだ」と、動揺を押し隠す。
「しかしの、今の「話した人間を口に出さぬ」という約束は守る守らぬの範疇ではないことに気づけておらぬのはなかなかアホなのだ」
「なかなかのあほなの?」
感情を持ち直した僕が疑問の声をあげると、猫は馬を指し示した。
「見るのだ。 あの馬はお面をしておるだろう?」
「うん、カッコイイ」
「お! そうかの。 での? なんであの馬はあんなものをしておるのかはわかるかの」
「おしゃれでしょ」
「ちょっと違う、おしゃれなのは結果であって目的ではないのだ。 あれはの、馬の顔がわからぬという理由でつけているのだ」
「わからないようにしてるの?」
「そうではないのだ、わからぬのでわかるようにお面をしているのだ」
猫の話は少しややこしい。
もう少し馬のお面のことを猫が詳しく話してくれたけれど「名札がわり」ということくらいしか理解できなかった。
わからないことの説明に専門用語は使わないでほしい。
「あれは我ながら格好良く出来たのだ! 自慢しちゃうのだ!」
「つくったの?」
「そう! 依頼された時にちょうど面白そうだと思ったのでわらしが造り上げたのだ」
「すごいねー」
「いやいや、照れちゃうのだ」
「ちょっとちょっと」
猫が照れ照れしていると、白薔薇からタンマがかかった。
「脱線しすぎ」
「おお、いかんいかん。 その通りなのだ、硬パンのアホのことなのだった」
猫のおじさんに対する言葉はやっぱりひどい言いようです。
「あのアホはの」
「硬パンでしょ?」
「ぬ。 ……硬パンはの、この後のことをわかっておらんのだ。 あの様子では道理を通してはおらぬ故に秘密などと口にしたのだろうが、この後で何かしてもらうにしても頼んだ手前、自分が連れて行くより他はないのだぞ? 自分で連れ帰って、無関係などとは通らぬのは当たり前であるし「勝手に行ってやっといてくれ」などと言ってやってくれる人間も少ない。 鰲赤ならそんなもの断るに決まっているしの。 そして、もし話を聞いた後で面倒だと少しでも感じれば、今の話をしてバレるから無理だと言えば済むのだ」
「へー…… 」
どうしよう、ちょっと猫の言ってることがよくわかんない。 馬のとこからずっと。
猫と言うことは誰も、誰も得しない。 損ばっかりな考え。 もともとこの頼みごとには強制力なんてありはしないのに。
結局、どう転ぼうが困るのはおじさんばかりなの。
「硬パンは自分で井戸の底へ降りたことを気づきもしておらん。 間抜けなことに、奴は保身に走ったことで自ら詰んだのだ」
そう言い終わると猫は頷き、白薔薇は首を傾げた。
白薔薇もよくわからなかったみたいだ。
『一言で言えば、話の通じない鬼なのです!』
白薔薇と僕が二人して首を傾げていると、おじさんの叫びが響いた。
話を聞いてなかったからよくわからないけれど、たぶん話がクライマックスを迎えたんじゃないだろうか。
『それを倒せってかい』
『倒すのは無理です』
『そこまで言い切るほどの相手なのかい?』
『いえ、そういう理由も無きにしも有りませんが、根本的な問題があるのでそういうわけにいかないのです』
『じゃあ長々と何を言いたかったのさ』
『鬼の話のわかる人材をお借りしたいのです!』
『それなら仗を振る意味ないじゃないか! もっと、ちゃっちゃと言いな! ただただ時間を無駄にしたよ!』
「鬼なー」
「鬼だのう」
「おにって何?」
今度は僕と猫が頷き合います。
『申し訳ありません…… 言葉が伝わらないのなら、他の何かでも構いません。 何か、何か手段を、手をお貸しください……』
「なんか楽しそうだの。 鰲赤だけで遊ぶ気なのかの」
「鬼と会うのは久し振りだから僕も行きたいな」
「ねー、おにってなにー」
白薔薇はそう言って、僕に頭をくりくりと擦り付けてきた。
「ふふふ、あははは! おに〜、おになに〜?」
もう全然鬼のことなんて興味が無くなったのか、白薔薇の声は楽しげに弾みだした。
くそう、白薔薇はやっぱり可愛いの!
じゃれつく白薔薇を抱きしめると、ふんわりいい匂い。
これは…… 朝のお風呂がまだ生きているのです。
なんか最近予定が多くて忙しくなって、暇な時はダラダラしてたら全然書けなかったのです。
いや、書かなかっただけです。




