話し合い in エミの部屋
「男でも女でも無いって何! どっちでも無いならあんたに死は採り入れられてないって事になるじゃない!!」
本当のことを言っただけなのにエミは混乱した。
それでも僕は返す言葉を一つしか思いつかないので、そのまま思った通りに返すしかない。
「そんなこと言われても。 わかることしか言えないから他になんとも言えないよ? エミは自分がなんで女の子なのかを説明できるの? なんで男の子じゃないの?」
「そういうこと言ってるんじゃな…… うん? 言ってないことはないのか。でもわかる事がそれだけっておかしいでしょう。 そうだ、親はなんて言ってたのさ」
しかたなく説明しているせいもあってか、すごく面倒くさい。
でもエミは他の人が諦めるどっちも違うって事実を言ってみても、何にも納得しないからわかることだけ話してみる。
「なんにも」
「なんにもって…… 親にさ、何にも言われてないなんて事、ある?」
「親って……お母さんの事?」
「そりゃあそうでしょ? お父さんもいるけど」
「うん。 それじゃあ、ないや」
「んん?」
エミが、ちゃんと説明しろって顔で静かに怒る。 本当に怒っているのかはわからないけど、怒っているように見える。
誰かのために怒る人は嫌いじゃないけど、ただ怒る人は面倒くさいのだ。
「見たことないんだもん。 お母さんとかお父さんって」
「えっ……」
エミがバツの悪そうに黙った。
そのままのことを言っただけなのに、僕よりも深刻になるのはやめて欲しい。
そもそも会ったこともない人をどう考えればいいのかわからないのに。
僕には親がいる感覚がわからないのだ。 師匠のことをお母さんかと思ったりもしたけど、それはみんなが言う「お母さん」という枠に当てはめるなら師匠だったっていうだけの話。
お母さんとは何かなんて、今まで生きてきた時間がたった一人ぽっちだったなら考えることもあったかもしれないけど、友達はたくさんいたし師匠もいたからじっくり考えることもなかった。
考えるピースが無さ過ぎて、考えてわかるとも思えないけど。
「それよりもエミ、女の子なら外を出歩く格好じゃないって何? みんなお風呂に行く前に着替えるの?」
「ああ……そうね、ううん。 ん? お風呂に行くところだった? なんで?」
なんで?
不可解なことを言う。
ああ、そっか。 そういう事か。
「昨日お風呂入らなかったから、朝入ろうってミトラルカちゃんが」
「寝る前に入らなかったの? いや、それはいいんだけどなんで部屋から出てきたのさ」
「……? だからお風呂に入るからだよ?」
「ああ、部屋にタオルとか無かったの? それなら部屋でおばさまを呼べばよかったじゃない」
んん?
エミとの話がなんか変。
……ああ! お風呂に行くのに着替えもタオルも何も無しは変だってことか。
「行けばなんとかなるかなって思って」
「どこに」
「どこ? どこってお風呂に」
「お風呂? ……あー、そうか。 そこがおかしいのか……」
エミは一人でうなずくので僕には全然わからない。
「あのね、お風呂って部屋にあるものよ? ほら、この部屋にもそこに」
エミが指差す方にはクローゼットの扉がある。
「あれのこと?」
「あれのことよ」
あれならミトラルカちゃんの部屋でも見たなぁ。 あれはお風呂だったのか。
「大きいお風呂は?」
「大きいお風呂? お風呂ってみんなそこの位の大きさよ?」
無いのか、大浴場的なものは。
まさか部屋を出た時点で失敗とは思ってなかった。
せめて迷ったところからだと思ってたのに。
「それとね、ほら、ミトを見て」
エミがミトラルカちゃんを指差す。
ミトラルカちゃんはふわふわパジャマ姿で完全にベッドで船を漕いでいた。
ついでに少し、よだれも垂れてる。
「あの格好は子供だったらまだいいけど、大人は完全にダメ。 はしたな過ぎて泣くほど叱られるわ」
「泣くほど?」
「そう、泣くほどよ」
はー、それはミトラルカちゃんに悪いことをした。
ん? けれどミトラルカちゃんって大人なの?
そう思ってエミにそのことを尋ねれば、ため息をついた。
「あのねぇ、ミトは確かに大人かと問われれば否だけど、問題は見て呉れなの。 何も知らない人が見て「ああ、はしたないな」と思われた時点で泣くほど叱られるわ」
「あー……」
そこで僕が納得したことをキッカケのように部屋の奥にある窓の外、エミの部屋から見える中庭から悲鳴が二つ聞こえた。
「悲鳴? 何かしら」
エミが窓へと様子を見に近寄って行くので僕もついて行く。
少し高い位置の窓を爪先立ちで覗くと、そこにはミトラルカちゃんが昨日着ていた、なんでか宙に浮く洋服に追いかけられて逃げる女の子が二人いた。
女の子たちは必死で逃げてるけど遅い。
追いかけている服は力なく、風に負けてはためいている見た目通りにそんなに早くない。
「は? なによあれは」
エミがそう呟いた時、心に悪い鐘の音が響いた。
僕とエミは急に響いたガンガンする音にびっくりして少し肩が跳ねた。
水色ちゃんはキョロキョロするくらいであんまりびっくりしてなくて、白薔薇は少し強く僕にくっついただけ。
ミトラルカちゃんは大きな音で最後の頑張りが手をすり抜けて横になって寝息を立て始めちゃった。
「今度は何!」
エミのその声に僕だけがもう一度肩を跳ねさせた。
十二時になってまった。




